遅刻早退控除とは? 欠勤扱いは違法? 計算方法や勤怠管理の処理ルールを解説

遅刻早退控除とは、勤務時間に遅刻や早退があった場合、働いていない時間分の給与を差し引く制度です。
従業員の遅刻や早退が増えているけれど、勤怠管理や給与計算上、どのように扱えばいいのか悩んでいませんか。
遅刻や早退の処理が不十分だと、労務トラブルや不公平感が生じるリスクがあるため慎重に対応しなければなりません。
本記事では従業員が遅刻や早退をした場合の勤怠管理・給与計算における控除の扱いを解説します。とくに「遅刻早退を欠勤扱いにすべきか」「控除の計算方法がわからない」といったポイントも扱うので、人事労務担当者は参考にしてください。

遅刻早退控除とは? 分単位の切り上げは違法?
従業員が遅刻や早退をした場合、働かなかった時間分の賃金を給与から差し引くことができます。この扱いを「遅刻控除」「早退控除」または「遅刻早退控除」と呼び、違法な勤怠処理ではありません。また、欠勤控除とともに「勤怠控除」と呼ぶこともあります。
遅刻や早退に対する控除は、労働時間に応じて正確に計算する必要があります。勤怠の丸めが違法とされるように、15分単位や30分単位の切り上げは認められていません。
たとえば、9時始業の会社で5分遅刻した従業員がいても、15分の遅刻とみなして勤怠や給与を処理することはできないのです。
遅刻早退控除は「働いていない時間については賃金を支払わなくてもよい」というノーワーク・ノーペイの原則に基づいています。
遅刻早退控除の根拠はノーワーク・ノーペイの原則
ノーワーク・ノーペイの原則とは、従業員が労働していなかった分については、企業が賃金を支払う義務がないという考え方です。
民法第624条(報酬の支払時期)が法的根拠となっています。
ノーワーク・ノーペイの原則 | 働いたら賃金を支払う、働かなかったら賃金を支払わない ※休職中などは例外 |
民法第624条 | 労働者は、使用者と約束した労働を終えたあとでなければ、報酬を請求することができない |
賃金は労働の対価であるため、従業員が遅刻や早退・欠勤など何かしらの理由で労働しなかったのであれば、本来支払う予定だった給与からの勤怠控除が認められます。
たとえば、9時~18時の勤務時間に対し、従業員Aさんが30分遅刻して9時30分から勤務を開始した場合、30分は「労働が提供されなかった時間」として控除の対象です。
参照:『民法』e-Gov法令検索
参考:『賃金に関する基本問題』厚生労働省
遅刻早退控除と減給の違い
遅刻や早退の回数が極端に多い従業員には、減給のような懲戒処分にすることも可能です。遅刻早退控除と減給には、目的や性質に違いがあるため、適切に区別して処理しましょう。
遅刻早退控除 | 減給 | |
---|---|---|
目的 | 労働していない時間分の賃金を給与から控除する | 会社の規則やルールを乱すような違反行為を罰する |
性質 | 制裁の意味合いはない | 制裁の意味を持つ |
根拠 | ノーワーク・ノーペイの原則 民法第624条 | 就業規則などに基づく企業の人事権(懲戒権) |
上限 | ない | ある(詳細下記) |
要件 | ない | 就業規則への明記 |

遅刻早退控除は、従業員が働いていない時間分の賃金を給与から控除する扱いです。制裁やペナルティの性質はありません。賃金が労働の対価であることに基づく正当な処理方法です。
一方で減給は、懲戒処分の一つであり、規律違反に対して制裁目的で賃金をカットする処分です。何度も注意したにもかかわらず、遅刻や早退を繰り返すのであれば、ペナルティとして減給処分を下せる可能性があります。
ただし、常習性がなく、1回の遅刻や早退を理由に罰金を科すのは法律違反となるおそれがあるため、慎重な対応が必要です。
また、減給を実施する場合は、就業規則に規定を設けておくことが必要です。規定がないと、減給処分は無効とされる可能性があります。
遅刻早退控除の実施前に準備すること
遅刻や早退に対する控除を適切に行うためには、事前の準備が必要です。遅刻早退控除を実施する際に欠かせない3つの必須事項を解説します。
遅刻・早退の定義を就業規則に明記する
遅刻や早退の基準は、労働基準法で明確に定められていないため、企業ごとにルールを具体的に定義する必要があります。時間の数え方だけでなく、連絡手段も明記しましょう。就業規則に以下のような項目を盛り込むことで、労務トラブルを回避できます。
遅刻・早退の定義 | 「始業時刻を○分以上過ぎた場合は遅刻とみなす」「勤務時間終了前に○分以上早退する場合は早退とみなす」 |
遅刻や早退時の連絡ルール | 「遅刻・早退する際は○分前までに上司へ電話連絡する」「連絡手段はメールやチャットでの報告も可能」 |
遅刻・早退による控除の計算方法を決める
労働基準法には、遅刻早退控除の計算方法ついても具体的な規定がありません。遅刻と早退の定義と同じように、企業が独自に計算ルールを決め、就業規則に明記する必要があります。
