アンラーニングの意味とは? メリットや必要性を解説
アンラーニングの意味とは、これまで習得した知識やスキルにおいて不要なものを捨て、学びほぐしを行い、より必要な知識やスキル、仕事のやり方を習得することです。ビジネスにおける変化や技術革新に対応するには、従来のやり方を続けることが正解とは限りません。そのため、アンラーニングによって学びを修正することが大切です。しかし、アンラーニングの意味を詳しく知らなかったり、取り組みに不安を感じていたりする企業もあるでしょう。
そこで本記事では、アンラーニングの意味や混同しやすいリスキリングとの違いを解説したうえで、アンラーニングのメリットや進め方をご紹介します。人材育成や組織力の強化を人事課題とする企業の経営層や、人事担当者はぜひチェックしてみてください。
アンラーニングとは?
アンラーニングとは、日本語で「学習棄却」と呼ばれる言葉ですが、具体的にはどのような意味合いを持つ言葉なのでしょうか。まずはアンラーニングという言葉が持つ意味や、アンラーニングと混同しやすい言葉との違いについても解説します。
アンラーニングの意味
アンラーニング(unlearning)の意味は、従来の考え方や仕事の進め方、これまでに学んできた知識やスキルなどを捨てて、学びを修正することを指します。
アンラーニングは「学習棄却」とも呼ばれ、古い常識や価値観、知識などで頭が固定され、変化に対応しにくくなることを防ぐための学習です。アンラーニングによって学びほぐしを行い、考え方が刷新されるため、時代やビジネスの変化に対応しやすくなるはずです。
デジタル技術の進化(DX化の推進)や人材不足に対する課題など、変化し続ける社会で企業が生き残るためには「アンラーニング」が大切です。不要な情報を捨てて変化に対応し、ビジネスにおける競争上の優位性を獲得できると多くの企業から注目されています。
しかし、注意しておきたいのが、これまで習得したものをすべて消し去るということではありません。これまで習得してきたもののなかで、不要なものを選択して捨て去り、新たなものを追加してアップデートするのです。
つまりアンラーニングは、既存の知識やスキル、潜在的な価値観などを認識したうえで、不要なものを捨てたり取捨選択したりします。ときに学びの修正を行ったうえで、変化に対応するために、必要なものを取り込むことといえるでしょう。
アンラーニングとリスキリングの違い
アンラーニングと混同しがちな言葉には、「リスキリング」が挙げられます。
リスキリングは、新しいスキルや知識を再習得したり、学び直したりすることが目的です。企業が主体となって学ぶ環境を整備したり、サポートします。
そのうえで、従業員が状況の変化や技術の進化に対応するために、すでに持っているスキルをさらに深く追求し、よりニーズのある分野や技術の進化に対応できるよう、再び学び習得することです。
アンラーニングは、新しい学びを習得する前に、知識やスキル、価値観を取捨選択し、不要になったものや陳腐化したものを「捨てる」ことを重視しています。
しかし、リスキリングでは、さらに知識やスキルを「習得する」ことを重視するという点に違いがあるでしょう。
アンラーニングとリカレント教育の違い
アンラーニングと混同しがちな言葉には、「リカレント教育」も挙げられるでしょう。
リカレント教育は、社会人の学び直しとも呼ばれます。生涯的に学び、個人のキャリアを進めるうえで必要なスキルや知識を維持するために行われる教育です。
リカレント教育は、新たなスキルや知識を習得し、キャリアアップに役立てることが目的です。リスキリングと同様に「習得」を重視していますが、従業員個人が主体性的に取り組む行為を指すのが一般的です。
アンラーニングでは、企業が主体となって従来の意識や学びを「捨てる」ことに焦点が置かれているため、大きな違いがあるといえるでしょう。
また、リカレント教育は、本来仕事を離れて学び、再び仕事に復帰するという流れで進められます。
アンラーニングが必要な理由
アンラーニングが必要とされる理由には、DX化やIT化など技術の進化、働き方改革の促進や人材不足など、ビジネスや社会情勢の変化が挙げられます。
こうした変化に対応するために、不足している知識やスキル、価値観を習得するためにアンラーニングが必要なのです。アンラーニングでは取捨選択を行い、古い価値観やスキルではなく、新たな価値観やスキルを受け入れることが重要です。
アンラーニングの繰り返しによって、従業員個人のスキルや価値観がアップデートされるだけでなく、組織としても進化し続けられるでしょう。
アンラーニングのメリット
アンラーニングを推進するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。企業にもたらされるメリットについてご紹介します。
従業員の意識改革や成長を促進できる
アンラーニングのメリットには、従業員の意識改革が挙げられます。
