バーターとは? 歴史やメリット・デメリット、現代的な活用方法
バーターとは、お金を必要としない取り引きの総称です。貨幣を使用せずに商品やサービスを直接交換するもっとも古い取引形態の一つといえます。歴史をさかのぼると、初期の文明では貨幣システムが存在しなかったため、人々は自分の持っている物資や技能を他者の持つ必要な物資やサービスと交換して生活していました。
バーターは、コミュニティの結びつきを強化し、互いのニーズを満たす手段として機能してきたようです。現代でもインターネットを介した新しい形態のバーターネットワークなど、さまざまな活用例があります。ビジネスでは「バーター取引」「無金取引」と呼びます。
本記事では、バーターの歴史や利用するメリット・デメリット、現代に適した活用法や注意点を解説します。
バーターとは?
バーターとは、商品やサービスについて金銭を介さずに直接交換する取り引きです。たとえば、自分が持っているリンゴを、相手が持っているオレンジと交換した場合、バーター取引が成立します。いわゆる、物々交換の語源となった言葉です。
バーターの歴史的背景
バーター取引の起源は、先史時代にまでさかのぼります。
古代文明におけるバーター取引
古代には「お金」という概念がなく、狩猟で得たものを交換して寒さや飢えをしのいだそうです。いわゆる物々交換であるため、バーターを辞書で調べると「物々交換」と出てきます。しかし、これはあくまで「物々交換」であり「等価交換」ではありません。
等価交換とは、同じ価値のものを交換する方法です。それゆえ、物々交換では「交換してみたら欲しいものとは違うものを渡される」「労働と対価が見合わない」といった問題がありました。
通貨経済の登場とバーターの衰退
物々交換における問題を解決したのが通貨です。
これにより商品やサービスの交換がより簡単かつ効率的に行えるようになりました。貨幣は交換の媒体として機能し、取り引きを助ける一方で、商品やサービスの価値を標準化し、測定する方法も提供しました。
貨幣経済の拡大と比例するように、バーター取引は徐々に衰退していきます。貨幣は取り引きを劇的に簡素化し、経済の拡大と発展を促進しました。商品やサービスの価格が貨幣で表示されるようになり、価値の交換が直接的で、より迅速かつ簡単に行えるようになりました。
現代においても通貨でのやりとりが主流ですが、経済・株式市場においては「バーター取引」も実施されています。
バーターのメリット
通貨の登場とともに主流でなくなったバーター取引ですが、完全に消えたわけではありません。ビジネスにおいてバーター取引を実施する企業もあります。
バーター取引のメリットとして以下の3点が挙げられます。
通貨が不要
バーター取引は、お金を介したやりとりではありませんので、企業経営へのダメージがほとんどありません。
たとえば、広告代理店が自動車メーカーと取り引きする場合、代理店はテレビの広告時間を自動車メーカーに提供し、対価として自動車を受け取ります。その後、広告代理店は受け取った自動車を、ほかの関連コストやサービスの対価として使用できます。
お金が発生しないため、経済情景の見通しが低調だったり、不透明だったりする場面においては有効なビジネス手法です。
流動性の問題を回避
株は社会情勢の影響を受けやすいものです。新型コロナウイルスが猛威をふるい始めた2020年初頭、先が見通せない状況に不安を感じ、飲食店の株価が軒並み値下がりしました。バーター取引では通貨を使わないため、そのような問題は発生しません。
新しい市場へのアクセス
バーター取引を通じた商品の提供は、企業にとって新しい顧客を獲得できるチャンスです。
たとえば、自動車の広告を流すとき「初心者でも運転しやすい事実」をアピールすれば、免許をとったばかりの人が「これに試乗してみようかな」と考えるでしょう。前提として製品の特徴と広告(CM)の内容が一致している必要がありますが、戦略的に使えばバーター取引は、企業にとって新しい市場を開拓するチャンスです。
バーターのデメリット
バーターはメリットがある一方で、デメリットもいくつか存在します。
交換レートの問題
日常の買い物では企業側が値段を決め、対価としてお金を払うのが一般的です。
しかし、そもそもお金を使わないバーター取引においては「対価」の基準がありません。そのため、取り引き成立までに押し問答になったり、途中で立ち消えになってしまったりする可能性があります。
双方のニーズの一致が必要
両社にとって旨みがなければ取り引きは成立しません。たとえば、自動車メーカーは「春先は自動車がよく売れるからそこまで待って欲しい」といっても、春は入学・進学・就職などの季節です。
代理店にとっては春に売り出すべきものが必ずしも車である必要はありません。お金が発生しないため、取り引きの着地点を決めるのが難しいことが、バーター取引のデメリットといえます。
記録と課税の問題
お金が絡む取り引きでは、収支を明確に記載しますが、それが発生しないバーター取引においては、記録が曖昧(あいまい)になるケースが見受けられます。バーター取引においても「5W1H」を使って物流と取り引きの流れを正確に記録しましょう。
