サクセッションプランとは【事例と作り方】目的や開示状況も紹介

サクセッションプランは、企業における後継者育成計画のことを指します。最近注目度が増している経営方法でもあり、長期的な企業の発展に欠かせません。戦略人事を進めるうえでも重要な人事施策の一つといえます。
本記事では、サクセッションプランの概要、具体的な活用方法、事例、メリット・デメリットなどについて解説します。企業の人事担当者やマネジメントの責任者は、ぜひチェックしてみてください。
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目次

サクセッションプランの意味とは
サクセッションプランとは、「将来の後継者や重要ポストに就く社員を、前もって管理・育成すること」を意味します。
「後継者育成計画」「後継者管理」「サクセッションプランニング」とも呼ばれており、安定した事業経営を行ううえで重要な考え方です。
もともとはアメリカで誕生した施策であり、世界的に広まりました。
人材育成・後任登用との違い
サクセッションプランは、従来の施策である人材育成や後任登用とイメージが似ており混同してしまう人もいるかもしれません。
サクセッションプランとは、重要ポストにふさわしい人材を、長期的に育成することです。一般の従業員に対して広く行う研修やOJTなど、人材育成をあらわす制度とは異なります。
後任登用も、そのポストに近いキャリアの社員から適した人材を選び出すことを指し、長い時間を費やして会社を担う存在を育てるサクセッションプランとは違う考え方です。
タレントマネジメントとの違い
サクセッションプランは、タレントマネジメントとも誤解されてしまうケースがあるようです。
タレントマネジメントは、組織に所属する人材を、能力を持つタレントとみなし、能力やスキルを経営資本の一種として採用や配置に活用してパフォーマンスを最大化するマネジメント手法です。最終的に経営目標の達成を目指しています。
サクセッションプランの導入から推進において、人材のスキルの明確化と優秀な人材の選出を行い、幹部に求められるスキルを計画的に育てていくことになるでしょう。そのため、タレントマネジメントとサクセッションプランは、従業員のスキルなどを可視化し、育成や定着を目指すという点では共通しています。
しかし、サクセッションプランはあくまでも組織を引っ張る幹部やリーダー、経営層の候補者を育てていく計画です。対象が幹部・経営候補に絞られ、全従業員を基本的に対象とするタレントマネジメントとは異なります。

サクセッションプラン作成が注目される理由
昨今は大企業から中小企業まで、多くの事業で、サクセッションプランの作成に注目が集まっています。背景には、2018年にコーポレートガバナンス・コードが改定されたことが影響しています。
コーポレートガバナンス・コードを簡単にまとめると、2015年に策定された「企業の上層部が遵守するべきルール」のことです。
コーポレートガバナンス・コードには、サクセッションプランなどに関する取り組みを、計画的に行うべきだと記載されています。後継者育成に向けて主体的に行動していくことが全国的に要請されたため、多くの企業でサクセッションプランが重要視されるようになりました。
また、コーポレートガバナンス・コードでは、サクセッションプランを監督する組織として、取締役会や諮問委員会が挙げられています。取締役会には後継者を育成する役割が、諮問委員会には幹部候補を絞り込んで指名する役割が明記されています。
サクセッションプラン作成の目的
サクセッションプランを実施する主な目的を、2つご紹介します。
企業の経営リスクを軽減させる
サクセッションプラン作成の最大の目的は、将来の重要ポストに着任する社員が着実に力をつけていき、これからの企業経営に安定感を出すことです。
しっかり準備を進めていないと、スキル不足の人材が急に経営層を担う危険性があります。
結果的に、会社の経営自体が危うくなる可能性が高いでしょう。
業績を高水準で維持させるためにも、サクセッションプランは重要な施策です。
従業員満足度を向上させる
サクセッションプランによって会社の経営が安定すると、無理な業務や報酬面での不満が軽減され、従業員満足度の向上や離職防止につながります。
それによって企業のブランド力アップも期待できるでしょう。
離職者が減ると、新しい人材を採用するコストがかからなくなるのも、サクセッションプラン作成の目的です。
サクセッションプラン作成の事例
サクセッションプランを作成して、実際に結果を出した日本企業の成功事例を、2社取り上げます。
事例1.りそな銀行
国内メガバンクのりそな銀行は、サクセッションプランに積極的に取り組む企業の代表格です。「役員に求められる人材像」として7つの軸を明確にあらわし、指名委員会を設置するとともに、外部の力も借りながら次世代のリーダー育成を進めているようです。
事例2.花王
国内大手化学メーカーである花王は、「花王ウェイ」と呼ばれる経営理念をもとにした人材開発を実施している企業です。基本の流れにサクセッションプラン作成を組み込み、選抜された人材を育てています。適宜、評価・フィードバックも行っている点が特徴です。
事例3.TOYOTA
世界的自動車メーカーのトヨタは、1999年に人材競争力の強化を目的として『GLOBAL21』というサクセッションプランを立ち上げました。「経営哲学や幹部への期待を明確化」「人事管理」「育成配置と教育プログラム」という3つの軸を踏まえて、グローバルに経営を引っ張っていける人材の輩出に注力しています。「EDP(Executive Development Program)」「LDP(Ledership Development Program)」と呼ばれる経営陣を育成するプログラムが充実しているのが特徴です。
事例4.良品計画
無印良品というブランドを全国展開している良品計画は、「ファイブボックス」「プロフィールシート」「キャリパー・ポテンシャル・レポート」という3つのツールを利用して、サクセッションプランの内容を示しています。
たとえばファイブボックスは、潜在能力やパフォーマンスの高低で人材をグルーピングして後継者を選出しています。人材は資産という考えのもと、人材育成委員会が主導してサクセッションプランを遂行しているようです。

