インシデントとは? 業界別の意味やアクシデントとの違い、管理する際のポイントをわかりやすく解説
インシデントとは、予期せぬ障害や問題をもたらす出来事です。気づいたときに素早く対応することによって、思わぬ事故やアクシデントへの発展を防止できます。
インシデントという用語を耳にしたことはあるものの「具体的にイメージできない」「アクシデントと区別がつけられない」という人もいるでしょう。
本記事ではインシデントとは何か、アクシデントとの違いを明確にしたうえで、業界別の意味を解説します。インシデントを適切に管理する方法とポイントも紹介しますので、リスク管理にもお役立てください。
インシデントとは
インシデントとは、危険な状況を引き起こす可能性のある出来事を指します。インシデントが起きて、何かしらの問題が発生したら、アクシデントへと発展すると理解しましょう。
「重大インシデント」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。これは、航空機や鉄道などがあと少しで大きな事故が起こっていた状態をあらわす言葉です。
企業活動においてインシデントが確認されたら、速やかに対処しなければなりません。放置すると重大な事故につながり、業績に直接的な損害を被ったり、顧客の信頼を失ったりする恐れがあります。
インシデントを管理することで、予期せぬ出来事に迅速に対応し、影響を最小限に抑えられます。組織にとって、インシデント管理の取り組みは不可欠であり、計画的な対応体制の整備や事前のリスク評価が求められます。
インシデントとアクシデント、ヒヤリハットとの違い
インシデントと似ている言葉には、アクシデントやヒヤリハットがあります。それぞれの意味と違いは以下の通りです。
言葉 | 意味 |
---|---|
インシデント | あと少しで大惨事になること |
アクシデント | 実際に事件や事故が起こること |
ヒヤリハット | 事件や事故が起こる一歩手前 |
それぞれの違いをより詳しく解説します。
アクシデントとの違い
アクシデントとインシデントは、いずれも予期せぬ出来事を指しますが、発生時の影響の大きさと対応の緊急性において、主な違いがあります。
アクシデントは、すでに実際の事故や損害が発生し、人の安全やものへの直接的な影響があらわれている状況です。たとえば、交通事故や工場での機械の故障による生産停止などが該当し、後日関係者に法的な責任や賠償が問われる可能性があります。
一方インシデントは、まだ実際の損害には至っていないものの、放置するとアクシデントへと発展する可能性のある出来事を指します。インシデントがよく使われるIT業界を例に挙げると、不正アクセスが検出されたが、情報の漏えいやシステムの停止には至っていない事態にあたります。
インシデント管理の目的は、出来事を早期に発見し、適切に対応することで、アクシデントへの移行を防ぐことにあります。アクシデントを未然に防げるかは、インシデントの影響を最小限に抑える対応にかかっているともいえるでしょう。
ヒヤリハットとの違い
ヒヤリハットとインシデントは、アクシデントを防ぐための手がかりではあるものの、認識の有無や深刻さ、発生段階において主な違いがあります。
ヒヤリハットは「事件や事故が発生する直前」を指し、一歩間違えると大惨事が起きてしまう事例です。労働災害などヒューマンエラーにおいてよく使用され、危険を察知して回避する気づきに焦点が置かれています。
1件のアクシデントに対して300件のヒヤリハットがあるといわれ、職場には多くの危険因子が潜んでいると認識されています。
一方、インシデントは人為的ミスに限らず、危険性に気づいていない事象も含まれ、実際に起きた異変や出来事を指します。インシデントは、アクシデントの発生後に認識されることもあるでしょう。
インシデントの具体例【業界別】
インシデントの具体例を以下の業界ごとに解説します。
- IT業界
- 情報セキュリティ業界
- インターネット広告業界
- 医療・介護業界
IT業界
IT業界におけるインシデントは、利用者が本来利用できるはずのサービスにアクセスできない状態を指します。
具体的には以下の通りです。
- メールの送受信ができない
- 社内システムにアクセスできない
- ソフトのフリーズ
- サーバーダウンによりWebサイトが使えない
情報セキュリティ業界
情報セキュリティ業界におけるインシデントは、情報の機密性や完全性、可用性をおびやかす可能性のある状態を指します。
具体的には以下の通りです。
- メール誤送信
- アクセス権限者によるデータの消去や改ざん
- マルウェア感染
- 重要な情報が入ったデバイスの紛失
- 不正ログイン
- 機密情報の漏えい
インターネット広告業界
