正常性バイアスとは? 具体例や同調性バイアスとの違い、対処法を解説
正常性バイアスとは、予期せぬ出来事に遭遇した際、楽観的に捉える心理的メカニズムのことを指す言葉です。日常的なシーンであれば、楽観的に捉えることで心理的なストレスを軽減したり心の負担を軽くしてくれたりするメリットがあります。
しかし、災害時などにも正常性バイアスが機能すると、場合によっては命の危険もあるため注意しなければなりません。また、ビジネスシーンにおいても、損失や大きなトラブルが生じた際に正常性バイアスが機能してしまうことを踏まえ、意識して行動するべきといえるでしょう。
そこで本記事では、正常性バイアスについて総合的に解説しながら、具体例や同調性バイアスなどとの違い、対処法なども含めてご紹介します。
正常性バイアスとは?
正常性バイアスとは、予想もしていないような状況に遭遇した際「このくらい大したことはない」や「問題ない」と自動的に認識する心理的なメカニズムのことを指します。
正常性バイアスが働くことで、予期せぬ事態に対する不安や緊張、恐怖を軽減してくれる一方で、災害や事故などの非常事態の際にも過小評価してしまい、大きな被害を受ける危険性があります。
また、ビジネスシーンにおいても正常性バイアスが悪い方向に働いてしまったことで、大きな損失や失敗につながってしまうこともあるため、注意が必要です。
心を正常に保つためのよい影響がある
本来、正常性バイアスは日常生活におけるさまざまな出来事やストレスのなかで、大きく動揺したり不安になったりする心理的ストレスから自分を守り、心を落ち着かせるための機能といえます。
緊急時における正常性バイアスの危険性
しかしながら、災害時や事故などに遭遇した際に正常性バイアスが機能してしまうことで「まだ大丈夫」などの油断につながり大惨事になってしまうケースもあるのです。
そのため、災害などの緊急時に正常性バイアスが働いた場合にも、すぐに避難などの対応ができるよう、日頃から正常性バイアスについて理解しておくことが大切です。
緊急時における正常性バイアスの事例
緊急時における正常性バイアスが機能した事例にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的にイメージしやすい事例をご紹介します。
自然災害における正常性バイアス
近年、日本でも震災や豪雨災害が起こりました。このような災害発生時に際して、正常性バイアスが働き「このくらいならまだ大丈夫」と思い、初期対応が遅れてしまった方も少なくないでしょう。
また、火災警報機や緊急地震速報のアラート音が鳴った場合にも、誤作動だろうと思ってしまう方もいるのではないでしょうか。このような楽観視によって、防げた事態に巻き込まれてしまうケースもあるかもしれません。
そのため災害時などにおいても正常性バイアスが働くことで初期対応や避難が遅れてしまうことを理解し、災害発生にはすぐに避難したり、素直に周囲の指示に従ったりすることが大切です。
新型コロナウイルスにおける正常性バイアス
新型コロナウイルス流行時においても、人々の間で正常性バイアスが働いたとされています。世界中でパンデミックが起こり、日本でもテレワークを導入するなど外出自粛を行っていました。
しかし、コロナ禍においても「マスクなし」や「複数人による会食」「人が多く集まる場所への外出」をする人がいました。こうした行動も「自分は大丈夫」「これくらいなら移らない」などの正常性バイアスが働いたといえるかもしれません。
正常性バイアスと同調性バイアスの違い
正常性バイアスと混同しやすい言葉に、同調性バイアスという言葉が挙げられます。同調性バイアスとは、周囲と同じ言動を取ることで安心感を得る心理的なメカニズムのことです。正常性バイアスと意味合いは異なりますが、混同して認識している人もいるため、違いを理解しておきましょう。
正常性バイアスが強い人の特徴
正常性バイアスが強い人にはどのような特徴があるのでしょうか。具体的な特徴や共通点をご紹介します。
手順やルールを守らない
正常性バイアスが強い人の特徴として、手順やルールを守らない傾向があります。
これは、「自分は大丈夫」という気持ちからくるものです。自分の経験や知識などを過信してしまうことで大きな失敗につながる可能性もあるため、注意が必要です。
都合の悪いことに目を向けない
正常性バイアスが強い人は、自分に都合の悪いことから目を背ける傾向があります。
