給与計算ミスの対処法【発覚後の基本手順】よくある7つの間違いと防止策|多いとどうなる?
従業員に支払う給与の計算は、細心の注意を払って行う必要があります。しかし、さまざまな理由でミスが発生することもあるでしょう。
本記事では、給与計算ミスの対処手順を解説し、よくある間違いと多い場合のリスク、対策を紹介します。
給与計算ミスへの対処法|発覚後の基本の手順
給与計算ミスは、気がついた時点ですぐに対処することが大切です。
対処の基本的な手順を紹介します。
- 対象者への説明とお詫び
- 給与明細の訂正
- 間に合えば当月中に精算
- 間に合わなければ翌月に精算(延損害金込み)
1.対象者への説明とお詫び
給与計算にミスが発覚した場合は、すみやかに対象の従業員にその旨を伝え、謝罪します。ミスを対処してから伝えると、不信感を持たれる可能性があるため、気づいた段階ですぐに謝ることが大切です。
その際は「○日の残業分が計上されていなかった」というように、誤りがあった具体的な部分を明確に示し「次回の給料日に差額を調整する」など、対応方法も含めて説明します。
さらに、同様のミスを防ぐために取り組んでいる改善策や、今後チェック体制を厳しくすることなどを誠実に伝えるとよいでしょう。
2.給与明細の訂正
給与計算のミスを従業員に知らせたあとは、間違った給与明細を正しく修正して差し替えます。特に、基本給や各種手当、前払いした経費などは、所得税や雇用保険の金額にも影響を及ぼすことがあるため、慎重に扱いましょう。
また、社会保険料の計算に間違いがあると、年末調整の所得税金額にも影響が出ます。計算の誤りに気づかずに税金を支払ってしまうと、あとで修正の手続きをしなければなりません。給与計算ミスは早急な訂正が大切です。
3.間に合えば当月中に精算
給与計算にミスがあった場合、間に合うようなら当月中の精算をおすすめします。
労働基準法第24条では「賃金は通貨で、直接労働者に全額を支払わなければならない」、さらに「賃金は毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない」と定められています。
そのため、当月中に調整して正しい金額を支払うことが必要です。当月のうちに差額の全額を支払わないと、基本原則に反してしまいます。
給与の過払いの際は、源泉所得税や雇用保険料などの控除額も多くなっている可能性があります。給与と控除額を正確に再計算したあと、従業員に過払い分を現金で返してもらうか、次の月の給料から引いて調整しましょう。
参照:『労働基準法第24条(賃金の支払)について』厚生労働省
4.間に合わなければ翌月に精算(延損害金込み)
給与計算のミスを当月内に訂正するのが難しい場合、従業員の合意のもとで処理します。
給与を多く払い過ぎた場合は、翌月の給与から「調整金」という名目で過払い分を差し引きます。同様に、給与が少なかった場合も「調整金」として不足分を翌月の給与に上乗せします。
このとき、本来支払うべきだった日の翌日から、利息に相当する遅延損害金を支払う必要が発生する点に注意しましょう。
給与は民法で債権の一つとみなされています。そのため、期日までに支払われない金額に対しては、企業の債務不履行で遅延損害金が発生します。
給与計算のよくあるミス7選
給与計算で発生しやすい7つのミスを紹介します。
- 時間外労働の割増計算
- 社会保険・雇用保険の控除額計算
- 月額変更届の出し忘れ
- 育休・産休の開始前後の保険料控除
- 月途中入社・退社時の通勤費の日割り計算
- 雇用形態が変化した従業員の手当や給料計算
- 扶養人数の変更による所得税の計算
1.時間外労働の割増計算
時間外労働は毎月変動するため、給与計算のミスが起こりやすい傾向にあります。
労働基準法では、原則として1日の勤務は8時間まで、週の総勤務時間は40時間までと定められています。法定労働時間を超えて従業員が働いた場合は、基本給に割増率を適用して時間外労働手当を支払わなければなりません。
法律で定める割増率は時間外労働だけでなく、休日労働や深夜労働にも適用されます。ルールを整理できていないと給与計算のミスにつながるため、正しく理解しておきましょう。
2.社会保険・雇用保険の控除額計算
社会保険や雇用保険は保険料率が定期的に変わることもあり、給与計算のミスが発生しやすい項目といえます。
