従業員の社会保険料はいつから引かれる? 入社・退社・転職・パートなどの控除例や計算方法
企業の給与計算担当者は、正確な社会保険の手続きを行うために、従業員の社会保険料が控除されるタイミングなどについて正確に把握しておかなければなりません。
本記事では、従業員の社会保険料が控除されるタイミングや社会保険料の算出方法について具体例を交えて詳しくご紹介します。給与計算担当の方は、ぜひ本記事を参考にしていただき、社会保険の手続きにお役立てください。
社会保険の概要・仕組み
社会保険とは、病気やけが、失業のリスクに備えるための保険制度です。社会保険は、広義の意味で「健康保険」「厚生年金保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つの保険によって構成されています。
法人および従業員を常時5人以上雇用している個人事業主(一部例外あり)は、健康保険と厚生年金保険への加入が法律により義務づけられています。
一般従業員の社会保険の加入条件
法人および従業員を常時5人以上雇用している個人事業主(一部例外あり)は、健康保険と厚生年金保険への加入が義務付けられていますが、そこで勤務するすべての従業員がこれらの保険の被保険者になるわけではありません。
健康保険・厚生年金保険の加入条件は以下の通りです。
条件 |
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・常時雇用されている従業員 ・週の所定労働時間、1か月の所定労働日数が常時雇用されている従業員の4分の3以上である者 |
短時間労働者の社会保険の加入条件
パートやアルバイト、派遣社員などの短時間労働者の場合、所定労働時間および所定労働日数が正規従業員の4分の3未満であっても以下の条件を満たす場合は、社会保険の加入が認められています。
条件 |
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・被保険者数51人以上の企業で働いていること ・週の所定労働時間が20時間以上であること ・継続して2か月を超える雇用の見込みがあること ・所定月額賃金が8.8万円以上であること ・学生でないこと(例外あり) |
これまで「1年以上の継続雇用が見込まれること」が短時間労働者の社会保険加入に対する条件でしたが、2022年10月の法改正による社会保険適用拡大により、継続雇用の条件が2か月に短縮しました。
参考:『短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大のご案内』日本年金機構
新しく入社した従業員の社会保険料はいつから引かれる?
健康保険・厚生年金保険・介護保険料
健康保険・厚生年金保険・介護保険料は、翌月の給与の支払いの際に控除し、翌月末日までに納付を行うのが基本です。
たとえば、月末締め・翌月25日支払いの企業で、4月に入社した社員の場合は、5月25日に支払う給与から天引きします。毎月日本年金機構より「保険料納入告知書」が送付され、納付期日までに納める必要があります。
参考:『社会保険料の納入告知書(納付書)について』日本年金機構
労働保険(雇用保険料・労災保険料)
雇用保険料については、従業員に賃金を支払うたびに、賃金額に応じた被保険者負担額を給与から控除します。たとえば、3月に入社して翌月25日に給与を支払う場合、その日から雇用保険料を控除します。労災保険料については、事業主が全額を負担するため、従業員からの天引きはありません。
また、雇用保険・労災保険を含めた労働保険料は「年度更新」という申告・納付方法を採用しており、原則として例年6月1日から7月10日までの間に管轄の労働局へ納める必要があります。
社会保険料は「翌月控除」が原則
健康保険料や厚生年金保険料は、翌月控除が原則です。たとえば、9月分の健康保険料は10月支払いの給与から天引きされます。
しかし、月末に退職した場合や、同月内に資格取得日と資格喪失日が発生する同月得喪の場合は、例外として当月控除ができます。
【ケース別控除例】社会保険料が引かれるタイミング
健康保険料および厚生年金保険料が控除されるタイミングについて、4月1日入社の従業員を例にご紹介します。
月末締め翌月25日払いの場合(翌月控除)
月末締め・翌月25日支払いの場合、4月分の社会保険料は5月25日に支給される給与から天引きされます。
20日締め翌月15日払いの場合(翌月控除)
20日締め・翌月15日支払いの場合、4月分の社会保険料は5月15日に支給される給与から天引きされます。
15日締め当月末日払いの場合(翌月控除)
15日締め・当月末日支払いの場合、4月1日から4月15日の給与は4月30日に支払われますが、翌月控除であれば、4月分の社会保険料は翌月の5月31日に天引きされます。
従業員が月の途中で入社した場合の社会保険料の控除について
健康保険料と厚生年金保険料は、月単位での徴収であるため日割り計算はしません。そのため、月の途中で入社した従業員も1か月分の保険料の支払いが必要です。
