ランチェスター戦略とは【わかりやすく】成功事例と欠点も解説

ランチェスター戦略とは、限られたリソースで大手企業に挑む中小企業や、ニッチ市場でシェアを拡大したい企業にとって有用な、軍事戦略をモデルとする理論です。

現在では体系化が進み、ビジネス領域において、経営やマーケティングの分野で広く活用されています。

競争の激しい市場でどのように戦えばいいのか悩んだら、ランチェスター戦略が役立つかもしれません。

本記事では、ランチェスター戦略の考え方をわかりやすく解説します。実際の成功事例や、欠点を踏まえて、利用する場合の注意点も紹介しますので、戦略策定のヒントにお役立てください。

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    ランチェスター戦略とは軍事戦略から派生した数理モデル

    ランチェスター戦略は、中小企業が大手企業との販売競争で優位に立つために用いられる戦略です。「弱者が強者に勝つ」ための具体的な方法として、数理モデルをもとに構築されています。

    ランチェスター戦略の起源は、イギリスのフレデリック・ランチェスター氏が、第一次世界大戦中に提唱した「ランチェスターの法則」です。

    戦後、日本人コンサルタントである田岡信夫氏が、ビジネスの販売戦略に応用し、中小企業でも実践できるモデルに改良しました。高度経済成長期から現代まで、幅広い企業により活用され、競争市場における重要な戦略となっています。

    ランチェスター戦略における法則とは

    ランチェスター戦略は、第一の法則と第二の法則に分かれています。それぞれの概要を解説します。

    第一の法則(線形の法則)

    ランチェスター戦略の第一の法則は、一騎打ちの法則や弱者の戦略と呼ばれています。古典的な戦いで、局地戦や接近戦に適応される法則です。

    各軍の強さは戦闘力であらわします。

    戦闘力は「戦闘要員数×武器性能」で計算し、同じ武器性能であれば、戦闘員数が多い方が勝利という考え方です。戦闘要員数が同じであれば武器性能が優れている方が勝利します。

    武器性能が同じ場合

    武器性能が同じであると戦闘要員の多いA軍が勝ちます。

    A軍戦闘要員5人×武器性能1=戦闘力5
    B軍戦闘要員3人×武器性能1=戦闘力3

    武器性能が異なる場合

    武器性能が高いとB軍が勝ちます。戦闘要員で負けていても、武器性能が高ければ勝ち目はあります。

    A軍戦闘要員5人×武器性能1戦闘力5
    B軍戦闘要員3人×武器性能3戦闘力9

    武器性能は商品の質に置き換えられます。従業員数が少ない中小企業は、商品の質で勝負する必要があるといえるでしょう。

    第一の法則をビジネスへ応用すると?

    第一の法則に基づく軍事戦法を、ビジネスでの戦い方に置き換えてみましょう。

    戦法ビジネスでの戦い方
    一騎打ち競合他社を1社に絞ることや、ライバルの少ない市場でターゲットを選ぶ
    局地戦限られた領域やエリアにリソースを注ぎ込む
    接近戦競合他社とは直接戦わず、顧客との距離を縮めて自社の印象を与える

    第一の法則を活用する場合、企業価値を高めるために、商品力やブランド力を強化し、ターゲットとするエリアを明確に絞った商品展開をしていきます。限られた市場で競争力を発揮するためには、どの分野で強化をするかがポイントです。

    たとえば、特定のニッチ市場に焦点を当て、ブランドの認知度を効果的に向上させる具体的な施策を打つ必要があります。

    第二の法則(二乗の法則)

    第二の法則は、集団対集団の戦いを想定した戦略です。強者の法則とも呼ばれており、1人で多くの敵を攻撃できる機関銃のような武器を用いた広域戦に適応されます。敵の武器性能が高くても戦闘要員数で優っていれば、優位に戦況を進められるという考え方です。

    第二の法則では、広域戦や遠距離戦を想定しており、戦闘要因を2乗して計算します。

    A軍(戦闘要員5人の2乗)×武器性能1戦闘力25
    B軍(戦闘要員3人の2乗)×武器性能2戦闘力18

    第一の法則では武器性能が異なる場合、性能が高い方が有利でした。第二の法則では、武器の性能がBより劣っていても、戦闘要員が多いA軍に勝ち目があります。

    第二の法則をビジネスへ応用すると?