社会保険料は、当月分を「月単位」で「翌月の給与から差し引いて」徴収する決まりです。月途中に入社・退社した従業員の保険料の徴収月については間違いが起こりやすいため特に注意を払いましょう。
保険料の支払い義務が生じるのは、月途中入社の場合は入社月から(実際に給与から控除するのは入社翌月)、月途中の退職の場合は退職日の前月までです。
そのほかにも、以下のような場面で社会保険料の計算は間違いやすいため注意しましょう。
- パート・アルバイト従業員が雇用保険の加入条件を満たさなくなった
- 新入社員の保険料控除を忘れた
- 保険料率改定のタイミングで支給された決算賞与に適用する保険料率を間違えた
3.月額変更届の出し忘れ
給与計算のミスは、月額変更届の提出を忘れることによっても発生します。
昇給や雇用形態の変更により、従業員が受け取る所得に変動があると、標準月額報酬も変動します。標準月額報酬とは、社会保険料の計算基準となる、一定期間に支払われる給与や手当などの平均月額です。
標準月額報酬は、原則として毎年4月から6月の給料に基づいて計算され、その年の9月から翌年の8月まで適用されます。
昇給または降給により固定的賃金が変動し、以下に該当する従業員は、健康保険・厚生年金保険被保険者報酬の「月額変更届」を提出しなければなりません。
- 以前の月額報酬と比べて2等級以上の差が出た場合
- 過去3か月において給与支払い対象日数がそれぞれ17日以上ある場合
月額変更届の手続きを忘れると、保険料額の変更もれが生じて、給与計算のミスにつながります。給与計算の担当者は、社内の異動や昇格に関する情報にも気を配る必要があるといえるでしょう。
4.育休・産休の開始前後の保険料控除
育休・産休を取得する従業員の給与計算においては、ミスに十分な注意を払う必要があります。
育休・産休中は、申請すると社会保険料が免除されます。しかし、申請したにもかかわらず育児休業を開始した従業員の社会保険料を控除してしまったり、育児休業を終了した従業員の社会保険料を控除し忘れたりするケースがあります。
育児休業の開始前後の保険料控除は忘れやすいため、対応もれがないように、各従業員の状況の変化を把握し、適切に対応することが大切です。
5.月途中入社・退社時の通勤費の日割り計算
通勤費などの日割り計算を間違えると、給与計算のミスにつながります。
月の途中入社や退職、または住所変更の際に、通勤費を月割り・日割りで計算する企業は多くあるでしょう。社会保険料の取り扱いと同様に、ミスが発生しやすい業務といえます。
6.雇用形態が変化した従業員の手当や給料計算
雇用形態の変更により、給与計算の方法が変わるとミスが起こりやすくなります。
最近は、働き方改革の影響で、多様な勤務形態を導入する企業が増えています。正社員や契約社員、パート・アルバイトだけでなく、テレワークやフレックスタイム制なども普及してきました。
多様な働き方に対応しながら、従業員の基本情報を適切に管理し、給与計算のミスを防ぐことが重要です。雇用形態の変更があったら、給与や労働時間の改定、手当の増減に注意を払い、確実に反映させましょう。
7.扶養人数の変更による所得税の計算
給与計算のミスは扶養人数が増減すると発生しやすくなります。新たに子どもが増えて扶養人数が増えたり、扶養していた家族が就職して扶養人数が減ったりすると、所得税の額に影響します。
気づかぬまま年末調整を終えて源泉徴収票を発行してしまうと、修正に多くの時間をとられることになるでしょう。そのため、扶養人数の変更があった場合は迅速に対応し、正確な情報を反映することが重要です。
給与計算ミスが発生しやすいタイミング
給与計算のミスが発生しやすいタイミングは、主に以下の4つです。
- 入退社・異動
- 従業員の身上変更
- 年末調整
- 時間外労働や有給取得の増加
入退社・異動
特に給与計算のミスが起こりやすいのが、従業員の入退社・異動のときです。入退社時だけでなく、異動によって役職や仕事内容が変わることで各種手当が変更される場合があります。
また、通勤手当の変更や、場所によっては地域手当が新たに支給されることもあるでしょう。各従業員によって適用される手当や金額が異なるため、給料の計算ミスが生じやすくなります。
従業員の身上変更
従業員の身上が変わると、給与計算にも影響が出てミスを招きます。たとえば、引っ越しで通勤ルートが変わった場合は通勤交通費が変更されたり、家族が増えた場合は家族手当が増えたりします。
また、給与から控除される税金の額が変わることもあるでしょう。身上の変化は給料にさまざまな影響を与えるため、注意が必要です。
