リバースメンタリングとは? 導入メリットと注意点や事例、実施状況をまとめ

リバースメンタリングとは、若手社員が上司やベテラン社員の「助言者」となる人材育成の制度です。立場の逆転により、組織に新しい視点を取り入れられる施策として注目されています。とくにZ世代・デジタルネイティブ世代の知見を活かし、世代間のギャップを埋めながら職場の活性化や双方の人材育成につなげられます。
一方で、リバースメンタリングは「実際に効果があるのか」「どのように導入すればよいか」と考える方もいるでしょう。
本記事では、リバースメンタリングの導入メリットや注意点、実際の事例や実施状況を解説します。自社での導入の参考にしてみてください。

目次

リバースメンタリング(逆メンター)制度とは?
リバースメンタリングとは、先輩社員と若手社員の役割が逆転し、若手社員がメンターとなって上司や先輩社員をサポートする育成手法です。
実施にあたっては、部署をまたいで上司と部下がペアを組むことが多く、若手社員が自分の得意分野について上司にアドバイスを行います。たとえば、パソコン操作に不慣れな上司に対し、若手社員が使い方をレクチャーするといった場面が典型例です。
リバースメンタリングは「逆メンター制度」とも呼ばれます。一般的なメンター制度では上司が若手社員を指導しますが、リバースメンタリングでは逆に若手社員が上司や先輩社員を導く点が大きな特徴です。

そもそもメンタリングとは
そもそもメンタリングとは、「指導者(=メンター)」と「指導を受ける人(=メンティー)」が、1対1の関係で気づきや助言を与える育成手法を指します。
メンターが一方的に教えるのではなく、メンターとメンティーが対話などを重ねつつ、メンティーに気づきを与える点が特徴です。職務だけでなく「社会人としての心得」も指導対象となり、メンタリングの領域は非常に多岐にわたります。
リバースメンタリングと従来のメンター制度との違い
リバースメンタリングでは、メンターが「若手社員」でメンティーが「上司や先輩社員」という関係性です。従来のメンター制度はその反対で、メンターが「上司や先輩社員」、メンティーが「若手社員」という立場になります。
また、リバースメンタリングの目的は、若手社員の知識を先輩社員に共有することや、若手社員の能力を企業の発展つなぐことが挙げられます。一方で従来のメンター制度の主な目的は、先輩が持つ知識を若手社員へ共有することといえます。
リバースメンタリングの始まり
リバースメンタリング概念は、アメリカのゼネラル・エレクトリック社の元CEOジャック・ウェルチ氏が導入したことが始まりといわれています。
彼はある日「若手社員をメンターにして、先輩たちは最先端の情報通信技術について学ぶこと」と、マネージャー層に通達します。その結果、先輩社員たちは、当時はまだ普及していなかったインターネットについて深く学ぶことができたそうです。
この成功事例がきっかけとなり、リバースメンタリングの導入を始める企業が、徐々に増えていきました。

