業務委託は雇用形態に含まれる? 業務委託のメリット、契約の注意点を解説!
日本国内では年々労働人口の減少が深刻化しており、多くの企業にとって人材不足は最重要課題として捉えられています。そこで最近増えているのが「業務委託」を活用する企業です。業務委託は、企業の人材不足の解消や専門スキルが必要な業務の進行に役立つため、これからも活用する企業が増えていくことが予想されます。
本記事は、業務委託の雇用形態の特徴やメリット、契約する際の注意点などを詳しく解説します。
業務委託とは雇用形態ではない
業務委託は、昔から存在した業務形態です。しかし、近年の働き方改革の影響で個人事業主やフリーランスが増加傾向にあり、従来よりも注目度が高まりつつあります。業務委託を活用すれば業務の効率化やコスト削減にもつなげられるため、業務委託の特徴を理解することはビジネスを成功させるために重要なポイントといえるでしょう。業務委託の特徴や各種雇用形態の種類について詳しく解説します。
業務委託契約とは
業務委託とは、委託者である企業が、受託者に対して何らかの業務を委託する内容の契約を指します。業務委託契約の特徴は、委託者と受託者が互いに対等な立場で取引を締結するという点です。
委託の対象となる業務内容は非常に幅広く、企業のニーズに応じてさまざまな内容の業務委託契約が締結されています。人手不足に悩む企業は少なくありません。業務委託によって人材を有効活用できると、生産性の向上が期待できるでしょう。
雇用形態の種類と特徴
雇用形態は「正規雇用」か「非正規雇用」そして「直接雇用」か「間接雇用」によって種類が大きく異なります。
正規雇用 | 非正規雇用 | |
---|---|---|
直接雇用 | 正社員 | アルバイト/パートタイム/契約社員 |
間接雇用 | ー | 派遣社員 |
たとえば、正規雇用でかつ直接雇用の雇用形態には「正社員」があり、非正規雇用の直接雇用にはアルバイトやパート、契約社員などが挙げられます。
上記の表のなかには「業務委託」は含まれていません。業務委託は雇用形態の一つではなく、業務の発注の契約であるためです。企業は受託者を雇用している労働者と同様には扱えず、もし同じように扱った場合は労働基準法に抵触してしまい、違反によるペナルティが科されるリスクがあります。
各種雇用形態の特徴や、雇用する際のメリット・デメリットを詳しくご紹介します。
正社員
正社員とは、原則として契約期間の定めがない無期雇用契約を結ぶ従業員のことです。定年までの雇用を前提に契約を締結します。フルタイム勤務のケースがほとんどのため、就業時間全体にわたって安定した業務量のある職種やポジションに適した雇用形態といえるでしょう。
メリット | デメリット |
---|---|
長期雇用で安定した業務遂行が期待できる | 社会保険や福利厚生などのコストがかかる |
成長機会を与えて会社への貢献度が高まる | 企業都合による人材調整がしづらい |
自発的な業務遂行が期待できる | 採用コストが大きい |
契約社員
契約社員とは、企業が有期契約で直接雇用する人材のことです。契約期間には上限があり、原則3年とされています。3年を超えて雇用し続ける場合には契約更新が必要で、契約期間が通算で5年を超えることとなった時点で、契約社員側から無期雇用への雇用契約変更を申し出ることができます。
メリット | デメリット |
---|---|
短期契約期間を設けながら、正社員と同等の業務を一任できる | 正社員よりもエンゲージメントや愛社精神は高まりづらい |
正社員よりも人件費を抑えられる | 5年を超えて働くことになる契約社員から申し出があれば無期雇用に転換する必要あり |
期間内で必要な専門スキルを持った人材を採用できる | – |
パート・アルバイト
パートやアルバイト人材は、パートタイム労働者に分類される非正規雇用の雇用形態で、1週間の所定労働時間が正規雇用(フルタイム)と比べて短い労働者を意味します。シフト制によって柔軟に人手を確保できるため、1日の業務に繁忙な時間がある職場に適した雇用形態です。
