年末調整で間違いに気づかないとどうなる? 税務署からの指摘に対する対応も解説
年末調整とは、従業員の所得税を正しく納める目的で、年間を通じて源泉徴収された税額の過不足を調整する手続きです。
年末調整には複雑な手続きが多く、管理すべき書類も多岐にわたるため、間違いが発生することもあるでしょう。もし書類に不備があっても、申請期限内であれば修正して再提出が可能です。しかし、年末調整を適切に行わないまま放置してしまうと、法的な罰則を受ける恐れがあります。
本記事では、年末調整の間違いに気づかず放置するリスクを詳しく解説します。税務署から指摘が入った際の対処法や間違いが発生しやすい項目もわかりやすく紹介するため、人事労務担当者は参考にしてください。
年末調整で間違いに気づかないとどうなる?
年末調整の間違いに気づかずにいると、どのような事態が起こるのかを解説します。
- 従業員が支払うべき税金の過不足が発生する
- 延滞税などが発生する
- 業務負荷が増える
- 税務署から指摘が入る
従業員が支払うべき税金の過不足が発生する
年末調整の間違いに気づかず、正しい所得税額を納付できないと、過剰に納めた源泉所得税の還付を受けられなくなる恐れがあります。
従業員が毎月支払う源泉所得税はあくまでも概算であり、本来の納税額より多く徴収されるのが一般的です。会社に所得税の過払い金が還付されなければ、従業員に対する還付もできません。
国に納める税金に過不足が発生すると、会社だけでなく、従業員本人の信用の低下につながってしまうため、注意が必要です。
延滞税などが発生する
年末調整の間違いに気づかず、意図的に手続きをしなかったと判断されると、最終的に会社は罰則を受ける恐れがあります。所得税の納付は法律によって定められ、従業員を雇用する会社が年末調整を実施するように義務づけているためです。
年末調整を実施したものの期限内に所得税を納付しなかった場合は、延滞税や過少申告加算税、重加算税などが科されます。
なかでも延滞税は、納付期限の翌日から日数に応じて自動的に課税され、2か月経過すると税率が大幅に上がってしまうため注意が必要です。
参照:『所得税法』e-Gov法令検索
参照:『No.9205 延滞税について』国税庁
参照:『【申告が間違っていた場合】』国税庁
業務負荷が増える
年末調整において計算ミスや記載ミスが発生し、修正や再申請の手続きをしなければならなくなった場合、人事担当者に大きな負担がのしかかります。業務量が増えることで本来注力すべき仕事に時間を割けなくなり、人件費がかさんでしまう恐れもあります。
担当者の負担をなるべく少なくするためにも、早いタイミングで間違いに気づき、発見・対処できる体制を整えておきましょう。
税務署から指摘が入る
年末調整の間違いに気づかず、正しく手続きが実施されないままでいると、書類を偽造してうその申告をしたとして、税務署から脱税を指摘される恐れもあります。
所得税法では、脱税行為が発覚した事業者に「1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金」、さらに悪質性が高いと判断されると「10年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金」を科すと定められています。
年末調整の間違いに気づかず税務署から指摘が入ったら
年末調整で算出した金額と本来納めるべき所得税額に相違がある場合、年末調整のやり直しをするよう税務署から求められることがあります。
税務署から指摘されるケースのほとんどが、過年度の年末調整に誤りがあったことによる追加徴収であり、従業員本人ではなく企業が対応しなければなりません。
税務署から通知が届いたら、まずは従業員に事情を確認したうえで申告内容を修正し、再計算をして不足分の税金を納付しましょう。
指摘が入るタイミング
年末調整のやり直しを税務署から求められるタイミングは、翌年の8月以降であるケースが大半です。指摘のタイミングは、税務署の職員の人事異動と住民税の計算の時期に関係しています。
住民税の納付書が届くのが5〜6月であり、税務署の職員の人事異動は7月に実施されるため、担当者の変更や引き継ぎが完了する8月頃から税務調査が実施されることが多いと考えられています。
年末調整の間違いに気づいたら?
