アンダーマイニング効果とは?起こる理由と防ぐ方法、エンハンシング効果との違い
アンダーマイニング効果とは、報酬や評価などの外的要因が内発的な動機づけを阻害し、結果的に個人のパフォーマンスやモチベーションを低下させる現象を指します。組織全体の生産性も下げる可能性があるため、反対の概念であるエンハンシング効果と上手にバランスを取ることが重要です。
本記事ではアンダーマイニング効果について、発生する理由と影響、防ぐ方法などを解説します。また、モチベーションを上げるヒントも紹介しています。
アンダーマイニング効果とは何か
アンダーマイニング効果とは、みずから行っていたことが報酬を受けることによって目的が報酬にすり代わり、内的な動機が失われる心理現象です。企業のモチベーション管理において、理解しておきたい概念といえます。
アンダーマイニング効果の例
アンダーマイニング効果の具体的な例として、子どもが好きな絵を描いている場合を取り上げます。絵を描く行為は本来、子どもの内的な動機、つまり描くこと自体が楽しいからという理由から生じています。
しかし、親が絵を描く行動に対して報酬を与えると、行動の目的は絵を描くことから報酬を得ることに変わってしまう場合があります。結果として、子どもは報酬がなければ絵を描くことが楽しくなくなり、やる気が出なくなってしまうのです。
このようにアンダーマイニング効果は、報酬を与えることで行動の目的が報酬に変わり、報酬なしではやる気が出なくなるという現象です。
アンダーマイニング効果が起こる理由
アンダーマイニング効果が起こる理由として、
- 行動の目的が報酬をもらうことに変化する
- 他人から強いられていると感じる
が挙げられます。これは、自己決定感や有能感の低下と密接に関連しています。
自己決定感とは、自分の行動が自分自身の意志によって決定されていると感じることを指します。自己決定感が高いと、行動が自身の選択によるものであると感じ、行動に対する満足感や達成感を感じやすくなります。しかし報酬が与えられると、行動が報酬を得るための手段となり、自己決定感が低下します。
また、有能感とは、自分が行動を上手こなす能力があると感じることです。有能感が高いと、自分の行動が成功につながると信じ、行動に対する自信を持てます。しかし、報酬が与えられると、行動が報酬を得るための手段となり、有能感が低下します。
自己決定感や有能感の低下は、アンダーマイニング効果が起こる原因として考えられています。したがって、報酬を与える際は、これらの感情を損なわないように注意することが重要です。
アンダーマイニング効果が組織に与える影響
アンダーマイニング効果とは、報酬や評価などの外的要因が内発的な動機づけを阻害し、結果的にパフォーマンスやモチベーションを低下させる現象です。個々の従業員だけでなく、組織全体にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
従業員のモチベーション低下
アンダーマイニング効果が起こると、従業員のやる気が低下する可能性があります。報酬や評価が与えられると、仕事は「報酬や評価を得るための手段」という側面が強くなり、仕事自体に対する興味や満足感が薄れてしまうのです。また、報酬が与えられないときは、達成感や自己実現感を得られません。このような従業員のモチベーション低下は、社員の離職率を上昇させる原因にもなります。
組織全体の生産性の低下
アンダーマイニング効果は、企業の生産性にも影響を与えるため、注意が必要です。従業員のモチベーションの低下は、パフォーマンス低下につながり、組織全体の生産性の低下につながります。
従業員が仕事に対する興味や満足感を失うと、職場の雰囲気が悪化し、ほかの従業員のやる気も下げてしまうでしょう。これらの影響で、組織全体の生産性が低下すると、売り上げにも悪影響を及ぼしかねません。
このようにアンダーマイニング効果は、ビジネスに深刻な影響を及ぼすリスクがあります。そのため、組織は、報酬や評価の制度を適切に設計し、アンダーマイニング効果を防ぐ必要があるでしょう。
アンダーマイニング効果を防ぐエンハンシング効果とは何か
エンハンシング効果とは、外発的動機づけによって内発的動機づけを高める現象です。
外発的動機づけとは、報酬や罰など、個人の外部から与えられる刺激です。一方で、内発的動機づけとは、個人自身の内部から湧き上がる、興味や好奇心、達成感などの感情によって引き起こされる意欲です。
他者からの褒め言葉などが内発的動機づけを刺激し、モチベーションの向上につながるのがエンハンシング効果です。
エンハンシング効果の例
エンハンシング効果の具体例として、上司が部下を褒める状況を考えてみましょう。
従業員が自分の仕事に情熱を持ち、プロジェクトに積極的に取り組んでいるとします。本人は、仕事そのものへの興味や達成感からその行為を行っています。そこに上司が、積極的な態度に対して賞賛の言葉を従業員に直接伝えると、本人は自分の努力が認められていると感じ、さらにモチベーションが高まります。
このように、適切な評価や報酬が内発的動機づけを強化し、従業員のパフォーマンス向上につながるのがエンハンシング効果です。
エンハンシング効果を活用する方法
エンハンシング効果を活用するためには、上司と部下の信頼関係が重要です。上司が部下の努力や成果を認め、適切な評価を与えることで、部下の内発的動機づけが高まり、結果としてパフォーマンスが向上します。そのため、上司は部下の能力や努力を見つけ出し、適切に評価することが求められます。