メリット | デメリット |
---|---|
人材が不足する時間帯に限定的に増員できる | 雇用期間が不透明で、社員を教育するメリットが少ない |
比較的低コストでマンパワーを確保できる | シフト管理にコストがかかる |
派遣
派遣社員は、間接雇用と呼ばれる雇用形態に該当します。人材派遣会社と雇用契約を結んでいる労働者を派遣してもらって人材を確保する方法であるため、派遣先の企業は労働者と直接的に雇用契約を結びません。業務に関する指揮命令権は派遣先、有給休暇の管理や賃金の支払いは派遣元が行います。
メリット | デメリット |
---|---|
必要に応じて即戦力となる人材を雇用できる | 人件費がかかりやすい |
教育コストがかからない | 継続雇用でないため、教育をするメリットが少ない |
人材を選定するコストがかからない | 社内情報が外部に流出するリスクがある |
業務委託の契約は2種類
業務委託は、雇用契約によらず、注文者から受けた仕事の成果物・役務を提供することに対して報酬が支払われる仕事のスタイルです。業務委託の契約には、大きく分けて次の2種類があります。
- 請負契約
- (準)委任契約
それぞれの大きな違いは「報酬の対価」と「契約不適合責任の有無」です。
請負契約 | (準)委任契約 | |
---|---|---|
報酬の対価 | 成果物に対して発生する | 労働に対して発生する |
契約不適合責任 | あり | なし |
依頼元への指揮命令権 | なし | なし |
それぞれの契約内容の特徴について、詳しく見ていきましょう。
請負契約
請負契約とは、次のようなケースにおける業務依頼で締結する契約です。
- 成果物(納品物)に対して報酬が支払われる
- 契約不適合責任が適用される
つまり、定められた期限内に完成された成果物が納品されない限り、報酬を支払う義務がありません。委託者は成果物の完成が求められ、契約不適合責任を負います。
そのため成果物にミスや欠陥がある場合は、委託側による追完・代金減額・損害賠償などの請求ができます。請負契約の具体的な委託先として、デザイナーやプログラマー、ライターなどの職種が挙げられます。
(準)委任契約
(準)委任契約とは、成果物に関する取り決めがなく、成果物の完成責任がないタイプの業務委託契約を指します。
- 業務の遂行に対して報酬が支払われる
- 契約不適合責任は適用されない
弁護士や税理士などに、法律に関する業務を委任する場合は「委任契約」を呼び、それ以外の一般的なビジネスを委任する場合は「(準)委任契約」と呼ばれています。報酬は、時間給や回数などで規定されるケースが多いです。
業務委託契約のメリット
業務委託契約を締結するメリットは、主に次の4つが挙げられます。
- 人件費や教育費を効率化できる
- 専門的なノウハウを活用できる
- 社内のコア業務に集中できる
- 繁忙期の労働力不足を補える
それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
人件費や教育費を効率化できる
正規雇用で人材を確保する際は、次のような人的コストがかかります。
- 社会保険料
- 福利厚生費用
- 退職金
- 教育費
しかし、業務委託であればこれらのコストをかけることなく業務を遂行できるため、大幅な人件費や教育費のカットが期待できるでしょう。必要な業務量に応じて発注量を調整できるため、人件費を「固定費」ではなく「変動費」として扱えるのも大きなメリットです。
専門的なノウハウを活用できる
自社にないノウハウを持った人材に業務委託をすると、専門的なスキルを活用できるのも大きなメリットです。業務委託を請け負うフリーランスや副業人材は専門性が高い傾向にあるため、効果的で質の高いパフォーマンスが期待できます。
自社にない知見を社内に取り入れられるため、自社だけでは対応できない専門業務が発生した場合に、業務委託の活用を1つの選択肢として検討しましょう。
社内のコア業務に集中できる
