持株会を導入する前に知っておきたいこと|メリット・デメリットや企業での検討事項を解説
持株会とは、従業員が企業の株式を一定の条件で取得できる仕組みです。労働環境が変化する中で、企業文化が重要視され、従業員のモチベーション向上や経営の安定を目的として持株会の導入が注目されています。
しかし「なぜ持株会が重要なのか」「どのような効果が期待できるのか」といった疑問を抱く人もいるでしょう。
そこで本記事では、持株会の基本的な仕組みやメリット・デメリット、企業が検討すべき事項について解説します。経営に携わる方々は、持株会を導入する際の判断材料としてお役立てください。
持株会とは?
持株会とは、各従業員が自社株式を取得できる機会を提供する制度です。自社株を購入した従業員は、会社の成長に貢献しながら、売り上げの増加に連動して利益を得られる可能性があります。
持株会には主に以下の4種類があり、本記事では「従業員(社員)持株会」に絞って解説していきます。
1 | 従業員(社員)持株会 | 組合を通して自社株を従業員が取得できる組織 |
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2 | 拡大従業員持株会 | 非上場会社と密接な関係にある上場会社の株式の取得を目的として、当非上場会社の従業員が運営する組織 |
3 | 役員持株会 | 役員が自社株を購入できる組織 |
4 | 取引先持株会 | 取引先に自社株の購入資格を与える組織 |
持株会の仕組み
持株会は、会員である従業員から自社株の購入資金を募り、その拠出金で株式を購入する仕組みです。従業員は、その拠出金額に応じて配当金を受け取れる場合もあります。
持株会への参加はあくまでも任意で、従業員の選択により決められます。
持株会を通じて従業員は、自社の株式を購入する機会を得られ、経済的なメリットを享受できる可能性があるため、会社の福利厚生の一環として位置づけられています。
持株会の加入状況
日本証券取引所が発表した『2021年度 従業員持株会状況調査結果』によると、2022年3月末時点の東京証券取引所上場内国会社3,815社のうち、証券会社と契約を締結し、従業員持株会制度を導入している企業は3,247社です。
約85%を超える上場企業が持株会を活用していることがわかります。
また、持株会を導入している企業のうち、40%近くの従業員が持株会に加入しています。加入者の割合は、2020年と2021年で大きな変動がないため、持株会に対する企業の安定な取り組みと制度の定着が伺えるでしょう。
参考:『2021年度従業員持株会状況調査結果の概要について』株式会社東京証券取引所(2023年6月2日)
持株会を企業が導入するメリット
持株会を導入すると、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。
その代表的なメリットを3つ解説します。
- 企業の安定的な株主基盤の構築
- 従業員のモチベーション向上
- 福利厚生の充実
企業の安定的な株主基盤の構築
持株会により従業員が自社株を保有することで、企業は内部に安定的な株主基盤を構築できます。
経営方針や目標に協力的である従業員が株主であるため、株式の流動性が低くなり、会社の資金を安定的に確保できます。
また、株主である従業員は、企業の短期的な利益追求だけでなく、長期的な企業の成長を意識しやすくなるため、企業は長期的な経営戦略を追求しやすくなるでしょう。
従業員のモチベーション向上
企業の業績向上にともない、持株会からの配当の増加が予想されます。
従業員が自社株を保有している場合、増配となることから、仕事へのモチベーションがいっそう高まるでしょう。
また、従業員が株主として企業の経営に参加する意識が芽生えるため、仕事への熱意や自社のへの帰属意識が高まり、業績向上に役立つ可能性があります。
福利厚生の充実
持株会は、従業員の資産形成をサポートする制度であり、福利厚生の一環として位置づけられています。導入することで福利厚生の拡充につながり、企業にとって対外的なアピールポイントになります。
持株会により企業イメージが向上し、顧客からの信頼が増し、採用市場において魅力的に映るため、業績の向上や優秀な人材の確保にも役立つ可能性があります。
持株会を企業が導入するデメリット
持株会の導入はメリットがある一方で、デメリットも存在します。
持株会を上手に運用するには、導入にともなう主な3つのデメリットを知ったうえで、対処方法も検討しましょう。
- 費用の増加
- 経営陣との利益相反
- インサイダー取引への注意
費用の増加
持株会を運営するには一定のコストがかかります。