リバースメンタリングの導入メリット
リバースメンタリングの導入メリットについて、具体的に4つご紹介します。
ベテラン社員の視野拡大
リバースメンタリングを導入すると、ベテラン社員は若手から新たな知識や価値観を習得できて視野が広がります。
若手社員は、最先端の物事に対する好奇心があり、ベテランよりも最新技術や流行を熟知している傾向にあります。そこでベテラン社員は、若手から昨今のビジネスで叫ばれるDXや流行を学べるでしょう。若手から受け継いだ知識と自身の経験値を活かして、新しい仕事のアイデアにつながることもあるかもしれません。
若手社員のモチベーションやエンゲージメントの向上
リバースメンタリング制度によって活躍の場が増えた若手社員は、上司や会社の役に立っている実感が高まりやすくなります。モチベーションやエンゲージメントが向上し、さらなる活躍が期待できるため、昇給や昇進など会社に貢献する行動が増える可能性が高まります。
若手社員の離職防止
リバースメンタリングの実施によって、互いに教えたり伝達したりする交流の機会が増えます。先輩と後輩のコミュニケーションが活発化して社員同士の信頼関係が深まると、離職防止への効果も期待できるでしょう。
上司のマネジメントスキル向上
リバースメンタリングは、通常であればメンターとなるはずのベテラン社員や上司がメンティーとなることで視野が広がり、マネジメントスキルの向上が期待できます。逆転した関係性が通常の関係性に戻ったとき、新たな視点でチームをマネジメントできる可能性が高まります。
リバースメンタリングを導入するといい組織
リバースメンタリングを導入すべき企業や組織には、どのような特徴があるでしょうか。主な特徴として5つの組織を取り上げます。
年齢や勤続年数を重視する組織
リバースメンタリングの実施でとくによい効果が期待できるのは、年齢や勤続年数によって役職が上がる年功序列型の組織です。
導入によって組織の硬直化を防ぎ、風通しのよい職場の風土をつくれるためです。若手社員や勤続年数が少ない社員の意見や価値観を取り入れると、活発な意見交換が行われるでしょう。
上下関係がはっきりしている組織
上下関係がはっきりしているヒエラルキー型組織が、リバースメンタリングを導入すると、世代を超えた社内コミュニケーションを促進するでしょう。年功序列型組織と同様に組織の活性化につながるはずです。
平均年齢が高い組織
従業員の平均年齢が高い組織は、世代が偏っているため意見や考えが偏りやすいと考えられています。
リバースメンタリングを導入して若い世代の意見や価値観を取り入れることで、全体の視野が拡大するため、変化に強い柔軟性のある組織へと成長する可能性が高いです。ビジネスレジリエンスを強化することにもつながるでしょう。
これから多様性を尊重したい組織
近年、企業経営においてダイバーシティ(多様性)の尊重が強く求められています。年齢や国籍、性別、人種などの違いを認め、異なる立場に対するの想像力を働かせることが重要視されているのです。
リバースメンタリングを導入すると、異なる役職や価値観への理解が進むとともに、従業員一人ひとりに尊重する姿勢が生まれます。一緒に働く仲間同士で信頼関係を構築しやすくなるでしょう。
離職率が高い組織
リバースメンタリングの導入によって、離職率が改善された事例もあります。
メンターとなる若手社員のモチベーションやエンゲージメントが高まるので、離職防止にも効果的と考えられています。
リバースメンタリング導入時の注意点
実際にリバースメンタリングを導入を進めるには、どのような点に気をつければいいでしょうか。注意点として3つのポイントをご紹介します。
目的の共有
リバースメンタリングを実施する際は、上司と部下で目的を確認し合いましょう。
メンターとメンティーの立場が逆転することで、最初は戸惑う従業員もいるはずです。メンターは何をサポートし、メンティーは何を得る目的で導入するのかを明確にすることで、メリットや効果が得られやすくなるでしょう。
メンターの負担に配慮
リバースメンタリングでは、メンターである若手社員に負担がかかりがちです。「上司に指導する」という行為や役割に緊張し、抵抗する気持ちを持つ従業員も少なくないでしょう。
心理的な負担にならないように、メンティーである上司と実施部門である人事担当者には配慮が求められます。たとえば「メンティーからメンターへの指導や助言は行わない」というルールをつくるのも一案です。
メンターの評価への反映
メンターとしての活躍を人事評価にも反映すると、本人のモチベーションにつながるでしょう。ただし何をもって評価ランクをつけるのか、あらかじめ基準を設けておかないと、あいまいな評価に結びつくため注意が必要です。
実施時期と期間
リバースメンタリングを実施する際は、実施時期と実施期間にも配慮しましょう。例えば、情報・通信業を営むソーシャルワイヤー株式会社は、2022年の5月から半年間、月1回の面談という形式でリバースメンタリングを実施しているそうです。
自社に適した仕組みや制度、ルールを設け、まずは1か月間などお試しで実施してみるのもいいかもしれません。