業務委託によって従業員の業務負担を削減できると、従業員は社内のコア業務に集中できます。業務委託をする業務は、専門性の高い業務はもちろんのこと、バックオフィス業務などの定型業務もあり幅広いのが特徴です。
コア業務とは、利益に直結するような重要性の高い業務を意味します。本来取り組むべき業務に正社員が注力できるため、生産性が上がるとともに、結果として企業の競争力を高められるでしょう。特に人材不足が続いているスタートアップ企業や中小企業の場合は、経理や人事などのバックオフィス業務を委託するのがおすすめです。
繁忙期の労働力不足を補える
業務委託を活用するメリットとして、年末や年度末などの局所的な繁忙期に労働力を補えることが挙げられます。繁忙期に合わせて人材を雇用しても、即戦力として活用できるとは限りません。採用活動がうまくいかずに十分な人材を確保できないと、従業員たちの負担は増し、エンゲージメントの低下や離職などにつながりかねません。
雇用には時間やコストがかかる一方、業務委託ならスムーズに労働力を確保しやすく、業務量に合わせて柔軟に人材を集められるでしょう。
業務委託契約のデメリット
業務委託契約を締結するデメリットは、次の3つです。
- 人材管理が難しい
- ノウハウが蓄積されない
- コストが大きくなりやすい
それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
人材管理が難しい
業務委託では、委託元の企業に指揮命令権がありません。そのため、直接雇用と比較して、業務を委託した人材の管理が非常に難しいというデメリットがあります。委託先とうまく意思疎通ができなければ期待した成果が得られないリスクもあるため、目標達成に向けて、進捗状況の共有をこまめに行うことが必要です。
ノウハウが蓄積されない
専門性の高い業務を社外に任せられるのは大きなメリットである一方で、社内にノウハウが蓄積されないため、最終的に優秀な人材が育ちにくくなるでしょう。業務委託をした業務に関するノウハウや知識を蓄積したい場合は、定期的なミーティングを実施するなどの工夫が必要です。
レポートや口頭での報告だけでは蓄積されないノウハウも多くあるため、委託する業務の範囲は慎重に考えなければなりません。継続的に発生する業務の場合は、業務委託をするのではなく、社内で人材教育に力を入れることも1つの方法です。
コストが大きくなりやすい
業務委託は人件費を抑えられる一方で、専門性の高い業務であればあるほど報酬が高額になる傾向にあります。業務委託のコストを抑えるには、業務委託に向いている業務であるかを判断することが大切です。また、業務委託と自社で賄った場合のコストを比較したり、業界ごとの相場をチェックしたりしながら、最善の方法を検討してください。
業務委託契約の注意点
業務委託契約を締結する際、次の4つのポイントに注意しなければなりません。
- 求める成果を具体的に決める
- 秘密保持契約を締結する
- 再委託について決めておく
- 偽装請負に気をつける
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
求める成果を具体的に決める
業務委託契約を結ぶ際は、納品物や業務について取り決めを行う必要があります。成果物として納品する「請負契約」の場合は具体的な成果物に関する内容「(準)委任契約」の場合は具体的な労働時間など、納品物や業務のゴールを設定することが重要です。
求める成果が明確に提示されていないと、委託先と委託元で認識のズレからトラブルに発展するリスクが高まるため、慎重に取り決めておきましょう。
秘密保持契約を締結する
秘密保持契約とは、業務上で知り得た情報を外部に漏らさないための契約のことです。委託する業務の内容によっては、外部の業務委託人材に重要な機密情報を共有するケースも少なくありません。
契約を締結する際には、事前に情報漏えいに関して取り決めておく必要があります。機密情報を取り扱う業務については、委託せずに社内で対応することも検討しましょう。
再委託について決めておく
