労働条件の明示義務とは? 新たなルールや労働条件通知書への記載事項も解説
労働条件の明示は企業に義務付けられています。2024年4月1日からは、改正労働基準法施行規則が施行されたことにより、労働条件の明示事項として新たに追加された内容もあります。
本記事では、労働条件の明示義務について、解説します。記載すべき事項や明示するタイミングも解説しますので、企業の人事労務担当者は、ぜひ参考にしてください。
労働条件の明示義務とは
企業は、労働者との労働契約の際に、労働条件を明示する義務があります。労働条件の明示は、正規雇用か非正規雇用かにかかわらず、すべての雇用形態を対象としています。そのため、企業は、正社員だけでなくアルバイトやパート、契約社員を雇用する際も、労働条件を明示しなければなりません。
労働条件の明示は原則書面で行う
労働条件の明示内容は労働基準法施行規則によって定められています。特定事項は書面での交付が必要であるため、基本的に労働条件の明示は書面で行うことが一般的です。
労働条件の明示事項を記載した書類を「労働条件通知書」といいます。書式は自由であるため、雇用契約書とあわせた「労働条件通知書兼雇用契約書」などを発行する企業も少なくありません。
労働条件通知書とは
労働条件通知書とは、企業が労働者に対して、労働条件を記載した上で交付する書類です。特定の事項は書面で交付する必要があり、明示義務に違反した場合は労働基準法により、30万円以下の罰金が科されるとしています。
雇用契約書とは
雇用契約書とは、雇用契約の内容を明確にして、企業と労働者側の双方が合意したことを証明する書類です。雇用契約書の発行義務はないため、企業が雇用契約書を発行をしていない場合でも法律違反にはなりません。
労働条件明示のルール変更
2024年4月より、改正労働基準法施行規則が施行されたことにより、労働条件明示についてもルールが変更となり、新たな項目が追加されました。
- 就業場所と業務変更の範囲
- 有期労働契約における更新上限の有無と内容
- 無期転換申込機会と無期転換後の労働条件
就業場所と業務変更の範囲
労働契約を締結する際や有期労働契約の更新時において、就業場所や業務変更の範囲を明示するという項目が追加されました。これは、企業側と労働者側の認識相違によって起こるトラブルを防止するための内容です。あらかじめ就業場所や業務変更の範囲をより明確にすることで、勤務地や業務内容に関する双方の認識が一致します。
有期労働契約における更新上限の有無と内容
有期労働契約を結ぶ労働者に対しては、契約締結時や更新時において、更新上限があるかどうかという点やその内容について記載することとなりました。仮に更新上限を新たに設けたり、短縮したりする場合は、あらかじめ理由を説明しなければなりません。
無期転換申込機会と無期転換後の労働条件
企業と有期労働契約を結ぶ労働者について、5年を超えて契約が更新された場合、労働者側の申込により無期労働契約に転換できるルールがあります。このルールについて、無期転換申込権が発生する契約の更新時には、申込機会や無期転換後の労働条件を明示するという項目が追加されました。企業による無期転換の周知や適用拡大を促進するための内容です。
参照:『2024年4月から労働条件明示のルールが変わります』厚生労働省
労働条件として明示する項目
労働条件の明示について、具体的な明示項目を紹介します。具体的には、労働基準法施行規則に規定されている以下の14項目が該当します。
書面による明示が必要(5は、昇給に関する事項を除く) |
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- 労働契約の期間に関する事項(有期雇用契約の場合、無期転換についても記載)
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項(更新上限の有無も記載)
- 就業の場所および従業すべき業務に関する事項(変更の範囲含めて記載)
- 始業・終業の時刻や、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
- 賃金(退職手当や臨時に支払われる賃金などを除く)の決定や計算および支払いの方法、賃金の締め切りおよび支払いの時期、昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
企業が定める場合のみ明示 |
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- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲や、退職手当の決定、計算および支払いの方法、退職手当の支払いの時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)や、賞与およびこれらに準ずる賃金、最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費や、作業用品その他に関する事項