従業員の株の購入手続きや保有状況の管理、配当の処理などの作業には人的リソースやシステムへの投資が必要です。企業の運営費用を増加させ、経済的な負担となる可能性がある点はデメリットといえます。
経営陣との利益相反
持株会により従業員が自社の株を所有することで、経営陣と従業員の利益が一致する一方、ときには相反することもあります。
たとえば、企業が一時的な業績不振に陥った場合です。従業員は株の評価損を被る可能性があり、モチベーションが下がって不満の原因となるでしょう。
インサイダー取引への注意
持株会を企業が適切に運営するためには、法律や規制に違反しないよう、十分に注意する必要があります。
一般的に従業員は、持株会を通じて毎月一定額を計画的に拠出します。1回あたりの拠出額が100万円未満であれば、通常はインサイダー取引の規制対象外であり、従業員が市場に未公表の重要な情報を知っていたとしても問題にはならないと考えてよいでしょう。
しかし、未公表の重要な情報を知ったうえで、新しく参加して拠出を始めたり、毎月の拠出額を増加させたりする行為は、インサイダー取引と判断される可能性があります。ポイントは、未公表の重要情報を知る前に拠出が計画されていたか否かです。
また、従業員が持株会から引き出した株式を売る取引においては、インサイダー取引の規制対象に含まれます。持株会の運営には、インサイダー取引が疑われないように正しい知識を理解しておきましょう。
持株会に従業員が加入するメリット
持株会を導入することは、企業側だけでなく加入する従業員にも大きなメリットがあります。
従業員が持株会に加入する3つのメリットを解説します。
- 少額から資産形成ができる
- 奨励金を受け取れる
- 手間をかけずに資産形成ができる
少額から資産形成ができる
少額から資産形成の機会が得られる持株会は、従業員にとって魅力的な制度といえます。自社株式を毎月定期的に購入していくと、一定数の株式を保有でき、株価に比例してキャピタルゲインや配当金も増えることが予想されます。
また、2018年10月より全国の証券取引所における株式の売買単位は100株に統一されました。まとまった投資額を用意しなくても購入できるようになったため、プライベートで自発的に行う株式投資よりも取り組みやすく、気軽に資産形成ができるのはメリットです。
奨励金を受け取れる
持株会に加入するメリットとして「奨励金制度」を利用し、積立額を増加できることも挙げられます。
奨励金制度とは、従業員が自社株を購入する際に、拠出金に応じて会社が定めた割合を購入金額に上乗せする制度です。たとえば、奨励金を拠出金の5%と設定している場合、毎月5,000円ずつ積み立てると、5,000円の5%分である250円が上乗せされるため、5,250円分の自社株を購入できます。
つまり、奨励金制度により、従業員は自社株を拠出額より多く取得できるのです。
持株会を導入する企業の96.3%が、奨励金制度を採用していることが調査によりわかっています。低金利の銀行貯金よりも、持株会を通した資産形成は従業員にとって大きなメリットがあるといえるでしょう。
参考:『2021年度 従業員持株会状況調査結果』東京証券取引所
手間をかけずに資産形成ができる
持株会における毎月の拠出は、給与から自動的に天引きする方法が一般的です。
資産管理や株式購入に付随する手間をかけず、ストレスなく資産形成を始められることをメリットに感じる従業員もいるでしょう。
持株会に従業員が加入するデメリット
企業だけでなく、従業員にも大きなメリットがある持株会にはデメリットがあります。3つのデメリットを紹介します。
- 資産減少のリスクがある
- 株主としての権利が制限される
- 売却に制限がある
資産減少のリスクがある
持株会への加入により、当然ながら従業員は、企業の業績や株価の動向に直接的に影響を受けます。
不景気や業績の悪化などで株価が下落すると、一緒に本人の資産も減少することを覚悟しなければなりません。個人の経済状況が、所属企業の業績に左右されてしまうのはデメリットの一つと考えられます。
株主としての権利が制限される
一般的な株主は、株主優待を受けられますが、持株会に参加している従業員は、通常の株主としての権利が制限されます。あくまでも従業員は持株会の名義で株式を購入しており、個人名義の証券口座で株式を保有しているわけではないためです。
持株会に参加する従業員は、株主総会への参加や株主優待の受け取りが難しく、株主の権利を制限されると理解しておきましょう。
売却に制限がある
持株会を通じて取得した株式は、個人名義で購入した株式のように、すぐに売却できません。
自社株を売却するためには、個人名義の証券口座を通して売買する必要があります。個人名義の証券口座を持っていない場合、新たに口座を開設する手続きが必要です。
