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エバンジェリストとは? 意味やビジネスでの役割と成功事例

エバンジェリストとは? 意味やビジネスでの役割と成功事例

エバンジェリストは、もともと宗教的な背景を持つ言葉でしたが、今日ではビジネスの世界においても製品とお客様との橋渡し役として役割を果たすようになっています。ビジネスにおけるエバンジェリストとは、特定の技術や製品、思想などを広めることを任務とする人材です。

本記事では、エバンジェリストの意味や成功事例をもとに、その役割や求められる資質を解説します。

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    エバンジェリストの定義とその起源

    エバンジェリストとは、IT技術や製品または哲学を積極的に推進し広める人材です。お客様にわかりやすく伝えるため、製品との橋渡し役として、近年は設置するIT企業が増えてきました。

    エバンジェリストの役割は、単に自社サービスを売り込むだけではありません。製品の魅力や価値を業界内外に伝えることで、認知度の向上を目指します。製品に対する深い知識を持ち、魅力を伝える能力が求められます。

    エバンジェリストの歴史的背景

    エバンジェリストは、ギリシャ語の「euangelion」に由来しています。「euangelion」は、キリスト教の宣教師や福音宣教者を指し、日本語では「よい知らせ」または「福音」と訳されます。

    エバンジェリストは、宗教における教示者を示す言葉であり、新約聖書の四福音書(マタイとマルコ、ルカ、ヨハネ)を記した4人の聖書作家を指すこともあります。

    ビジネスシーンにおけるエバンジェリスト

    ビジネスシーンにおいてエバンジェリストは、自社製品・サービスの使い方をお客様に伝える人を指します。

    エバンジェリストを置いている有名企業の一つがApple社(米国)です。同社は、1984年初代Macintosh(Mac)を発売しましたが、対応するアプリケーションの数が少なく、普及に苦戦していました。

    そこでエンジニアの説得役として「エバンジェリスト」を設置しました。同職に就いたガイ・カワサキ氏の尽力により、同社は優秀なエンジニアの確保とアプリケーションの開発に成功しました。

    Appleの事例をもとに「エバンジェリスト」が注目され、多くの業界や企業で設置されるようになったといわれています。ただし、企業によっては「テクニカルアドバイザー」など、別の名称で呼ばれている場合もあります。

    ビジネスにおけるエバンジェリストの役割

    ビジネスシーンにおいて、エバンジェリストはどのような役割を担っているのでしょうか。4つの役割をご紹介します。

    製品の購買促進

    エバンジェリストは、製品の実用性と魅力を実演し、顧客の購買意欲を刺激します。実際に製品を使用する様子を顧客に見せることで、価値を理解してもらう役割があります。

    たとえば、Googleのスマートフォン『Pixelシリーズ』の発売当時、エバンジェリストは家電量販店で製品の特長を実演しながら質問に答えることで顧客の製品への関心を高めました。

    エバンジェリストの積極的なデモンストレーションは、製品の理解を深め、購入へと導く重要な役割を果たしたといわれています。

    ブランドイメージの向上

    エバンジェリストは、質の高い顧客サービスを提供することで、ブランドイメージを向上させます。とくに直接的なコミュニケーションは、ブランドへの信頼度の強化につながり、顧客満足度と好感度に影響します。

    エバンジェリストがていねいに製品の特長を説明し、疑問に答えることで、顧客はブランドをより高く評価するようになるでしょう。

    店舗スタッフとの役割分担

    エバンジェリストは、製品やブランドの価値を伝え、市場における認知度と影響力を高める役割も果たします。単なる店舗スタッフと役割を分けることで、専門性を活かして効率的に業務を遂行し、専門性を活かして顧客サービスの質を向上できるでしょう。

    製品の説明は、一般的に店舗スタッフが行います。ただし、店舗スタッフの担当業務はそれだけではありません。接客から発注や在庫管理、伝票作成や電話対応に至るまで多岐にわたります。

    業務を抱え込みすぎると、一つひとつのパフォーマンスが低下する可能性があります。「エバンジェリスト」と「店舗スタッフ」で分業することで、業務効率の向上と業務の質を担保しているのです。

    売り上げの向上

    エバンジェリストが担う役割として売り上げの向上も挙げられます。たとえば、梅乃宿酒造株式会社(奈良県)は、SNSを使ってユーザーをエバンジェリストに任命しています。

    同社は、開発力と×SNS世代の映える体験価値を掛け合わせて味や香り、見え方までも「ユーザーが手元でいろいろな飲み方を楽しむ」ことを念頭に、『大人の果肉の沼 いちご』という果実リキュール酒を開発しました。

    この果実リキュール酒はSNS上で話題となり、関連する投稿が1万リポストを超えるなど、従来より若いターゲット層を中心に拡散しました。発売から半年経っても、製造後即完売する状況が続いているそうです。