インターネット広告業界におけるインシデントは、ユーザーの意に反してソフトウェアのダウンロード画面に誘導される状態を指します。
具体的には以下の通りです。
- 虚偽の広告でWebサイトに誘導する
- 虚偽のメッセージで悪意のあるアプリをダウンロードさせる
- スクロール妨害により広告をクリックさせる
- 誤操作を装いポップアップ広告によりWebサイトに遷移させる
医療・介護業界
医療介護業界におけるインシデントは、事故につながる可能性があったものの、医療事故には発展しなかった状態を指します。
具体的には以下の通りです。
- 夜勤中の医療関係者の居眠り
- 与薬時間の間違い
- 滴下速度の間違い
- 歩行介助中のつまずき
いずれも、利用者に被害を及ぼしたり、患者に治療を行う必要性が出たりする事態にまで発展すると、アクシデントと判断されます。
インシデント発生によって企業が受ける影響
インシデント発生によって企業が受ける影響は以下の通りです。
- 正常な業務が行えなくなる
- 損害賠償が発生する恐れがある
- 会社の信用がなくなる
- 復旧や改善にコストがかかる
それぞれ順番に詳しく解説します。
正常に業務を行えなくなる
インシデントが発生すると対応に追われ、通常業務を行えなくなる可能性があります。業務が遅れると顧客に迷惑がかかるだけでなく、売り上げにも影響が出るでしょう。
インシデントが起きた際は、被害を最小限に抑えるためにどのような行動をとるか事前に決めることで落ち着いた対処が可能です。
損害賠償が発生する恐れがある
インシデントの規模によっては、損害賠償が発生する恐れがあります。顧客の個人情報が流出した場合は、損害賠償責任を負う可能性があるため、注意が必要です。損害賠償請求が発生すると企業に甚大な被害が及びます。
会社の信用がなくなる
インシデントの発生によるシステムの停止や、取引先データ流出でセキュリティの低さが露呈すると、企業は社会的な信用を失います。
ネガティブな印象が広がってしまうと、ブランドイメージが大幅に低下するでしょう。新規顧客獲得や取り引きの継続など、多方面での悪影響が懸念されます。
復旧や改善にコストがかかる
インシデントの対策や復旧には相応の金銭的コストがかかります。
トレンドマイクロ社が実施したインシデントに関する調査によると、年間平均被害額は約3億2850万円にものぼります(「見当がつかない」と答えた回答者を除く、従業員数1,000人以上の法人を対象)。全回答者の4分の1以上にあたる64人に、1億円以上の被害が発生していることもわかりました。
インシデントの被害額を抑えるにはセキュリティポリシーの見直しなどが必要です。
参考:『法人組織のセキュリティ成熟度調査を発表』トレンドマイクロ株式会社
インシデント管理とは
インシデント管理とは、インシデントが発生したときの困りごとに迅速に対処して、業務を正常に遂行できるように管理する手法です。インシデントが認められたら、影響を最小限に抑え、原因を分析してアクシデントへの悪化を防ぐ必要があります。
インシデント管理には、インシデントの報告や対応、復旧作業、事後のレビューと改善策の実施が含まれます。
インシデント管理の目的とメリット
インシデント管理の主な目的は、早急な対応と復旧により、被害を抑えて業務を止めないことです。インシデントの発生時は、一時的に業務を停止しなければならない状況になるかもしれません。
迅速に対処し、正常な業務への復旧を早めることで、売り上げや顧客への影響を最小限にとどめられるのは、インシデント管理のメリットです。将来のトラブルを予防するための対策も立てやすくなります。
また、従業員の安全管理の意識を高めることも目的の一つです。
インシデント管理でよくある課題
インシデント管理でよくある課題は以下の通りです。
- 共有ができていない
- 問題の管理ができていない
- スキルを持った人材の確保が難しい
それぞれ順番に解説します。
共有できていない
インシデントが発生した際、当事者のみしか把握できていないと、ほかの従業員が同様のトラブルに遭遇したとき適切に対処できません。その結果、アクシデントへ発展する可能性が考えられます。
インシデントが起きたら、従業員間で事例を共有することが大切です。会議を開催したり、共有フォルダで誰でも閲覧できるような仕組みをつくったりするとよいでしょう。
問題の管理ができていない
インシデントが起きた際、同様の事故が考えられる状況を挙げて、どのような方法であれば発生しないのか対策を打たなければなりません。問題管理とは、同じインシデントが起きないように原因を突き止めて再発防止を考えることです。
問題管理により、社員の負担軽減や業務の改善につながるでしょう。
スキルを持った人材の確保が難しい