また、エンハンシング効果を活用するためには、個々が自己実現や達成感を追求できる環境を整備することも重要です。
- 自由な発想や創造性を尊重する風土の醸成
- 個々の能力や興味を活かす仕事の割り振り
- 適切な報酬や評価システムの設定
エンハンシング効果は、個々のモチベーションを最大限に引き出し、組織全体のパフォーマンスを向上させるための手段といえます。マネジメントやリーダーシップを発揮するうえでも重要な概念です。
アンダーマイニング効果を防ぐ方法
アンダーマイニング効果の悪影響を防ぐには、エンハンシング効果を利用して内発的動機を高め、自己決定感を高めることが有用とされています。防止法についてさらに詳しく解説します。
内発的動機づけの重要性
アンダーマイニング効果を防ぐためには、まずは内発的動機づけの重要性を理解しましょう。
内発的動機づけとは、自己満足や興味、好奇心など、個人の内部から湧き上がる動機づけです。内発的動機づけは、自己決定感を高め、自発的な行動を促す力となります。
エンハンシング効果を活用すると、内発的動機づけを高められます。エンハンシング効果とは、外部からの報酬や評価が内発的動機づけを高める効果です。具体的には、適切な報酬や評価を与えることで、個人の自己満足感や達成感を高め、内発的動機づけを引き出せます。
また、具体的に褒めることも内発的動機づけを高める重要な手段です。具体的な褒め言葉は、個人の行動や努力を認識し、評価することで、自己効力感を高め、内発的動機づけを引き出します。
自己決定感を高める方法
自己決定感を高めることも、アンダーマイニング効果を防ぐには重要です。自己決定感とは、自分の行動や選択が自分自身によって決定されていると感じることです。自発的な行動を促し、内発的動機づけを高める重要な要素といえます。
自己決定感を高めるためには、報酬の与え方や評価の仕方を工夫することがポイントです。具体的には、報酬を与える際には、その行動や選択が個人の自己決定によるものであることを強調します。また、評価する際には、結果ではなく過程や努力を評価することで、自己決定感を高めることにつながります。
さらに、従業員を褒める際は人前で褒めることも有用です。他者からの評価や認識が自己評価に影響を与え、自己決定感を高めるためです。ただし、人前で褒める際は、個人のプライバシーや感情を尊重することが重要です。
以上のように、内発的動機づけの重要性を理解し、自己決定感を高める方法を活用することで、アンダーマイニング効果の防止につながります。これにより、個人の自発的な行動や内発的動機づけを高め、よりよいパフォーマンスを引き出せるでしょう。
アンダーマイニング効果とエンハンシング効果のバランス
アンダーマイニング効果とエンハンシング効果のバランスは、組織の生産性と従業員の満足度を向上させるための重要な要素です。2つの効果を理解し、適切にバランスを取ることで、組織全体のパフォーマンスの向上が期待できます。
内発的動機づけと外発的動機づけの違い
内発的動機づけと外発的動機づけは、モチベーションの源泉となる要素であり、その違いを理解することは重要です。
内発的動機づけは、個人が自己満足や達成感から行動を起こす動機づけであり、自己成長やスキルの向上など、個人の内部からわき上がる動機が主体です。一方で、外発的動機づけは、報酬や罰など、外部からの刺激によって行動を起こす動機づけです。給与や昇進、評価など、外部からの報酬が主体です。
内発的動機づけを高める方法としては、自己決定感を高めることが挙げられます。個人が自分の行動や選択に対して自己決定感を持つことで、内発的動機づけが高まるとされています。具体的には、自分の仕事に対する責任感を高める、自己成長の機会を提供する、自己達成感を感じられる環境をつくるなどの方法があります。
効果的なモチベーション管理のための戦略
モチベーション管理においては、アンダーマイニング効果とエンハンシング効果のバランスが重要です。
2つの効果のバランスをとるためには、報酬の与え方やコミュニケーションの取り方を工夫しましょう。報酬は、業務遂行の結果として与えられるべきであり、業務そのものが目的となるような環境をつくることが求められます。
また、社員とのコミュニケーションを活発にし、チームワークを促進することも重要です。これにより、社員一人ひとりが自己成長を感じ、達成感を得られる環境を整えられます。
内発的動機づけと外発的動機づけの違いを理解し、アンダーマイニング効果とエンハンシング効果のバランスを取ることで、適切なモチベーション管理が可能です。組織全体の生産性と従業員の満足度の向上が期待できます。
まとめ
アンダーマイニング効果とは、報酬や評価などの外的要因が内発的な動機づけを阻害し、結果的にパフォーマンスやモチベーションを低下させる現象です。結果として個々の社員だけでなく、組織全体にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
アンダーマイニング効果が起こる理由としては、行動の目的が報酬をもらうことになることや他人から強いられていると感じることが挙げられます。これらは自己決定感や有能感の低下と密接に関連しています。
アンダーマイニング効果を防ぐためには、エンハンシング効果を活用して内発的動機を高めることや自己決定感を高めることが有用といわれています。
アンダーマイニング効果とエンハンシング効果のバランスを取りつつ、報酬設計やコミュニケーションを工夫し、適切なモチベーション管理によって、組織全体のパフォーマンスを維持していきましょう。