CAGR(年間平均成長率)とは【図解】定義と計算式、活用例を紹介

CAGR(年間平均成長率)とは【図解】定義と計算式、活用例を紹介

CAGRとは「年間平均成長率」を示す指標です。投資やビジネスの成長を評価する際に広く利用されています。CAGRの計算は、複利の効果を考慮することがポイントです。異なる期間や投資案件の成果を公平に比較するために役立つでしょう。

本記事では、CAGR(年間平均成長率)の定義と計算方法を図を用いて解説しています。CAGAは、ビジネスシーンにおいて成長分析に欠かせない指標であり、理解を深めるとより詳細な分析ができるでしょう。活用例もご紹介しますので、業界分析や競合分析の参考にしてください。

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    CAGR(年間平均成長率)とは?

    CAGRとは「Compound Annual Growth Rate」の略で、日本語では「複合年間成長率」と呼びます。ある期間にわたる投資やビジネスの平均的な年間成長率を示す指標です。

    CAGRの定義

    CAGRは特定の期間内におけるビジネスの成長率を示した指標です。そのため、期間の定めを含まない指標はCAGRとは呼びません。

    CAGRを用いる意義と目的

    CAGRを使う意義は、実際の年間成長率が不規則でも、平均的な年間成長率を簡潔に表現できることにあります。そのため、異なる投資や事業のパフォーマンスを比較する際に、CAGRは有用な基準といえます。

    ただし、CAGRは過去のデータに基づいて計算されるため、未来の成長の予測には必ずしも適していません。単純な平均成長率とは異なるため、解釈にも注意が必要でしょう。

    CAGRの計算方法

     CAGAの計算方法は、以下の計算式で求められます。

    基本的な計算式

    CAGRの画像

    終期値は、期間の終わりの価値や収益、初期値は、期間の始まりの価値や収益です。「n」は期間の年数を指しています。

    実際の計算例

    A社の採用支援事業に、ある投資家が初額1,000万円の投資をした場合を例に、CAGRを計算してみましょう。その事業が5年間で2,000万円の利益を出すまでに成長したとすると、CAGRは次のように計算できます。

    CAGRの画像

    上の計算式の答えは、18.92%です。そこで「A社の採用事業は、1年間当たり約19%伸びている」ことが分析できます。

    そして、今後も同様に6年目は「約2,378万円(2,000万円×1.1892=23,784,000)」、7年目は約2,828万円(23,784,000×1.1892=28,283,933)」という成長線を描くことが見込まれます。

    つまり、CAGRは企業にとって事業の方向性を検討し、評価する指標です。

    Excelを使った計算方法

    GAGRは次の式に当てはめると、エクセルのような表計算ソフトで簡単に計算できます。

    (終期の売り上げ/初期の売り上げ)^(1/(N年-1))-1

    「終期の売り上げ」「初期の売り上げ」「N年」を、それぞれの数値が入力されているセル名に置き換えてご使用ください。

    CAGRの画像

    CAGRとほかの成長率指標との違い

    成長率をあらわすのはCAGRだけではありません。CAGRに関連する成長率指標をご紹介します。

    • 平均成長率(AGR)
    • 単純年平均成長率(SAGR)
    • 割合成長率(RGR)
    • 累積成長率(CGR)

    事業を適切に評価するには、それぞれの指標を使い分ける必要があります。

    平均成長率 (AGR)

    平均成長率(AGR)とは、特定の期間における投資やビジネスの成長を単純に平均であらわした指標です。短期間の成長率を見る場合に用いられます。

    平均成長率(AGR)は、期間内の初期値と最終値の差を期間の長さで割って求めます。

    CAGRの画像

    たとえば、100万円の初期投資が1年後に115万円に成長した場合、AGRは以下のように計算できます。

    AGR=(115−100)÷100×100=15(%)

    AGRは単純平均を用いるため、期間内の変動が大きいと、成長率を過大または過小評価してしまう恐れがあります。1年当たりの正確な伸び率を把握したいなら、AGRを使用するとよいでしょう。

    一方、CAGRは過去のある一定期間における各年の成長率を平均したもので、主に企業の成長性や将来性を分析する指標です。2年以上の成長率の平均を知りたいときにはCAGRを使用するとよいでしょう。

    単純年平均成長率 (AAGR)

    AAGRは、期間中の各年の成長率を平均したものです。

    CAGRの画像

    たとえば、4年間のある事業の売り上げが、次のように変動した場合の成長率は以下の通りです。

    N年目1年目2年目3年目4年目
    売り上げ100万円110万円115万円123万円
    対前年度成長率10%4.5%7%

    したがって、AAGRは次のように計算できます。

    (10%+4.5%+7%) ÷3=7.17%

    AAGRは、中間の大きな変動を反映するため、全体の傾向を把握するには不適切なことがあります。CAGRは、複数年にわたる成長率から1年あたりの平均を求めたものです。そのため長期の成長を示すには、CAGRがより適切である場合が多いでしょう。

