賞与(ボーナス)のときに発生する社会保険料とは? 計算方法を解説
賞与とは、通常の給与とは別に支給される一時金です。通常支給される給与からは社会保険料を差し引きますが、賞与にも社会保険料は発生するのでしょうか。
本記事では、賞与における社会保険料の取り扱いについて紹介します。具体的な計算方法も解説するので、ぜひお役立てください。
そもそも賞与とは
賞与とは、俗にいうボーナスのことです。毎月支給する給与と別に、臨時的に支給する賃金を指します。
また、一般的には金額が固定されておらず、会社の業績や個人の成績などによって増減するのが特徴です。ボーナスの支給要件や金額、時期などは、原則会社が自由に決定できます。
多くの企業が取り入れているボーナスですが、実は賞与の支給に法的な義務はありません。ただし、就業規則などに賞与の支払いについて明記している場合は、その内容にのっとって支給する義務があります。
賞与には社会保険料がかかる
賞与は通常の給与とは区別して支給されますが、従業員に支払われる賃金の一種であることは変わりありません。通常の給与と同様、賞与から社会保険料や税金を差し引く必要があります。
社会保険料と所得税が差し引かれる
従業員が実際に受け取る賞与額は、社会保険料と所得税を控除したものです。賞与に対する社会保険料は、雇用保険を除き「標準賞与額」をもとに計算します。
一方、所得税は、賞与に対する源泉徴収税額の算出率をもとに計算します。
2003年から賞与も社会保険料の控除対象になった
現在のように標準賞与額から社会保険料の控除額を決定する仕組みが始まったのは、2003年4月です。1995年4月から2003年3月までは「特別保険料」という名目で、賞与から0.5%が天引きされていました。
しかし、この制度では基本給を減らし、そのぶん賞与を上げることで、企業側の社会保険料の負担を減らすという不正が発生してしまいました。
そのような給与と賞与の調整による不正を防ぎ、企業間における社会保険料の負担格差を是正するために始まったのが現在の仕組みです。
賞与から差し引く社会保険料の計算方法を解説
社会保険には、いくつかの種類があります。それぞれの制度における社会保険料の計算方法を解説します。
健康保険料における社会保険料の計算方法
賞与に対する健康保険料は「標準賞与額×健康保険料率」で計算します。標準賞与額とは、年間累計額の上限を573万円として、賞与支給額を千円単位に変換したものです。計算に用いられる健康保険料率は通常の給与と同じで、都道府県別に定められています。
介護保険料における社会保険料の計算方法
賞与に対する介護保険料は「標準賞与額×介護保険料率」で計算します。2023年時点での介護保険料率は1.82%で全国一律です。
なお、介護保険料は40歳以上64歳以下の従業員が対象であり、健康保険料とあわせて徴収されます。
厚生年金保険料における社会保険料の計算方法
賞与に対する厚生年金保険料は「標準賞与額×厚生年金保険料率」で計算します。厚生年金保険料率は定期的に見直されており、2023年時点では全国一律で18.3%です。
なお、賞与額は1か月あたり150万円を上限とします。
雇用保険料における社会保険料の計算方法
賞与に対する雇用保険料は「賞与支給額×雇用保険料率」で計算します。健康保険料や介護保険料、厚生年金保険料は従業員と事業主が、保険料を半分ずつ負担するのに対し、雇用保険料は事業主がより多く負担する仕組みです。
従業員と事業主それぞれが、負担する雇用保険料は企業の事業内容によって異なり、「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」の3つに区分されています。
2024年4月1日から2025年3月31日まで適用される保険料率は、以下の通りです。
(1)労働者負担 | (2)事業主負担 | 雇用保険料率 (1)+(2) | |
---|---|---|---|
一般の事業 | 6/1,000 | 9.5/1,000 | 15.5/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業 | 7/1,000 | 10.5/1,000 | 17.5/1,000 |
建設の事業 | 7/1,000 | 11.5/1,000 | 18.5/1,000 |
雇用保険料率は定期的に見直されているため、常に最新の情報を確認する必要があります。
雇用保険料を計算する際、1円未満の端数が生じた場合は50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げとします。ただし、端数処理に関して、慣習的な取扱いなどの特約がある場合には、そちらに従っても構いません。
