行動指針の意味や作り方をわかりやすく|企業のユニークな具体例も紹介

行動指針とは、企業の理念や目指す姿を、現場の行動レベルに落とし込むための道しるべです。
- 社員の価値観がバラバラで、組織がまとまらない
- 理念はあるのに、現場でどう行動すればいいかが伝わらない
そんな悩みを抱える企業が、あらためて見直しているのが「行動指針」です。明文化された行動指針があれば、従業員が同じ方向を向いて、組織として一体感を持って働けます。
本記事では、行動指針の意味や企業理念との違い、作り方、浸透させる方法、実際の企業のユニークな例文まで、経営層や人事担当者に役立つ内容をわかりやすく解説します。

目次

行動指針とは
行動指針とは企業のあるべき姿に到達するために、従業員がどのように考え、どう行動すべきかを言語化したものです。個人やチームレベルでの行動の基準を定めることで、従業員一人ひとりが企業の目指す姿に向かって、迷わずに判断して行動できるようになります。
たとえば「顧客第一主義」という理念があっても、それを実際の現場でどう実践すればよいかは、人によって解釈が異なるものです。
行動指針は、企業理念や経営理念を実現するために必要な行動や考え方を示す役割があります。
行動指針が重視される理由
行動指針が重視されるのは、従業員が同じ方向を向いて行動する必要性が高まっているためです。
現代のビジネスは変化が激しく、現場での素早い判断や行動が企業の成果を大きく左右すると考えられています。「どのように動くのが正解か」が各自に任されていると、組織として対応に一貫性がなくなり、結果として企業理念から遠ざかってしまうこともあります。
そこで重要なのが、全員が同じ価値観のもとで動ける仕組み(=行動指針)です。行動指針があれば、従業員が迷ったときにも指針をもとに判断できます。
さらに行動指針は、組織文化を育て、意思決定の一貫性を保ち、企業ブランドを強化する土台にもなるのです。
行動指針と混同しやすい言葉の意味
行動指針と似た言葉として、「企業理念」「行動規範(行動理念)」「クレド」などがあります。意味の違いを正しく理解しておくことで、誤った使い方や重複を避けるためにお役立てください。
言葉 | 意味や特徴 |
---|---|
企業理念 | ・企業のあるべき姿や価値観をあらわした考え方 |
行動理念(行動規範) | ・企業のあるべき姿を実現するために必要な行動の見本 ・行動指針と同じような意味合いで使われることもある |
クレド | ・信条の意味 ・企業経営において軸とする考え方 ・企業理念や行動指針と同義で使われることもある |

行動指針を立てる3つのメリット
行動指針を立てることで企業は何が変わるのでしょうか。制度設計や理念づくりにかかわる担当者は疑問に思うかもしれません。
行動指針は組織が足並みをそろえ、従業員の迷いをなくし、企業としての魅力を内外に伝える効果があります。
行動指針を単なる形だけの標語に終わらせないために、企業にとってとくに大きな3つのメリットを紹介します。
組織力の強化
行動指針があることで、従業員一人ひとりが「何を大切にして動くべきか」を共有できます。組織の価値観がそろえば、判断や対応にも一貫性が生まれ、チームの連携や意思決定がスムーズになるでしょう。結果として、組織全体の結束力や実行力が高まります。
従業員のモチベーション向上
行動指針を立てることで、従業員のモチベーションを高められるのもメリットの一つです。「自分に何が求められているか」「どんな行動が評価されるのか」が明確になると、従業員は迷いなく動けるようになります。
行動指針によって仕事の目的と方向性がはっきりすれば、やるべきことに自信を持ち、主体的に行動する人が増えていくでしょう。
企業のブランディング
行動指針は、企業のブランディングにも役立ちます。行動指針そのものは社内に向けて発信するものですが、外部へのメッセージとしても機能します。「社員がどう考えてどう行動しているか」が、企業の個性や信頼感につながるのです。
行動指針を含むブランディング戦略が成功すれば顧客や取引先、求職者にも一貫した価値観を感じてもらえるでしょう。結果として顧客ロイヤルティの向上や人材採用へのメリットにもつながります。