    CAGRの活用例(業界分析)

    業界分析においては、CAGRが頻繁に利用される指標です。具体的には、市場への新規参入の前に業界や市場の傾向を推察し、予算や参入のタイミングを決めます。

    次のケースにおける活用例をご紹介します。

    • 業界の成長を評価する
    • 競合を分析をする
    • 未来の予測を立てる

    業界の成長を評価する

    業界を評価する際は、まずデータを収集し、評価期間を定義します。特定の業界の成長を評価するためには、最初の年と最後の年の売上高や市場規模などの数値が必要です。評価期間は、一般的に数年間にわたるデータを採用します。

    そして収集データと評価期間をもとにCAGRを計算し、業界のトレンドをつかみます。CAGRが高い業界は、急速に成長していると推察できるでしょう。反対に、低い値やマイナスの値は成長の鈍化や縮小している可能性があります。

    特定の業界のCAGRと、ほかの業界のCAGRを比較しても新たな発見があるかもしれません。CAGRだけでなく、年々の売り上げや市場シェアの変動なども参照すると、業界内の特定の動向や変動の要因を把握できます。

    競合を分析する

    競合分析にもCAGRは活用できます。

    業界分析と同様に、まず各セグメントや競合企業の過去数年間の売り上げ、市場シェア、顧客ベースなどの鍵となる指標のデータを収集します。そして比較の基準となる期間を定義します。

    次に各セグメントや競合企業のデータをもとに、CAGRを計算します。計算されたCAGRの値を競合他社と比較して、もっとも成長している企業を特定しましょう。成長している企業がわかったら、背後にある要因まで深く分析します。

    CAGRを使用して競合他社間の比較を行う際は、単に数値を比較するだけでなく、背後にある要因を深く探ることが重要です。数値が示すトレンドの背後には、成功の秘訣や機会、さらなる成長のヒントが隠されている可能性もあるためです。

    企業の成長要因は、一般的に3つに大別されます。それぞれの分析方法や考え方は次の通りです。

    外部要因外部要因が成長に影響を与えている可能性を検討する
    ・業界のトレンドや技術の進化
    ・規制の変更
    ・経済状況 など
    内部要因企業内部の要因を分析する
    ・製品の革新
    ・効果的なマーケティング戦略
    ・オペレーショナルな効率
    ・組織のリーダーシップ など
    競争要因外部との競争要因を考慮する
    ・競合他社との相対的な位置づけ
    ・USP(独自の販売提案)
    ・価格戦略 など

    ただし、数値データだけでは背後の要因を完全に理解することは難しい場合があります。インタビューや市場調査、専門家の意見などの質的情報を取り入れるとより深い洞察が得られるでしょう。

    以上のような分析の結果をもとに、自社の戦略や投資計画を調整します。高い成長を達成している企業から学ぶことで、ビジネスの成功につながるでしょう。

    未来を予測する

    CAGRは未来の成長予測にも利用されます。ただし、過去のデータをもとに算出される指標であるため、慎重なアプローチが必要です。そこでCAGRを活用して未来の成長を予測する際のポイントや注意点をご紹介します。

    データの品質を確認する

    過去のデータは正確で整合性が取れている必要があります。不正確なデータや不足している情報がある場合、予測の信頼性が低くなります。

    未来の成長を保証しない

    CAGRは過去の成長率を示す指標であり、未来の成長を保証するものではありません。市場の状況や技術の革命、規制の変更など、多くの外部要因が未来の成長に影響を与える可能性を考慮しましょう。

    外部要因を考慮する

    経済の全体的な状況や業界のトレンド、競合状況、規制などの外部要因を考慮に入れて予測を調整する必要があります。

    シナリオ分析を活用する

    シナリオ分析とは、異なる将来の状況や決定の結果を評価するために、複数の仮定を設定し、それぞれのシナリオに基づいて結果を予測する手法です。シナリオ分析によって、あらゆるリスクを想定し、予測の信頼性を高められます。

    長期間のデータを使用する

    短期間のデータだけをもとにCAGRを計算すると、一時的な変動や異常値の影響を受けやすくなります。長期間のデータを用いることで、より安定した成長率の予測が可能です。

    予測の妥当性を確認する

    予測が妥当であるか定期的に確認し、必要に応じて調整することが重要です。予測結果を実際の結果と比較することで、予測の精度を向上できるでしょう。

    業界の専門家の意見を取り入れる

    業界の専門家や分析家の意見や予測を参考にすることで、より現実的な成長予測を立てられます。過去のデータやCAGRだけに依存せず、多角的な情報や分析を組み合わせて予測を立てることが重要です。予測の結果をもとに実際に投資や事業戦略の決定を行う場合、専門家との相談を検討すると、リスクを軽減できるでしょう。

    CAGRの活用例(投資判断)

