年末調整の対象期間と給与|提出期限や控除も解説
年末調整は、従業員の1年間の給与収入から正しい所得税額を算出し、年間を通じて源泉徴収された税額との過不足を精算する手続きです。対象期間や提出期限、控除の内容などについて正しく理解しておくことが重要です。
本記事ではこれらについて詳しく解説します。企業などで働く従業員や年末調整を担当する経理担当者は、ぜひ参考にしてみてください。
年末調整の期限
年末調整の期限は、翌年1月31日までです。一般的には、毎年11月頃から企業が従業員に書類を配布し、12月中旬を目安に従業員から書類を提出してもらい、所得税を計算します。企業は、年末調整で算出した所得税額が、源泉徴収額より不足していた場合は追加徴収し、徴収しすぎていた場合は還付します。
年末調整の内容に漏れやミスがあった場合は、年末調整の期限である翌年の1月31日までであれば修正申告が可能です。修正するケースとしては、ミスや漏れ以外にも、従業員の扶養家族が増えたり各種控除の追加申告を行ったりした場合などが挙げられます。
多くの企業は、従業員から必要書類を12月中旬までに提出してもらい、期限1か月前である年末までに年末調整を終わらせます。ただし、企業によっては翌年の1月上旬まで受け付けている場合もあり、対応は異なります。
年末調整の対象期間
年末調整の対象となるのは、その年の1月1日から12月31日までの給与が対象です。12月31日までに支払った給与や賞与が対象になるため、給与支給を稼働月の翌月以降としている場合、12月稼働分の給与は年末調整の対象外です。12月稼働分の給与がその年の年末調整対象とならない場合には、翌年の年末調整で対応します。
年末調整による還付や追加徴収
年末調整では、その年に源泉徴収していた金額が本来納付すべき所得税よりも多い場合は差額分を還付します。逆に、源泉徴収していた金額が本来納付すべき所得税に不足している場合は、差額分を追加徴収します。
還付金支給と追加徴収は、一般的には年末調整後に支払われる最初の給与で精算されます。
年末調整で還付金が受け取れるケース
年末調整によって算出した所得税額が、その年に源泉徴収した額よりも少ない場合は税金を多く納めすぎているため、還付されます。還付されるのは以下のようなケースが挙げられます。
生命・医療保険に加入 | 生命保険料控除 | 生命保険・介護医療保険・個人年金保険の控除額を合計し、最大12万円まで控除 |
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扶養家族の増加 | 扶養控除 | 扶養家族の人数に応じて控除を適用 |
個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入 | 小規模企業共済等掛金控除 | 掛金の全額を控除 |
住宅ローンを返済中(2年目以降) | 住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除) | 年末における住宅ローン残高の0.7%を税額控除 |
年末調整の対象かどうかわかりにくいケース
年末調整の対象者として含まれるのかどうか疑問をいだきやすいケースをご紹介します。
その年の途中で退職した元従業員
年末調整の手続きは企業側が行います。基本的には所属する従業員の年末調整を行うため、年の途中で退職した元従業員の分は行いません。退職した元従業員は、転職先企業で年末調整を行うか、本人が確定申告を行います。
ただし、従業員が年の途中で退職した場合でも、企業側が元従業員の年末調整を行う以下のようなケースがあります。
- 12月支払いの給与受け取り後の退職
- 死亡したことによる退職
- 著しい心身の障害のために退職し、年内に再就職の可能性が低い場合
- 本年中に支払いを受ける給与が103万円以下のパートタイマーが退職(退職後その年に他の勤務先から給与の支払を受ける見込みのある人は除く)
- 海外支店等への転勤により非居住者となった場合
年の途中で入社した従業員
その年の途中で転職してきた従業員の年末調整では、転職前の会社から支払われた給与所得も合算して行う必要があります。
前職で発行されている源泉徴収票の回収を忘れずに行いましょう。
海外赴任をしている従業員
海外赴任のある企業では、該当者において年末調整の対象期間に注意しなければなりません。
海外赴任の時期 | 年末調整の有無 | 年末調整の対象期間 |
---|---|---|
年の途中で海外へ赴任 | 有 | その年の1月1日から出国の日まで |
年の途中で海外から帰国 | 有 | 帰国の日からその年の12月31日まで |
その年すべて海外赴任 | 無 | 年末調整なし |
年末調整と控除
