トライアル雇用とは? 助成金や制度内容、条件をわかりやすく解説

トライアル雇用とは? 助成金や制度内容、条件をわかりやすく解説

トライアル雇用とは、求職者に対して試用期間を設け、適性を見極めたうえで採用することです。雇用のミスマッチを課題とする企業もあるなか、政府により助成金制度も設けられています。

本記事では、トライアル雇用の概要や目的を解説し、トライアル雇用助成金に関する情報も紹介します。人材不足を解消したいと考えている企業や、採用のミスマッチによる離職が多いと感じている企業の人事担当者は参考にしてください。

労務管理を効率化「One人事」の資料をダウンロード

目次アイコン 目次

    トライアル雇用とは

    トライアル雇用とは、求職者を採用する際に、原則3か月間の試用期間を設けて採用を決定することを指します。実際に一定期間、求職者に働いてもらうことで、採用前にはわかりにくい、企業と求職者の相性を見極められます。

    企業がトライアル雇用制度を利用すると、国から「トライアル雇用助成金」を受けられます。トライアル雇用で雇用した人数に応じて、助成金をもらえる仕組みになっているのです。

    試用期間との違い

    トライアル雇用と混同しやすい言葉に「試用期間」が挙げられます。両者の大きな違いは、企業側に採用義務があるかどうかという点です。

    試用期間とは、本採用前に試用期間を設けて雇用することです。試用期間は、本採用を前提として雇用契約が成立しているため、企業側の都合で採用を取り消すようなことはできません。

    一方のトライアル雇用は、企業側に期間満了後の継続雇用の義務はありません。求職者が自社で働く適性がないと企業が判断する場合は、無期雇用に移行しなくてもよいということです。

    トライアル雇用の目的

    トライアル雇用は、何らかの事情で就職が難しい人の救済措置として定められました。一定期間の使用期間の労働を通して問題がなければ、期間の定めのない常用雇用のきっかけになります。そのため、雇用創出にもつなげる目的があるのです。

    参照:『トライアル雇用』厚生労働省

    トライアル雇用のメリット

    トライアル雇用のメリットにはどのような点があるのでしょうか。企業側が得られるメリットを紹介します。

    • 採用のミスマッチを防げる
    • 採用コストを削減できる
    • 無期雇用の義務はない
    • スピード感のある採用活動が可能

    採用のミスマッチを防げる

    トライアル雇用では、求職者が自社で問題なく働けるかどうかの相性を見極められます。求職者のスキルレベルや組織の一員としてやっていけるかを、一定期間を通してじっくりと確認できます。

    企業の採用活動では、求職者のアピールによって自社に適性があると判断した場合でも、入社後に適性がないことが判明する場合も少なくありません。

    トライアル雇用では、実際の業務を通して求職者に適性がないと判断した場合、採用を見送ることができるため、採用のミスマッチを避けられる点が大きな魅力です。

    採用コストを削減できる

    トライアル雇用では、採用コストを削減できる点もメリットです。企業の採用活動では、さまざまなコストがかかります。

    トライアル雇用では、条件に応じて助成金を受け取れるため、助成金を採用にかかったコストに充てられるのです。そのため、通常の採用活動よりも、費用を抑えて求職者の採用を行えます。

    無期雇用の義務はない

    トライアル雇用では、一定期間の満了後に、企業の判断で契約を打ち切ることが可能です。期間を満了したからといって、無期雇用に移行する義務は課せられていません。

    トライアル雇用によって企業と求職者のミスマッチを見極められれば、早期離職の防止にもつながります。

    ただし、トライアル雇用期間中に、求職者の都合によって退職されてしまうケースもあるため、企業にとってメリットばかりあるわけではありません。

    スピード感のある採用活動が可能

    トライアル雇用は、厚生労働省やハローワークも介入する制度であり、企業は書類選考を行いません。これはハローワークが企業の採用条件や人物像に合う人材を紹介するためです。

    書類選考は、膨大な求職者の書類に目を通して選考を行うため、時間と労力がかかります。

    トライアル雇用では、この書類選考の負担がないため、企業側はハローワークがあらかじめ選定した求職者の面接だけで済むという点も利点といえます。

    トライアル雇用のデメリット

    トライアル雇用には、デメリットもあります。企業によってどのような点がデメリットになるのか紹介します。

    • 人材育成に時間がかかる
    • 育成コストがかかる
    • 即戦力にはならない可能性が高い
    • 助成金を受けるための申請や管理をする必要がある

    人材育成に時間がかかる

    トライアル雇用は、何らかの理由で就職が困難になった人を対象としています。

    たとえば、離職期間が長くブランクがある人や就業経験が乏しい人、障がいのある人などが挙げられます。こうした人を雇用する場合、教育や育成に時間がかかる場合があります。そのため、トライアル雇用で採用を行う場合は、教育体制なども用意しておきましょう。

    育成コストがかかる

    トライアル雇用では、採用コストを抑えられる一方で、育成コストがかかります。トライアル雇用の求職者は、就職が困難な人であるため、仕事に慣れていない人や未経験者である可能性も少なくありません。

