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アンカリング効果とは【具体例を交えてわかりやすく】意味やフレーミング効果との違い、実践手順も解説

アンカリング効果とは【具体例を交えてわかりやすく】意味やフレーミング効果との違い、実践手順も解説

アンカリング効果とは、最初に提示された情報(アンカー)に過度に依存し、人の意思決定に影響を与える心理的傾向です。認知バイアスの一種であり、ビジネスでは「顧客の購買意欲を左右する手法」としてマーケティングに活用されています。

しかし、アンカリング効果は耳にしたことがあっても、具体的にどのような活用例があるのかわからない人もいるのではないでしょうか。

そこで本記事では、アンカリング効果の意味や活用例、実践手順などをわかりやすく解説します。マーケターだけでなく、販促活動にかかわる人はぜひ参考にしてみてください。

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    アンカリング効果とは

    アンカリング効果とは、先に与えられた情報や数字によって、ものごとに対する印象が変わる現象を指します。

    簡単にまとめると、最初の刷り込みや思い込みのせいでものごとを正しく判断できなくなることです。心理学における認知バイアスの一つであり、ビジネスシーンでも広く活用されています。

    たとえば「期間限定」「在庫限り」という商品を最初に目にすると、一度は購入を見送ったとしても、のちの決断に影響を与えることがあるでしょう。マーケティングでは、アンカリング効果を活用して消費者の行動を促す手法が用いられます。

    語源

    アンカリング効果は「船のいかり」を意味する「アンカー(anchor)」に由来します。

    いかりには船を港につなぎとめておく役割があり、アンカリングとは「いかりを用いて船をつなぎとめておくこと」です。いかりを下ろすと船を安全に停泊させられますが、同時に、いかりを上げるまではその場を動けなくなってしまいます。

    この「はじめに固定された場所から動けなくなること」から派生して「先入観がある場合に判断が固定化されてしまうこと」をアンカリング効果と呼ぶようになりました。

    アンカリング効果とフレーミング効果の違い

    アンカリング効果と混同されがちなものに、フレーミング効果があります。フレーミング効果とは、情報の表現方法や提示方法によって、ものごとに対する意思決定が変化する現象です。

    フレーミング効果の例

    フレーミング効果の例を紹介します。

    たとえば、「ビタミンC 1g」と表記されたサプリメントと「ビタミンC 1,000mg」と表記されたサプリメントが同じ棚に陳列されていると仮定しましょう。

    1gと1,000mgは同じ量をあらわすにもかかわらず、消費者には「ビタミンC 1,000mg」と表記されたサプリメントの方が選ばれやすい傾向があります。

    両者の違い

    アンカリングもフレーミングも意思決定に影響を及ぼす心理作用であり、行動経済学の分野で扱われる点は同じです。しかし、フレーミング効果は「表現方法を変更すること」がポイントであるのに対し、アンカリング効果は「情報を提示するタイミング」がポイントであるという違いがあります。

    消費者に与えたい印象によって使い分ける

    たとえば、定価1万円の商品を3,000円で販売するとします。アンカリング効果を狙うなら「定価1万円のところ3,000円」とすると、もともとの価格が1万円であることを印象づけられます。先に定価の情報を提示することで、販売価格が安い印象を持たせられるのです。

    一方、フレーミング効果を狙う場合は、値引きの事実のみをクローズアップします。「定価の30%」ではなく「定価の70%オフ」と表記するのがポイントです。情報の提示方法を工夫することで価値提供を強調し、消費者の意思決定に影響を与えられます。

    定価1万円の商品を3,000円で販売する場合、どう表現する?
    アンカリングフレーミング
    定価1万円を3,000円で販売中定価の70%オフ/定価の30%
    →最初に提示された金額が印象を変える→同じ情報でも表現を変えると印象が異なる

    アンカリング効果の活用例【ビジネス】

    お店で買い物をする際に「無くなり次第終了」「当店人気No.1」「今だけ半額」などの表記に影響を受けたことはないでしょうか。

    アンカリング効果は、販売促進に活用されています。ここからは、営業活動とマーケティングにおける、アンカリング効果の具体的な活用例を紹介します。

    営業活動

    営業活動では、顧客に見積もりを提示する際にアンカリング効果を活用することが一般的です。

    よく見られる手法には、「はじめに値引き前提の金額を提示する」ものがあります。値引後の金額を最初から提示するのではなく、まずは通常価格を提示し、そのあとで割引を適用します。

    同じ10万円の商品でも、はじめから10万円の場合と提示する場合と値引きした結果10万円になった場合では、後者の方が価値提供できるでしょう。

    その際は「お客さまのために特別に値引きいたします」という言葉を添えると、さらに効果的です。「特別に、通常よりも高い価値を提供している」状況をつくり出すことで、顧客の購買意欲を高めやすくなります。

    マーケティング

    マーケティングは、多くのアンカリング効果が活用されている分野です。商品カタログやパンフレットには、メーカー販売希望価格と店舗限定価格の両方が記載されることが多くあります。

    たとえば、メーカー販売希望価格(20万円)の横に「当店限定40%オフ」と記載されていたら、顧客は割引後の12万円ではなく、もともとの20万円に価値を感じるでしょう。「本当は20万円するものを、12万円で購入できる」という印象を与えられます。

    また、数百万円の高額な買い物をしたあとに、数万円の商品が安く感じられるのも、アンカリング効果によるものです。

    たとえば、100万円の時計を買った顧客に1万円のオプションストラップをおすすめすると、「100万円も101万円も変わらない」という心理作用が働き、購入してもらえる可能性が高まります。

