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リスキリングとリカレント教育の5つの違い【比較表】どちらに注力すべき?メリットや事例を紹介

現代の急速なテクノロジー進化や経済の変動により、労働市場は常に変化しています。変化に対応する手段として、従業員のスキルの底上げを行う「リスキリング」や「リカレント教育」が注目されています。しかし、両者はよく混同されてしまうため、「どちらに注力すればよいのだろう」と悩む企業もあるでしょう。

本記事では、リスキリングとリカレント教育の5つの違いを比較し、メリットや事例を紹介します。どちらを導入すればよいか検討するためのヒントにお役立てください。

リスキリングとリカレント教育の5つの違い【比較表】どちらに注力すべき?メリットや事例を紹介
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    リスキリングとリカレント教育の違いとは【比較表】

    リスキリングとリカレントは、いずれもスキルアップや能力向上を目指す取り組みですが、細かな点に違いがあります。

    リスキリングリカレント教育
    定義・意味新しい職業に就くため、または現在の職業で必要なスキルの変化に適応するため、従業員に新しいスキルや技術を身に付けさせる戦略的人材育成学校卒業後も生涯にわたり学び続け、必要に応じて仕事と学習を交互に繰り返しながら自身のスキルアップを目指す教育プロセス
    実施主体企業個人
    学習内容主にDXに関連したスキル自身のキャリアに役立つさまざまなジャンル
    目的技術革新や経済変化に適応し、職場での競争力を維持・向上させること自己の生涯学習を促進し、労働市場における適応性や雇用の安定性を高める
    仕事から離れる必要性なしあり(休職や離職)

    定義・意味の違い

    リスキリングは、組織が変化するビジネス環境に対応するため、従業員に新しいスキルや技術を積極的に習得させる戦略的な取り組みです。経済産業省ではリスキリングを以下の通り定義しています。

    新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること

    引用:『リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流―』経済産業省 資料

    一方で、リカレント教育は、従業員がみずからのスキルアップやキャリアアップを目指して、定期的に学び続けるプロセスです。学校教育修了後も、仕事と学びを交互に繰り返しながら生涯にわたり学び続け、自身の仕事に活かします。

    実施主体の違い

    リスキリングは、企業が主体となって実施する取り組みです。企業は従業員のニーズや業務の要求に基づいて、リスキリングプログラムを計画・実施し、必要なスキルを習得できるようサポートします。

    ただし、リスキリングは強制的に行うものではなく、あくまでも従業員の意欲や適性を考慮して実施する取り組みです。

    一方、リカレント教育は、従業員自身が主体となり、自己成長やキャリアアップを意識しながら学びを継続します。従業員は自分の興味や目標に基づいて、必要なスキルや知識を習得することで、キャリアの方向性を選択できます。

    学習内容の違い

    リスキリングでは、主にDX(デジタルトランスフォーメーション)に関連したスキルやテクノロジーに焦点を当てて学習します。スキルの種類は、プログラミング言語の習得やデータ分析、人工知能(AI)や機械学習、クラウドコンピューティングなどの新たな技術です。

    一方、リカレント教育は、従業員が自身のキャリアアップに役立つ幅広い分野を学びます。たとえば、リーダーシップスキルやコミュニケーション能力の向上、プロジェクト管理、マーケティング戦略など、個人の興味やキャリア目標に応じて選択します。

    目的の違い

    リスキリングの主な目的は、急速な技術革新や経済の変化に適応し、組織や従業員の競争力維持・向上です。新しいスキルや知識を獲得すると、今までにないアイデアを出せたり、変化する市場に対応できたりするなど、組織に好影響をもたらします。

    一方、リカレント教育の目的は、個々の従業員の自己成長と生涯学習を促進し、労働市場における適応性や雇用の安定性を高めることです。

    仕事から離れる必要性の違い

    リスキリングは、従業員が新しいスキルや知識を仕事の一環として学ぶため、仕事を離れる必要はありません。

    一方、リカレント教育は、従業員が自己啓発やスキルの向上に自主的に取り組むため、定期的に仕事から離れる必要があります。

    ただし、近年ではリカレント教育を支援する企業も増えてきました。従業員のスキルアップにより、さらなる活躍が期待できるため、人材の流出を防ぎながら各社取り組んでいます。

    リスキリングとリカレント教育に関連する言葉

    リスキリングやリカレント教育のように、ほかにも「学習」に関連する言葉があります。

    • アンラーニング
    • スキルアップ・アップスキリング
    • 学び直し
    • 生涯学習

    学びに関連するビジネス用語の意味を解説します。

    アンラーニング

    アンラーニングは、古い知識やスキルなどを捨て、学びを修正することを指します。

    リスキリングやリカレント教育を進めるには、時代の変化や新しい技術の導入にともない、過去のスキルや知識をアンラーニングする必要があります。ただし、従来の知識を完全に捨ててしまうのではなく、培ってきた知識やスキルなどを認識したうえで不要なものを捨て、新たな学びを取り入れることが大切です。

