一時所得は年末調整の対象? 確定申告が必要なケースや計算例も紹介

年末調整は、1年間に支払った給与から源泉徴収された所得税と、実際に納めるべき所得税額との差額を精算する手続きです。前提として、どのような「所得」が年末調整の対象になるかを理解しておく必要があります。
税法上の所得には、給与所得のほかにもさまざまな種類があります。なかでも「一時所得」は、保険の満期金や懸賞金といったものを指します。
一時所得は年末調整の対象には含まれません。本記事では、一時所得の定義や年末調整との関係、企業側が対応すべきことを解説します。
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目次

一時所得とは?
一時所得とは、税法上10種類ある所得区分の1つです。「一時的・偶発的に得られた収入」のうち、以下の条件をすべて満たすものを指します。
- 一時的な所得である
- 労働の対価として受け取ったものでない
- 資産の売却により得たものではない
- 営利目的の継続的行為により受け取ったものではない
一時所得の具体例
「臨時的に得られた収入」であれば、基本的に一時所得とみなされます。以下は、一般的に一時所得とされる代表例です。
- 懸賞や福引の賞金品
- 競馬や競輪の払戻金
- 生命保険の満期保険金
- 法人から贈与された金品
- 落とし物を届けたときや、埋蔵金を見つけたときに受ける報労金
一時所得にならない例
一時所得の条件にあてはまっていても、金品を得た状況によっては、別の所得と判断されるため注意が必要です。
たとえば、競馬や競輪などの払戻金は原則として一時所得です。しかし、ギャンブルを営利目的かつ継続的に実施している場合、払戻金が雑所得とみなされる可能性があります。
生命保険の満期保険金についても、一括ではなく毎年少しずつ受け取る場合は雑所得です。
また、夫の生命保険の受取人が妻になっているケースなど、契約者と受取人が同一ではなければ、贈与税や相続税の対象です。
一時所得にかかる税金
一時所得は所得の1つなので、所得税が課されます。ただし、全額ではなく、総額から特別控除額を控除した金額の2分の1が課税対象です。
たとえば、懸賞で賞金150万円があたった場合は、特別控除額の50万円を控除後の100万円の半額の50万円が課税対象となります。
一時所得のなかには、非課税となるお金もあるため注意しなければなりません。
たとえば、宝くじは法律で所得税を課さない決まりになっており、どんなに高額当選であっても課税対象にはなりません。
年末調整における一時所得の取り扱い
所得税の金額は、年間所得の合計額によって変動するものです。そのため、同じ給与をもらっている人でも、一時所得があるかどうかで税額に違いが出ることがあります。
たとえば、保険の満期金などで一時所得を得たAさんと、そういった収入がないBさんでは、最終的な所得税額に差が生じます。
企業が年末調整をする際、従業員の「一時所得」も含めて処理する必要があるのでしょうか。

一時所得は年末調整の対象外
年末調整で取り扱う所得は、あくまでも従業員の給与所得のみです。一時所得は年末調整で精算される所得に含まれません。
たとえば、従業員がフリーのイラストレーターとして副業をしている場合、イラスト制作で稼いだ金額は事業所得または雑所得となり、確定申告の対象です。一時所得も同様に、年末調整ではなく確定申告の対象となります。
一時所得について従業員本人が所得税の申告・納付をします。基本的に、企業側で対応することはないと理解しておきましょう。
一時所得の確定申告が必要なケース
一時所得には、年間50万円までの特別控除があり、50万円を超えたら原則として課税対象です。
さらに、会社から給与を受け取っている給与所得者には、給与以外の所得金額の年間合計が20万円以下であれば、確定申告は不要という決まりがあります。ただし、住民税については別途申告が必要な場合がありますので、注意が必要です。
一時所得で課税の対象となるのは、特別控除を引いたあとの金額の2分の1です。つまり、一時所得が90万円を超えなければ、確定申告の必要はありません。