    アンカリング効果の活用例【日常】

    ビジネスだけでなく日常生活においても、知らないうちにアンカリング効果が働いていることがあります。ここでは、株式投資や人間関係を例にとり、日常のアンカリング効果を紹介しましょう。

    株式投資

    株式投資では、これまでの値動きから値上がり・値下がりを予測する人が数多くいます。

    しかし、株価の動きに明確な法則はなく、過去の値動きを見たところで予測するのは困難です。過去と未来の株価の動きには関連性がないため、投資判断をする際には、その企業が進行中のプロジェクトや業績などの評価が有効です。

    しかし、過去のデータをもとに「株価が上昇(下降)するかもしれない」と考える人が多いのは、アンカリング効果が影響している可能性があります。「過去の値上がり実績が、今後に関係する」という先入観によって、投資家たちの行動が左右されると考えられています。

    人間関係

    友人や恋人との人間関係においても、アンカリング効果が働く場合があります。

    たとえば、待ち合わせ相手から「30分遅れる」と連絡が来たのに、結果的に相手が10分遅れで到着すると、実際には待ち合わせに遅れたことに変わりはなくても「思ったより早かった」という前向きな印象を受けます。

    これは、自分が想定していたよりも相手が早く到着したことで、予想がくつがえるアンカリング効果です。反対に、結果的に30分以上遅刻すると「さらに遅れて来た」というネガティブな印象を持ってしまうでしょう。

    先に与えられた「30分」という情報により、その後の結果に対する印象が変わったことがわかる一例です。

    アンカリング効果をマーケティングで実践する手順

    アンカリング効果はさまざまなシーンで活用できます。では、どのような手順で実践すると効果を高められるのでしょうか。

    マーケティングにおけるアンカリング効果の具体的な手順を紹介します。

    1.情報を収集する

    アンカリング効果を高めるには、他社との差別化要素をアピールすることが大切です。

    まずは競合他社や類似商品について市場調査を行いましょう。製品の種類や販売価格、付加価値などを網羅的に調べます。

    2.収集した情報を整理する

    次に、自社製品と比較し差別化要素を発見しましょう。

    製品や特徴ごとに分類し、情報を表にまとめるのがおすすめです。多角的な観点から情報をまとめ、わかりやすく整理します

    3.顧客の購入プロセスを分析する

    顧客の購入プロセス、つまり、顧客が商品を購入する方法を分析します。店舗で買う人が多いのか、オンラインや通販で買う人が多いのかなど、販売ルートごとの販売数や売り上げなどを比較検証します。

    また「広告を見た」「パッケージに惹かれた」など、顧客が商品に興味を持ったきっかけを分析することも大切です。

    4.値引きをアピールする方法を検討する

    消費者の購買意欲を高めるためには、値引きを演出することが重要です。たとえば、競合商品と同じ棚に陳列する場合、その中で特に高価な商品の隣を選ぶ方法があります。

    5.実行して効果検証を行う

    主に以下の3点を検証し、PDCAを回しながら改善を繰り返しましょう。

    • アンカリング効果を狙う前後の売り上げ比較
    • ほかの商品との売り上げ比較
    • 顧客の購入プロセスの変化

    アンカリング効果を活用するときの注意点

    アンカリング効果を適切に活用すると、売り上げアップをはじめさまざまな効果が得られます。しかし、もし間違った活用をすると法律に触れる可能性も否定できません。その影響で顧客からの信用を失うリスクにつながるでしょう。

    マーケティングでアンカリング効果を活用する場合は、以下のポイントに注意することが大切です。

    二重価格表示は違法になることもある

    二重価格表示とは、本来の価格と値下後の価格を並べて表示することです。アンカリング効果を活用して価値提供を演出するためには、二重価格表示はほぼ必須といえるでしょう。

    しかし、本来の価格を偽って掲載したケースなどは、景品表示法に抵触する恐れがあります。

    長期間効果を得ることは難しい

    長期間にわたってアンカリング効果を利用していると、顧客に対して価値提供がしづらくなります。

    たとえば、特別価格を長く掲示していたら、もはや顧客はそれが当たり前のように感じてしまうでしょう。また、もとの価格に戻すと不満や割高な印象につながる恐れもあります。

    加えて、アンカリング効果の多用も、せっかくの効果を薄める原因の一つです。アンカリング効果は、ここぞというタイミングで活用することが大切です。

    効果を得られない商品もある

    価格の基準が定着している商品は、アンカリング効果が得にくいとされています。

    たとえば「相場は3,000円」と広く認識されている商品は、5,000円のものを3,000円に値下げしても「もともとの価格が高い」と認識されてしまい、値引きを演出するのは難しいでしょう。

    アンカリング効果を狙うなら、顧客が価格相場を知らない商品がおすすめです。

    アンカリング効果を適切に活用し、顧客の購買意欲を促進しましょう

    アンカリング効果とは、先に与えられた情報がものごとの判断に影響を及ぼす現象です。ビジネスシーンだけでなく、私たちの生活の中でもあらゆる場面でアンカリング効果が働いています。

    アンカリング効果は、とくにマーケティングの分野で用いられ、上手に活用すると顧客の購買意欲を促進できます。

    ただし、二重価格表示を行う際は、景品表示法違反にならないよう注意しましょう。また、アンカリング効果はそれほど長く続かないため、重要なタイミングで活用することが大切です。