サクセッションプランの開示状況
サクセッションプランの事例で紹介した4社のように、昨今は政府による人的資本情報の開示要求が高まり、開示する企業も増えてきました。とくに2018年に公表された国際標準化機構が定める『ISO30414』の開示項目にも、「Succession planning(サクセッション・プランニング)」があります。
宝印刷D&IR研究所のレポートによると、調査対象188社のうち、サクセッションプランに言及している企業は40%弱と報告されました。わずかですが、CEOのスキルセットについて説明している企業もあります。
サクセッションプランは、スキルマップなどとあわせて実現性のある内容で開示されることが期待されているようです。
参考:『統合報告書分析レポート|サクセッションプランに関する開示状況』宝印刷D&IR研究所(2022.06.08)

サクセッションプランの作り方
サクセッションプランは、どのように作成すればいいのでしょうか。実際の作り方を順を追って解説します。

作り方のステップ1.経営戦略の明確化
サクセッションプランの作成には、まず長期的な経営戦略を明確に決めることが必要です。
経営理念や自社商材の特徴などを確認し、これから会社をどんな企業に育てていきたいかを決めましょう。
経営戦略が定まらないままサクセッションプランを作成すると、軸が定まっていない状態で人材育成を進めてしまうため、思うように計画が進みません。
作り方のステップ2.戦略を実行するポジション内容の想定
次に、明確化した経営戦略を実施するために求められる、重要ポジションを細かく想定していく段階です。
どんな役割の人材が必要なのか、内容や数を明文化しましょう。
「社長」「部長」「代表取締役まで」「役員まで」など、具体的にポジションを決めていきます。
作り方のステップ3.人材の要件の決定
ポジション内容と数が決まったら、その役割を担う人材の要件を決定します。
過去の経験や専門知識の有無、リーダーシップやコミュニケーション能力、語学力などが例に挙げられるでしょう。
あいまいな表現を控え、具体性を重視することがポイントです。
作り方のステップ4.候補となる人材の選出
決定した人材要件に合致する人材を、従業員の中から選出していきましょう。
選出方法は、自薦、他薦、試験方式などがあります。
現時点でのスキルだけではなく、将来性や成長の伸び代も加味して選ぶといいでしょう。
作り方のステップ5.育成計画の作成・実行
人材の選出まで完了したら、実際に育成計画(サクセッションプラン)を作成・実行します。
育成計画は、候補者ごとに作成することが一般的です。
現時点で不足している部分を伸ばすプログラムを組み、早期のジョブローテーションや配置転換の実施も視野に入れて進めます。
作り方のステップ6.進捗確認・内容変更
サクセッションプランを進めていくうえで、定期的に進捗を確認します。
もしも予定どおり計画が進んでいない場合は、育成計画を適宜見直さなければなりません。
計画→実行→評価→改善のPDCAを回し、必要な環境を整備しながら、よりよい効果が得られるようにしましょう。
サクセッションプラン作成のメリット
ここまでサクセッションプランの作り方を紹介してきました。サクセッションプランには、どんなメリットがあるのでしょうか。主なメリット2つをそれぞれご紹介します。
人材の総合的なスキルを向上できる
サクセッションプランを作成すると、重要ポジションに就く社員のスキルが総合的に向上することが期待できます。
モチベーションも高まりやすくなるでしょう。1
人の優秀な人間に経営を任せるワンマン経営を避けられるとともに、さまざまなトラブルや社会情勢の変化に対応が可能な「強固な経営陣」をつくれるでしょう。
経営理念を理解した社員が増える
サクセッションプラン作成により、経営戦略が明確になると「自社はどうあるべきか」と考える空気が社内に広がりやすくなります。
そのため、経営理念をしっかりと理解した、「企業側が求める、理想的な社員」が増えることが期待されています。