自分にとって都合の悪い情報を過小評価したり、聞かなかったことにしたりする心理が働くためです。とくにビジネスシーンにおいては状況を俯瞰的に見たり、客観視したりすることが大切です。視野が狭くならないよう注意しましょう。
ハラスメントにつながる恐れがある
正常性バイアスが強い人はハラスメントをしてしまう恐れもあります。
正常性バイアスは、自分の内面にある差別的思考や偏見を生み出します。正常性バイアスが強い人は、こうした思考が言動にあらわれやすいため、日頃から注意しましょう。
公平な評価ができなくなる
正常性バイアスが強い人は、公平で適切な評価ができない傾向があります。
正常性バイアスは「自分は大丈夫」「自分の意見は正しい」という考えに陥りやすいため、自分と似た人を高く評価したり、実際の成果よりも過小評価や過大評価につながったりします。評価者にも正常性バイアスに関する共有などを行い、適切な評価を行えるようにしましょう。
キャリアの停滞を招く
正常性バイアスが強い人は、現在のキャリアに不安を感じながらも、現状を過度に楽観視してしまいます。
「今の仕事を続けていれば問題ない」「自社は安泰だろう」といった根拠のない安心感に囚われがちです。
しかし、このような思考は危険です。計画的なキャリア開発を怠ると、企業の経営悪化や雇用環境の変化に直面した際、深刻な立場に追い込まれる可能性があります。予期せぬ事態に備え、自身のキャリアを主体的に構築することが重要です。
正常性バイアスのメリット
正常性バイアスは、本来心の平穏を保ち、楽観的な思考でいられるようになるため、メリットが多くあるものです。具体的なメリットにはどのような点が挙げられるのか確認してみましょう。
ストレスの軽減につながる
正常性バイアスが機能することで、心理的な不安や恐怖から回避し、心を落ち着かせることができます。日常生活において正常性バイアスが働くことは、ストレスを受けることを防いだり軽減したりすることにもつながるでしょう。
たとえば日常におけるささいな出来事で、過度に気にしてしまったり考えすぎたりすると不安が大きくなり、生きづらさを感じてしまう場合もあります。正常性バイアスが機能すれば「このくらい大丈夫」と楽観的に捉えられ、不安や恐怖心を取り除いてくれる効果があるのです。
鬱などメンタルへの負荷を防ぐ
正常性バイアスが機能することで、鬱状態になったり深く悩んだりすることを防いでくれます。
日々の生活の中でさまざまなストレスをすべて受けていれば、メンタルを壊してしまう危険性もあるでしょう。そこで正常性バイアスが働くことで、精神的な負担を軽減してくれるため、自分の健康や命を守ることにつながるのです。
正常性バイアスによるデメリット
盛況性バイアスにはデメリットもいくつかあります。具体的なデメリットを理解して受け止めたうえで、注意すべき点として前向きにとらえるようにしましょう。
命に危険が及ぶ可能性がある
正常性バイアスが機能することで、命の危険がともなう場合もゼロではありません。災害時などに適切な判断ができないで油断していると、命にかかわる大きな被害を受けてしまうかもしれません。
正常性バイアスは人間の心理的メカニズムであるため完全に断ち切ることは難しいため、正常性バイアスの危険性も理解したうえで対応できるようにしておきましょう。
リスクヘッジが遅れる
正常性バイアスが機能すると、リスクに対する危機感が薄くなる危険性もあります。どのような場合でも災害時や緊急事態時においては落ち着いた行動と判断を心がけましょう。
企業における正常性バイアスの危険性
企業やビジネスシーンにおける正常性バイアスについて、どのような場合にどのような危険があるのか具体的にイメージしてみましょう。
自分は大丈夫と思いこむ
正常性バイアスの危険なところは、自分は大丈夫と思ってしまうことです。慢心してしまうことで大きな失敗やトラブルにつながるかもしれません。どのようなときも、自分は大丈夫と思いこみすぎないようすることや、必要に応じて緊急時の対処法を確認をしておきましょう。
倒産の危機を招く
経営層に正常性バイアスが機能することで「自社は倒産しない」と油断してしまうケースも少なくありません。経営者や幹部陣が、正常性バイアスに関する知識を深め、自社の業績やビジネスにおける変化などを察知し、大きな損失や倒産トラブルを回避できるよう、意識を高めておきましょう。
コンプライアンス違反