- 安全および衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰および制裁に関する事項
- 休職に関する事項
厚生労働省では、労働条件通知書のモデル様式を公開しています。自社での作成が難しい場合は、厚生労働省が提供する様式を活用しましょう。
参照:『主要様式ダウンロードコーナー(労働基準法等関係主要様式)』厚生労働省
アルバイトやパートを雇用する際の特記事項
パートタイム・有期雇用労働法では、アルバイトやパートタイムなどの短時間・有期雇用労働者の場合、以下の特定事項を書面で明示することも規定しています。
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 退職金の有無
- 相談窓口の記載
アルバイトやパートなどの短時間労働者や有期雇用労働者を雇用する際は、上記の点を記載することも理解しておきましょう。
労働条件の明示方法について
労働条件の明示は、いくつかの方法で行えます。原則、労働条件通知書や雇用契約書などの書面による明示となっていますが、口頭明示に代わる方法を以下でご紹介します。
- 企業の就業規則をコピー
- FAXやメール、SNSによる明示
企業の就業規則をコピー
労働条件の明示は、労働条件通知書や雇用契約書だけでなく、企業の就業規則をコピーして交付することでも実施できます。企業が労働条件の明示を就業規則のコピー交付で行う場合は、労働者側にどの部分を適用するのかを明確にしなければなりません。
また、就業規則のコピーだけでは、賃金額など具体的に把握できない点もありますので、別途労働条件通知書や雇用契約書を交付するのが一般的です。
参照:『労働基準法の一部を改正する法律の施行について(◆平成11年01月29日基発第45号) 』厚生労働省
FAXやメール、SNSによる明示
労働者が希望した場合には、書面の電子化として、労働条件の明示をFAXやメール、SNSなどでも実施できます。明示しなければならない事項としては変わりませんが、より柔軟な対応ができるという点は理解しておきましょう。
注意点として、FAXやメール、SNSなどの明示方法では、出力して書面作成できるものに限定されています。
参照:『平成31年4月から、労働条件の明示がFAX・メール・SNS等でもできるようになります』厚生労働省
労働条件を明示するタイミング
労働条件の明示を書面で行うタイミングは「労働契約の締結時」です。一般的には、採用活動において、内定を出した時点で労働契約が締結されたこととみなされます。トラブルを防止するためにも、企業側は、入社後ではなく、内定を出した時点で労働条件を明示することが重要です。そのほか、労働条件を明示するタイミングとして把握しておきたいケースを紹介します。
- 採用活動中
- 有期労働契約の更新時
- 定年後の再雇用
- 在籍出向をさせるとき
採用活動中
企業が採用活動で求人募集を行う際は、労働条件を明示しなければなりません。仮に求人広告のスペースの問題で掲載出来ない場合などは「労働条件の詳細は面談時にお伝えします」などの文言を記載します。原則として、求職者と最初に接触する時点までに明示することを認識しておきましょう。
また、採用活動の過程において、あらかじめ明示していた労働条件に変更がある場合は、その変更内容も速やかに明示しなければなりません。
有期労働契約の更新時
有期労働契約を更新する際も、あらためて労働条件の明示をしなければなりません。契約更新の際は、従業員に再度条件などを確認してもらい、認識相違のないようにしましょう。
特に、無期転換が可能になるタイミングの更新時は、申込機会や転換後の条件など、必要事項を記載し、労働者側が正しく理解できるように注意しなければなりません。
定年後の再雇用
労働条件を明示するタイミングには、定年後に再雇用する際も挙げられます。これまで雇用していたとしても、再雇用によってあらためて雇用契約を結ぶため、従業員側は新たな労働条件を把握する必要があります。
在籍出向をさせるとき
労働条件の明示は、自社の従業員を在籍させたまま他社へ出向させる「在籍出向」の際にも実施します。これは、自社の労働契約だけでなく、出向先の労働契約も成立するためです。
そのため、出向先が労働条件を明示する義務があります。特に、他社から出向者を受け入れる場合は、注意しましょう。
参照:『採用内定時に労働契約が成立する場合の労働条件明示について』厚生労働省
まとめ
労働条件の明示義務とは、企業が労働者に労働条件をあらかじめ明示しなければならないことです。原則、労働条件の明示は書面で実施するのが一般的です。企業は、労働者との認識相違やトラブルを防ぐために、労働条件通知書や雇用契約書などに必要事項を記載し、労働者に明示しましょう。
特に、労働条件の明示ルールについて、2024年4月から新たに以下の点が追加されています。1つめは就業場所と業務変更の範囲、2つめは有期労働契約における更新上限の有無とその内容、3つめは無期転換申込機会と無期転換後の労働条件です。
企業は、漏れなく記載できるよう、正しい理解に努めましょう。