スキルや経験値の高い人材は、それまでの経験で成長した経緯もあるため、変化を好まないケースや新たな学びに抵抗があるケースも少なくありません。
しかし、時代の流れとともに常識やトレンドは変わります。特に近年はITや技術の進化によって激しい変化が起こりつつあるため、従来のやり方では太刀打ちできないこともあるでしょう。
そこで従業員がアンラーニングでの学びを通して、新たなスキルや知識を習得すれば、さらなる成長が期待できるのです。
また、新たな知識やスキル、価値観を身につけてさまざまな問題に対応できるようになると、新たなものに対する抵抗感が薄れ、不安が解消しやすくなるでしょう。
業務効率の向上につながる
アンラーニングでは、これまでの業務の進め方を見つめ直すので、業務効率化や生産性向上にもつながります。たとえば従来のやり方に対して、無駄な作業をなくしたり、作業フローを変えるなどが挙げられます。
新しいやり方を取り入れることで、最初は時間がかかる場合もありますが、慣れると効率化が期待できるでしょう。
変化に強い組織になる
アンラーニングに取り組むことで、組織として状況や時代の変化にすぐに対応する癖がつきやすくなるでしょう。変化の激しい現代だからこそ、いち早く古いルールやこれまでの価値観から脱却しなければなりません。
アンラーニングで取捨選択をしたり、繰り返し新たな価値観を受け入れたりすることに慣れていくと、変化にすぐに対応できる組織へと成長できるでしょう。
マネジメント力が強化できる
アンラーニングは、部下の育成や評価などマネジメント強化にも効果が期待できます。経営層や管理職、現場の責任者などがアンラーニングでマネジメントを学ぶと、時代に合った人材育成や適切な評価にもつながるからです。
部下の成長や正しい評価が行われると、従業員のモチベーションやエンゲージメントが向上し、結果的に業績や組織力にもよい影響が期待できるでしょう。
アンラーニングのデメリットや注意点
アンラーニングにはデメリットや注意点もあります。そこで、アンラーニングに取り組む企業が注意すべき点にはどのようなものがあるかご紹介します。
モチベーションが低下する可能性がある
アンラーニングは、進め方によって従業員のモチベーションを低下させる恐れがあり、注意が必要です。
ときに今までのやり方から、まったく新しいやり方に変更しなければならないこともあるでしょう。これまで培ってきた経験や学習が否定され、無駄になったと感じる従業員も少なくありません。
人事担当者や上長は、アンラーニングで学ぶ人材のフォローをしながら、個々の成長のために必要性を前向きに伝えるようにしましょう。
チームや組織単位で行う
アンラーニングに取り組む際は、チーム単位で学ぶようにしましょう。1人だけが学んだ結果、新しい知識をいきなり業務に反映してしまうと、ほかの人材やチームに混乱を招いてしまう可能性もあります。
また、変化に対応するために新たに学ぶこと自体、簡単ではありません。新たな知識やスキル、考え方を理解するためにも、1人だけに任せるのではなく、ともに仕事をするチーム全体で取り組むようにしましょう。
内省(リフレクション)を大切にする
アンラーニングに取り組む際は、従業員が内省(リフレクション)することが大切です。内省といっても、これまでの経験や取り組み方などを否定したり、反省するというわけではありません。
仕事への取り組みや考え方などを取捨選択したうえで、必要とされる新たな学びを受け入れ、さらなる成長につなげることを意識するようにしましょう。
必要に応じた取捨選択をする
アンラーニングで大切なことは、状況や必要に応じた、考え方や取り組み方の取捨選択です。
アンラーニングはこれまでの学びや経験を否定することではありません。時代や状況の変化とともにビジネスで求められるスキルは変わります。
今必要とされること、近い将来必要とされるであろう点を意識したうえで、取捨選択を行いましょう。
他部署や異業種とも交流する
アンラーニングでは、他部署や異業種とも接点を持ち、視野を広げることが大切です。さまざまな視点から物事を捉えられるため、スキルや知識が増えて、価値観が見直されるでしょう。
また、他部署や異業種と交流するとお互いに刺激し合えて、業務上の連携がしやすくなるという利点もあります。
学び続けること(ラーニング)を否定しない
アンラーニングを行う場合、継続して学び続けること(ラーニング)を否定してはいけません。
アンラーニングは、これまでの学びを取捨選択し、不要なものを捨てるという意味なので、継続や積み重ねていく学びとは異なります。アンラーニングを行う際にも、必要なものは継続したり、新たに取り入れるものは深く学んだりする必要があるためです。
アンラーニングでは、捨てることと学ぶことをバランスよく取り入れられると、より効果が高まるでしょう。
アンラーニングの進め方【4ステップ】
アンラーニングを企業が進める手順として主要な4ステップをご紹介します。