インシデント発生時は適切な方法で問題解決できるスキルがないと、対応に時間がかかりタイムロスにつながります。時間が経過するほど、アクシデントに発展する可能性があるため、スキルを持った人材の確保は大きな課題となるでしょう。
インシデント管理を素早く行うポイント
インシデント管理を素早く行うには、以下のポイントを押さえましょう。
- インシデントの共有内容を決める
- 業務フローを見直す
- インシデント情報を可視化する
それぞれ順番に解説します。
インシデントの共有内容を決める
インシデントが発生した際に、共有する内容を事前に決めておきましょう。あらかじめ共有する内容を決めておくことで、迅速に対応できます。
インシデントが発生したときに、共有しておくとよい内容は以下の通りです。
- 発生日時
- 発生場所
- 担当者
- 内容
- 原因
- 対応
- 進捗
- 再発防止策
迅速に共有できるよう把握しておきましょう。
業務フローを見直す
業務フローの見直しでインシデントの発生を防げる場合があります。業務フロー自体がインシデントの原因になっていることがあるためです。
フローを変えることで、効率化もはかれる可能性があります。
インシデント情報を可視化する
インシデント情報を可視化して誰でも閲覧できるようにしておきましょう。同じインシデントが発生した際、対処法を確認できて迅速な行動につながります。
万が一、対応方法がわからなくなっても、経験ある社員からアドバイスをもらうことも可能です。情報の可視化は、組織で仕事をするうえで欠かせない仕組みといえます。
インシデントプロセス面接とは
インシデントプロセス面接とは、候補者の問題解決スキルを探る面接方法です。面接官が具体的なインシデントを提示し、候補者がその場で問題点を分析して質問を重ねながら対応方法を答えていきます。
もともと1950年にアメリカで開発された「インシデントプロセス法」が発展し、現在は人材研修でも活用されるようになりました。人材の問題解決能力やスキルを見定める際に役立ちます。
インシデントプロセス面接を行うメリット
事例をもとに考えさせるインシデントプロセス面接は、候補者の行動原理や思考を探ることができる点がメリットです。候補者が実際にインシデントをどのように処理し、問題を解決するのかを掘り下げます。
インシデントプロセス面接により、候補者の対応力や判断力、チームワーク、緊急時の冷静さなど、職場で求められる多様なスキルを評価できるでしょう。より自社に合う人材を見つけ出せる可能性が高まります。
インシデントプロセス面接の実施手順
インシデントプロセス面接の手順は以下の通りです。
- 面接官が候補者にインシデントを提示する
- 候補者が質疑でインシデントの背景を確認する
- 候補者がインシデントの背景から解決すべき課題を絞る
- 候補者が課題の解決策の提示し、面接官が評価する
それぞれ順番に解説します。
1.面接官が候補者にインシデントを提示する
はじめに、候補者にインシデントを提示します。候補者に実際の業務に近い状況を想定させ、対応方法を探らせることが目的です。
実際に起こった事例を提示すると、より実践的な力を見極めやすくなるでしょう。候補者には提示されたインシデントに対して、面接官に質問するなどして、解決策を検討するように伝えます。
2.候補者が質疑でインシデントの背景を確認する
候補者はインシデントの全容を理解して原因を特定するために、追加の情報を面接官に質問をします。どのような状況からインシデントが発生したのか、発生状況や関連する要因など情報を整理してもらいます。
3.候補者がインシデントの背景から解決すべき課題を絞る
候補者は得られた情報をもとに原因を特定し、課題を明らかにします。どの要素が問題解決の鍵となるか、候補者の分析能力が試されるでしょう。
4.候補者が課題の解決策の提示し、面接官が評価する
特定した原因を踏まえて、候補者に課題に対する具体的な解決策を提案してもらいます。解決策を選んだ理由や考えた過程も説明してもらうことがポイントです。
解決策の内容そのものよりも、候補者がどのように問題にアプローチし、解決策を導き出したか、面接官はプロセスを評価する必要があります。
まとめ
インシデントとは、危険な状況が発生する可能性のある出来事です。IT業界ではシステム障害やセキュリティ侵害、航空業界では飛行の安全を損なうかもしれない異常事態を指します。人の安全や物理的な損害に結びつくアクシデントとは区別されています。
インシデントは業界によって細かい意味は異なりますが、共通するのは予期せぬ問題が発生し、それに対処する必要があるという点です。そこで、発生した問題に迅速に対処し、将来の事故を未然に防ぐ、インシデント管理が求められます。
適切なインシデント管理により、業務を止めることなく顧客の満足度を維持したまま、安全を確保できるのです。