また、企業によって定められている最低売買数量に達していない株式を売却するには、持株会を解約する必要があります。解約後は、企業によっては再加入できないケースや、再加入が認められるまでに一定の待機期間が発生するケースもあります。
ライフステージの変化により、資金が急に必要になった場合でもすぐに引き出せないのは、従業員にとって都合が悪くデメリットです。
持株会を導入する際の確認事項
持株会を導入するには、複数の検討すべき事項があります。特に重要な5つの確認事項について解説します。
- 持株会の株式保有比率
- 従業員の出資方法
- 奨励金制度の導入
- 運営方法
持株会の株式保有比率
発行されている株式総数内で、持株会が保有できる株式数を定めます。
持株会の株式保有比率が増加すると、従業員満足度の向上が期待できる反面、経営陣の所有する割合が減少するデメリットがあります。
持株会が実際に経営に与える影響は限定的です。しかし、経営陣が支配権を確保して経営基盤を安定させるには、事前に持株会の保有比率を明確にしておくことが重要です。
従業員の出資方法
従業員が持株会に出資する方法を具体的に定めます。毎月の給与やボーナスからの天引き、一時金の拠出など、従業員に適した柔軟な方法を設定しましょう。
奨励金制度の導入
持株会を持つ企業の9割以上が採用している奨励金制度は、従業員の参加を決定づける重要な要素の一つです。奨励金制度を導入するか否か、導入するのであれば奨励金額(割合)をいくらに設定するのかについて具体的に検討します。
運営方法
持株会の運営および管理体制を具体的に計画します。外部に委託するか、内部で管理するかを検討し、内部であれば運営委員会の設立やメンバーの選出方法、運用方針などを決める必要があります。
持株会において課税対象になるもの
持株会への拠出で生じる奨励金や利益に応じた配当金は、各従業員の給与計算において課税されるのでしょうか。税金がかかるとしたら、どのように計算したらよいでしょうか。
最後に、持株会の運用に関連して従業員が負担する課税対象について解説します。持株会を新たに導入する場合、あらかじめ従業員に説明して理解を得ておくようにしましょう。
奨励金
持株会の拠出額に応じた奨励金は、給与所得として各従業員の課税対象です。奨励金制度とは、拠出額に応じて一定の割合を上乗せする制度です。拠出金を毎月の給与から天引きしている場合は、給与額に奨励金を加算して源泉徴収を行います。
配当金
持株会を通して各従業員が購入した自社株からの配当金は、配当所得として各従業員の課税対象です。持株会が取得している自社株式は、理事長の名義で保有されていますが、配当が出た場合は各従業員に帰属します。
上場株式からの配当金には20.315%、非上場株式からの配当金には20.42%が、源泉徴収されます。確定申告は本来不要ですが、給与所得や配当などを合計した課税所得が1,000万円以下であれば、確定申告をすることで配当控除を適用できる場合があります。
参考:『No.1330 配当金を受け取ったとき(配当所得)』国税庁
譲渡益(売却益)
自社株を個人の証券口座に引き出して、売却して得られた譲渡益は、譲渡所得として各従業員の課税対象です。ただし、引き出しただけで売却しなければ、課税対象ではありません。譲渡益から株の取得にかかった経費を差し引いた額に、20.315%を乗じた額が税金として差し引かれます。
また、持株会から引き出した株式を個人の「特定口座(源泉徴収あり)」で管理して売却した場合は、源泉徴収が行われるため、確定申告は不要です。
持株会から「一般口座」や「特定口座(源泉徴収なし)」に自社株を引き出して売却した場合は、源泉徴収はされないため、個人で確定申告を行う必要があります。
参考:『No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)』国税庁
まとめ
持株会とは、従業員が自分の働く企業の株式を購入し、成長にともなう利益を享受できる制度です。
本記事では組合を通して自社株を購入する、従業員(社員)持株会について解説しました。導入により、モチベーション向上や株主基盤の安定が期待できる反面、経営陣との利益対立やインサイダー取引のリスクがあるため、事前の準備が重要です。
持株会を導入する前に、株式保有比率や奨励金制度の有無、出資や運用の方法について定めておく必要があります。また、配当や利益で生じる課税の扱いや確定申告の必要性についても理解しておきましょう。
持株会のメリット・デメリットや検討事項を踏まえたうえで、社内に説明を実施し、理解を得て公平な運営を目指しましょう。