確定拠出年金とは? 概要や仕組み、種類をわかりやすく解説
確定拠出年金とは、老後の資産形成を目的とした私的年金で、企業型DCとiDeCoがあります。一度は耳にしたことがあるという人もいるのではないでしょうか。名前は聞いたことがあるものの、確定拠出年金の仕組みや概要が詳しくわからないという人や企業型と個人型の違いがわからないという人も少なくありません。
そこで本記事では、確定拠出年金についてわかりやすく解説します。確定拠出年金のメリットやデメリット、企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)の違いにも注目してみてください。
確定拠出年金とは
確定拠出年金(Defined Contribution Plan)とは、DCとも呼ばれ、老後の資産形成を目的にした私的年金です。加入者もしくは企業が毎月掛金を拠出して自分で運用を行うため、運用の成果から将来の年金額が決まるものです。
この確定拠出年金の仕組みを「確定拠出年金制度」といい、アメリカではすでに浸透しています。アメリカの規定が米国内国歳入法の401条(k)項にあるため「401k」とされており、日本では「日本版401k」とも呼ばれています。
確定拠出年金では、具体的に受け取れる給付が3種類あります。
- 老齢給付金
- 障害給付金
- 死亡一時金
老齢給付金
老後給付金は、60歳以上になったら支給される年金(もしくは一時金)ですが、60歳の時点で確定拠出年金制度への加入期間が通算10年に満たない場合は、受給開始年齢が段階的に引き上がります。
障害給付金
障害給付金は、高度障害に該当した場合、年金(もしくは一時金)として受け取れるもので、年齢が60歳未満でも支給されます。
死亡一時金
死亡一時金は、死亡した方の遺族に対して一時金として支給される給付金です。
日本の年金制度
日本の年金制度は公的年金による2階建て構造といわれており、現役時代に加入する年金制度によって老後に受け取る年金額が異なります。
2階建ての1階部分は国民年金であり、日本に住む20歳以上60歳未満の人が加入しなければなりません。老後は老齢基礎年金を受給します。
2階建ての2階部分は厚生年金であり、公務員や会社員などが加入し、国民年金に上乗せするものです。老後は、老齢基礎年金と老齢厚生年金を受給します。
さらに、公的年金に加えて私的年金を準備することで3階建て構造にできるのです。私的年金にはさまざまな種類がありますが、今回ご紹介する確定拠出型年金のほか、国民年金基金や確定給付型年金などが挙げられます。
老後資金に余裕を持たせたい場合や公的年金だけでは不安という場合に、私的年金を活用した資産形成が重要といえるでしょう。
確定拠出年金の種類
確定拠出年金は、
- 企業型DC(企業型確定拠出年金)
- iDeCo(個人型確定拠出年金)
の2種類に分類されます。それぞれの特徴を確認してみましょう。
企業型DC(企業型確定拠出年金)
企業型DC(以下、企業型確定拠出年金)は、確定拠出年金制度を導入している企業が実施する確定拠出年金で、企業に在籍する従業員が対象者です。
将来給付する額をあらかじめ決めたうえで、その給付額をまかなうために企業側が掛け金として拠出し、従業員本人が運用を行うものと理解しましょう。
企業によっては、企業に入社したら自動的に加入しなければならない場合と、加入を選択できる場合があり、後者を「選択制確定拠出年金」と呼びます。
また、企業の掛け金に上乗せして従業員が掛け金を拠出することを「マッチング拠出」といいます。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCo(以下、個人型確定拠出年金)とは、個人の加入者が自分で掛け金を拠出し、運用を行います。みずから掛け金を決めて、個人の責任で運用するものと理解しましょう。
また、iDeCoで拠出した掛け金は全額所得控除の対象であるため、確定申告や年末調整を行うことで節税にもつながります。
企業型DCとiDeCoの併用も可能
企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)は、要件が緩和され、同時加入が可能となり、労使の合意も不要になりました。
確定拠出年金制度の本改正により、確定拠出年金の加入年齢が拡大されたり、受給開始時期の上限が引き上げられたりするなどの変更がなされました。
しかし、マッチング拠出を行っている場合は、同時加入ができません。
【2024年12月1日法改正】掛金拠出限度額の改正
2024年12月1日施行の法改正により、確定給付企業年金(DB)と企業型DCの拠出限度額が変更されます。DBや企業型DCを導入している企業のご担当者は、法改正の前にあらかじめ確認しておきましょう。
確定給付企業年金(DB)とは