    第二の法則に基づいた戦略をミート戦略といいます。第二の法則に基づく軍事戦法を、ビジネスでの戦い方に置き換えてみましょう。。

    戦法ビジネスでの戦い方
    広域戦大きな市場をねらう
    確率戦競合他社の多い市場をねらう、併買率の高い顧客をねらう
    遠隔戦広告を大々的に打つ

    第一の法則に沿って差別化を進める中小企業を封じ込めるのが、第二の法則に基づいたミート戦略です。

    接近戦や一騎打ちとは異なり、広範囲の市場や多様な顧客層を対象にすると、兵力数が重視されます。

    武器性能は商品の質に置き換えられます。同じような商品であれば、従業員数が少ない中小企業より規模が大きい大企業に勝ち目があります。

    ランチェスター戦略とマーケットシェア理論(7つの目標値)

    マーケットシェア理論とは、市場における自社のシェア率を示す指標をあらわした理論です。シェア率の具体的な指標は、7つのシンボル目標値で示されています。

    各シェアの目標値は、競争の激しさや市場の特性によって異なり、上位目標値や影響目標値の達成は、業界や市場の成熟度に依存します。

    各シェアの段階に応じて、企業は異なる戦略を採用しなければなりません。たとえば、拠点目標値を達成したら、次の段階である存在目標値を目指して戦略を調整する必要があります。

    各目標の値と役割をそれぞれ解説します。

    上限目標値(シェア73.9%)

    上限目標値シェア73.9%は市場を独占できているとされる数値です。2位以下の企業と大きな差があります。競合他社に対して非常に優位な立場であり、脅かされる心配はありません。

    安定目標値(シェア41.7%)

    安定目標値シェア41.7%は過半数は超えていませんが、安定目標値を達成した企業は独走状態といえます。ランチェスター戦略では4割以上のシェアを獲得できていれば地位は安定していると考えます。

    下限目標値(シェア26.1%)

    下限目標値シェア26.1%は業界をリードする企業として最低限確保したい水準といえます。万一、シェアが26.1%を割り込むようであれば、たとえ首位の座にあっても、地位は不安定になる可能性があります。

    上位目標値(シェア19.3%)

    上位目標値シェア19.3%は、中小企業など弱者が最初にねらう数値とされています。19.3%以内に入ると、トップ3位以内のシェアを獲得できている場合が多いです。首位を狙える範囲に入っているので、1位が見えてきたら、戦略を切り替える必要もあります。

    影響目標値(シェア10.9%)

    10%以内を確保できると、競合他社や顧客に認知されているといえるでしょう。影響目標値のシェア10.9%を獲得できて初めて市場争いに参加できると考えられています。

    存在目標値(シェア6.8%)

    存在目標値のシェア6.8%という数値は、市場に存在を認められていますが、影響力はほとんどありません。シェアが6.8%を下回ると市場から撤退する企業もあります。そのため、生き残るには最低限のシェアであるといえます。

    拠点目標値(シェア2.8%)

    拠点目標値シェア2.8%は、参入するきっかけができて、これから市場に加わるという状態です。新規参入する場合は、拠点目標値を目標に戦略を立てる必要があります。

    ランチェスター戦略の3大原則

    ランチェスター戦略をとるうえで、押さえなければならない原則があります。グランドルールと呼ばれる、ランチェスター戦略の3大原則は以下の通りです。

    • 一点集中主義
    • 足下(そっか)の敵攻撃の法則
    • No.1主義

    一点集中主義

    一点集中主義は目標を一つに絞って攻撃し続ける考え方です。勝ち目のある商品や地域、顧客などを設定して、競合相手に負けない状況をつくり出します。

    足下(そっか)の敵攻撃の原則

    市場シェアを今よりも伸ばしたい場合、自社より1ランク低い競合他社を攻撃する考え方です。強い敵と戦っても勝ち目はありません。

    ランクの低い相手と戦うことで少ないリソースで下位との差を広げられます。ただし、足下(そっか)の敵攻撃の原則をもとに戦略を実行する際は、具体的な競合分析と市場調査が必要です。

    No.1主義

    ランチェスター戦略は、圧倒的なナンバーワンになることを目指しています。具体的にはシェア41.7%です。2位以下はすべて弱者とみなしています。

    1位を獲得するためには、ブランド認知度や技術力の向上、領域や業界を絞った商品展開をすることが必要です。

    弱者のランチェスター戦略を取り入れた成功事例

    弱者のランチェスター戦略を取り入れた成功事例を企業別に解説します。

    • エイチ・アイ・エス(HIS)
    • ハウステンボス

    エイチ・アイ・エス(HIS)

    大手旅行会社として有名なエイチ・アイ・エス(以下、HIS)は創業当初、週に数人しか来店しない零細企業でした。

    そこで当時のHISは、次の2つのランチェスター戦略を採用します。

    • 1位になるまで目立たない
    • 地域ごとに各個撃破していく

    同社は、1位になる前に目立つと強者の標的になってしまうため隠れていたのです。そのため、テレビや雑誌の取材を断っていたといわれています。

    一方で、同社は地域ごとに制覇していく戦略を取りました。たとえば、当時は観光地としてマイナーであったバリ島に資金や人員を動員しています。マイナー観光地でシェア1位を獲得したら、次の地域に注力するという「一点集中主義」を実施しました。