業務委託契約のうち、請負契約の場合、委託先がさらに別の人材に業務を委託するケースも少なくありません。しかし、(準)委任契約では原則として再委託が禁止されています。
再委託は秘密保持契約などにもかかわるため、契約を結ぶ際には事前に「再委託の可否」を契約書に記載してください。委託元が再委託を禁止しているにもかかわらず再委託が行われた場合には契約違反となるため、然るべき対応をとりましょう。
偽装請負に気をつける
偽装請負とは、請負や委託の形式を取りながら、発注元がみずからの指揮命令で派遣元の労働者に業務を行わせる形態を指します。派遣元と労働者との雇用関係の有無によって、無許可の労働者派遣事業か労働者供給に分類され、いずれも違法です。
偽装請負は職業安定法や労働者派遣法上の処罰の対象となり、いずれも1年以下の懲役、または100万円以下の罰金が科されます。社内にスタッフを常駐させ、直接指示しながら業務を進めたい場合は、業務委託ではなく人材派遣の活用を検討しましょう。
業務委託先の見つけ方
業務委託を請け負うのは主にフリーランスや副業人材であるため、次の3つの方法で委託先を見つけるのが一般的です。
- クラウドソーシングで探す
- 求人サイトで探す
- 自社ホームページで求人掲載をする
なかでも、フリーランスや副業人材の多くが登録しているクラウドソーシングサービスを活用するのがおすすめです。クラウドソーシングや求人サイトなどの人材サービスは、それぞれ特徴や強みが異なります。必要なスキルを持つ人材が登録しているサービスであるかを確認したうえで活用していきましょう。
業務委託契約の流れ
結論からお伝えすると、業務委託の契約の流れに法的ルールは存在しません。しかし、委託元と委託先との認識のズレを減らし、事後のトラブルを回避するためにも、手順を踏んで契約を結ぶ必要があります。
業務委託契約の一般的な流れは次の通りです。
- 契約内容のすり合わせ、見積もりの作成
- 契約条件の決定
- 契約書の作成
- 契約締結
はじめに、受託側と委託業務の内容を擦り合わせる必要があります。その後、見積もりを作成し、契約条件を決定しましょう。両者が了承した段階で捺印するなどして、合意を得て契約が締結されます。業務委託をする業務の性質によって「請負契約」なのか「(準)委任契約」なのかを判断して契約を結んでください。
業務委託契約のよくある疑問
業務委託契約を締結する際によくある疑問をご紹介します。
労働基準法は適用されるのか
業務委託は雇用契約ではないため、労働基準法は原則適用されません。ただし、業務の進め方について具体的な指示を受けている場合など、実質的な雇用関係があると判断される場合は、労働基準法の対象となるケースがあります。実質的雇用関係があると見なされた場合は、労働基準法の保護対象となり、自社の労働者同様に社会保険への加入義務などが生じるため、注意しましょう。
契約書はどのように作成するのか
業務委託では、双方の合意があれば、紙での契約ではなく「電子契約」も結べます。そもそも、業務委託契約書の作成義務はなく、法律などで定められた様式や形式もありません。作成はあくまでも、両者のトラブル回避のために推奨されているものです。
業務委託契約書(請負契約書)には通常、印紙税の納付が必要です。しかし電子契約の場合、印紙税の納付は不要です。なお、契約を締結する際に押印は必須ではないものの、契約書に関するトラブルを防止する目的で押印されるケースが多くあります。
デメリットも理解したうえで業務委託を活用
業務委託を上手に活用すると、委託する企業側にはさまざまなメリットがもたらされます。しかし、業務委託にはメリットだけでなくデメリットや注意点も数多く存在するため、内容を十分に理解することが重要です。
契約締結後に深刻なトラブルに発展させないためにも、契約書や業務委託の内容に十分注意して取り決めを行いましょう。業務委託の運用を検討中の企業は、ぜひ人事労務を自動化するクラウドサービスの利用を検討してください。
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