企業年金には、企業型DCのほか確定給付企業年金(DB)があります。確定給付企業年金(以下、DB)とは、従業員・企業間であらかじめ約束した給付額と給付時期に、従業員に年金給付額が支給される企業年金制度です。
DBは、加入者数が930万人と、日本の年金制度の中でもっとも利用実績の多い制度とされています(2021年時点)。
企業側は、DBによって給付額が約束された年金制度があることで、
- 人材を確保しやすい
- 従業員のモチベーション向上につながる
- 柔軟な設計ができ、企業のニーズに合わせやすい
- 企業型DCやiDeCoなどと併用できる
というメリットがあります。
一方で、退職給付債務や運用責任を負うという大きなリスクも挙げられます。企業型DCとの大きな違いは、DBは企業が運用を行うのに対し、企業型DCでは掛金を会社が拠出し、運用は従業員が行うことです。
掛金拠出限度額の改正内容について
2024年12月から、企業型DCの拠出限度額が見直されます。
これまで企業型DCのみの年金制度を利用する場合、掛金は月額5.5万円までと定められていました。
一方で、あわせてDBにも加入している場合は、拠出枠の半分をDBで利用したと見なされるため、企業型DCの掛金は一律で月額2.75万円までとされています。この2.75万円は、企業型DCが策定されたときの平均的な給付水準(年金を受け取るときの年金額と、その時点の所得に対する割合)で設定されました。
しかし企業によって給付水準が異なるため、企業型DCの掛金が同じとしても、給付水準が高い企業の方が企業年金の給付を多く受け取ることができ、税制メリットを多く受けることから、公平性の観点で問題視されていました。
これにより、掛金の上限が一律で月額5.5万円に変更されます。そのため、DBと企業型DCやiDeCoの掛金合計が月額5.5万円を超えないように、掛金を設定する必要があります。
つまり、拠出できる掛金の最大値を一律固定することで、DBの給付水準によって企業型DCやiDeCoの掛金上限が変動することになり、公平性を担保できるのです。
参照:『確定給付企業年金制度の主な改正(令和6年12月1日施行)』厚生労働省
参照:『DC拠出限度額見直しに係る改正動向について(2024年12月施行予定)』三井住友信託銀行
私的年金が必要な理由
企業年金や個人年金などの私的年金が必要とされる理由は、公的年金の支給開始時期が原則65歳以上とされているからです。
定年退職を迎える時期にもよりますが、60歳で退職すると、公的年金が支給されるまでの5年間、生活資金をどのようにまかなっていくかを検討しなければなりません。
退職から公的年金支給までの間、生活費をまかなえる何らかの収入や所得がない場合、企業年金や個人年金などの制度を活用する必要があるでしょう。
老後資金の目安例
老後資金の目安は、いくら程度なのでしょうか。一般社団法人全国銀行協会によると、夫婦2人における老後資金の目安の一つを2,500万円程度としています。
総務省は「家計調査」の中で、65歳以上の無職世帯(夫婦高齢者)の月平均家計支出を268,508円として、家計収支を試算しました。そのうち、公的年金などを含めた実収入を246,237円、支出に対する不足分を22,270円としています。
仮に65歳から30年生きるとすると、支出に対する不足分(22,270円)×12か月×30年=800万円が必要です。
しかし、平均家計支出(月)の中では消費支出のうち、娯楽費にあたる「教養娯楽費」と「交際費」の合計を月44,025円としています。平均よりも余裕を持った生活をしたい場合、プラス5万円程度が必要と考えると、さらに1,800万円必要です。
これを公的年金以外からまかなわなくてはなりません。そのため、企業型DCやiDeCoなどによる私的年金が重要とされているのです。
しかし、老後資金の目安は上記だけではなく、夫婦で5,000万円以上などといわれる場合もあるため、自身の生活水準などを踏まえて計算し、計画的に準備するとよいでしょう。
参照:『Q. 老後資金は一体いくらあれば安心……?』一般社団法人全国銀行協会
参照:『2022年(令和4年) 家計の概要』総務省統計局
確定拠出年金のメリット
確定拠出年金のメリットにはどのような点があるのでしょうか。具体的なメリットを確認してみましょう。
- 税制上の優遇措置が受けられる
- 運用利益が非課税である
- 給付金を受け取る際もお得
- 自己破産しても没収されない
税制上の優遇が受けられる
確定拠出年金のメリットの1つめは、本人が拠出した掛け金が所得控除の対象となり、税制上の優遇措置が受けられる点です。
企業に勤めていて確定申告が不要な場合は年末調整のみで対応できるため、手続きに対する不安も抑えられるでしょう。
運用利益が非課税である
確定拠出年金のメリットの2つめは、利益が出た場合が非課税であるという点です。
一般的な投資などによって得た利益は、20%程を課税対象としていますが、確定拠出年金で得た利益は非課税扱いとされ、大幅なお得感を得られるでしょう。
