労災保険の加入条件とは|パート・アルバイト・個人事業主・役員は適用? 週20時間未満も加入? よくある疑問を解説

労災保険とは、業務中や通勤中のケガや病気を補償する制度で、正社員に限らずパートやアルバイトなど多くの働き手が対象です。ただし、個人事業主や役員など一部は加入条件や対象範囲が異なるため、判断に迷いやすいポイントもあります。
本記事では、労災保険の加入条件や適用範囲について詳しく解説します。「週20時間未満のパートは?」「特別加入が必要な人は?」といった、よくある疑問にも答えていきます。
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目次

労災保険の加入条件
労災保険の加入条件は、「労働者を1人でも雇用している事業」です。原則として雇用契約を結んでいるすべての従業員が労災保険へ加入できます。
パート・アルバイトも労災保険の対象者
正社員だけでなくパートやアルバイトなどの非正規雇用、労働時間が短い人や日雇い労働者も含まれます。労働時間の長さや、週何日働くかといった条件に関係なく、「労働者」としての実態があれば、労災保険に加入させることが事業主の義務です。
ただし非正規の派遣社員については、直接の雇用主である人材派遣会社で労災保険に加入します。
海外出張者も労災保険の対象者
労災保険は日本国内だけなく、海外出張先での事故にも適用されます。海外出張者も労災保険の加入条件に含まれますが、一方で海外に「派遣され海外の事業所に直接雇用される人」は条件外です。加入条件から外れる人は、後述する特別加入制度を利用することで補償を受けられます。
参照:『海外出張先で事故に遭った場合、労災保険の適用はどうなるのでしょうか。』厚生労働省
雇用保険の加入条件との違い
雇用保険とは、失業した場合や育児や介護のために休業した場合の労働者の生活や雇用の安定を支援するための制度です。
雇用保険は労災保険と同じく、労働保険の一種です。労働保険は手続き上、まとめて扱われることも多いため誤解されがちですが、じつは労災保険と雇用保険はそれぞれ加入条件が異なります。
労災保険の加入条件は事業に雇用されているすべての従業員であることに対し、雇用保険には労働時間と雇用期間に関する要件が設けられています。具体的な要件は、次のとおりです。
- 31日以上の雇用見込みがある
- 週の労働時間が20時間以上である
つまり、労災保険の加入条件のうち、上記の条件を満たす人は雇用保険にも加入する必要があると言い換えられます。
なお、雇用保険に加入するには、ほかにも「学生ではない(夜間・定時制は除く)」といった要件を満たす必要があります。

労災保険の加入条件から外れる人
労災保険は、あくまでも事業に雇用される労働者を加入の条件とする制度です。次のいずれかに該当する人は労災保険の加入条件から外れます。
- 役員・代表取締役
- 同居親族
- 国の直営事業で働く人
- 個人事業主
役員・代表取締役
会社の代表者にあたる人は、労働者ではなく使用者なので、労災保険の加入条件外です。具体的には、株式会社の代表取締役や合同会社・合資会社の代表社員、有限会社で会社を代表する取締役などが該当します。また、代表権や業務執行権を有する役員も、同様に労災保険の加入条件から外れます。
ただし、役員や取締役であっても、実態から労働者的性格が強いと判断された人には労災保険が適用されます。たとえば、会社の代表権を持たない支店長や工場長、兼務役員などが該当します。
▼詳しくは以下の記事をご確認ください。
同居親族
事業主の同居家族は、原則として労災保険の加入条件外です。ただし、例外として、同居親族とともに一般労働者を使用している場合は、次の条件をすべて満たす同居親族も労災保険に加入できます。
・就労の実態が、当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。
引用:『労働保険の適用単位と対象となる労働者の範囲』大阪労働局
・始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等並びに賃金の決定、計算方法、支払いの方法、賃金の締め切り、支払の時期等が就業規則などによって明確に定められており、かつ、その管理が他の労働者と同様になされていること。
・業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
国の直営事業で働く人
国の直営事業に従事する人には、国家公務員(地方公務員)災害補償法等が適用されます。労災保険と同じような補償制度なので、重複を防ぐために労災保険の加入条件に含まれません。
