年末調整で医療費控除はできない? 対象や計算方法、自己申告の必要性も解説

年末調整で医療費控除はできない? 対象や計算方法、自己申告の必要性も解説

医療費控除とは、当年の医療費が一定額を超えた場合に所得税の控除を受けられる制度です。医療費控除は確定申告で実施するため、企業が実施する年末調整では控除の手続きができません。

しかし「どこからが医療費控除の対象?」「計算方法は?」「確定申告についてどこまで案内すればいい?」など、不安を感じる人もいるでしょう。

本記事では、医療費控除の対象となる医療費や家族の範囲といった仕組みを解説します。計算方法や確定申告との関係と、実際の申請方法も整理して紹介します。従業員からの質問に対応する人事担当者も、ぜひ参考にしてください。

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目次アイコン目次

    医療費控除とは

    医療費控除は、1年にかかった医療費が一定額を超えると、所得税を控除できる制度です。自分や家族のために支払った医療費を対象としています。

    医療費控除は、医療費による家計の負担を抑えるために設けられました。控除額の上限は、200万円です。具体的には、病気やケガに対する治療や療養のために支払ったお金のみが対象です。

    医療費控除の対象となる人

    納税者が受ける医療費控除の対象になる人は、納税者本人と納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族です。「生計を一にする」とは、同居のみを条件としているわけではなく、納税者が生活を養っている状況も該当します。たとえば、生活費や学費、医療費などのために送金している場合などが挙げられます。

    医療費控除の対象となる医療費

    医療費控除の対象となる費用は、治療目的の医療行為に対して支払うお金が対象です。たとえば、入院や通院における診療費、治療に必要なリハビリ代や医療器具の購入費なども該当します。妊娠や出産における定期健診や検査費用、出産時の入院費や不妊治療費なども含まれます。

    反対に、治療を目的としない費用は医療費控除の対象外です。たとえば、健康診断や予防接種の代金、入院時のベッド代差額、病気予防のための費用などです。

    医療費控除の対象となる控除額

    医療費控除の控除額は、最大200万円です。本人と家族や親族のために支払った費用を合計して申告します。仮に、夫婦のどちらか一方が200万円を超える医療費を払った場合に関しては、合算せず、それぞれ申告するのがおすすめです。

    参照:『No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)』国税庁
    参照:『No.1122 医療費控除の対象となる医療費』国税庁

    年末調整では医療費控除を受けられない

    医療費控除は、年末調整では受けられない所得控除です。そのため、納税者みずからが確定申告をする必要があります。給与所得者である従業員が企業で年末調整を受けた場合、その後の確定申告で申請します。

    年末調整後に医療費控除を受ける方法

    年末調整後に医療費控除を受ける場合は、確定申告で「還付申告」を実施します。年末調整によってすでに所得税の精算をしているためです。還付申告を受けることで、医療費控除を受けられます。

    年末調整とは

    年末調整とは、企業が従業員の所得から正しい所得税を計算し、源泉徴収税額との差額を精算する手続きです。

    企業は、従業員の給与や賞与からあらかじめ一定の所得税を徴収し、本人に代わって納付しています。しかし、源泉徴収税額はあくまでも概算であるため、本来納付すべき金額とは異なる場合があります。

    そこで企業が年末調整を実施します。企業は源泉徴収によって過剰徴収していれば従業員へ還付し、不足していれば追加徴収します。

    参照:『給与所得者(従業員)の方へ(令和6年分)』国税庁

    ▼年末調整で受けられるその他の控除は以下の記事でご確認ください。

    確定申告とは

    確定申告とは、納税者本人が1年の所得から、正しい所得税額を申告する手続きです。すべての所得を対象としています。

    たとえば、源泉徴収された所得があり、多く払いすぎている場合は確定申告によって還付されることもあります。また、年末調整では処理できなかった控除などを確定申告で反映させることが可能です。

    確定申告の対象は、個人事業主や給与所得以外の所得がある人、状況によって給与所得者も含まれます。

    一般的に、会社員は年末調整だけを行うイメージがあるかもしれません。しかし、会社員であっても、本業以外に副業収入がある場合や年末調整では対応できない医療費控除、寄付金控除を受けたい場合などは確定申告をします。

    参照:『No.2020 確定申告』国税庁

    ▼確定申告と年末調整を両方やらなければならないケースは以下の記事でご確認ください。

    通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらも医療費に関する控除ですが、両方を同時に受けられません。

    セルフメディケーション税制は、医療費控除の特例として設けられた制度であり、通常の医療費控除と、どちらか一方を選んで適用されます。

    医療費控除との違いをより詳しく理解するために、以下ではセルフメディケーション税制について解説します。

    参照:『医療費を支払ったとき』国税庁

    セルフメディケーション制度とは

    セルフメディケーション制度は、医療費控除の特例として2017年1月1日から創設された制度です。健康管理を自分自身で行う「セルフケア(=セルフメディケーション)」の推進を目的としています。

    通常の医療費控除とは異なり、医療機関での診療を受けなくても、市販薬の購入や健康診断の受診といった取り組みが控除対象となるのが特徴です。

    控除額

    セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)は、自分や家族の健康維持のために、対象となる特定医薬品の購入費用(年間10万円を限度)を対象とした所得控除です。控除額は、1万2,000円を超えた額で、上限額は8万8,000円です。

