シンギュラリティとは? 技術的特異点がもたらす社会的な影響
シンギュラリティ(技術的特異点)とは、技術の進歩が極めて加速し、人類の生活や社会構造を根本から変えることです。2045年問題ともいわれています。
本記事では、シンギュラリティの概要と今後AIの実用によって、私たちの生活に起こりうる変化、共存するためにすべきことを解説します。
シンギュラリティとは何か?
シンギュラリティとは、アメリカ人でAI技術研究者のレイ・カーツワイル氏が提唱した「人工知能(以下、AI)が、2045年に人間と同等、もしくはそれを超える知性を手に入れるのではないか」との考え方です。
ChatGPTやBirといったAIが次々と誕生する現代において、アメリカを中心に注目を集め、「2045」という数字にちなんで「2045年問題」とも呼ばれています。
シンギュラリティを提唱した2人の識者
シンギュラリティは、1980年代以降のコンピュータ科学とAIの研究の中で注目されています。特にヴァーナー・ヴィンジ氏とレイ・カーツワイル氏の主張が、シンギュラリティを普及させました。2人の識者の主張を紹介します。
ヴァーナー・ヴィンジ氏の主張
数学者でありAI研究者のヴァーナー・ヴィンジ氏は、自身のエッセイ『The Coming Technological Singularity』において、「30年以内に技術的に人間を超える知能がつくられる」と記しました。彼の考えによれば、21世紀のうちに特異点が訪れると予想されています。
レイ・カーツワイル氏の主張
シンギュラリティの時期をより明確に示したのがレイ・カーツワイル氏です。その根拠となるのがムーアの法則です。
ムーアの法則とは、コンピュータの集積率が18〜24か月で倍増するという考え方です。法則に基づいてAI技術の進化速度を計算すると、2045年にシンギュラリティの到来を迎える可能性が高いとされています。
ムーアの法則が最初に提唱された1965年から、すでに50年以上が経過しました。ヴィンジ氏が提唱した通り「30年以内」に特異点を迎えることはありませんでしたが、現代ではAI技術が多くの分野で活用されています。
そのような現状を踏まえて、レイ・カーツワイル氏は「2045年シンギュラリティ説」を提唱しています。
AIとシンギュラリティの関連性
AIとシンギュラリティには深い関連があります。
AI技術は、計算能力の向上やデータ収集の効率化、アルゴリズムの発展によって支えられ、過去数十年で急速に進歩しました。特に、深層学習やニューラルネットワークの進歩がAI技術の発展に大きく貢献しています。
シンギュラリティは、AIが人類を超える瞬間を指し、多くの研究者や哲学者によって議論されています。AIはさまざまな分野で応用されており、スマートフォンの写真補正や文章・イラストの生成、医療における治療法の提案など、多岐にわたる活用例があります。
日本におけるシンギュラリティ
シンギュラリティはもともとアメリカにおいて提唱された考え方ですが、日本においても注目を集めています。日本におけるシンギュラリティの意味や予兆を紹介します。
日本語訳と意味
日本において、シンギュラリティは「技術的特異点」と訳され「AIが人間を超えるかもしれない現象」を指す言葉として使われています。
シンギュラリティを予感される例
日本では、2013年に将棋AIがプロ棋士に勝ったことが大きな話題となりました。
また、2021年にトヨタ自動車がAIによる自動運転ドリフト車「スープラ」のテスト映像を公開しました。まだ完全には実用化されていませんが、日本でも実用化に向けたテスト走行が進んでいます。
このような技術の進歩は、「2045年のシンギュラリティ」を予感させる一因となっているでしょう。
参考:『命を救うために設計された、自動ドリフトするGRスープラをご覧ください』トヨタUKマガジン
シンギュラリティの現実的な予測
シンギュラリティ(技術的特異点)は2045年に到来するといわれています。実際には意見が分かれています。肯定派と否定派の意見を紹介します。
肯定派
ソフトバンクグループ創業者の孫正義氏は、自社イベントSoftBank World 2023の中で「全人類の叡智(えいち)総和の10倍の知能を持つAGIの実現を10年以内に達成する」と明言しています。
参考:『AIは「AGI」へと進化し、今後10年で全人類の叡智の10倍を超える。孫正義 特別講演レポート』ソフトバンク株式会社
否定派
一方で、シンギュラリティを否定する研究者に、スタンフォード大学教授で、アメリカにおいてAI研究の権威といわれるジェリー・カプラン氏がいます。
同氏は「人工知能は人間ではないので、人間と同じようには考えない」と指摘しました。そのうえで「ロボットには独立した目標および欲求がない」とし、シンギュラリティの到来そのものを否定しています。
シンギュラリティがもたらす社会的影響
シンギュラリティが実際に訪れた場合、想定される社会への影響を紹介します。
- 【雇用】AIによる労働変革
- 【所得】ベーシックインカムの導入
- 【健康と医療】AIと医療技術の融合
【雇用】労働の変革
シンギュラリティにともない、いくつかの職種が消滅する一方で、新たな職業が生まれ業務の効率化が進むと考えられます。
自動化により単調な作業から解放された人々は、創造的な仕事や人間らしいコミュニケーションが求められる分野での活躍が期待されています。しかし、個人のAIスキルの有無によって格差が生じるおそれもあります。