所得税の計算方法もチェック
次に、賞与に課せられる所得税(源泉徴収税額)の計算方法を解説します。
源泉徴収税額の算出率
賞与に対する所得税は「賞与の金額×賞与に対する源泉徴収税額の算出率」で計算します。このとき、賞与の金額は、賞与の額面支給額から社会保険料などを控除したあとの金額を使用します。源泉徴収税額の算出率は、国税庁のホームページから確認できます。
前月の給与額(社会保険料を差し引いたあとの金額)と扶養親族の人数によって、それぞれの従業員に該当する算出率を用います。なお、前月の給与の10倍を超える賞与を支払う場合や、前月に給与を支払っていない場合は別の方法で計算します。
賞与を支給するには手続きが必要
従業員に賞与を支給するためには、以下の手続きが必要です。
- 賞与明細書を作成する
- 被保険者賞与支払届を提出する
賞与明細書を作成する
賞与を支給する際は、従業員に賞与明細書を発行する必要があります。賞与の支給額や控除する項目を記載した賞与明細書を作成し、賞与の支給タイミングまでに従業員に交付しましょう。
被保険者賞与支払届を提出する
事業主が従業員に賞与を支給したことを届け出るために「被保険者賞与支払届」を日本年金機構の事務センターまたは管轄の年金事務所へ提出します。提出期限は、支給日から5日以内です。従業員の標準賞与額を決定するための大切な手続きなので、忘れずに提出しましょう。
なお、賞与支払い月に賞与を支給しなかった場合は「賞与不支給報告書」を提出します。
賞与から社会保険料を控除しないケースとは
賞与からは社会保険料を差し引く必要がありますが、以下のいずれかの条件に当てはまる場合は社会保険料を控除せずに支給します。
- 従業員が退職する場合
- 従業員が産前産後、育児休業中である場合
従業員が退職する場合
社会保険料は、月末に在籍している従業員の給与・賞与から徴収します。そのため、従業員が10日や25日のように月の途中で退職した場合は、その月の給与に対して社会保険料はかかりません(雇用保険料は除く)。
賞与についても同様に社会保険料はかからず、支給額からの控除は不要です。ただし、退職したのが月末の場合は、翌日(翌月1日)に社会保険の被保険者資格を喪失するため、在籍していた月までの社会保険料は控除する必要があります。
従業員が産前産後、育児休業中である場合
従業員が産前産後や育児のために休業している間は、社会保険料の負担が従業員・事業主ともに免除されます。また、2022年(令和4年)10月以降は、連続した1か月を超える育児休業でないと社会保険料の支払いが必要です。
賞与には3つの種類がある
賞与には、基本給連動型賞与と業績賞与、決算賞与の3種類があります。
基本給連動型賞与
会社の業績にかかわらず、基本給をベースに「基本給の○か月分」「基本給の何%」というルールで支給される賞与です。企業の求人情報や就業規則などに「賞与:基本給○か月分」と記載されている場合は、基本給連動型賞与を採用していると判断できるでしょう。
従業員に定期的に賞与を支給できるのはメリットですが、個人の成果をスムーズに反映できず、従業員のモチベーションにつながりにくいというデメリットがあります。給与査定前に支給された賞与については、どれだけ仕事で成果を上げても、その努力が反映されないためです。
業績賞与
会社や従業員の業績に応じて支給する賞与です。成果主義の賞与体系なので、従業員の業績に対する意識やモチベーションを高める効果を期待できるでしょう。
また、近年は業績賞与の注目度が高まり、導入する企業が増加しているといわれています。実際に、日本経済団体連合会の調査によると、業績賞与を取り入れている企業の割合は2016年以降5割以上をキープしています。
参考:『2021 年「夏季・冬季 賞与・一時金調査結果」の概要』日本経済団体連合会
決算賞与
決算賞与とは、決算月の前後に支給される賞与です。会社の業績がよい場合に、一般的な夏冬のボーナスとは別に支給されます。会社の業績が悪いと賞与が出ないため、業績悪化により決算賞与を支払えなくなった場合、従業員が不信感を抱く懸念があります。
賞与計算の社会保険料控除を正確に
通常支給される給与と同様、賞与からは社会保険料を控除します。所得税も差し引く必要があるため、それぞれの計算方法を把握しておく必要があります。
また、従業員が退職する場合や産前産後、育児休業中の場合など、社会保険料を控除しないケースもあります。従業員一人ひとりの状況に応じて、賞与に対する社会保険料を正確に計算しましょう。
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