1.従業員個人の内省を実施する
アンラーニングの最初のステップとして行うのが、従業員個人における内省です。内省を通して、時代や状況に合わないと感じるもの、不要なもの、変化が必要なものなどに気づくことが大切です。
まずはこれまでの考え方や価値基準、行動パターンなどから見つめ直しましょう。実際にテキストにして書き出してみると整理しやすくなるかもしれません。
また、自分のなかで大切にしている価値観やこだわりも洗い出します。
今までとってきた行動や持っていた価値観について、大切な理由が曖昧(あいまい)だったり、他者から無理に押しつけられたものだったりする場合も注意しましょう。
2.取捨選択をする
これまでの経験や自分の知識、スキルを踏まえて古いものと新しいものに分けて整理しましょう。
なかでも特に古い知識や価値観は捨て去ることになるので、慎重に整理します。取捨選択は判断が難しいため、すべて1人で行うのではなく、チームや上司はサポートするようにしましょう。
3.学びの場を設ける
アンラーニングで新たな知識やスキルを学ぶ場所を提供し、従業員の参加を促します。社会人になると、新たに学ぶ機会は多くないため、知識やスキルの習得だけでなく、刺激にもなるはずです。
たとえば、外部セミナーや社外で実施される講習会に参加すると、成長意欲の高い社外の人と出会えるので、新たな人脈を得られるチャンスといえるかもしれません。
4.効果測定を行う
アンラーニングは、学んで終わりではありません。古いものを捨て去り、新たに習得した知識やスキルを現場で実践したり、役立てたりすることが大切です。
また、アンラーニングは一度で終了させるのではなく、内省や学びを繰り返し行います。
時間の経過や状況によって必要とされる知識やスキルは変化するため、知識やスキルを取捨選択し、新たに必要になったものは再度学び直します。
アンラーニングに対して定期的な効果測定も行い、PDCAサイクルを回すようにしましょう。
アンラーニングにおける人材育成のポイント
アンラーニングにおける人材育成で重要となるポイントについてご紹介します。
学びと実践の両方が重要
アンラーニングは、学ぶことだけが重要なのではありません。提供された学びで新たな知識やスキル、考え方を習得したら、実際に業務に活かすために実践の機会を用意しましょう。
学んだ内容と実践できる機会のセットで提供することで、着実に知識やスキルを身につけ、従業員の成長が期待できます。
評価への反映
アンラーニングで学んだことが身についているか、日頃の業務で活かせているかどうかを確認しながら評価に反映することも大切です。
アンラーニングは学んで終わりではなく、学んだ内容を現場で活かせるようにならなければ意味がありません。学んだあとに現場で実践し、業務に活かせることが、アンラーニングの成果といえるのです。
アンラーニングで学んだ結果、実務に役立っているかどうかを確認したうえで、評価を行いましょう。
昇進や異動時にアンラーニングを促進
アンラーニングの実施時期でおすすめなのが、昇進や異動時です。新たな環境や異なる部署で業務を担う場合、これまでの知識や考え方を捨て、必要な学びを行うアンラーニングを促進しやすいでしょう。
新たな環境に配属される対象者に対して、これまでに使用していた知識やスキルと今後必要になる知識やスキルを洗い出してもらいます。
そのうえで取捨選択を行うと、従業員にとって、今やるべきことが把握しやすくなるでしょう。
アンラーニングに関する研修やイベントを実施
アンラーニングを会社全体として浸透させたい場合は、アンラーニングに関する研修やイベントの開催もポイントの一つです。
イベントでは、実際に体験してみることが大切です。従業員が今使用している知識やスキルを抽出し、今後自分のキャリアプランに沿って取捨選択するなどの方法があるでしょう。
従業員が実際に体験すると、アンラーニングへの理解や認識の統一がスムーズに進むはずです。
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集約した従業員データから、不足しているスキルを明確にするなど、アンラーニングの取り組みにも役立つでしょう。
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まとめ
アンラーニングは、これまでに習得した知識やスキルのなかから、古く不要なものを捨て去り、新たに学んで新しい知識やスキルを身につけることです。
従業員のモチベーション低下や、習得した新たな知識やスキルを現場で活かせるようになるまで時間がかかるなど懸念点もあります。
しかし、時代や状況の変化とともにビジネスで必要とされる知識やスキル、考え方や取り組み方は変わっていくものです。新たな変化に対応できる組織へ成長するためにも、アンラーニングへの取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。