リバースメンタリングの導入ステップ
実施にリバースメンタリングを実践するうえで、どのように進めればいいのか導入ステップを順を追って解説します。
1.人選
まずはメンターとメンティーを選びます。メンティーが直属の上司だと、指導やアドバイスがしにくいため、別部署の上司をメンティーにするケースが多いようです。
また、メンターとメンティーとの相性なども考慮しましょう。日頃より、従業員の性格やキャリア志向、適性などを一元管理してデータベース化しておくと、ペア組みもスムーズです。
2.目的の共有
参加者が決まったら、互いに実施目的を共有します。たとえば「メンターに期待すること」や「サポート内容」として、「上司に日常的なパソコンの使用方法をマスターさせてほしい」「若い世代の多様な価値観について学びたい」などを要望を確認しておきます。
3.オリエンテーションの実施
目的が共有できたら、オリエンテーションを実施します。
目上の人に指導や助言をするという行為に、どうしても不安を感じてしまう若手社員もいるはずです。制度設計の担当者は、相談窓口の設置や定期的なオリエンテーションの実施、コミュニケーションのルール決めなどを事前に伝えて理解を得るようにしましょう。必要に応じて、メンターとしてのスキルを学べる機会を設けてもよいかもしれません。
4.関係部署から同意を得る
対象者が所属する部署の同僚に理解を得ることも大切です。人事部などが間に入って、関係部署から同意を得ることで、社内全体でリバースメンタリングに協力的になり、さらなる社内の活性化につながるでしょう。
5.フォローアップ
リバースメンタリングの運用を始めたら、定期的に振り返りをして、対象者の意見を聞くなどフォローしましょう。課題や変化をもとに、次回のルールづくりに活かし、必要に応じてサポートを実施します。
リバースメンタリングの導入事例
リバースメンタリングを実際に取り入れている企業の成功事例を2社ご紹介します。
資生堂
資生堂では「役員のITスキル、意識の向上」と「社内コミュニケーションの活性化」を狙い、2017年からリバースメンタリングを実施しています。
制度が始まったきっかけは、従来より実施していた社内提案制度で、IT部門の社員による社内IT教育の実施が提案されたことです。この提案に対して経営者が「自分にもやってほしい」と言ったため、リバースメンタリングが本格的に始動しました。
当初は試験的に、7人のメンティーが選ばれたそうです。導入の結果、役員のITスキルや知識力が向上し、先輩社員と若手社員のコミュニケーションが活性化した好事例といえます。
参照:株式会社資生堂
P&G
日本企業で初めてリバースメンタリングを導入したのが、P&Gの日本法人といわれています。P&Gにおける制度の特徴は、任命されたメンターが若手だけでなく外国籍の社員や子育て中の社員という点です。
導入の結果、子育をしながら働き続ける社員の悩みに対する社内の理解が深ま流とともに、家庭と仕事を両立するための職場環境や福利厚生を整備するきっかけとなったようです。
リバースメンタリングの日本における実施状況
リバースメンタリングは、日本でまだ馴染みがなく、浸透していないといえるでしょう。その背景には年功序列をはじめとした日本型雇用があると考えられています。
リバースメンタリングは若手の育成だけでなく、従業員エンゲージメントの向上、離職防止にも効果が期待できる制度です。先進的な企業は早くから導入し、実際に若手から多くの学びを得て組織全体の活性化につながった成功事例もあります。
リバースメンタリングは、最近注目されているダイバーシティ&インクルージョン推進施策の一つです。ベテランのマネジメント層は、若手の価値観に触れることで多くの気づきを得られ、組織として多様性の尊重につながるでしょう。
まとめ|リバースメンタリングで広がる新しい人材育成
リバースメンタリングは、若手社員や部下が上司やマネジメント層のメンターとなり、助言や指導を行う人事施策です。通常のメンター制度とは立場が逆になるため、「逆メンター制度」とも呼ばれます。
リバースメンタリングによって、従来のメンター制度では得にくい気づきや発見、学びを得られる可能性があります。導入によって組織の硬直化を防ぎ、職場の活性化を後押しできるでしょう。
リバースメンタリングの実施も支えるシステム
リバースメンタリングは、世代を超えた相互学習を促し、組織の活性化につながる施策です。
人材育成の取り組みを効果的に進めるには、メンターとメンティーのマッチング、1on1ミーティングや学びの記録といった仕組みが欠かせません。
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たとえば1on1機能では、面談内容を記録し、振り返りやフォローにつなげられます。面談での気づきやアクションを蓄積し、リバースメンタリングを継続的な人材育成の仕組みに変えていく活用が可能です。
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