正常性バイアスの影響を受けることで「大きな問題にはなりにくいだろう」「これくらいなら問題ない」という気持ちから、コンプライアンス違反をしてしまう危険性もあります。
正常性バイアスに関する情報を従業員に周知するとともに、コンプライアンス違反が起こらないような対策を取っておくことも重要です。適切な情報管理の徹底やハラスメントへの危機意識も組織全体として持っておきましょう。
事業での大きな損失
正常バイアスが機能することで「成果が出にくいのは自分だけではない」や「売り上げが上がらないのは自分のせいではない」と感じてしまいがちです。その結果、個人情報を持ち出したりハラスメントをしてしまったりする危険性もあるでしょう。
正常性バイアスを防ぐ方法
正常性バイアスは、よい影響だけでなく、よくない方向で進んでしまうことが問題点といえます。そこで、自分自身で正常性バイアスを防ぐ方法についてご紹介します。
正常性バイアスについて知っておく
正常性バイアスによるトラブルや失敗を防ぐためには、正常性バイアスについて知識を持っておくことが大切です。専門的な知識ということではなく、正常性バイアスがどのようなときに機能し、危険があるのかを理解しておく程度でもよいでしょう。
正常性バイアスは物事を楽観的に捉えたり精神的なストレスを軽減したりするメリットがある一方で、予期せぬトラブルや災害時に機能することで、今起こっていることを過小評価してしまう危険性があるということを覚えておきましょう。
職場での防災訓練
正常性バイアスによって危険を回避する方法として、職場での防災訓練や災害を想定した初期対応などを訓練しておくとよいでしょう。
企業の防災担当者が正常性バイアスによって正しい判断ができない場合もありえます。従業員も含め、日頃から災害時への備えや訓練を行うことで、適切な初期対応が取れるようにしましょう。
社内研修の実施
正常性バイアスに関する理解を深めるために、社内研修を行っておくと安心です。そもそも正常性バイアスについてまったく聞いたことがないという従業員もいるかもしれません。まずは社内で研修を行い、従業員全員が正常性バイアスについての知識を得ることが大切です。
正常性バイアスに関する知識が得られれば、業務上のミスや予期せぬトラブル、損失が生じた際にも適切な対応が取れる可能性が高まるでしょう。
行動指針をつくっておく
正常性バイアスは心理的なメカニズムであるため、防ぐのは難しいかもしれません。そこで、特定の状況が起こった場合に取るべき対応を行動指針として決めておき、それに沿って行動してもらうように周知・徹底しておくことで、大きなトラブルや被害を回避できる可能性が高まるでしょう。
正常性バイアス以外のバイアス
正常性バイアスのほかにも、人間の心理的メカニズムにはいくつもの種類があります。代表的なバイアスを4つご紹介します。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分に都合のよい情報ばかりを集めてしまう心理的メカニズムを指します。自分の意見や願望に沿った情報を尊重し、そうでない情報は軽視してしまう傾向にあるものです。ビジネスシーンや日常生活、さまざまな場面で起こります。
内集団バイアス
内集団バイアスとは、自分が所属する集団の方がほかの集団よりも優れていると思い込み、優遇したり評価したりする心理的メカニズムを指します。仲間へのひいきともいえますが、内集団バイアスが強化すると、ほかの集団とのトラブルが発生する危険性もあります。
コンコルド効果
コンコルド効果とは、投資し続けることで損失が拡大することがわかっているのにもかかわらず、投資がやめられない心理的メカニズムです。それまでにかかった労力や費用などを振り返ると「もったいない」という考えが働くためにやめられない、とイメージするとわかりやすいでしょう。
ハロー効果
ハロー効果とは、第一印象やこれまでの評価など、一部の目立つ特徴に引きずられて、ある事象の評価や印象がゆがめられる心理的メカニズムです。悪い印象だけでなく、よい印象に引きずられることもあります。
まとめ
正常性バイアスとは、予期せぬ出来事に遭遇した際、楽観的に捉える心理的メカニズムのことです。正常性バイアスが機能することで、危険な状況が生じる場合も少なくありません。
正常性バイアスを危険視したうえで、災害や事故に関する定期的な防災訓練を行ったり、正常性バイアスがビジネスに与える損失を研修のなかで紹介したりすることをおすすめします。正常性バイアスの危険性を組織全体として理解しておきましょう。