辞令とは? 意味や書き方、内示から発令までの流れも解説
辞令とは企業が人事権を行使し、従業員の人事異動などを決定し、通知する文書です。企業にとって、人事に関する変更や調整は、スムーズな運営のために必要です。
ただし、辞令の発令は、対象者だけでなく従業員の家族や所属部署など周囲にも影響を与えます。さまざまな立場に配慮しながら、人事を決定し、辞令を発令する必要があります。場合によっては、従業員が納得できないと、拒否することもあるでしょう。
本記事では、辞令の意味や種類、効力などを解説し、文書の書き方のポイントも紹介します。
辞令とは?
辞令とは、勤務場所、職種、役職などの変更を公式に伝える文書です。企業は人材配置や昇進降格などの人事異動を決定し、円滑な運営のために定期的に発令します。
辞令を発令するタイミング
辞令は、主に以下のタイミングで発令します。
- 年度初め
- 組織改編時
- 役員変更時
- 昇進降格時
辞令交付式
企業によっては、入社式と同時に辞令交付式を行い、新入社員の配属先を発表することがあります。特に大企業では、この行事を式典として扱います。
「内示」「発令」「任命」との違い
辞令と混同しやすい言葉に内示・発令・任命の3つがあります。それぞれの意味と違いを解説します。
内示
内示とは、辞令の対象者本人や上司に対し、内容を先に通告することです。内示の段階では正式な決定ではないため、非公式として関係者のみに直接伝えられるのが一般的です。
内示を通して、あらかじめ新たな配属先や職種、昇格降格についての心構えや準備ができます。誤った辞令の交付や遅延、漏えいなどを防止できるためスムーズな人事異動につながるでしょう。
発令
発令とは、決定事項を公式に伝えることです。「人事異動や配属先決定などの辞令を発令する」という表現をします。
任命
任命とは、特定の役職や官職への就任を命じることです。「管理本部長に任命する」と表現します。
ほかの人事手続きと異なり、断る権利がほとんどありません。身分や役職を与える最終手続きを指すことが多く、本人の意向確認などは事前に調整が済んでいる場合が多くあります。
辞令の種類
辞令には複数の種類があります。企業で出される一般的な辞令の種類について、紹介します。
- 採用辞令
- 異動辞令
- 昇進辞令
- 昇給(減給)辞令
- 出張辞令
- 出向辞令
- 退職辞令
採用辞令
採用辞令とは、採用決定を通知するための文書です。辞令の文書には、以下の内容が記載されます。
対象者 | 氏名 | (例)田中 花子 |
---|---|---|
生年月日 | (例)2004年3月10日 | |
住所 | (例)静岡県〇〇市〇〇 10-6 | |
配属先 | 部署名 | (例)部署名:〇〇〇部 |
役職名 | (例)役職名:〇〇 | |
就業条件 | 雇用形態 | (例)正社員またはパート など |
勤務時間 | (例)8時から5時(休憩90分含む) | |
休日 | (例)年間休日120日 | |
給与 | (例)基本給〇万円 | |
その他 | 試用期間 | (例)2024年4月1日から2024年5月31日までの2か月間 |
社会保険加入状況 | (例)雇用保険・厚生年金・健康保険 など |
異動辞令
異動辞令とは、従業員の配置転換を通知するための文書です。具体的には、以下の情報が記載されます。
2024年3月10日 〇〇〇〇殿株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 〈部署名〉 ・異動前:営業部異動後:マーケティング部 〈役職名〉 ・異動前:営業社員異動後:マーケティング担当 〈異動日〉 ・2024年4月1日 〈異動理由〉 ・営業経験を活かしたマーケティング戦略の立案・実行 〈職務内容〉 ・市場調査競合分析 ・顧客分析 ・広告宣伝企画 以上 |
昇進辞令
昇進辞令とは、従業員の昇進を通知するための文書です。具体的には、以下の情報が記載されます。
2024年3月10日 〇〇〇〇殿株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 〈部署名〉 ・営業部 〈役職名〉 ・昇進前:営業社員昇進後:主任営業社員 〈昇進日〉 ・2024年4月1日 〈昇進条件〉 ・顧客満足度向上への貢献新規顧客獲得数10件達成 〈給与変更〉 ・昇給額:5万円 ・改定後給与:月額35万円 以上 |
昇給(減給)辞令
昇給辞令とは、従業員の給与改定を通知するための文書です。具体的には、以下の情報が記載されます。
昇給とは反対に減給される場合の辞令は、減給辞令といいます。減給辞令は給与減額を正式に通知するための文書です。減給の期間や割合、理由などを記載します。