通常は、1時間あたりの基礎賃金に遅刻や早退をした時間数を掛け算して控除します。また、欠勤は、月給を所定労働日数で割って算出した1日あたりの賃金を、欠勤日数分控除するのが一般的です。
遅刻・早退の場合 | 1時間あたりの基礎賃金 × 遅刻・早退した時間数 |
欠勤の場合 | 月給 ÷ 所定労働日数 × 欠勤日数 |
遅刻早退控除の計算は「1分単位」が基本です。15分単位や30分単位で処理すると、労働基準法第24条(賃金の全額払いの原則)に違反する可能性があるため注意しましょう。
従業員に説明して同意を得る
遅刻早退控除の定義や計算方法が決まったら、従業員にていねいに説明しましょう。単に変更内容を通知するだけでなく、どのような届け出や連絡が必要なのか、制裁の内容まで具体的なルールを示すことが重要です。説明後は同意を得てから運用することで、企業は適切な勤怠管理を実現し、従業員とのトラブルを防止できます。
遅刻早退控除の勤怠管理・給与計算上の処理ルール
遅刻早退控除を適切に運用するためには、法律や就業規則に基づいた対応が必要です。ここでは、勤怠管理と給与計算をするうえで、特に注意したい7つのポイントを解説します。
- 控除は遅刻・早退した時間分だけ実施する
- 遅刻・早退を残業時間で相殺できない
- 遅刻・早退を欠勤や代休扱いにできない
- 遅刻・早退を有休消化に充てられない
- すべての給与形態に控除が適用されるわけではない
- 原則として基本給から控除する
- 短時間勤務の扱いに配慮する
控除は遅刻・早退した時間分だけ実施する
遅刻早退控除は、遅刻や早退があった時間分のみ差し引くのが原則です。
遅刻早退の基準や控除額の計算方法に法的な決まりはありませんが、労働基準法第24条「賃金支払いの5原則」のなかに「全額払いの原則」が定められています。労働した時間分の賃金は必ず支払わなければなりません。
就業規則に遅刻早退控除のルールを明記し、労働時間を1分単位で正確に把握できる仕組みを整えておきましょう。
遅刻や早退を残業時間で相殺できない
遅刻や早退による給与控除を簡単にするため、「残業時間と相殺できないか」と考える人事労務担当者もいるかもしれません。しかし、遅刻や早退と残業時間を相殺することは原則として認められません。
残業(時間外労働)は、所定の労働時間を超えた場合に発生し、企業には割増賃金を上乗せして支払う義務があります。遅刻や早退と残業を相殺して賃金計算を行うことは法律に反します。
ただし、所定労働時間が8時間未満で所定内の残業なら、割増賃金を支払う必要はないため、相殺しているように見える場合があります。たとえば、所定7時間で1時間遅刻、1時間残業したときは、1時間を控除して1時間の法定内残業分の賃金を支払う処理をします。しかし厳密には相殺しているわけではありません。
就業規則に定めておけば、相殺が認められるケースもあるため、必要に応じて規則を確認してみましょう。相殺対応が許されたとしても、基本的に同じ日の遅刻と残業のみと考えられます。当日の遅刻を翌日の残業でカバーすることはできないと覚えておきましょう。
遅刻早退控除は「働いていない時間分の処理」であり、残業は「時間外の労働に対する賃金支払い」です。混同してしまうと労働基準法違反のリスクがあるため注意が必要です。
遅刻・早退を欠勤や代休扱いにできない
ノーワーク・ノーペイの原則や労働基準法の規定を踏まえると、遅刻や早退が複数回あったとしても、欠勤や代休扱いにできません。
たとえば、従業員が遅刻を繰り返したからといって、「3回遅刻したら1日分の欠勤として扱う」というペナルティを与えるのは違法な処理です。
10分の遅刻を3回繰り返した場合は、あくまで30分が控除の対象です。1日分の欠勤として扱ったり、減給したりするのは違法性が高くなります。
遅刻・早退を有休消化に充てられない
有給休暇はすべての労働者の権利です。遅刻や早退などを理由に有給休暇を減らす対応 は、労働者の権利を奪う不当な扱いといえます。
有給休暇は遅刻や早退の回数に関係なく、雇用されてから半年が経過し、出勤率が8割以上の従業員に付与されます。
遅刻・早退の頻度が極端に多い従業員に制裁を加えるなら、人事評価の項目基準に「遅刻や早退の回数」も取り入れるのも一案です。
人事評価の項目・基準の設定方法に悩んでいる場合は以下の記事もご確認ください。
すべての給与形態に控除が適用されるわけではない
遅刻早退控除が適用されない給与形態もあるため、企業の給与体系を理解しておく必要があります。
たとえば、月給制や日給制を採用する企業では、遅刻早退控除を適用できます。しかし、以下の給与形態は、給与の決め方が特殊なため、適用されないことがあります。
遅刻早退控除が適用されにくい給与形態 |
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・完全月給制 ・年俸制 ・歩合制の「歩合給」の部分 ・フレックスタイム制のコアタイムがある場合 |