    対象

    セルフメディケーション税制の対象としては、人間ドックや各健康診断、特定保健指導などが挙げられます。

    制度創設当初は、対象医薬品として医師が処方するもののなかでドラッグストアでも購入可能な医薬品に転用されたもの(=スイッチOTC)を対象としてきました。

    しかし、2022年からは効果の薄いものを除外し、とくに効果の高い一部の非スイッチOTC医薬品を対象としています。

    適用期限・添付書類

    セルフメディケーション税制の適用期限が5年間延長され、2026年12月31日までとなっています。また、「セルフメディケーション税制の明細書」の添付が必要ですが、一般医薬品等の購入レシートや領収書の添付は不要です。

    ※レシートや領収書は5年間の保管が必要

    参照:『セルフメディケーション税制の設立経緯と現状』厚生労働省 医政局医薬産業振興・医療情報企画課セルフケア・セルフメディケーション推進室

    医療費控除の計算方法

    医療費控除における控除額の計算方法を解説します。医療費控除の控除額は、納税者の所得によって計算方法が異なります。所得には、給与所得だけでなく、事業所得や不動産所得など、すべての所得を含みます。

    年間の所得が200万円以上の場合

    医療費控除では、納税者の年間所得金額が200万円以上の場合、以下の計算式にあてはめて計算します。

    控除額=(1年の医療費合計額-保険などで支給された金額等)-10万円※上限は200万円

    保険で支給された金額には、入院給付金や高額療養費制度の払い戻し分、出産育児一時金などが該当します。保険などによって支給された金額は、給付目的となった医療費の金額が上限となるため、保険金が給付目的の治療で実際にかかった金額より多くても、他の医療費からは差し引けません。

    年間の所得が200万円未満の場合

    医療費控除では、納税者の所得金額が200万円以下の場合、以下の計算式にあてはめて計算します。

    控除額=(その年の医療費合計額-保険などで支給された金額等)-(所得金額×5%)

    以上のように、所得金額が200万円以下の場合は、総所得金額×5%を差し引きます。

    医療費控除の申告

    医療費控除の申告で、実際の手続き方法や必要な書類となると不安に感じる方もいるのではないでしょうか。

    以下では医療費控除の申告時期や期限、提出すべき書類など、申請にあたって知っておきたい基本情報をわかりやすく解説します。はじめての申告でも安心して手続きができるよう、ぜひ参考にしてください。

    医療費控除の期間や申告期限

    医療費控除の対象期間と申告期限は以下のとおりです。

    対象期間その年の1月1日から12月31日
    申告期限翌年の確定申告期間(例年2月16日から3月15日)

    対象年の医療費控除は、翌年の確定申告で受けられます。申告漏れのないように、期限に注意しましょう。万が一、申告忘れや漏れがあった場合、5年以内の分はさかのぼって申請できます。

    なお、セルフメディケーション税制も同様です。

    医療費控除に必要な書類

    医療費控除を受けるためには、以下の書類が必要です。

    書類提出の必要性
    医療費控除の明細書あり
    所得税の確定申告書あり
    医療費に関する各領収書や医療費通知書などなし
    源泉徴収票
    ※会社で該当年に年末調整をした人
    なし
    保険金の証明書類なし

    提出の必要がない書類も含まれていますが、税務署からの確認が入る可能性もあるため、保管しておきましょう。とくに医療費に関する領収書は5年間保管しなければなりません。

    参照:『No.1119 医療費控除に関する手続について』国税庁

    セルフメディケーション税制に必要な書類

    セルフメディケーション税制を受けるためには、以下の書類が必要です。

    書類提出の必要性
    セルフメディケーション税制の明細書あり
    所得税の確定申告書あり

    「セルフメディケーション税制の明細書」や「所得税の確定申告書」を作成するためには、以下の書類を準備します。

    書類詳細
    購入した医療品のレシートや領収書特定医薬品など、セルフメディケーション税制の対象のものに限る
    源泉徴収票会社で該当年に年末調整をした人
    一定の取り組みを行ったことを明らかにする書類

    ・予防接種などの領収書や予防接種済証
    ・市区町村の検診の領収書や結果通知表
    ・職場で受けた定期健診の結果通知表(定期健康診断や勤務先名称の記載が必要)など

    書類は原則として提出の必要はありませんが、税務署からの確認が入る可能性もあるため、保管しておきましょう。また、購入した医薬品のレシートや領収書、一定の取り組みを実施したことを明らかにする書類は5年間の保管義務があります。

    参照:『セルフメディケーション税制とは|令和5年分 確定申告特集』国税庁

    まとめ

    医療費控除は年末調整では受けられない所得控除の一つです。1年にかかった医療費を対象に、確定申告を実施することで所得税の控除が受けられる制度です。

    医療費控除の特例として、セルフメディケーション税制もあります。医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらか一方しか受けられないため、違いを理解することが大切です。

    確定申告で医療費控除を受けるためには、対象期間や申告期限、必要書類も確認のうえ、適切に申請しましょう。