サクセッションプラン作成のデメリット・課題
サクセッションプランの作成には、メリットだけではなく、デメリットや課題点もあります。2つの主なデメリットをそれぞれご紹介します。
長期的な計画を立てなければならない
サクセッションプランは、数十年単位で実行する長期的な施策です。
育成計画を予定どおりに進めても、後継者候補がやむを得ない理由で退職してしまえば、それまでにかかったコストは無駄になってしまいます。
期間が長いからこそ、施策を実施するリスクは非常に高いでしょう。
候補社員の精神的負担を考慮しなければならない
サクセッションプランの中で後継者候補となる社員は、自社の将来を担うプレッシャーを強く感じることになります。
一方で、候補から外れてしまった社員も、多大なショックを受けるでしょう。
場合によっては、逆に離職者増加につながるおそれもあります。社員たちが精神的に辛い思いをしないような配慮が必要です。
サクセッションプランを作成すべきポスト
サクセッションプランを作成すべきポストは、「社外から登用することが難しいポスト」です。
具体的には、代表取締役や経営層が該当します。
さらに事業や社内文化をよく理解しなければ業務が進められない部署の責任者なども、サクセッションプランが必要でしょう。
また、現時点で社内に採用できる人材がそろっていないポストも、積極的にサクセッションプランを作成することをおすすめします。
サクセッションプランの作成にかかわる人
サクセッションプランは、現在の経営層が主体となって作成するケースが多いようです。しかし人事部や管理職・マネージャー層が積極的に関与することもあります。
主な業務を進めるのは経営層ですが、とくに育成計画の運用に関しては、人事・マネジメント担当者も社員側の目線を取り入れる立場としてかかわるといいでしょう。
サクセッションプランを作成するだけで終わらせず、必要に応じて見直しも行いながら、候補者のメンタルケアなども含めて運用の実施をサポートしていく必要があります。
まとめ|自社に適したサクセッションプラン作成を
サクセッションプランは、企業の将来を引っ張っていく存在を計画的に育てるためにプランやその実行までを示した概念です。事業を継承し、安定した経営や業績アップを実現させるとともに、企業価値を高めるためにも重要な制度といえます。
とくに社員数が多い大企業は、長期的な自社の成長を見越して、作成の必要性を感じられたかもしれません。優秀な後継者の育成を組織として戦略的に実行することは、変化するビジネス環境で持続的に成長するために欠かせないでしょう。
ただし、サクセッションプランを作るには、準備が必要です。在籍している社員のスキルを把握しておかないと、適切な候補者の選定や経営課題を反映させたサクセッションプラン(育成計画)の作成が難しくなります。常日頃より、従業員一人ひとりのスキルを可視化する体制を整えておくことを検討してみてはいかがでしょうか。
サクセッションプランの作成にはタレントマネジメントシステムの活用も
サクセッションプランを作るとき、頭を悩ませるのが「誰を後継候補にするか」「どんなスキルが必要か」をどう整理するかではないでしょうか。
人材情報があちこちに散らばっていると、候補者の選出やスキルの洗い出しに膨大な手間と時間がかかります。
そこでおすすめしたいのが、タレントマネジメントシステムの活用です。
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必要な情報がすぐにそろうので、適材適所の人材配置や計画的な育成がスムーズに進められます。
たとえば、幹部候補に求められるスキルや過去の目標達成度もひと目で確認できるため、感覚ではなくデータに基づいたプランを立てられます。
「誰がどのくらい成長しているか」を可視化することで、育成計画の修正やフォローもしやすくなるでしょう。
将来の組織の安定と成長を考えるなら、日頃から人材情報を整理し、いつでも活用できる仕組みを整えてみてはいかがでしょうか。
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