    CAGRは投資判断の指標にもなります。今後の投資額を考えるとき、過去の傾向を「どのように判断すべきか」を解説します。

    高いCAGRにおける投資判断

    CAGRが高い場合、対象期間において企業が持続的に高い成長を達成していることを示します。これは、効果的な経営戦略や市場のシェア率、成功した製品・サービスの存在など、企業の強みを示唆している可能性があります。

    高いCAGRは、将来的にもその企業が成長する潜在能力を持っていると予想されるため、投資家にとって魅力的な投資先と判断できます。高いCAGRは企業のビジネスモデルや戦略が効果的であることを示す一方で、業界全体の成長トレンドや市場環境の変化に対する企業の適応力も反映しているでしょう。

    高いCAGRにおける投資判断の注意点

    CAGRは、あくまでも平均値であり必ずしも「持続的な成長」の裏づけとは限りません。たとえば、政府の補助金や特定の大型契約による売り上げの急増などで、一時的にCAGRが高まることがあります。

    また小規模な企業は、少量の増加でも大きなパーセンテージの成長を記録することもあります。たとえば、売り上げが10万から20万に増加した場合、成長率は100%ですが、これは絶対的な数値が小さいために起こる効果です。大企業と比較した場合に誤解を生む可能性があるため注意しましょう。

    低いCAGRにおける投資判断

    反対にCAGRが低い場合、企業の成長が鈍化している、または縮小していることを示しています。これは、市場の飽和や古くなった製品・サービス、経営などに問題があると推察できます。

    低いまたは負のCAGRを持つ企業は、投資リスクが高いと判断されます。しかし、このような企業に投資することで、リターンも高まる可能性があるため、リスクとリターンのバランスを考えなければなりません。

    投資判断はCAGRとほかの指標を組み合わせる

    CAGRのみでの投資判断は失敗を招く可能性が否めません。投資をする前に、利益率や負債比率、自己資本利益率(ROE)など、複数の指標を使って判断するとリスクを抑えられるでしょう。

    また、一般的に投資家は、企業のCAGRを同業界の競合企業と比較し、相対的な業績や市場でのポジションを評価し、成長率や競争力をより具体的に把握しています。

    企業のCAGRだけでなく、業界全体のCAGRも考慮することで、企業の成長が業界のトレンドと整合しているかを確認できます。さらに、業界全体のCAGRと個々の企業のCAGRを比較することで、業界内でどの程度の競争力があるかも評価できます。

    CAGRの限界と注意点

    CAGRはビジネスや投資の成功を保証するものではありません。CAGRで企業を評価する際の限界と注意点を解説します。

    過去のデータに基づく制約

    CAGRは特定の期間内の平均成長率を示すだけであり、その間の年々の変動は考慮されない点が制約として挙げられます。

    CAGRは、ある期間の初めと終わりの値をもとに、毎年一定の率で成長した場合の平均的な成長率を計算します。実際の成長が異なっていても、一定の率で成長した場合の成果と同じになる「平均的な」成長率を示す指標です。

    特定の期間内の変動や例外的なイベントの影響

    CAGRは、計算期間の初めと終わりの値のみに基づくため、その期間内の年々の具体的な変動や、例外的なイベント(M&Aや大型プロジェクトの成功/失敗など)の影響を直接反映しません。

    ただし、変動やイベントが期間の初めや終わりのデータに影響を与える場合、間接的にCAGRに反映されます。たとえば、M&Aによって企業の売り上げが一気に増加すると、その増加分は終期のデータとしてCAGRの計算に反映されます。

    外部環境の変化との関係

    CAGRは企業の過去の平均的な成長率を示す指標であり、背後には多くの要因が存在します。自社の予算や戦略だけでなく、公的補助金活用の有無や株価の変動によっても変化します。

    外部環境の変化とは、具体的には次のような例が挙げられます。

    外部環境の変化の具体例
    経済の動向【経済の景気回復期】
    消費が活発化し、多くの企業が成長を遂げることが期待される
    【経済の不景気やリセッション時】
    消費鈍化や投資減少により、企業の成長が停滞する可能性がある
    技術の進化新しい技術の登場や採用は、産業全体の構造を変えることがある
    例:クラウド技術の普及 など
    政策の改定や国の規制特定の業界の動向を大きく左右することがある
    例:再生可能エネルギーへの補助金や税制の変更 など

    外部環境や業界のトレンドの変化は、要因の一つとして非常に重要です。したがって、CAGRを評価する際は、同時に外部環境や業界のトレンドを考慮する必要があります。

    まとめ

    CAGRは事業戦略を考えるうえで有効な指標ですが、将来の成功を保証するものではありません。

    CAGRはあくまで成長率の平均値です。本記事でご紹介したように一時的な経済変動により上昇したり、低下したりします。事業戦略の立案・策定においては、数値を見るだけでなく「実際にその期間に起こった出来事」についても把握すべきです。

    そのうえで、CAGRに加え平均成長率(AGR)、単純年平均成長率(AAGR)など、複数の指標を踏まえて戦略を検討することが成功の第一歩といえるでしょう。