行動指針の作り方
行動指針を立てようと考えたとき、何から始めればよいかわからないという方もいるかもしれません。行動指針には、作り方のルールや固定のフォーマットがあるわけではありません。ここでは行動指針をつくるときの参考として、一般的な手順を紹介します。
- 企業理念やあるべき姿を深掘りする
- 望ましい価値観や行動目標を具体化する
- 企業理念や価値観に反することも言語化する
- 行動指針を誰にでも伝わる言葉で表現する
- 日報に行動指針を意識できる項目を盛り込む
多くの企業は、ある一定のステップを踏むことで、理念と行動のギャップを埋める指針をつくり上げています。
企業理念やあるべき姿を深掘りする
行動指針の作り方における最初のステップは、企業理念やミッション・ビジョンを起点に、
自社が大切にしている価値観を言葉にすることです。自社のサービスを通して社会に提供したい価値やどのような存在でありたいかを明確にします。
たとえば「顧客の期待を超える価値を提供する」という理念があるなら、実現にはどんな行動が必要かという視点で掘り下げていきます。
望ましい価値観や行動目標を具体化する
企業理念やあるべき姿を明らかにしたら、次はそれらを実現するために必要な価値観や行動の方向性を洗い出します。
理念は抽象的な内容になりがちですが、行動指針はあくまでも日々の行動の判断基準となるものです。だからこそ「どのような行動を期待するのか」「どんな考え方で判断してほしいのか」を具体的に落とし込む必要があります。
たとえば、以下のように抽象から具体へ変換するのがポイントです。
- 顧客視点を大切にしたい →「お客様の言葉に耳を傾ける」
- スピード感を重視したい →「迷ったらすぐに相談する」
企業理念や価値観に反することも言語化する
行動指針は理想を示すだけでなく、企業が大事にする価値観に反することも言語化する必要があります。積極的にやることと、避けたいことの境界線を明確にすると、判断に迷いにくくなるでしょう。
- 効率性だけを優先し、顧客満足を軽視しない
- 顧客の利益を無視した提案を押しつけない
- プライベートや家庭を犠牲にする働き方を推奨しない
自社の価値観に反する行動を明文化しておくことで、現場の行動に一貫性が生まれやすくなります。企業や業務に関することだけでなく、従業員に対する思いなども考えてみましょう。
行動指針を誰にでも伝わる言葉で表現する
行動指針の内容が定まってきたら、誰もが覚えやすく、理解しやすい言葉で表現するステップに進みます。
行動指針は、従業員全員が覚えていて、自然に口にできる程度の短い文章が理想です。難解な用語や抽象的すぎる表現は避け、一文で意味が通じるシンプルな表現を目指しましょう。解釈が分かれるような複雑な言葉を使わないこともポイントです。
端的にまとめた行動指針だけでは意図が伝わりにくいと不安に感じるのであれば、補足文をつけてもよいでしょう。
日報に行動指針を意識できる項目を盛り込む
行動指針をつくって終わりにしないために、日々の業務のなかで、自然と意識できるような仕組みづくりも大切です。
たとえば、日報や週報に「今日意識した行動指針は?」という欄を設けると、従業員が日々の行動と指針を結びつけやすくなります。
作成した行動指針を浸透させるため、従業員が実際の業務で頻繁に意識できる機会を増やすようにしましょう。
行動指針を浸透させる3つの方法
行動指針を立てたとしても、組織内で浸透しなければ意味がありません。現場で実際に使われ、行動に結びついているかが重要です。
では、どうすれば従業員にとって自分ごととして根づかせることができるのでしょうか。
行動指針を浸透させる方法や取り組みを紹介します。
行動指針に触れる機会をつくる
行動指針を浸透させるためには、日頃から従業員が行動指針に触れる機会を設けることが大切です。
たとえば、全社会議や朝礼で行動指針について話したり、オフィスに行動指針を掲示して視界の入る場所に置いたりする方法が挙げられます。企業側は、何度も目で見て耳で聞いて、みずから話す機会を積極的につくりましょう。
評価との連動や表彰制度
行動指針と評価を連動させることも浸透させるには必要です。評価項目に設けることで、自分への期待を理解し、自然に確認したり意識したりするようになるでしょう。
また、行動指針に沿った取り組みを称える表彰制度も有効です。小さな成功体験が共有されると、指針が“評価に値するものとして認識され、前向きな実践が広がるかもしれません。
行動指針に関連したコミュニケーションの機会をつくる
従業員が行動指針に関する意見交換をしたり、コミュニケーションの場を設けたりする方法もあります。
たとえば、チーム内で「どの行動指針を重点的に意識しているか」「自分の仕事にどう活かしているか」を話す時間を設けてみましょう。言われたからやるのではなく、自分の言葉で語れる状態をつくることがポイントです。
一人ひとりが考えて話すことで、行動指針は上から降りてきたものではなく、自分ごとに変わっていくでしょう。