(例)一時所得の金額が90万円の場合 | 確定申告は不要 |
---|---|
特別控除:50万円 差し引き後:90万円 – 50万円 = 40万円 課税対象額:40万円 × 1/2 = 20万円 |
ただし、これはあくまでも「一時所得しか給与所得以外の収入がない」場合の話です。次のようなケースでは確定申告が必要になります。
一時所得が90万円、雑所得が10万円 | 確定申告が必要 |
---|---|
特別控除:50万円 差し引き後:(90万円) – 50万円 = 40万円 課税対象額:40万円 × 1/2 = 20万円 + 10万円(雑所得) = 30万円 |
一時所得の総額 | 確定申告の必要性 | 補足 |
---|---|---|
50万円以下 | 不要 | 特別控除の範囲内 |
90万円以下 | 不要 | 課税対象(超過分の1/2)が20万円以下 |
90万円超 | 必要 | 課税対象(超過分の1/2)が20万円を超える |
ほかの雑所得などと一時所得を合計して90万円超 | 必要 | 給与以外の所得合計が20万円を超える |
一時所得と納税額の計算例
一時所得が発生した場合、どれくらいの税金がかかるのでしょうか。一時所得と、一時所得にかかる所得税額の計算方法を解説します。
計算例をもとに、具体的にシミュレーションをしてみましょう。
一時所得の計算例
一時所得の計算式は、次のとおりです。
臨時で得た収入の総額 – 収入を得るのにかかった金額 – 特別控除額(50万円) |
「収入を得るのにかかった金額」とは、収入を生じさせた行為や原因に直接的にかかわっている費用です。競馬や競輪の払戻金であればレースに賭けた金額、生命保険の満期保険金であれば契約期間で支払った掛け金(保険料)が該当します。
たとえば、次のように馬券を購入した場合を考えてみましょう。
- 1レース目:8万円
- 2レース目:10万円
2レース目で予想が的中し、払戻金120万円を得た場合、総額から差し引くのは、的中したレースに賭けた10万円分のみです。
計算結果は次のとおりです。
120万円-10万円-50万円=60万円 |
納税額の計算例
次に、特別控除後の一時所得が60万円の所得税額を計算してみましょう。
一時所得は2分の1の金額が課税対象となるため、課税対象は「60万円÷2=30万円」です。30万円に所得税率を乗じることで、一時所得の納税額を計算できます。
ただし、一時所得は給与所得や事業所得などと同じく総合課税の対象です。日本では、所得税の総合課税対象には超過累進課税制度が採用されており、対象の所得金額をすべて合算したうえで税率をあてはめ、納税額を算出する必要があります。
仮に給与所得から所得控除を控除した金額を500万円とすると、一時所得との合計金額は530万円です。以下の所得税の税率表にあてはめると、所得税率は20%となります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
表内で対応している控除額を適用すると、納税額の計算結果は次のとおりです。
530万円×20%-42万7,500円=63万2,500円 |
※2037年までは復興特別所得税(2.1%)をあわせて納める
一時所得とはみなされないケース
一般的には一時所得とみなされるものでも、要件を1つでも満たさないと、別の所得区分として扱われます。判断に迷うケースもあるため、よくある対象外のパターンをおさえておきましょう。
- 営利目的の継続的行為から生じた所得である場合
- 労働やサービスを提供して報酬を得た場合
- 不動産や骨董品などを売却した場合
- 金銭を継続的に受け取っている場合
営利目的の継続的行為から生じた所得である場合
一時的な収入であっても、営利を目的に継続的に金銭を受け取っていた場合は、一時所得ではなく雑所得とみなされる可能性があります。
実際に最高裁では、独自の条件設定や計算式を使って、ほぼすべてのレースで馬券を買っていたケースで、払戻金を「雑所得」と認定した判例があります。