年末調整
給与計算において年に一度の年末調整も、扶養控除の反映漏れや控除額の計算、源泉徴収税額の再計算などでミスが発生しやすいです。
昇給や異動の時期によっては、年末調整のタイミングに間に合わず、給与や手当の変更を正確に反映できないこともあるかもしれません。
あらかじめ年間スケジュールを立てておくなど、ミスの防止につながるでしょう。
時間外労働や有給取得の増加
時間外労働や有給取得が増えたタイミングも、通常とは異なる計算が必要になり、給与計算ミスを引き起しやすくなります。
時間外労働時間や有給休暇の取得状況の把握は、勤怠管理の一環です。紙やエクセルで勤怠管理を実施している企業は、入力に手間をとられ、よりミスが起きやすい傾向にあるといえるでしょう。
給与計算ミスはなぜ起こる? 原因
なぜ給与計算のミスが発生するのでしょうか。主な原因を5つ紹介します。
- 知識や経験が不足している
- 働き方や雇用形態が多様化している
- 人材データが散在している
- アラートやチェックの仕組みがない
- 手作業が多い
知識や経験が不足している
担当者の知識や経験の不足は、給与計算ミスの原因の一つです。
給与を計算する際は、年度ごとに変わる保険料や年齢による徴収項目の変化に注意が必要です。担当者は、常に最新の情報を確認できるようにしておかなければなりません。
また、従業員ごとに異なる控除条件を考慮しなくてはならず、計算が複雑になることで給与計算ミスにつながります。法律だけでなく、労働条件の規則や給与計算のルールについてもしっかり理解しておく必要があるでしょう。
働き方や雇用形態が多様化している
働き方や雇用形態の多様化も、給与計算のミスを引き起こす原因となり始めています。
フレックスやテレワークなど、さまざまな働き方の登場で勤怠管理が複雑化しており、労働時間の集計管理にも影響を及ぼしています。
勤怠は給与に大きくかかわるため、勤怠管理の徹底も忘れないようにしましょう。
人材データが散在している
ミスの少ない正確な給与計算のためには、勤怠データや従業員情報の正しい管理が欠かせません。
従業員の雇用形態が変わったり、給料が変更されたり、家族が増えたりした場合など、従業員に関する最新の情報を常に把握しておくことが大切です。
人材情報が社内に散在している企業は、まとめて一元管理できるシステムの導入や仕組みを検討するとよいでしょう。
アラートやチェックの仕組みがない
給与計算の実務フローにおいて、アラートやチェックの体制が整っていないこともミスの原因として考えられます。専用の給与計算システムなどを利用すると、エラーチェックを自動化でき、対応もれに気づきやすくなるでしょう。
手作業が多い
紙やエクセルがデータ処理の中心にあり、手作業で給与計算をしている企業では、ミスの発生確率が高いといえます。手作業により、入力や計算を誤りやすくなるためです。
特に大量の従業員データを扱う際は、誤字や桁数の間違い、計算式の設定ミスなどが起こりやすくなるでしょう。また、複雑な給与計算や控除計算が必要な場合、手計算では限界があります。
給与計算のミスを防ぐためには、慎重な確認作業が欠かせません。手作業に依存すると作業効率が低下する恐れもあるため、給与計算システムにより一部を自動化し、効率化を目指すのも一案です。
給与計算ミスが多いとどうなる? リスク
給与計算ミスに対して対策をせずに放置してしまうと、多岐にわたってリスクが発生する恐れがあります。
- 労働基準監督署から是正勧告を受ける
- 遅延損害金を支払わなければならない
- 訴訟や罰則の適用に発展する可能性もある
- 正しい納税ができない
労働基準監督署から是正勧告を受ける
給与計算ミスが多すぎたり悪質だったりする場合、従業員からの相談をきっかけに、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。意図的でなくとも、給与の未払いや過少支給、過剰な控除があると、企業の信用を大きく損なうでしょう。
労働基準監督署は、従業員の申告や定期的な監査に基づいて、給与計算の実態を調査し、必要に応じて是正を指導しています。
実際に令和4年には賃金の不払いが疑われる企業、20,531件の監督指導が行われました。指導は従業員の労働環境を改善するために実施され、企業としては法令を遵守し、適切に給与計算を行うことが求められます。