国の直営事業以外にも国や地方公共団体の事務など、官公署の事業については労災保険の加入条件外です。ただし、現業部門で非常勤の地方公務員として働く人には、労災保険が適用されます。
個人事業主
個人事業主は企業に使用されているわけではなく、業務委託契約を結んで仕事を請け負います。個人事業主は労働者とはみなされないため、労災保険の加入条件に含まれていません。
▼業務委託と労災保険について詳しく知るには以下の記事をご確認ください。
労災保険の特別加入制度の条件
特別加入制度とは、本来は労災保険の加入条件から外れる人が、一定の要件を満たすことで労災保険に加入できる制度です。特別加入制度の利用を認められている人は以下の4つです。
- 中小企業主
- 一人親方・自営業者
- 特定作業従事者
- 海外派遣者
それぞれ満たすべき加入条件を紹介していきます。
中小企業主等
中小企業の事業主等は、以下の事業規模要件を満たすことで労災保険に加入できます。
業種 | 事業規模 |
---|---|
金融業・保険業・不動産業・小売業 | 常時50人以下 |
卸売業・サービス業 | 常時100人以下 |
上記以外の事業 | 常時300人以下 |
また、以上の条件を満たす中小企業では、事業主だけでなく、以下の人も特別加入が可能です。
- 労働者と事業主以外で業務を遂行している家族従事者
- 中小事業主が法人やその他の団体の場合の役員
一人親方・自営業者
個人タクシーや大工、左官、林業などを営む一人親方・自営業者は、労災保険の特別加入が認められます。そのほか、特別加入が認められる事業や詳しい条件は、厚生労働省の資料で確認できます。
特定作業従事者
特定作業従事者とは、次の9種類の作業に従事する人のことです。
- 特定農作業従事者
- 指定農業機械作業従事者
- 国または地方公共団体が実施する訓練従事者
- 家内労働者およびその補助者
- 労働組合などの常勤役員
- 介護作業従事者および家事支援従事者
- 芸能関係作業従事者
- アニメーション制作作業従事者
- ITフリーランス
該当する人は、一人親方の特別加入団体に属することで労災保険に加入できます。
2024年11月からは特別加入の適用範囲が拡大され、より幅広い事業のフリーランス(特定受託事業者)が対象となりました。詳しくは厚生労働省のサイトでご確認いただけます。
参照:『令和6年11月から「フリーランス」が労災保険の「特別加入」の対象となります』厚生労働省
海外派遣者
海外派遣者には通常、現地の保険制度が適用されますが、次のいずれかに該当する場合は日本の労災保険に加入することが可能です。
- 国内の事業主から海外で行われる事業に労働者として派遣される人
- 国内の事業主から海外の中小規模事業に、労働者ではない立場として派遣される人
- 独立行政法人国際協力機構などによる、開発途上地域に対する技術協力のために派遣される人
労災保険の加入手続き
労災保険は、従業員を1人でも雇用していたら、加入する義務があります。初めて従業員を雇用する際には、忘れずに労災保険の加入手続きを行いましょう。
提出が必要な書類は、次の3つです。
- 保険関係成立届
- 概算保険料申告書
- 履歴事項全部証明書(写)1通
従業員を雇用したら、必要書類を10日以内に所轄の労働基準監督署へ提出する必要があります。なお、労働保険概算保険料申告書に限っては、保険関係が成立した日から50日以内に提出すれば問題ありません。
労災保険が認められる災害
労災(労働災害)には、「業務災害」「複数業務要因災害」「通勤災害」の3種類があります。それぞれの概要や具体例は、以下のとおりです。
労災の種類 | 概要 | 具体例 |
---|---|---|
業務災害 | 業務中のできごとに起因して発生した傷病や障害など | ・作業中の落下物によるケガ ・長時間労働による心の病 |
複数業務要因災害 | 事業主が別々の複数事業所で働く労働者が、複数事業での業務により負った傷病のうち、脳や心臓疾患、精神障害などを対象としたもの | ・ダブルワークによる長時間労働でストレスがかかり、うつ病を発症 |
通勤災害 | 通勤中のできごとに起因する傷病や障害など | ・通勤中に交通事故に遭ってケガをした ・帰宅途中の駅で、階段から転落してケガをした |
労災保険の給付種類
労災保険の給付には、次の8つの種類があります。
療養(補償)等給付 | 労災によるケガや病気の治療費を給付 |
---|---|
休業(補償)等給付 | 労災によるケガや病気の療養のため働けない場合に、休業4日目以降、賃金の一部を支給 |
障害(補償)等給付 | 労災によるケガや病気により、障害が残った場合に支給 |
遺族(補償)等給付 | 労災で従業員が死亡した場合、遺族に対して支給される年金 |