2024年3月10日 〇〇〇〇殿株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 〈部署名〉 ・営業部 〈給与変更〉 ・昇給日:2024年4月1日(減給の場合は「減給期間:2024年4月1日より9月30日までの6か月」) ・昇給後給与:月額35万円 〈昇給理由〉 ・顧客満足度向上への貢献(減給の場合は「業績悪化」や「懲戒処分」など) ・新規顧客獲得数10件達成(減給の場合は減給評価基準) 以上 |
※減給の場合は、昇給を減給に変更する
出張辞令
出張辞令とは、従業員の出張を通知するための文書です。具体的には、以下の内容を記載します。
2024年3月10日 〇〇〇〇殿株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 〈部署名〉 ・営業部 〈出張内容〉 ・出張期間:2024年4月1日~4月5日 ・出張先:大阪支店 ・出張目的:顧客との商談 〈費用〉 ・日当:1万円 ・交通費:往復1万円 ・宿泊費:1泊5千円 以上 |
出張辞令は、作成しない企業もあります。しかし作成することで、交通手段の手配や必要な書類の準備がスムーズに進められます。すべての従業員が同じ条件で出張していることを確認できるため、公平性を保つ役割を果たしています。
出向辞令
出向辞令とは、従業員がほかの組織に赴いて業務を行うことを通知する文書です。具体的には、以下の情報を記載します。
2024年3月10日 〇〇〇〇殿株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 〈部署名〉 ・営業部 〈出向内容〉 ・出向期間:2024年4月1日~2025年3月31日 ・出向先:株式会社△△ ・出向目的:新規事業立ち上げへの参画 ・出向後の役職:営業担当 〈給与〉 ・出向先での給与:月額30万円 ・出向元企業からの給与支給:なし 以上 |
退職辞令
退職辞令とは、従業員の退職を正式に通知する文書です。退職辞令が公布されるケースは定年退職だけでなく、依願退職や懲戒解雇などの場合もあります。具体的には、以下の内容を記載します。
2024年3月10日 〇〇〇〇殿株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 退職辞令 〈部署名〉 ・営業部 〈退職情報〉 ・退職日:2024年4月1日 ・退職理由:定年退職 ・退職後の役職:顧問 〈給与〉 ・退職金:2,000万円 ・勤続年数に基づく退職金:1,000万円 ・未払い給与:50万円 ・社会保険料:会社負担 〈手続き〉 ・退職手続きの期限:2024年3月31日 ・必要書類:退職届、退職金受給額決定通知書、社会保険料算定基礎届 ・返却物:社用携帯電話、社員証、名刺 以上 |
辞令のテンプレート
辞令では、どのような種類であっても共通して記載する項目があります。そのため、辞令文書のテンプレートを作成しておくと活用に便利です。
上記のようなテンプレートをあらかじめ作成し、種類に応じて調整するとよいでしょう。
辞令の書き方のポイント
辞令書は、人事異動や昇進、退職など、従業員の状況の変化を正式に通知するための文書です。正確な情報をわかりやすく伝えるために、以下の必須項目と注意点を押さえておきましょう。
辞令書の必須項目【5種類】
辞令書は種類を問わず、必要な項目があります。具体的には以下の5種類です。
1.タイトルと公布日
書類の種類と発令日を明確に記載します。
2.対象者情報
氏名・社員番号・部署など対象者を特定できる情報を記載します。
3.詳細内容
人事異動の場合は配属先、役職、職務内容を記載します。昇進の場合は、役職・給与変更など変更内容を具体的に記載しましょう。
4.理由
辞令対象者や発令理由を簡潔に記載しましょう。理由については、周囲が納得できるような内容を記載する必要があります。
5.適用開始日
変更内容が適用される日付を明確に記載します。
3つの注意点
注意したいポイントは以下の3点です。
1.簡潔で分かりやすい文体
専門用語や略語は避けましょう。誰でも理解できる言葉で書くことが必要です。
2.ていねいな言葉遣い
相手への敬意を払い、敬語を用います。
3.誤字脱字のチェック
発信前に、必ず誤字脱字のチェックをしましょう。誤字や脱字の内容によっては、認識の齟齬(そご)が発生する可能性があります。
辞令を出す流れ【3ステップ】
辞令発行は、以下の3ステップで進められます。
- 内示
- 辞令書の作成
- 辞令の発令や交付
1.内示
辞令が出される前に、まず内示が行われます。内示は一般的に対象者と上司などに口頭で伝えられ、正式に発表されるまで口外してはいけません。内示によって対象者が事前に内容を把握することで、必要な準備や引き継ぎなどを計画的に進められます。
2.辞令書の作成