参照:『賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)』厚生労働省
遅延損害金を支払わなければならない
給与は必ず給与日に支給する必要があり、給与計算のミスにより、1日遅れるだけでも遅延損害金を支払わなければなりません。
遅延損害金とは、支払い期限を過ぎると発生する遅延利息です。未払いの賃金や残業代(元金)に対して年3%の利率で算出されます。たとえば未払い賃金20万円に対する遅延損害金は6,000円です。ただし、従業員が退職すると14.6%まで利率は上がります。
訴訟や罰則の適用に発展する可能性もある
従業員は労働の対価として給与を受け取るため、給与計算ミスにより手取り額に問題があると、会社に対しての不信感を持つことになります。一度失った信頼を取り戻すのには時間がかかるものです。
また、長期間にわたって残業代の計算を間違えていると、未払い残業代により訴えられるリスクもあります。訴訟や罰則が適用されると、裁判にかかる費用や時間が企業に大きな損害を与えることになるでしょう。
正しい納税ができない
給与計算のミスがあると、それにともない社会保険料や所得税の計算にも影響が出て誤りが生じることが多くあります。結果として税金を正しく納められなくなってしまいます。
税金を間違って納めると、延滞金が発生するリスクがあり、財務的な損失だけでなく、会社の社会的な信用も損なわれかねません。
給与計算ミスが多い場合の防止策・対策
給与計算ミスが多く発生している場合、どのように対処するとよいのでしょうか。ミスの防止につながる4つの対策を紹介します。
- 給与計算を仕組み化する
- ダブルチェック体制を構築する
- アウトソーシングする
- 給与計算システムを導入する
給与計算を仕組み化する
給与計算ミスへの対策として、給与計算の仕組み化に取り組むとよいでしょう。
保険料率の改定を把握するためのスケジュールを作成し、定期的に見直すことや、マニュアルやチェックリストを整備するなど、自社に適した仕組みを構築することが大切です。
ダブルチェック体制を構築する
手動での給与計算ミスやデータ入力の誤りなど、人為的な給与計算ミスを防ぐためには、ダブルチェック体制を整える必要があります。
1人が見落としても、もう一方の人がミスを見つけて修正できるため、ミスの発生を防止できます。給与明細などの重要な書類は、複数人で確認する体制を整えるとよいでしょう。
アウトソーシングする
給与計算の作業時間を短縮したい場合は、アウトソーシングを検討するとよいでしょう。外部に委託することで、人件費を抑えつつ、ミスのない正確な計算につながります。
また、担当者はほかの業務に専念できます。
給与計算システムを導入する
給与計算のミスを完全になくすことは難しいかもしれませんが、従業員からの信頼を低下させないためにも対策を打たなければなりません。
給与計算システムを活用するとミスの可能性を軽減できます。業務にかかる人手を減らし、作業効率の向上も期待できるでしょう。勤怠管理システムと連携できるツールなら、労働時間の集計もスムーズになり、正確な給与計算につながります。
導入を検討する企業は、セキュリティ対策や費用など要件を洗い出し、自社に最適なシステムを選びましょう。
給与計算ミスはシステムの導入でを(まとめ)
給与計算のミスは、知識・経験不足や働き方の多様化などが原因で起こりやすいです。ミスが続くと、遅延損害金の支払いや是正勧告・訴訟・罰則の適用などのリスクがあります。
給与計算のミスが発覚したら、すみやかに対象の従業員に謝罪し、適切に対応しましょう。
給与計算のミスを防ぐには、給与計算システムの活用も一案です。手入力や現在のシステムの操作性に課題がある場合、自社に適した給与計算システムにより担当者の負担軽減につながります。
給与計算のミスや確認作業に時間をとられている企業は、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
クラウド型給与計算システム(ソフト)|One人事[給与]
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- 【給与計算】毎月ミスがないか不安
- 【給与明細】紙の発行が面倒
- 【勤怠との照合】勤怠データと一括管理したい
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