葬祭料(葬祭給付) | 労災で死亡した従業員の葬儀を執り行う際、遺族に対して支給される一時金 |
傷病(補償)等年金 | 労災から1年6か月が経過してもケガや病気が治らない場合や、傷病が原因の障害が傷病等級に当てはまる場合に支給 |
介護(補償)等給付 | 労災によるケガや病気により、介護を受ける場合に支給 |
二次健康診断等給付 | 健康診断の結果で、脳や心臓に関する疾患など一定項目に該当する場合に、二次健康診断や特定保健指導を無料で受けられる |
▼労災保険の給付種類について詳しく知るには以下の記事をご確認ください。
労災保険の申請手続き
労災保険の申請手続きの流れは、以下のとおりです。
1.治療を受ける | 従業員が医療機関で治療を受ける。その際、窓口で労災であることを伝える |
2.請求書を提出する | 請求書を作成し、治療を受けた医療機関に提出する。なお、労災保険指定医療機関以外を受診した場合は、労働基準監督署に提出する |
3.認定を受けて給付を受ける | 労災の認定を受けると、指定の口座に給付金が振り込まれる。なお、労災保険指定医療機関を利用した場合は、医療機関に直接療養費が振り込まれる |
▼労災保険の申請手続きについて詳しく知るには以下の記事をご確認ください。
労災保険の加入条件についてよくある疑問
最後に、ここまで解説した内容を振り返りながら、労災保険の加入条件についてよくある疑問をQ&A形式で紹介していきます。
労災保険の加入条件は「原則としてすべての労働者」とシンプルな基準ですが、「言われてみると即答しにくい」というケースも意外とあるかもしれません。見落としのないよう確認しておきましょう。
労災保険は短時間のパート・アルバイトにも適用される?
労働時間や雇用形態に関係なく、雇用契約があれば労災保険の加入条件を満たします。労災保険の加入条件は「雇用契約があること」で、労働時間に関する条件は設けられていません。そのため、フルタイムの正社員だけでなく、短時間勤務のパートやアルバイトも当然加入対象です。
労災保険は個人事業主にも適用される?
労災保険は個人事業主に基本的には適用されません。企業と個人事業主の間に雇用関係はないためです。
ただし、一定の要件を満たす個人事業主は、特別加入制度を利用することで例外的に加入できます。特別加入制度は、特定の業種に従事する者を対象としており、個人事業主であっても、業務中の事故などに備えるうえで加入するメリットがあります。
労災保険は役員にも適用される?
役員は原則として適用されませんが、実際の働き方によっては加入条件を満たし、労災保険に加入することが可能です。
現場でほかの労働者と同じように業務に従事している場合は、「労働者的性格が強い」と認められます。
具体的には会社の代表権を持たない支店長や工場長、兼務役員などが該当します。
週20時間未満の労働者は労災保険に加入すべき?
雇用保険とは異なり、労災保険には労働時間に関する加入条件はありません。そのため、労働時間が週20時間未満であっても、自社で雇用している従業員は労災保険に加入させる必要があります。
労災保険は社長の親族も加入できる?
事業主と同居している親族は、原則として労災保険の対象外です
ただし、就労の実態や労働条件がそのほかの従業員と同様であり、事業主の指揮命令にしたがって業務を行っていることが明らかな場合は、労災保険の加入条件を満たすと判断されることもあります。
労災保険の加入条件に年齢による制限はある?
労災保険には年齢による加入条件の制限はなく、企業に雇用されていれば何歳でも加入できます。
厚生年金保険のように70歳で資格を喪失するということはなく、継続して雇用する従業員が70歳に達した場合も、引き続き労災保険の適用を受けられます。新たに70歳以上の従業員を雇った場合も同様です。
まとめ|労災保険は原則すべての従業員が対象
労災保険は、従業員を1人でも雇用していれば加入が義務づけられる制度です。
加入条件はシンプルで、雇用形態や労働時間にかかわらず、雇用契約があるすべての従業員が対象となります。短時間勤務のパートやアルバイトも例外ではありません。
代表取締役や個人事業主、同居親族などは原則として加入条件の対象外ですが、特別加入制度を活用すれば補償を受けられる場合もあります。
「うちは関係ない」と思っていると、万が一のときに対応が遅れる可能性も否定できません。労働の実態に応じて加入条件を見極めることが、担当者にとって大切です。
従業員を1人でも雇った際は、制度上の義務である労災保険への加入手続きを、確実に行いましょう。
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