通常は馬券の払戻金などは「一時所得」に分類されますが、事情を総合的に見て、事業のような性質があると判断されると雑所得扱いになるのです。
- 収入を得るために継続して行っていたか
- 購入頻度が多いか
- 安定的に利益が出ていたか
労働やサービスを提供して報酬を得た場合
一時所得の要件の1つに、「労働の対価として受け取ったものでない」というものがあります。労働やサービスを提供して得た報酬は、要件を満たさないため、一時所得には含まれません。
たとえば、知人に似顔絵の制作を依頼され報酬を受け取った場合は、継続性や事業性がなくとも一時所得には該当しないことになります。
不動産や骨董品などを売却した場合
資産の売却により得た所得は、一時所得ではなく譲渡所得とみなされます。自宅や土地、美術的価値のある壺などを売って得た利益は、一時所得には含まれません。
金銭を継続的に受け取っている場合
一括ではなく少しずつ継続的に受け取る所得は、一時所得ではなく雑所得です。生命保険の満期保険金を年金方式で受け取る場合などが該当します。
一時所得以外にも! 会社員でも確定申告が必要なケース
一時所得がある場合だけでなく、会社員でも確定申告が必要になるケースは意外と多くあります。具体的には、次のような場合です。
- 年間の給与収入が2,000万円を超えている
- 副業の所得が20万円を超えている
- ダブルワークをしている
- 医療費控除を受けたい
- 住宅ローン控除を受けたい(1年目)
一時所得や雑所得がなく、給与所得のみでも、年間の給与収入が2,000万円を超えていれば、確定申告をする必要があります。
また、従業員が複数の勤務先で働いている場合、年末調整を実施できるのは1つの事業所に限られます。本業以外の勤務先から受け取った給与が年間20万円を超える場合は、従業員本人からの確定申告が必要です。
さらに、住宅ローン控除を受ける人も注意が必要です。2年目以降は年末調整で対応が可能ですが、初年度に限っては確定申告をしなければなりません。
一時所得の確定申告のやり方
一時所得が発生した場合、確定申告は従業員本人が対応する必要があります。企業として対応することはありませんが、基本的な流れを知っておくと安心です。
一時所得の確定申告は、事業所得や雑所得と同様に「確定申告書 第一表」と「確定申告書 第二表」を使って準備します。基本的な手順は次のとおりです。
書類 | 記入欄 | 補足 | |
---|---|---|---|
1 | 確定申告書 第二表 | 「所得の内訳」 | 一時所得をどこからいくら受け取ったか |
2 | 確定申告書 第二表 | 「総合課税の譲渡所得、一時所得に関する事項」 | 特別控除(50万円)の適用などを記載 |
3 | 確定申告書 第一表 | 「収入金額等」の「一時」欄 | 一時所得の金額から特別控除50万円を差し引いた額を記入 |
4 | 確定申告書 第一表 | 「所得金額等」の「総合譲渡・一時」欄 | 3の金額の2分の1を記入。実際に課税対象となる金額 |
一時所得以外の所得や控除についても、所定欄に記載し、正式な納税額を算出します。特別控除(50万円)や課税対象額(2分の1)の扱いが、一時所得の書き方のポイントです。
まとめ|一時所得は年末調整ではなく確定申告が必要
一時所得とは、懸賞の賞金品や競馬の払戻金などの一時的な所得のうち、一定の要件を満たすもののことです。
一時所得は年末調整の対象外です。一時所得がある従業員は、みずから所得と税金を計算して、税務署に届け出る必要があります。
一時所得の確定申告において、基本的に会社側が対応すべきことはありません。しかし従業員から相談された場合に備えて、大まかな内容を把握しておくとよいでしょう。
年末調整を効率化|One人事[労務]
年末調整の手続きは、とても煩雑で工数のかかる業務です。担当者の負担も大きく、人的ミスが発生しやすいのが現状ですよね。ミスなくスムーズに進めるには、業務の電子化も検討してみてはいかがでしょうか。
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