ユニークな行動指針の具体的な例文
行動指針は、企業の価値観や文化が色濃くあらわれる言葉です。
以下では、実際に公表されている企業の行動指針のなかから、独自性が見られる3社の例を紹介します。
各社とも自社らしさを大切にしながら、従業員に浸透しやすい表現を工夫しています。どのように理念を行動に落とし込んでいるか、表現の工夫や価値観の特徴に注目して、自社の行動指針作成にお役立てください。
楽天グループ株式会社
楽天グループでは、「ブランドコンセプト」「成功のコンセプト」で構成された「楽天主義」を行動指針としています。
【ブランドコンセプト】
大義名分 ーEmpowermentー | ・楽天グループの社会的意義は、「エンパワーメント」 ・インターネットの特性を活かし、多くの人にチャンスを提供し、フェアな社会を構築する手助けをしていきたい |
---|---|
品性高潔ー気高く誇りを持つー | ・大義名分を実現するためにはどのように実行するかが重要 ・「気高さ」「誇り」「うそをつかない」「誠実」というスタンスが、楽天グループにおいて事業を行う上での大前提 |
用意周到ープロフェッショナルー | ・大義名分で社会貢献するためには事業を成功させる必要性がある ・成功の5つのコンセプトを定め、全員がプロフェッショナルとして用意周到な事業を実行することで成功できる |
信念不抜ーGET THINGS DONEー | ・大義名分を実現するために、状況に応じて行動を再構築することで、事業を推進する |
一致団結ーチームとして成功を掴むー | ・一致団結やチームワークを大切にし、多様性の効果を発揮する組織を目指す |
【成功のコンセプト】
常に改善、常に前進 | 人間を以下の2タイプに分類し、一人ひとりが目標を達成するための強い意志を持つことを重視している 【GET THINGS DONE】様々な手段をこらして何が何でも物事を達成する人間。 【BEST EFFORT BASIS】現状に満足し、ここまでやったからと自分自身に言い訳する人間。 |
---|---|
Professionalismの徹底 | 勝つために人の100倍考え、自己管理の下に成長していこうとする姿勢が必要としている |
仮説→実行→検証→仕組化 | 仕事を進める上では具体的なアクション・プランを立てることを重視している |
顧客満足の最大化 | サービス会社として、傲慢にならず、常に誇りを持って「顧客満足を高める」ことを大切にしている |
スピード!!スピード!!スピード!! | ・他社が1年かかることを1ヶ月でやり遂げるスピードを重視 ・勝負はこの2~3年で分かれる |
「楽天主義」は、楽天グループでの共通言語として、すべての従業員が理解と実行する価値観・行動指針です。
株式会社キヤノン
株式会社キヤノンの行動指針は、「三自の精神」です。創業から受け継がれている「三自の精神」は、「自発・自治・自覚」で構成されています。
「自発」 | 何事にも自ら進んで積極的に行う。 |
---|---|
「自治」 | 自分自身を管理する。 |
「自覚」 | 自分が置かれている立場・役割・状況をよく認識する。 |
企業の価値観を受け継ぐキヤノンは、現在もこの行動指針を大切にしているようです。
KDDI株式会社
KDDI株式会社は、基本原則として4つの軸で12項目の行動指針を展開しています。
行動指針の軸 | 項目 | 内容 |
---|---|---|
社員の幸せ、活力ある企業 | (1)人権、個性の尊重 | 従業員を大切にし、人権やプライバシーを尊重する |
(2)誠実な職務遂行 | 誠実な行動で、会社の利益を大切にする | |
(3)知的財産の尊重 | 会社の知的財産だけでなく、他者の知的財産の尊重も大切にする | |
お客さまの満足と信頼の確保 | (4)お客さまからの信頼に応えるサービスの提供 | 顧客への配慮と価値を提供する |
(5)適正な事業活動の推進 | 反競争的行為の禁止や公正な取引を行い、政治や行政との健全な関係を保持する | |
(6)通信の秘密およびお客さま情報の保護・情報の管理 | 顧客の通信に関する情報を厳格に取り扱い、会社の情報資産を厳重管理する | |
株主、取引先等の信頼 | (7)豊かなコミュニケーションの実践 | 社会とのコミュニケーションを誠実に行い、地域社会の役割を果たす |
(8)インサイダー取引の防止 | 自他に対して未公開情報による利益を図らない | |
(9)適切な経理処理・契約書遵守 | 正しい帳票類を作成し、会社の権利義務を明確にした契約の作成と締結を遵守する | |
社会の発展 | (10)環境保全 | 地球環境に配慮し、省エネルギーや環境保全に貢献する |
(11)反社会的勢力への毅然とした対応 | 反社会勢力からの不正利益に関する要求に応じない | |
(12)国際社会の発展への貢献 | 国際社会に対して経済と社会発展の貢献を常に意識する |
企業として、企業を取り巻く社員や顧客、株主や社会全体を大切に考え、価値観を示している点が同社の特徴です。
出典:『KDDI行動指針(基本原則) | 企業理念』KDDI株式会社

まとめ
行動指針とは、企業理念やあるべき姿を、日々の行動レベルにまで落とし込んだ考え方です。
行動指針を立てると、一人ひとりが同じ方向に向かって行動できるようになるため、一体感が生まれて組織力が強化されます。
また、個々に求められる行動が明確になるため、現場の迷いが減り、一人ひとりのモチベーションアップも期待できます。
「社員の足並みがそろっていない」「現場と経営層の価値観に大きな相違がある」といった課題を感じている場合は、行動指針を見直してみてはいかがでしょうか。
組織として何を大切にし、どう動くのかを明文化することで、企業の成長が加速するでしょう。
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