年末調整では、特定の種類において控除申請ができます。まず、控除の種類は「所得控除」と「税額控除」に分類されます。所得控除は、税額を計算する前の所得金額から控除されます。一方の税額控除は、所得控除を反映させた後の課税所得金額に指定税率を乗じた税額が、所得税から直接控除されるものです。
所得控除も税額控除も、その年の所得金額から差し引かれるため、税負担を軽減させる効果があります。控除を受けることによって、源泉徴収による過払い額について、より多く還付を受けることができるでしょう。
年末調整で対応可能な控除種類
年末調整では、特定の種類において控除申請ができます。具体的にどのような控除が対応可能なのか確認してみましょう。
扶養控除 | 納税者に所得税法上の控除対象になる親族がいる場合 |
障害者控除 | 納税者もしくは控除対象配偶者等が所得税法上の障害者に該当する場合 |
勤労学生控除 | 納税者が所得税法上の勤労学生に該当する場合 |
寡婦控除 | 納税者が所得税法上の寡婦に該当する場合 |
ひとり親控除 | 納税者がひとり親として子どもを扶養している場合 |
配偶者控除 | 納税者に所得税法上の控除対象となる配偶者がいる場合で、配偶者の所得金額が年48万円以下の場合 |
配偶者特別控除 | 所得税法上における配偶者の所得金額が年48万円を超え、133万円以下、納税者本人の合計所得金額は1,000万円以下である場合 |
社会保険料控除 | 納税者やその配偶者等が負担する社会保険料を負担した(もしくは給与天引きされた)場合 |
小規模企業共済等掛金控除 | 納税者が小規模企業共済法に基づく掛金等を支払った場合 |
生命保険料控除 | 納税者が生命保険料や介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合 |
地震保険料控除 | 納税者が特定の損害保険契約等に関する地震保険料や掛金を支払った場合 |
基礎控除 | 納税者の合計所得金額が2500万円以下の場合 |
住宅借入金等特別控除 | 住宅ローン等を利用して新築や取得、リフォームを行った場合(2年目以降) |
年末調整において従業員が注意すべき点
年末調整を行う上で、従業員が注意すべき点をご紹介します。
控除書類などの提出を行う
年末調整では、生命保険や地震保険などの各種控除を受けられます。控除を受けるためには、保険会社等から送付される控除証明書等に記載された内容の転記や証明書の提出が必要です。控除されることで所得税の負担が軽減されるため、控除証明書等の提出を忘れないようにしましょう。
2019年1月以降は、保険会社等が発行する控除証明書等を、書面だけでなく電子データで交付できるようになりました。電子データでの交付を受けた場合、企業が電子データでの提出に対応していれば、年末調整控除申請書作成用ソフトや企業指定のソフトを活用して提出できるようになっています。
また、控除証明書等はその年の10月頃に送付(交付)されます。控除証明書等が届いてから年末調整までは時間が空く場合もあるため、控除を受ける人は大切に保管しておきましょう。
また、控除証明書等を紛失してしまった場合は、発行元の企業に再発行してもらうことができます。再発行には時間がかかる場合もあるため、できるだけ早く再発行の申請をしましょう。万が一、控除証明書等の再発行が年末調整の期限までに間に合わないときは、確定申告で控除申告を行えば所得税が還付されます。確定申告の手続きは、従業員本人が行わなければならない点に注意しましょう。
副業や年末調整対応外の控除を受ける場合は確定申告する
会社員のなかには、副業をしていたり、2か所以上の企業から給与を受け取っていたりする場合もあります。このように、一定の場合には会社員であっても確定申告が必要になります。
確定申告とは、すべての所得を対象にした所得税を申告する手続きです。納税者本人が所得や経費や控除の申告を行い、正しい所得税を納付します。確定申告では、年末調整で対応できない住宅ローン控除(1年目)や寄付金控除、医療費控除なども対象としているため、これらの控除対象の方はより税負担を軽減できます。
会社員であっても、一定の場合には確定申告が義務付けられているため、国税庁のホームページで正しい情報を確認しましょう。
まとめ
年末調整は、対象期間(給与)が決められていて、手続き期限があります。対象期間と期限は以下の通りです。
対象期間(給与) | その年の1月1日~12月31日※12月稼働分の給与がを1月に支給する場合は、対象に含まれず、翌年の年末調整で対応 |
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手続き期限 | 翌年1月31日※従業員の書類提出期限は企業によって異なる |
年末調整では、担当者のミスや漏れだけでなく、従業員の状況変化や書類提出によって修正を行うことも少なくありません。企業は、期限内に余裕をもって手続きを行えるよう、早めの準備と対応を行いましょう。