給付金を受け取る際もお得
確定拠出年金のメリットの3つめは、給付金を受け取る際も税制上優遇されます。
退職一時金は退職所得控除、年金受給では公的年金等控除が受けられるため、お得に感じられるでしょう。
自己破産しても没収されない
確定拠出年金のメリットの4つめは、仮に自己破産をしても、給付金は没収されないという点です。
確定拠出年金に関する財産が差押禁止財産に該当しているからです。
参照:『第77条関係 社会保険制度に基づく給付の差押禁止』国税庁
確定拠出年金のデメリット
確定拠出年金にはいくつものメリットがある一方で、デメリットがないわけではありません。具体的なデメリットについても理解しておきましょう。
- 受給開始時期が決まっている
- 手数料がかかる
- 運用知識が必要
- 解約や途中引き出しができない
- 元本保証されない商品もある
受給開始時期が決まっている
確定拠出年金のデメリットの1つめは、受給時期が決まっているため、それまで引き出したり現金化したりできないという点です。受給できる時期は60歳以降であり、それまで原則として解約できません。
手数料がかかる
確定拠出年金のデメリットの2つめは、手数料がかかるという点です。
1 | 加入時手数料 | 2,829円 |
2 | 口座管理手数料 | 2,052円~ |
3 | 給付事務手数料 | 1回につき440円 |
4 | 還付事務手数料 | 1,488円 |
上記のうち、口座管理手数料には運営管理機関手数料や移管時手数料、信託報酬など選択した金融機関や状況によって発生する場合があります。
企業型DCは企業が手数料を負担することが多いものの、iDeCoは個人責任で行うものであるため、手数料も自己負担です。
運用の知識が必要
確定拠出年金のデメリットの3つめは、掛け金を運用する知識が必要であるという点です。ある程度の金融知識や投資に関する知識がないと、順調な資産形成が難しくなるかもしれません。
解約や途中引き出しができない
確定拠出年金のデメリットの4つめは、解約や途中引き出しができないという点です。
確定拠出年金に一度加入したら途中で解約できません。そのため、受給時期になるまでは現金化できないのです。しかし、引き落としを一時的に停止することはできるため、困った場合は引き落とし停止を検討しましょう。また、条件を満たす場合には脱退一時金を受け取れる場合もあります。しかし、条件を満たすことは難しく、原則解約できないと考えた方がよいでしょう。
元本保証されない商品もある
確定拠出年金のデメリットの5つめは、運用する商品によって元本保証されないという点です。元本保証型の商品もありますが、投資信託のように変動する商品もあるため、大きな損失を防ぐためにも注意して選ぶようにしましょう。
確定拠出年金の運用
確定拠出年金の運用について、運用商品(元本保証型と元本変動型の2種類)をご紹介したうえで運用方法を解説します。
元本確保型
元本確保型商品は、文字の通り、拠出した元本を確保し、リスクを抑えて運用できる安心感の大きい商品です。
低金利であり、大幅な資産形成ができる可能性は低く、インフレに弱い点が特徴といえるでしょう。元本確保型の商品には、定期預金や保険などが挙げられます。
元本変動型
元本変動型とは、元本確保型の逆で、拠出した掛金(元本)が運用によって変動する商品を指します。
運用方法によっては、元本を超えて大幅に資産を増やせる可能性がある、元本が保証されないため元本割れを起こすリスクがある、インフレに強いという特徴があります。
また、確定拠出年金は運用で得た利益が非課税であるため、元本変動型で運用が成功すると、大きな満足感を得られるでしょう。元本変動型の商品には投資信託が該当します。
運用方法
確定拠出年金を運用する場合、元本保証型と元本変動型のどちらか一方を選択することも、両方を選択することもできます。運用商品は1つだけでなく複数運用できるということをまずは理解しておきましょう。
設定した金額にもよりますが、どちらのメリットも享受できるように割合を決めて運用するのもよいでしょう。
運用商品を変更する際は運用商品の種類や配分割合を変更できる「配分変更」と資産構成を変更できる「スイッチング」という方法があります。
さらなる運用効果を得たり、安心感を得たりするために、運用状況を踏まえて運用方法を変更してもよいでしょう。
まとめ
確定拠出年金とは、老後のための資金形成として準備できる私的年金の一つです。
確定拠出年金の種類には、企業型と個人型があるため、在籍する企業で企業型を導入しているかどうかなどの状況に応じてあらかじめ準備しておきましょう。
確定拠出年金には、メリットだけでなくデメリットもあります。また、運用する商品や運用方法によっても資産形成の結果に差が出る可能性があるため、じっくり検討して運用しましょう。