    ランチェスター戦略を取り入れて以降は黒字化を達成し続けてた成功事例です。

    参考:『HISはなぜ”やすく”するのか』HIS

    ハウステンボス

    長崎県を代表するテーマパークであるハウステンボスは、開業以降18年連続赤字状況でした。しかし、HISの創業者である澤田秀雄氏が再建に乗り出し、ランチェスター戦略を取り入れると、翌年に黒字化を達成しています。

    当時のハウステンボスは開業以来変わらない「オランダ村テーマパーク」がコンセプトでした。気軽にオランダに行ける時代に異国気分を味わう意味は薄れていました。

    そこで澤田氏は、ランチェスター戦略をもとに、ハウステンボスに新たな価値を見出します。

    同氏はハウステンボスを花と緑、水に囲まれた都市として再建を開始します。アミューズメント要素も取り入れながら、ハイテク機能も備わっている次世代環境都市であることをPRしました。

    結果として、企業の会議や研修旅行、国際会議や見本市といった多様な需要を取り込むことに成功しています。

    ランチェスター戦略を実践するには?

    ランチェスター戦略をより具体的に実践していく方法として、4つの戦略を紹介します。

    • 地域戦略
    • 流通戦略
    • 営業戦略
    • 市場参入戦略

    地域戦略

    地域戦略とは営業地域を細分化してエリアでナンバーワンになることです。総合的に見るとシェアは低いですが、地域単位で見るとナンバーワンの強者といえます。

    たとえば、全国チェーンのレストランと地域密着型のレストランです。全国的なシェアでは負けていますが、特定の地域で比較すると強者であることがあります。地域の特産や世帯数などを細かく把握できるため、独自の戦略をとれます。

    流通戦略

    流通戦略とは、流通チャネルを最適化する戦略のことです。各流通チャネルの競争力を評価して、最適なチャネルを選択します。分析した結果から、商品の効率的な供給ルートを確保してシェアを広げていきます。

    営業戦略

    営業戦略とは、顧客獲得や売上最大化などを達成するための戦略です。自社の商品サービスが他社より優位に立てるよう営業方法を考案します。どのようなアプローチをいつ実施するのかなどを調べながら立案もします。

    市場参入戦略

    市場参入戦略とは、経営者やマーケティング部門向けの戦略です。新規参入する市場における競合他社の強さを評価して、自社の戦略を検討します。商品開発や新規事業開発は先に実行するのか、あとに実行するのか比較して戦略を練っていきます。

    ランチェスター戦略は使えない?欠点

    ランチェスター戦略は、特に弱者が強者に勝つための有効な手段として知られています。適切に活用すれば、競争の激しい市場でもビジネスを成長させることができるでしょう。

    しかし、ランチェスター戦略は必ずしも万能な戦略ではない可能性があります。

    ランチェスター戦略は、自社の正しい位置づけや市場の現状分析が前提となります。見誤ると、期待される効果が得られず、むしろ失敗するリスクも否定できません。

    たとえば、自社が本当に弱者なのか、それとも中途半端な立場にあるのかを明確に理解しないまま実行すると、リソースの浪費につながります。

    また、ランチェスター戦略は、資源を集中させて勝負に挑むため、リスク分散が難しくなるという欠点もあります。一度の失敗が全体の事業に大きな打撃を与える可能性があるため、慎重な計画とリスク管理が不可欠です。

    ランチェスター戦略を活用するためには、自社の強みや弱みを分析し、どの市場で戦うべきかを見極めなければなりません。また、強者に勝つためには、知識や経験を積み重ね、適切なタイミングで戦略を実行することが重要です。

    ランチェスター戦略で弱者は強者に勝てるのか?(まとめ)

    ランチェスター戦略とは、弱者とされる中小企業が強者の大企業に勝つための手法です。特定の市場にリソースを集中させる「一点集中主義」などで、HISやハウステンボスは競争の激しい市場でシェアを拡大し、成功を収めました。

    ランチェスター戦略をビジネスで具体化するには、地域戦略や流通戦略などの実践的な方法を実行していく必要があります。

    ただし、ランチェスター戦略にはリスクも伴います。自社の強みを見誤ったり、リソースを適切に配分できなければ、競争で敗れることも否定できません。

    市場分析と戦略的な判断をしながら、ランチェスター戦略を上手に取り入れられると、ビジネスの成功率が向上するでしょう。