辞令を行う際は、辞令書を作成することもあります。ただし、必須ではなく、辞令はどのような手段でも通知ができます。辞令書を作成すると、本人が保管できたり、社内で掲示したりする際に役立ち、スムーズな周知につながります。
3.辞令の発令や交付
辞令の公表手段は、辞令書の配布やメール、社内掲示板などさまざまな方法があります。ただし、辞令の内容によっては全体周知をせず、対象者本人にのみに通知する場合もあるため注意しましょう。
辞令の法的効力
辞令は、会社の命令として基本的には拒否できません。ただし、一定の拘束力があるため注意が必要です。
- 辞令には一定の拘束力はある
- 辞令は基本的に拒否できない
辞令には一定の拘束力はある
辞令には、法的拘束力はありません。これは辞令に関する法律がないためです。ただし、従業員は企業と労働契約を締結しているため、発令する辞令にも一定の拘束力があり、従業員はそれに従う必要があると理解するのが一般的です。
辞令は基本的に拒否できない
企業では、労働や就業などに関する人事規定を定めています。一般的に企業側が人事権を持つため、発令された辞令に従う必要があります。正当な理由なく辞令を拒否すると、処分を受ける可能性がありますので、注意が必要です。
ただし、内示の時点では交渉できる可能性もあります。
辞令は断れるのか
辞令は、企業から従業員への命令であり、基本的に拒否することはできません。ただし、事情により断れるケースもあります。
辞令交付後の取り消しや変更はできない
辞令は企業の意思決定に基づいて交付され、基本的には取り消したり拒否したりできません。入社時に人事異動や転勤などの可能性について説明を受けているため、承諾したうえで入社していると見なされます。
辞令を拒否できるケース
以下のような場合、正当な理由があれば辞令を拒否できる可能性があります。
- 入社時の労働契約内容と異なる場合
- 家庭の事情など、やむを得ない事情がある場合
ただし、上記に当てはまるからといって、必ずしも辞令を拒否できるとは限りません。
辞令を断りたい場合
従業員がどうしても辞令を断りたい場合には、以下のような手順で進めます。
- 企業側との話し合い
- 辞令を拒否したい正当な理由を明確に説明
- 代替案を提案
話し合う場合は、お互いに誠意をもって対応しましょう。
辞令を断ると解雇の可能性もある
辞令は、企業の判断・命令であるため、基本的には拒否できません。企業と従業員で話し合われ、交渉が決裂すると「人事異動の拒否」と見なされ、解雇の可能性もあります。
正当な理由がなく、辞令を断る場合は、退職や転職を視野に入れて慎重に判断しましょう。
辞令に関するトラブルを避ける4つの方法
企業にとって、従業員とのトラブルは避けたいものです。辞令の発令は従業員の権利や義務に大きく影響するため、トラブルが発生するリスクは高くなります。
辞令発令時のトラブルを最大限に回避するための対策を4つ紹介します。
- 採用時や入社時に説明を行う
- 就業規則などを活用する
- 内示で同意を得ておく
- 従業員の家庭事情を踏まえる
採用時や入社時に説明を行う
採用時や入社時において、あらかじめ転勤や配置転換の可能性について説明しましょう。
「人事異動や転勤はない」と伝えてしてしまうと、トラブルのもとになってしまいます。勤務を続けるうえで、転勤や配置転換の対象になる可能性があると伝えておきましょう。
就業規則などを活用する
人事に関する変更の可能性について、就業規則や労働協約などに記載しておくことが重要です。あらかじめ明文化しておくと、トラブルを未然に防止できるでしょう。
内示で同意を得ておく
辞令を発令する際は、決定事項として突然辞令を出すのではなく、まずは内示を出すことが大切です。内示を通して、対象者の意見を聞いておきましょう。
辞令は正当な理由なく拒否できないものの、内示を行うことで、あらかじめ従業員の反応や考えを確認しておけます。
従業員の家庭事情を踏まえる
人事に関する変更を行う際は、従業員の家庭事情を事前に確認し、配慮することが重要です。
特に、育児中や介護中の従業員にとって、転居をともなう転勤は大きな負担が予想されます。家庭の事情がある従業員に辞令を出す場合は、詳しい理由を用意し、会社の期待や方針を伝える方が親切でしょう。
拒否の申し出があった場合も、会社側と対象者の間で納得するまで話し合うことが大切です。
まとめ
辞令とは、人事に関する変更を、従業員に対して公式に伝える通知文書です。
辞令には一定の効力があるため、従業員は基本的には拒否できません。ただし、トラブル防止のためにも、決定事項として辞令を出す前に、内示を通してあらかじめ同意を得ることが大切です。
辞令の出し方によっては、企業側と従業員の間でトラブルに発展する可能性もあるため、家庭の事情などを考慮しながら進めましょう。