    採用した場合は教育や育成が長期化する点を覚悟し、選任の教育担当者や環境を整備しなければなりません。このように、トライアル雇用を行う場合は、一般的な採用活動を通して雇用する人よりも、教育に時間を要すると認識しておく必要があります。

    即戦力にはならない可能性が高い

    トライアル雇用は就職が困難な人を対象としているため、そもそも仕事に慣れておらず、知識や経験がない場合も少なくありません。そのため、中途採用のように即戦力になるような人材の採用活動はできないという点を理解しておきましょう。

    トライアル雇用では、時間をかけてじっくりと育成する必要があるため、即戦力になる人材を探す場合は別途で経験者採用を行いましょう。

    助成金を受けるための申請や管理をする必要がある

    トライアル雇用では、政府から助成金を受ける場合、手続きを行わなければなりません。手続きのなかには、申請・計画書・終了報告書などの提出も含まれます。書類には提出期限も設けられているため、正しい理解と管理が必要です。

    そのため、助成金を受けられるからといって、多くの人を採用すると、やるべき手続きが増え、煩雑化してしまうため注意しなければなりません。

    トライアル雇用助成金とは

    トライアル雇用助成金とは、トライアル雇用を利用することで、対象者1人あたり最大4万円の助成金を企業が受け取れる制度です。一般的な採用活動にはコストがかかりますが、トライアル雇用を活用した採用を行えば、採用コストの負担を抑えられます。

    トライアル雇用助成金は「一般トライアルコース」と「障害者トライアルコース」と、求職者によって対象コースが分類されているため、正しく理解しましょう。

    一般トライアルコース

    一般トライアルコースは、離職期間が長い人や就職に際して家庭事情などにより特別な配慮が必要な人、転職や退職を繰り返している人などを対象としています。

    求職者が対象要件を満たしていて、さらに本人が無期雇用を前提としたトライアル雇用を希望している場合に「対象者」とされます。

    また、安定した職業に就いていないことや、ハローワークや民間の職業紹介事業者に求職の申込みをしていることも要件です。

    一般トライアルコースの雇用助成金額は月額最大4万円です。ただし、対象者が母子家庭の母や父子家庭の父の場合は月額5万円が助成されます。

    対象労働者の要件・紹介日の前日から過去2年以内で、2回以上の離職や転職を繰り返している人
    ・紹介日の前日時点で、離職期間が1年を超えている人(雇用形態にかかわらず一切の就労をしていない人)
    ・妊娠や出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した仕事をしていない期間が1年を超えている人
    ・生年月日が1968年(昭和43年)4月2日以降の者で、安定した職業に就いておらず、ハローワークなどで担当者制による個別支援を受けている
    ・就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する(生活保護受給者や母子家庭の母、父子家庭の父など)
    支給期間最長3か月間
    ※トライアル雇用期間に応じた期間
    助成金額1人雇用につき月額最大4万円
    ※母子家庭の母や父子家庭の父の場合は月額最大5万円
    企業の条件以下、すべての要件を満たす企業

    ・ハローワークなどの紹介で雇用すること
    ・原則3か月間のトライアル雇用を実施する
    ・1週間の所定労働時間が通常労働者と同程度で、30時間以上であること
    (※対象労働者が日雇い労働者やホームレスなどの場合は20時間以上)など

    トライアル雇用を行う企業の条件は、上記以外にもその他の助成金に関する共通要件等が設定されていますので、厚生労働省などの資料をご確認ください。

    参照:『トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)』厚生労働省
    参照:『各雇用関係助成金に共通の要件等』厚生労働省

    障害者トライアルコース

    障害者トライアルコースでは、トライアル雇用制度を理解し、当該制度による継続雇用を希望している人を対象としています。また『障害者雇用促進法』で規定された人のうち、要件を満たす必要もあります。

    対象労働者の要件□障害者トライアル雇用を理解し、同制度による継続雇用を希望している人
    □障害者雇用促進法に規定された障害者で、以下のいずれかに該当する人

    ・紹介日において就労の経験のない職業に就くことを希望する者
    ・紹介日前2年以内に、離職が2回以上または転職が2回以上ある者
    ・紹介日前において離職している期間が6か月を超えている者
    ・重度身体障害者や重度知的障害者、精神障害者
    支給期間最長6か月間
    ※トライアル雇用期間自体は最長12か月間(精神障害者の雇用の場合)
    助成金額1人雇用につき、以下の助成金額を適用

    精神障害者:対象者1人につき月額最大8万円(最長3か月)と月額最大4万円(最長3か月)
    上記以外:月額最大4万円(最長3か月)
    企業の条件障害者トライアル雇用を実施できる企業で、以下をすべて満たす企業

    ・障害者トライアル雇用に関する求人を提出していること
    ・助成金の支給に要件があることを理解していること
    ・障害者トライアル雇用期間の労働契約を締結すること など