    スキルアップ・アップスキリング

    スキルアップやアップスキリングは、従業員が訓練や経験、学習を通してスキルを向上させることを指します。

    リスキリングでは、最新技術や業界の変化に適応するための学習をしながら、リカレント教育では仕事と学習を繰り返しながら、自身の市場価値を高め、キャリアの進展につなげます。

    学び直し

    学び直しは、個々の能力を最大限に引き出し、キャリアや再就職につなげる、政府発信の支援プログラムです。以前は、早期離職者が再び大学や専門学校に通い、新たな知識、スキルを身に付けたうえでキャリアチェンジをはかることが主流でした。

    最近では在職したままDXに役立つ学習を進め、自身の市場価値を向上させてから転職する人も増えてきました。リカレント教育においては、必要に応じて学び直しを行い、スキルや知識をリフレッシュさせることも大切です。

    生涯学習

    生涯学習は、一生涯にわたって持続的に学び続けることです。仕事に関連する知識、スキルを学ぶリスキリングやリカレント教育とは異なり、生涯学習の学習範囲は広範囲にわたります。

    (例)生涯学習の学習範囲
    学校教育
    家庭教育
    社会教育
    文化活動
    スポーツ活動
    ボランティア活動
    趣味

    生涯学び続ける概念は、リカレント教育に通じているといえるでしょう

    リスキリングとリカレント教育が注目されている背景

    リスキリングが知られ始めたのは、スイスのダボス会議がきっかけです。目まぐるしく進化するITや経済状況を背景に、2030年までに全世界の10億人をリスキリングすると宣言されました。日本でも、少子高齢化による労働力人口の減少も相まって、IT人材が不足する現状を受け、政府がリスキリングを推奨しています。

    一方、リカレント教育は1968年にスウェーデンで提唱され、翌年同国の文部大臣が紹介したことをきっかけに広まりました。日本では、2017年に安倍晋三元首相が「人生100年時代構想会議」において、リカレント教育の拡充を宣言し、国内でも認知度が高まりました。

    それぞれ世の中に広まったきっかけは違うものの、注目されている理由は共通しています。

    グローバル化・テクノロジーの進化

    グローバル化やテクノロジーの急速な進化により、従来では対しきれないスキルが求められるようになりました。企業が持続的な事業を展開するにも新たなアイデアや技術が必要です。グローバル化や新技術に対応する人材を自社で育成する必要があるため、リスキリングやリカレント教育が注目されるようになりました。

    終身雇用の崩壊・働き方の多様化

    終身雇用が衰退し、転職が当たり前となった昨今は、テレワークをはじめ多様な働き方が認められています。個人のキャリアパスも多様になり、その都度、求められる知識や技術も変化します。一人ひとりが必要なスキルを適時習得する姿勢が重要となったことも、リスキリングやリカレント教育が注目される背景の一つです。

    雇用の不確実性と需要の変化

    VUCA時代ともいわれる現代では、さまざまなことが予想できません。たとえば、テクノロジーの進化や経済の変化により一部の職種はなくなるといわれ、一方で新たな職種が生まれています。リスキリングやリカレント教育は、需要の変化に対応し、個人が雇用の安定性を確保する手段として注目されています。

    リスキリングやリカレント教育に取り組むメリット

    リスキリングやリカレント教育に取り組むと、主に次のようなメリットを得られます。

    リスキリングのメリット

    • 人材不足への対応・採用コストの削減が可能になる
    • 従業員のモチベーションやエンゲージメントが向上する
    • 人材育成につながる
    • 社内事情を踏まえて効率的に取り組める
    • 新しいアイデアを創出できる
    • 業務の効率化や生産性の向上が期待できる
    • 企業文化や風土を維持できる

    リスキリングのメリットは、人材不足の解消や、学びによる従業員のモチベーションアップなどが挙げられます。従業員が在籍したまま取り組むため、身につけたスキルをすぐに業務に活かせるとともに、企業文化や風土が損なわれる心配がありません。

    リカレント教育のメリット

    • 従業員の付加価値と生産性が向上する
    • 新たな人脈を構築できる
    • 離職防止につながる
    • 従業員の主体性が向上する
    • 人材確保や人材不足が改善できる

    企業がリカレント教育を支援することで、人材を確保したまま、新たな技術の習得を促せます。リカレント教育を通して従業員が異なる分野の人々と交流を深められると、新たなアイデアの創出にもつながるかもしれません。する。

    リスキリングとリカレント教育の課題・注意点

    一方、リスキリングとリカレント教育には課題や注意したい点もあります。

    リスキリングの課題

    • 企業による制度設計や環境整備が必要になる
    • 従業員の意識を高める必要がある
    • 全社的な理解が必要になる

    リスキリングを実施するには、社内に適切な制度や環境が整っていることが重要です。全社的に理解を求めて協力体制をつくりましょう。リスキリングに消極的な従業員には、モチベーションを維持するためのフォローも必要です。

    リカレント教育の課題

    • リカレント教育に関する周知が必要になる
    • 社内制度の見直しや変更も検討する
    • 運用にコストがかかることも念頭に置く

    リカレント教育は、学習と仕事を繰り返すプロセスです。本人が周囲から理解を得られるようにするためにも、全社的に周知し、時短勤務や週休3日制度などの制度を整える必要があります。その際の金銭的・時間的コストをどのように確保するかも検討しましょう。

    企業はリスキリングとリカレント教育どちらに注力するべき?