完全月給制や年俸制のように、一定の給与額があらかじめ定められている場合は、遅刻や早退による給与控除が適用されません。
また、歩合制の内訳で「歩合給」の部分は、労働時間ではなく成果や売り上げに応じて算出されるため、遅刻早退控除の対象外です。
フレックスタイム制では、総労働時間を満たしていれば、コアタイムに遅刻や早退をしたとしても控除されません。コアタイムを設けていないフレックスタイム制であればとくに、そもそも遅刻や早退という概念自体がないのです。
自社の給与形態に応じて、遅刻早退控除の適用ルールを就業規則に明記し、従業員に説明しましょう。
時短勤務の扱いに配慮する
短時間勤務(以下、時短勤務)者の遅刻早退控除は、特別に配慮している企業も少なくありません。具体的には、時短勤務者の基本給を変更せずに、短縮した時間分を遅刻・早退として扱います。
基本給から控除しない場合は、以下のポイントに気をつけます。
- 基本給は変わらないため、社会保険の月額変更届は提出しない
- 遅刻や早退によってマイナス評価とならないように配慮する
短時間勤務(以下、時短勤務)とは、育児・介護休業法に基づいて、1日の所定労働時間を原則として6時間とする働き方です。育児や介護など、事情のある従業員が働きやすい環境を整備することを目的としています。
育児・介護休業法に基づく時短勤務に対する不適切な控除は、労務トラブルの原因になるため注意しましょう。
時短勤務について詳しく知るには以下の記事もご確認ください。
時短勤務のフレックスタイム制での遅刻・早退の扱い
フレックスタイム制を採用する企業で時短勤務をする場合は、コアタイムの有無で遅刻や早退の認識が異なります。
コアタイムがある | 遅刻・早退の対象 |
コアタイムがない | 労働時間の総量を満たせば対象外 |
コアタイムがある場合、コアタイムが始まる時間までに出勤できなければ、遅刻とみなされます。ただし、遅刻分をそのまま給与から控除できないため、減給の制裁や人事考課上の勤怠不良などとして扱う必要があります。
一方で、コアタイムが設定されていない場合は、何時に出勤・退勤しても遅刻や早退とはみなされません。
フレックスタイム制について詳しく知るには以下の記事もご確認ください。
原則として基本給から控除して手当は計算に含めない
遅刻早退控除をする際は、控除の対象を基本給のみに設定するのが原則です。これは、厚生労働省がモデルケースとして公表した『モデル就業規則』に掲載されていることが根拠となっています。
遅刻早退控除は、基本給から差し引いて計算するのが一般的です。役職手当や住宅手当、家族手当などは控除対象となりません。厚生労働省が公表する『モデル就業規則』に、手当を除外して記載されているためです。
諸手当を含めて遅刻早退控除を計算するルールを設けたいのであれば、就業規則へ記載して従業員に周知する必要があります。
例(基本給20万円、諸手当1万円、控除額が1万円の場合) |
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月の支払額=20万円-1万円=19万円 ※諸手当は除外する |
遅刻早退控除の計算方法【具体例あり】
遅刻早退控除額の計算式は、以下のとおりです。
遅刻早退控除額=月の給与額÷ひと月あたりの平均所定労働時間× 遅刻早退した時間 |
「月の給与額」に含める金額は基本給のみとし、諸手当を含む場合は、事前に就業規則に明記しておきましょう。
遅刻と早退の時間を正確に把握することが、適切な控除計算の前提にあります。日頃から勤怠管理システムを活用して、労働時間を正確に記録しましょう。
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遅刻早退控除の計算例
ある月に遅刻と早退を繰り返した従業員の、遅刻早退控除額は次のように計算します。
- 月給32万円
- 平均所定労働時間160時間(ひと月あたり)
- 遅刻・早退の合計3時間(月)
遅刻早退控除額の例 |
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32万円÷160時間×3時間=6,000円 |
ただし、計算式はあくまでも一例であり、遅刻早退控除額の計算方法は企業ごとに異なります。トラブルを防ぐためにも、就業規則に具体的な計算式を記載し、従業員に周知しましょう。
遅刻早退控除の処理にシステムの活用も
遅刻早退控除は「働いていない分の賃金は支払う必要がない」というノーワーク・ノーペイの原則に基づいた制度です。遅刻早退控除を適切に行うためには、1分単位で遅刻や早退の時間を管理したうえで、給与計算に反映させなければなりません。
リモートワークの普及や多様な勤務形態により、従業員全員の勤怠を正確に管理することは難しくなっています。手作業で管理している場合、管理者の負担が増えたり、給与計算のミスが発生したりするリスクも考えられます。
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