年末調整の間違いが見つかった場合「いつ気づいたか」によって、対処法が異なる点に注意しましょう。間違いに気づいたタイミング別の訂正方法を詳しく紹介します。
- 期限前(源泉徴収票の発行前)に気づいた場合
- 期限後(源泉徴収票の発行後)に気づいた場合
期限前(源泉徴収票の発行前)に気づいた場合
年末調整の訂正は、従業員に対して源泉徴収票を発行する前、なおかつ翌年の1月31日までであれば、社内で進められます。
訂正の流れは、以下の通りです。
- 計算ミスがある場合は、該当箇所に二重線を引く
- 扶養親族の変更があった場合は、従業員から情報を聞き取り、必要に応じて添付書類を回収する
- 提出された書類を確認し、正しい情報を記載する
2021年4月1日以降、税務関係書類における「押印義務」が見直されました。訂正箇所が生じた場合は、二重線で対応しましょう。
期限後(源泉徴収票の発行後)に気づいた場合
源泉徴収票を発行したあと、もしくは翌年の1月31日を過ぎた場合は、社内で年末調整を訂正することはできません。
源泉徴収票の発行後は、原則として翌年の2月16日から3月15日の間に、従業員自身で確定申告をする必要があります。
間違いを訂正するために必要な書類
年末調整の提出書類に不備がある場合や記載内容にミスが多い場合は、最初から手続きをやり直すよう求められるケースもあります。
年末調整のやり直しをする際には、以下の書類が必要です。
- 給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表
- 源泉徴収票
- 支払調書
年末調整で間違いが発生しやすい項目
年末調整の訂正や、やり直しが発生しやすいケースは、以下の通りです。
- 扶養親族の数に変化があった
- 保険料控除や住宅ローン控除の記載が漏れた
- 従業員本人や配偶者の年収に変更が生じた
具体的にどのような項目において間違いが発生しやすいのか、詳しく解説します。
配偶者(特別)控除・扶養控除
結婚・離婚・再婚・出産などで配偶者や扶養家族の数に変化があった場合、年末調整の「配偶者(特別)控除」や「扶養控除」を訂正しなければなりません。
従業員は12月上旬〜中旬に年末調整の書類を提出するケースが多い一方で、年末調整の基準日は12月31日です。そのため、書類を提出してから基準日までの間に変更が生じることもあり得るでしょう。
また、世帯主の所得税が軽減される「配偶者(特別)控除」は、2020年以降、納税者と配偶者の所得金額によって変動する制度に変更されました。配偶者の年収が年末調整の書類記載時点での見込み額と大幅に異なる場合は、年末調整の訂正が必要になる可能性があります。
保険料控除
年末調整では、生命保険料控除や地震保険料控除などの各種保険料を申告しなければなりません。そのため、以下の場合は年末調整の訂正が必要です。
- 保険料を記載し忘れていた
- 保険会社からの手紙やハガキが見当たらず、申請額がわからなかった
- 年末調整後に新たな保険に加入した
住宅ローン控除
住宅ローンを組んで家を購入すると、住宅ローン控除を受けられます。住宅ローン控除とは、毎年の年末時点におけるローン残高の0.7%が所得税から控除されるものです。
住宅ローン控除を受けるためには、購入した初年度に従業員自身が確定申告をする必要があります。ただし、2年目以降は年末調整の対象となるため、従業員は会社に以下の書類を提出しなければなりません。
- 給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書 兼(特定増改築等)住宅借入金等特別控除計算明細書
- 住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書
特に、購入から2年目で必要な書類を提出し忘れることが多いため、対象となる従業員には周知徹底しましょう。
年末調整で間違いを防ぐための対策
最後に年末調整の間違いを防ぐための対策を3つ紹介します。
- 複数人でチェックする
- 家族構成が変化した従業員を確認する
- 申告を電子化する
複数人でチェックする
年末調整の担当者が少なかったり、チェック体制を設けていなかったりすると、どうしても間違いが起こりやすくなります。従業員から提出してもらった書類に計算ミスや記載ミスがないか、ダブルチェックすることが大切です。
また、年末調整に関するルールは定期的に改正されているため、変更点がないかについても気を配っていきましょう。
家族構成が変化した従業員を確認する
配偶者や扶養家族の人数に変動があると、年末調整で受けられる控除や控除額に大きく影響します。期限内に正しく年末調整をするためにも、従業員へ年末調整に関する注意点を伝えることが重要です。
年末調整の時期に家族構成が変化する可能性がある場合は、事前に報告してもらうように周知しましょう。
申告を電子化する
年末調整をする時期は年末の忙しいタイミングと重なるため、やり直しや修正などが発生すると担当者の負担が増えてしまいます。効率よく手続きを進めるためにも、年末調整の電子化も視野に入れてみましょう。
手続きを電子化すれば従業員からの申告書類をデータで回収できたり、進捗状況を一覧で管理しやすくなったりなど、作業効率が改善されてミスの軽減にもつながります。
年末調整を担当する従業員が限られている場合や業務に大きな負担を感じている場合は、年末調整に対応するシステムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
年末調整の間違いを減らすには?
年末調整の期限内で、かつ従業員に源泉徴収票を交付する前であれば、社内で年末調整を訂正できます。ただし、期限を過ぎた場合や源泉徴収票を交付した場合は、企業は年末調整の訂正を行えず、従業員自身が確定申告をしなければなりません。
年末調整の手続きにミスが発覚すると、年末調整の担当者はもちろん、従業員本人による訂正も必要となり、大きな負担がかかってしまいます。
計算ミスや記載ミスなどを減らすには、紙による処理を避け、手続きを電子化することも一案です。年末調整の業務負担を軽減したいと感じている企業は、年末調整を効率化できる労務管理システムの導入をおすすめします。
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