    リスキリングやリカレント教育には、それぞれの目的やメリットがあります。自社の課題や状況を踏まえたうえでいずれかを制度化し、従業員の学びをサポートしましょう。

    たとえば、AIやビッグデータなどの専門知識を持った人材が不足している企業では、リスキリングに注力することをおすすめします。DX人材を採用で確保するのは容易ではありません。リスキリングにより、従業員が最新のスキルを学ぶことで、新たな視点からアイデアを創出できる可能性があります。

    一方で、従業員エンゲージメントの向上を目指し、福利厚生の一環として教育制度を導入したい企業は、リカレント教育が適しています。比較的導入しやすい取り組みには、多様な講座を提供するeラーニングサービスや外部セミナーへの参加支援があります。また、資格取得手当の導入などにより、従業員のモチベーションと自主性を高められる可能性があるでしょう。

    リスキリングやリカレント教育には、それぞれの目的やメリットがあります。自社の課題や状況に適したものを制度化し、従業員の学びをサポートしましょう。

    リスキリングやリカレント教育の事例

    リスキリングやリカレント教育を実施している企業は、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか。2社の事例を紹介します。

    • リスキリングの事例:富士通
    • リカレント教育の事例:ソニー

    リスキリングの事例:富士通

    富士通では、DX人材の育成の取り組みとして、約13万人の従業員を対象に、「デザイン思考」「アジャイル」「データサイエンス」といった3つの分野でスキルと知識を習得できる講座を開発しました。

    同社のリスキリングは、従業員がみずから行動できる環境を整えることを重視しています。学習プログラムの整備と並行して、ジョブ型人事制度やグループ内の空きポジションへのポスティング制度、さらには1on1ミーティングによるコミュニケーションの強化などを推進しています。

    参考:『価値創造に向けた 人材・組織の変革』富士通株式会社

    リカレント教育の事例:ソニー

    ソニーは、2015年に『フレキシブルキャリア休職制度』を導入し、リカレント教育を支援しています。この休職制度は、従業員の配偶者が海外赴任や留学した場合でも、同社でのキャリアを継続できる仕組みです。

    具体的には、最長5年間の休職や最長2年間の私費就学のための休職を認めています。休職中には、語学力やコミュニケーション能力を向上を促し、ライフスタイルに応じた働き方を提供するとともに、復帰後のキャリア展開を豊かにすることを目的としています。

    参考:『多様性を推進する取り組み』ソニーグループ株式会社

    リスキリングやリカレント教育に共通する導入ポイント

    リスキリングやリカレント教育を導入する場合、どのような点を意識すればよいでしょうか。両者に共通する導入ポイントを紹介します。

    • 学びやすい環境を整備する
    • 学習を受けたあとの行動まで設計する
    • 人材の流出を防ぐ対策も考える

    学びやすい環境を整備する

    リスキリングやリカレント教育を円滑に行うために、企業は勤務時間の調整やテレワークなどの環境を整備します。また、制度を社内に周知し、理解を得ることも重要です。学習中の従業員は一時的に業務の生産性が低下する可能性も否定できません。周囲が事前に理解していれば、職場内の円滑なコミュニケーションを維持できるでしょう。

    学習を受けたあとの行動まで設計する

    リスキリングやリカレント教育を受けたあとの成果を最大化するために、具体的な行動計画を設計しましょう。学んだだけで満足することなく習得した知識やスキルを業務で活かせるようにするための、フォローアップやサポート体制が必要です。

    人材の流出を防ぐ対策も考える

    企業としては、リスキリングやリカレント教育を受けた従業員の流出を最小限に抑えたいところです。人材を定着させるために、学習後のキャリアパスの提示やキャリア開発のサポート、報酬の見直しも検討しましょう。

    従業員のリスキリング支援にOne人事[タレントマネジメント]

    リスキリングとリカレント教育は、いずれも従業員のスキルアップにつながる学習プロセスです。企業がリスキリングに注力すると、新たな技術に迅速に対応できるため、競争力を高められます。一方、リカレント教育に注力すると、従業員のスキルが継続的に更新され、労働市場の変化に適応しやすくなるといえます。企業は、自社の状況や課題に合った方法で、従業員の学びを支援し、実務に活かしてもらいましょう。

    従業員の学習状況の管理や習得スキルの活用には、タレントマネジメントシステムが役に立ちます。One人事[タレントマネジメント]は、人材情報を一元管理して、スキルを可視化し、適性に合った配置や現状のスキルレベルをもとにした計画的な育成を支援するツールです。

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