また、バーター取引で得たもの(車など)は課税対象です。収支報告に備えて取引先から価格を聞き、証明書を発行してもらうとトラブルを防げます。お金が発生しないから申告が要らないわけではありません。報告を忘れると「税金逃れ」や「循環取引」と誤認される可能性があります。
現代におけるバーターの活用例
古くは旧石器時代から始まったバーター取引ですが、現代ビジネスにおいては以下のように使われています。
バーターシステムやプラットフォーム
ショッピングモールやドラッグストアの来店回数に応じてポイントが溜まる仕組みもバーター取引の一つです。会計時に利用できるポイントの付与を通じて来店を促し、集客をはかっています。
スタートアップや中小企業での利用事例
バーター取引は、特に中小企業にとって、資源を最適化する効果的な手段です。クラウドファンディングもその一つです。
例 |
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企業は製品についてインターネット上のプラットフォームで、プレゼンを行う |
プレゼンに共感した人から出資してもらい、開発資金を確保する |
出資額に応じリターン(返礼)を設定する(例:商品の先行販売など) |
このほか、クラウドファンディングで出資者に試作品を使ってもらい、ユーザーの声をもとに製品の完成度を高めている企業も見受けられます。
バーター取引が活発な業界
バーター取引の事例が多いのが、不動産業界や石油業界です。石油業界では、石油会社間で同量・同価格の石油製品(ガソリン、灯油、軽油など)を相互に融通し合うバーター取引が活発です。
石油製品は石油製品を製造する製油所から、一時的に石油製品を貯蔵する油槽所を経由し、各地のサービスステーションを通じて利用者に届けられます。しかし、この従来の流通経路では、多くの地域に油槽所を設置する必要があり、コストがかかります。
バーター取引を活用することで、石油会社は互いの製油所から直接各地のサービスステーションへ石油製品を輸送することが可能になります。この方式により、物流コストの削減やエネルギーの安定供給が実現し、参加企業双方にメリットをもたらしています。
不動産業界でも、バーター取引が行われています。たとえば、再開発用地の取得において、デベロッパーやゼネコンと不動産所有者の間でなされるバーター取引があります。修繕が必要で潜在価値を十分に発揮できていない物件を所有する不動産所有者と、デベロッパーが保有する収益物件とを交換する取引です。
この方法により、デベロッパーは通常では入手が難しい開発用地を確保でき、不動産所有者は現金の出入りなしに収益性の高い物件を獲得できるというメリットがあります。
さらに、一定期間の賃料を無料にする代わりに契約を締結する方法も、不動産業界におけるバーター取引の一形態と考えられます。
バーター取引をサポートする技術
バーター取引を後押しする技術の一つに「ブロックチェーン」があります。参加者は取り引きをリアルタイムで追跡し、確認可能です。
ブロックチェーンは分散型レジャー技術であり、取り引きの記録はネットワーク全体に分散され、改ざんが非常に難しい技術です。これにより、バーター取引の透明性と信頼性が向上します。
バーターと法的課題
バーター取引においてお金という目にみえる「対価」が発生しないからこそ、法的課題が生じるケースもゼロではありません。
課税との関係
バーター取引と課税には複数の法的問題が絡みます。バーター取引では金銭が交換されないものの、取り引きされた商品やサービスの公正な市場価値は通常、税金の対象です。
国によっては、バーター取引に対して所得税や売上税を課す場合があり、適切に報告されないと、税務問題や罰金のリスクが生じます。その解決策として、バーター取引のすべての詳細を正確に、かつ適時に記録したり、税務専門家にバーター取引の税務処理を相談したりするといいでしょう。
また、取り引きされる商品やサービスの公正な市場価値を適切に評価し、税務報告の基礎とします。これにより、税務申告が正確かつ迅速に行えるでしょう。
契約書や取引のルール
バーターではお金が発生しないため、厳密に契約書を作っていないケースもあるかもしれません。バーター取引で得たものは課税対象になり得ます。
トラブルを避けるため、以下の5点を双方で決めておくのがよいでしょう。
- 取り引きの目的
- 契約の有効期限
- 製品の市場価値と証明
- 納税に関する対応
- 契約終了後の対応
バーター取引にお金は不要ですが、製品については課税対象になる可能性があります。事前に契約の有効期限を確認し、その期間と納税手続きの期間が重複する場合は、どちらの会社が納税や申告手続きをやるか、を正式な書面にしておけばトラブルは起こらないでしょう。
国際バーター取引の規制
国際バーター取引は、国際貿易の慣習と法律、税務、通貨の問題、国際的な規制および標準に関連しています。そこで、国際バーター取引の主な規制とそれに対処する方法をまとめます。