たとえば、4月15日に入社した場合でも、4月分の社会保険料を支払う必要があります。
従業員が退職した場合の社会保険料の控除について
従業員が退職した場合「社会保険の被保険者資格」が喪失します。従業員が退職した場合の社会保険料の天引きについては、月末に退職する場合とそれ以外の場合で取り扱いが異なります。
それぞれのケースにおける社会保険料の控除について解説します。
月末以外の日に退職
社会保険の喪失日は退職日の翌日です。そのため、4月20日付で退職した場合、資格喪失日は4月21日であるため、前月の3月分まで控除されます。
月末退職
月末に退職した場合でも、社会保険の喪失日は退職日の翌日です。たとえば、5月31日に退職した場合、資格喪失日は6月1日です。そのため、前月の5月分まで社会保険の控除が必要になります。
社会保険料控除の計算方法
社会保険料の控除額の計算方法について、具体例をもとに解説します。
健康保険料・介護保険料
健康保険料は、以下の計算式にて求められます。
健康保険料=標準報酬月額×健康保険料率 |
たとえば、東京都内で働く会社員(27歳・月収22万円・介護保険なし)の場合、令和5年の健康保険・厚生年金保険の保険料額表によると、標準報酬月額は等級18で22万円とされています。介護保険第2号被保険に該当しない場合、保険料率は9.81%であるため、社会保険料は21,582円です。
計算方法 |
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22万円×9.81%=21,582円 |
また、介護保険料は健康保険料とあわせて徴収されるため、介護保険第2号被保険者に該当する場合は健康保険料率に介護保険料率(1.82%)を加算して計算します。
参考:『令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表』全国健康保険協会
厚生年金保険料
厚生年金保険料は、以下の計算式にて求められます。
厚生年金保険料=標準報酬月額×厚生年金保険料率(18.300%) |
たとえば、東京都内で働く会社員(27歳・月収22万円・介護保険なし)の場合、厚生年金保険料は、40,260円です。
計算方法 |
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22万円×18.3%=40,260円 |
参考:『令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和5年度版)』日本年金機構
雇用保険料
雇用保険料は、以下の計算式にで求められます。
雇用保険料=給与額(または賞与額)×雇用保険料率 |
雇用保険料率は、業種によって異なります。
たとえば、一般事業で月収25万円の人の場合の雇用保険料は以下の通りです。
労働者の負担額 | 250,000×0.6%=1,500(円) |
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事業主の負担額 | 250,000×0.95%=2,375(円) |
合計負担額 | 1,500+2,375=3,875(円) |
労災保険料
労災保険料は、以下の計算式にて求められます。
労災保険料=全従業員の年度内の賃金総額×労災保険率 |
労災保険料率も、雇用保険料率と同様に事業によって異なります。
たとえば、卸売業で保険料率は3/1,000、従業員30人、平均年収450万円の場合、
賃金総額 | 30×4,500,000=135,000,000(円) |
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労災保険料 | 135,000,000×0.003=405,000(円) |
以上より、労災保険料は405,000円(全額事業主負担)と計算できます。
社会保険料の手続きにおける注意点
社会保険料を期限までに納付せずに滞納していた場合、さまざまなリスクがあるため注意が必要です。たとえば、督促状が送付されたり、延滞金が発生したりします。さらに滞納が続くと、税務署などの関連機関から税務調査の対象になるかもしれません。
また、社会保険料の納付は企業としての信用問題にもかかわります。滞納が繰り返されると、取引先や金融機関からの信頼性に影響を及ぼす可能性もあります。
社会保険に未加入の場合にも罰則が存在するため、企業の信用を守るためにも、社会保険料の手続きおよび納付は正しく行うようにしましょう。
まとめ
社会保険料は、加入時期によって控除のタイミングが異なるうえ、正しく納付しなければ遅延金などのペナルティも存在するため注意が必要です。また、業種や事業規模、年度によって保険料率が異なるため、社会保険料が正しく納付できているか、あらためて見直してみるとよいでしょう。
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