    さらに、各種キャンペーンや商品ローンチを行ったことで、D2Cチャネルで初年度から約2億円の売り上げが見込まれていると報告されています。

    参照:『第15回日本マーケティング大賞 奨励賞を受賞』梅乃宿酒造株式会社

    エバンジェリストとしてのキャリアパス

    エバンジェリストに決められたキャリアパスはありません。もともとエバンジェリストになる人は、多様な背景を持っています。

    ITコンサルタントやデジタルマーケティングなどの職務を経験する中で、専門知識とスキルを深く極めた人材が、役割を担うようになるケースが一般的です。自身の専門知識を活かし、新しい技術や製品の価値を広く伝えて推進することで、特定の分野における伝道師となるのでしょう。

    ただし、エバンジェリストの役割は常に流動的です。最新技術の情報を収集する過程で戦略の策定にも関与し、経営に参画していく道もあるでしょう。たとえば、CIO(最高情報責任者)として、企業のIT戦略を推進する重要なポジションに就くキャリアパスもあります。

    また、エバンジェリストのキャリアは、教育やコンサルティング分野にも広がっています。独立して起業し、学生や個人向けの講座を開講したり、大学の授業を担当したりする進路も考えられるでしょう。

    現代のエバンジェリストは、深い専門知識と経験を活かし、多方面で影響力を発揮し続けています。

    エバンジェリストに必要なスキルや資質

    エバンジェリストになるために必要な、基本的な能力や姿勢を3つ紹介します。

    • 積極性
    • コミュニケーション能力
    • 市場動向の分析と共有

    積極性

    エバンジェリストとは、商品説明の第一人者であり、積極的な姿勢が求められます。

    たとえば、スマートフォン市場では、各社がOSを正式にリリースする前にベータ版を発表しています。機能は日々改善されるため、常に新しいものに触れて前のバージョンと「何がどのように変わったか」「どのような環境でバグが発生したか」について説明できると顧客から信頼されるエバンジェリストになれるでしょう。

    コミュニケーション能力

    エバンジェリストの役割の一つは、商品の特徴を伝えることです。

    単に自社製品が便利な理由を話すのではなく、お客様の悩みや困りごとに沿って最適な使い方を提案する必要があります。顧客に応じたコミュニケーション能力により、購買意欲を刺激することができます。

    市場動向の分析と共有

    エバンジェリストには、常に最新の市場の動向をキャッチして、自分なりの分析をしたうえで社内に共有する行動力が求められます。

    自身が1人のユーザーとして「自社製品にこんな機能があったらよい」「競合他社の製品に新しい機能が加わった」などと周囲に共有することで、開発チームは新製品に活かせます。顧客からの意見も吸い上げて各部署に共有すると、より利便性の高い商品の開発につながるでしょう。

    エバンジェリストの事例と成功した要因

    エバンジェリストを設置して成功した事例として、Googleによる『Android』の開発が挙げられます。

    Androidの事例

     『Android』は、2008年にGoogleが開発したスマートフォン向けOSです。

    同社は、Androidの開発コードを国内外の電子機器メーカーに公開します。これによりスマートフォンのみならず、タブレットやテレビといったさまざまな家電・電子機器にAndroidが搭載され、同社の売り上げの柱となりました。

    同社のエバンジェリストは、Androidを普及させるために、まず開発者に情報を提供しました。「Androidがどのような特長のある製品で、今後どのように普及させたいか」を何度も話し合ったといわれています。

    そのうえで、開発者たちの要望と意見をヒアリングして、会社としてできる限りの開発環境を用意しました。

    エバンジェリストによる普及が成功した要因

    Androidが普及に成功したのは、エバンジェリストと開発者の連携が大きく影響しています。

    同社のエバンジェリストは、単なるイエスマンにならず「企業としてやりたいこと」「企業として用意できる環境」を具体的に示しました。高いコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力を発揮し、開発者側の意見を取り入れた結果が結びついたと考えられます。

    同時にITへの深い知識と新しい知識を得ようとする探究心は、エバンジェリストとして長く働くために必要な要素といえるでしょう。

    まとめ

    エバンジェリストは、特定の技術や製品、思想などを深い知識と情熱をもって推進し、広める役割を担う人材です。エバンジェリストはもともと宗教における「伝え手」ですが、現代のビジネスシーンにおいてはお客様の声を聞く「聞き手」としての役割も求められます。

    そもそも企業の役割は、お客様の課題を解消する製品を届けることです。その観点から、エバンジェリストの必要性はますます大きくなることでしょう。

    エバンジェリストとして活躍するには、高いコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力、深い専門知識、探究心という4つの要素が必要です。どんなビジネスパーソンにも役に立つこれらのスキルを伸ばすことが、エバンジェリストになるための第一歩といえるでしょう。

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