税務規制
国際バーター取引では各国の税務法が適用され、関税や付加価値税(VAT)、ほかの貿易税が含まれることがあります。対策として各国の税法を慎重に研究し、国際税務専門家の助言を求めましょう。
また、海外企業と取り引きをする際に注意すべきポイントとして以下が挙げられます。
- トラブルの発生を想定する
- 信頼や慣習より契約が重視されることを知っておく
- 提示された契約書をそのまま受け入れない
- トラブルが起きれば解決に多大なコストがかかることを知っておく
- 国際取引に詳しい弁護士に相談する
あわせて、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)や外国為替及び外国貿易法(外為法)なども理解しておきましょう。
通貨と価値
異なる国の間でのバーター取引では、商品やサービスの価値の評価が複雑になる可能性があります。各国の通貨価値や経済状況、市場動向などが異なるためです。
具体的な対策方法に以下の3つが挙げられます。
公正な市場価値の基準を設定する
取り引きされる商品やサービスの公正な市場価値を設定し、それを基準に取引価値を評価します。市場価値の基準は、同種の商品やサービスが実際に取り引きされる平均価格や、専門家による評価などに基づくことが一般的です。
為替レートを利用する
異なる通貨間の価値を比較するためには、為替レートが一般的に利用されます。為替レートは、一国の通貨を別の国の通貨に換算する際のレートで、異なる通貨間での価値比較が可能です。
第三者機関による評価を利用する
信頼性を確保するために、第三者機関による商品やサービスの価値評価を利用することもあります。第三者機関は専門的な知識と経験を持ち、公正かつ客観的な評価を提供します。
法律と規制
各国には、国際取引に対する独自の法律と規制があり、輸出入の制限や許可、特定の商品またはサービスに対する規制が含まれることがあります。目的地の国の法律と規制を理解し、遵守しましょう。
具体的には、以下の4つが挙げられます。
法律や規制の理解
目的地の国の法律や規制を理解するためには、その国の関連政府機関や公式ウェブサイトを調査したり、専門家や弁護士に相談したりすることが有効です。
適応性
法律や規制は時間と共に変化します。最新の情報を得るために定期的なレビューが必要になるでしょう。
コンプライアンス
適切な文書化と記録保持は、コンプライアンスを証明するために重要です。
リスク管理
可能なリスクを評価し、それらに対処するための戦略を立てることも重要になるでしょう。
国際標準
特定の商品やサービスには、国際標準および認証が適用されることがあります。そのため、以下の手順を踏むことをおすすめします。
関連する国際標準を特定する
商品やサービスがどのような分野に属しているかを特定し、その分野で適用される国際標準を調査します。
国際標準化機関のサイトを参照する
ISO(国際標準化機構)などの国際標準化機関のサイトを参照し、該当する商品やサービスに関連する最新の国際標準を確認しましょう。
GS1識別コードを確認する
商品やサービスが物流や販売に関連している場合、GS1識別コード(JANコードなど)が適用される可能性があります。
ISO認証取得の必要性を評価する
ISO認証は、製品やサービスがISO規格に準拠していることを証明するためのものです。海外市場でのビジネス展開を考えている場合、ISO認証を取得することで、製品やサービスの信頼性と価値を高めることができます。
自己適合宣言を考慮する
ISO規格に準拠していることを自己宣言することも可能です。自社で実施した試験結果に基づいて行われます。
バーターを成功させるためのポイント
お互いがメリットだけを追及してバーター取引をすると、それがトラブルのもとになる可能性は否定できません。自社でバーター取引を活用するには以下の3点が不可欠です。
価値の評価と交換レートの設定
バーター取引の前には、自社で市場調査を実施するほか、専門家にも調査を依頼し、価格を調査しましょう。自社から出す取り引き材料についても調査し、それぞれの市場価値をお互いに把握したうえで取り引きを進めましょう。
コミュニケーションと明確な取り引きのルールづくり
価値の評価で合意できたら、その内容を書面にしましょう。トラブルを回避するために契約書に盛り込みたい内容は次の5点です。
- 取り引きの目的
- 契約の有効期限
- 製品の市場価値と証明
- 納税に関する対応
- 契約終了後の対応
信頼関係の構築
文書に沿って合意事項を守るだけでなく、取り引きに関する報連相が信頼関係の構築には不可欠です。「お金」という目にみえる対価がないからこそ、ささいなことですがコミュニケーションの積み重ねが信頼関係の構築につながります。
まとめ
バーター取引は企業にとって有効なビジネス手法です。「お金」という目にみえる対価が発生しないかわりに、トラブルを招いてしまう可能性もあります。そうした事態を避けるため、価値の設定・取り引きの有効期限、納税への対応を契約書に明記しておくなどの対策が有効です。