    参照:『障害者トライアル雇用事業実施要領』厚生労働省
    参照:『各雇用関係助成金に共通の要件等』厚生労働省

    また、週の所定労働時間を10時間以上20時間未満とし、障害者の職場適応状況や体調などに応じて、同期間中にこれを20時間以上とすることを目指す「障害者短時間トライアルコース」も存在します。同コースにおける受給額は、支給対象者1人につき月額最大4万円(最長12か月間)です。

    トライアル雇用助成金が減額されるケース

    トライアル雇用助成金では、以下の状況に該当する場合、支給される助成金が減額されます。

    • 離職や無期雇用への移行などによって1か月未満となるトライアル雇用期間がある場合
    • 支給対象者都合の休暇や事業主都合の休業、解雇があった場合

    助成金額は、対象者が実際に労働した日数で計算されます。企業がトライアル雇用を行っても実際の就労日数が少なくなれば、受け取れる助成金額も少なくなるという点を理解しておきましょう。

    参照:『雇用関係助成金支給要領』厚生労働省

    トライアル雇用助成金の手続きと流れ

    トライアル雇用助成金を受け取るための手順や流れを紹介します。企業がトライアル雇用において助成金を受ける場合、書類提出が必要です。書類提出はいくつかの段階で設定されていて、提出期限もあるため、担当者は正しく理解しましょう。

    1. トライアル雇用の求人を出し、求職者の面接を行う
    2. 実施計画書を提出する
    3. 助成金が支給される

    1.トライアル雇用の求人を出し、求職者の面接を行う

    トライアル雇用助成金を受け取るためには、企業がハローワークなどにトライアル雇用求人を出さなければなりません。企業は、求人を出す際にトライアル雇用求人であるということを伝えましょう。

    トライアル雇用の求人を提出したのち、ハローワークなどからの紹介でトライアル雇用の応募があった場合は、面接を実施します。トライアル雇用では、ハローワークなどが書類選考の役割を担うため、企業は書類選考を行わないという点にご注意ください。

    2.実施計画書を提出する

    トライアル雇用における求職者を採用した場合、紹介を受けたハローワークなどに「トライアル雇用実施計画書」を提出します。計画書の内容は、企業側で一方的に作成するのではなく、対象者本人の合意も必要です。

    トライアル雇用期間の開始から2週間以内に提出しなければなりませんので、余裕を持って作成しましょう。また、実施計画書を提出する際には、労働条件の内容がわかる雇用契約書類などを添付する必要があります。

    3.助成金が支給される

    トライアル雇用が終了した日(期間中に常用雇用に切り替えた場合は移行日の前日)の翌日から2か月以内に「トライアル雇用助成金支給申請書」を提出します。申請書を提出しないと、トライアル雇用助成金は支給されないためご注意ください。

    企業が書類を提出したのち、書類をもとに審査が行われ、後日助成金が支給されます。

    参照:『5 トライアル雇用助成金』厚生労働省

    トライアル雇用助成金に関する注意点

    トライアル雇用助成金を受ける場合、いくつかの注意点があります。企業はあらかじめ注意点を理解し、トラブルにつながるリスクを抑えておきましょう。

    • 期間中に退職した場合は助成金額が変わる
    • 母子家庭や父子家庭、精神障害者の助成金額が変わる
    • トライアル雇用と若者雇用促進法の関連

    期間中に退職した場合は助成金額が変わる

    トライアル雇用期間中に、対象者が退職した場合は、支給される金額も変わります。具体的には、退職する日までに実際に労働を行った日数で支給額が計算されます。トライアル雇用の助成金は、採用さえすれば満額支給されるというわけではないため、ご注意ください。

    母子家庭や父子家庭、精神障害者の助成金額が変わる

    トライアル雇用の対象者が、母子家庭における母や父子家庭における父である場合、助成金額が変わります。

    通常の対象者は月額最大4万円であるのに対して、当該対象者は月額最大5万円であるため、認識しておきましょう。助成金の支給申請手続きなどに違いはありません。

    また、障害者トライアル雇用においては、精神障害者の場合は月額最大8万円と月額最大4万円がそれぞれ最長3か月間支給される点も理解しておきましょう。

    トライアル雇用と若者雇用促進法の関連

    トライアル雇用は、若い世代の求職者も少なくありません。若者雇用促進法では、企業が積極的に若者の採用や教育、優良な雇用管理を行っていると認められた場合「ユースエール企業」として認定されます。

    ユースエール企業に認定されると、ハローワークによるPR強化や限定の面接会参加など、さまざまなメリットが得られます。トライアル雇用において若者の雇用を強化できれば、企業の社会的信頼を高めることにもつながります。

    参照:『ユースエール認定制度』厚生労働省

    まとめ

    トライアル雇用とは、就職が困難な人を対象にした雇用促進の制度です。政府として、トライアル雇用を行った企業には助成金を支給しています。トライアル雇用は、採用コストを抑えて雇用できる点などにメリットがあります。

    トライアル雇用で採用した人材の育成や教育に時間はかかりますが、助成金も受け取れるため、人材確保の手段の一つとして、検討してみてはいかがでしょうか。