さらに、リモートワークの普及やフレキシブルな労働時間の導入など、働き方の多様化がより一層進むかもしれません。
AIによる労働の変革が人間社会に好影響をもたらすかどうかは、変化にどのように適応していくかにかかっています。技術革新への対応とともに、社会制度や教育システムの再構築も必要です。
【所得】ベーシックインカムの導入
AIの進歩により、多くの職業が自動化され、失業や収入格差が拡大する恐れがあります。この問題に対する解決策の一つとして、ベーシックインカム(国が全市民に無条件で一定額を支給)が注目されています。
しかし、導入には課題も多く、特に財源確保が大きな問題です。増税や公共サービスの削減が避けられないかもしれません。また、働く人の意欲低下も懸念されています。
一方で、経済的不安から解放されることで、自己実現や社会貢献に時間を費やせるようになり、イノベーションや生活の質向上にもつながる可能性があります。
ベーシックインカムの実現には多くの障壁がありますが、AIによる社会変化に適応し、持続可能で公平な社会を築くための選択肢の一つとして、今後も議論されていくでしょう。
【健康と医療】AI医療技術
一方で課題もあり、データのプライバシー保護、AIの判断根拠の透明性、AIの誤りなどです。医師の専門知識と経験は不可欠です。今後は課題に対処しつつ、AIのポテンシャルを最大限に活かした活用が求められます。
AIと医療技術の融合が進み、診断精度の向上や治療計画の最適化が可能になりつつあります。特に画像診断でAIが大きな役割を果たし、X線やMRIの解析をサポートすることで診断の質が向上しています。
また、個別化医療の実現に向け、患者データを分析して個別に最適な治療法を提案できるでしょう。
AIは医療の利便性向上にも貢献しています。オンライン診療予約や健康状態のモニタリングなどにより、患者自身が健康管理をしやすくなり、医師とのコミュニケーションも円滑になることが期待されています。
一方で、データのプライバシー保護やAIの判断根拠の透明性、AIの誤りなどの課題もあります。医師の専門知識と経験は不可欠であり、今後はこれらの課題に対処しつつ、AIのポテンシャルを最大限に活かした活用が求められます。
シンギュラリティの前に起こるプレ・シンギュラリティとは?
プレ・シンギュラリティとは、シンギュラリティに至る直前の段階を指し、技術進化の速度と社会への影響が顕著に増加する時期です。この段階においても、AIを含むさまざまな技術が急速に進化し、人間の生活や労働、そして社会全体に大きな変革をもたらすと考えられています。
プレ・シンギュラリティがもたらす影響を紹介します。
- 影響1.人間とAIの協働
- 影響2.社会構造や経済システムの変革
- 影響3.倫理的な課題への対処
影響1.人間とAIの協働
プレ・シンギュラリティの時期には、AIが単なる道具ではなく、人間のパートナーとして機能し始めます。AIは複雑なデータの解析や判断をサポートし、人間は創造的な発想や感情をもとにした判断を行うことで、新たな技術やサービスを生み出していくことになるでしょう。
影響2.社会構造や経済システムの変革
プレ・シンギュラリティではAIの進化にともない、従来の雇用形態や産業構造が大きく変容します。単純作業は自動化が進み、人間には創造性や問題解決能力が求められます。そのため、教育システムや社会保障制度の見直しが不可欠となり、新たな経済モデルの構築が必要になるでしょう。
影響3.倫理的な課題への対処
AIの意思決定プロセスの透明性や公平性、プライバシー保護、セキュリティ対策など、AIの進化にともなう倫理的な課題が顕在化するのがプレ・シンギュラリティの時期です。
AIの軍事利用などの問題も浮上し、人間の尊厳や価値観についても再考を迫られるでしょう。法制度の整備など、社会制度における対応が必須です。
AIと人間の違い|意識と自我の問題
ジェリー・カプラン氏は、AIが人間の知能を超えるシンギュラリティが起こることを否定しています。その理由として、AIが「自我」を持つことができないためです。
カプラン氏は、AIは大量のデータを処理し、プログラムされた指示に従って行動する高度なツールに過ぎないと主張します。一方で、人間の知能には自我や意識、感情といった要素が含まれており、これらは単なる情報処理や計算能力では実現できない複雑で独自の性質です。
もし、AIが自我を持つなら、独自の意思や価値観を持ち、人間と対等またはそれ以上の存在となる可能性があります。しかし、そうなれば人間とAIの関係、権利や義務、責任の所在など、多くの倫理的な問題が生じるでしょう。
カプラン氏は、こうした点を踏まえ、AIの進化が人間の知能を完全に超えることはないと考えています。そのため、AIはあくまで人間の補助ツールとしての役割にとどまり続けると主張しています。
まとめ
シンギュラリティとは、人工知能が人間の知能を超えることにより、技術的な進歩が予測不能かつ制御不可能になる未来の時点です。
実際にシンギュラリティが起こるかは断言できませんが、ChatGPTやBirdが実務に応用され始めている現代はプレシンギュラリティ期といえるかもしれません。
人事領域では、AIは採用プロセスの効率化、従業員エンゲージメントの向上、パフォーマンス評価の公平性確保などに役立ちます。
人事領域におけるAIの活用例として、目標管理(MBO)の書き方のアドバイスや改善案の提示、ジョブ型雇用を適用する際の契約書の作成が挙げられます。
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