解雇規制とは?制限に関する法律やルール、緩和の議論も紹介

解雇の事案が発生した場合、「どのようにしたら適正に進められるのか」と疑問に思っていませんか。
日本の解雇規制は、労働者を守るため、とても厳しく設計されています。過去の判例では、一見正当に思えるような理由でも、解雇が認められなかったケースがめずらしくありません。
また、近年は解雇規制の緩和についても議論が活発化しています。人材の流動化が進むなか、人事労務担当者として注視したいテーマといえるでしょう。
本記事では、解雇規制に関する法律上のルールと背景や注意点、規制緩和の動向と今後の備えを解説しています。
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目次

解雇規制とは
解雇規制とは、企業が従業員を解雇する際に、法律や判例により設けられた制限のことです。従業員の解雇は、法律によって厳しく規制されています。
もし法律による制限がなければ、労働者は企業の一存でいつでも解雇されるリスクにさらされることになります。解雇規制は労働者の雇用と生活の安定を守る仕組みといえるでしょう。
解雇規制の根拠
解雇規制は、次の法律と過去の裁判例に基づいています。
労働基準法 | 解雇予告義務、特定の労働者に対する解雇制限 |
---|---|
労働契約法 | 客観的合理性と社会通念に基づく「解雇権濫用法理」の規定 |
その他の個別法 | 男女雇用機会均等法、障害者雇用促進法、公務員制度、公益通報者保護法など、特定理由による解雇禁止規定 |
労働基準法では、企業が解雇を行う際の予告義務(原則30日前)や、労働者が病気・ケガで休業している期間中の解雇制限を定めています。また、女性の産前産後の休業期間とその後30日間の解雇は禁止されています。
また、労働契約法第16条は、客観的で合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない解雇は無効とする規定です。
ほかにも男女雇用機会均等法により、妊娠中と産後1年以内の妊娠・出産・産休取得を理由とした解雇は無効とされています。
日本の解雇規制は、法律の条文だけでなく、過去の裁判で積み重ねられた解釈を基準とすることもめずらしくありません。判例も解雇規制の一部といえます。
企業が安全に解雇を進めるには、法律上の制限を理解したうえで、判例から「どのような理由が解雇として認められるか」を知ることが必要です。
参照:『労働基準法 第19条および20条』e-Gov法令検索
参照:『労働契約法 第16条』e-Gov法令検索
解雇規制の例外
原則として、企業による解雇は法律と判例で厳しく制限されています。しかし、次の条件を満たすと、例外的に解雇が認められる場合もあります。
- 打切補償(うちきりほしょう)を実施した
- やむを得ない事情で経営を継続できない
打切補償とは、業務を理由として長期間労働が不可能となった従業員に対する補償です。ケガや病気の治療に関する休業が3年を経過しても完治しない場合に、平均賃金の1200日分を支給することで、企業は最終的な責任を果たしたとみなされます。
また、災害などで企業経営を継続できないときも、解雇規制の例外として従業員の解雇が可能です。単なる業績不振では認められにくく、やむ得ない事情と判断される事例に限り、労働基準監督署長によって解雇が認められたものとされます。
ただし、手続きを適切に行い、行政の認定を受けることが前提です。企業の判断だけで例外を適用すると、不当解雇と認定されるリスクが高くなるため注意しましょう。
参照:『労働基準法のあらまし(療養・休業・障害補償、例外)』茨城労働局

解雇に関する法律上のルール
企業が解雇を実施する際は、法律で決められたルールを守らなければなりません。解雇規制の根拠の一つとなっている、解雇権濫用法理について、わかりやすく解説します。
解雇権濫用法理により解雇理由には妥当性がなければならない
解雇権濫用法理とは、労働契約法第16条で定められた「解雇理由」に関するルールです。企業の解雇には次の2つの条件がそろわなければなりません。
- 客観的に合理的な理由があること
- 社会通念上相当と認められること
以上に違反する解雇は、「解雇権の濫用」として無効です。たとえば、勤務態度不良や不正行為があり、繰り返し十分な指導をしたにもかかわらず、改善が見られない場合が該当します。企業は解雇理由を慎重に判断しなければなりません。なお、解雇権濫用法理により無効となるかどうかは、民事訴訟になって終局的に判断されます。
特定の理由による解雇を禁止している
法律により、特定の理由に基づく解雇も禁止されています。代表的な3つの例は以下のとおりです。
- 差別に基づく解雇
- 会社の法令違反を通報したことに対する解雇
- 法律で認められた権利行使に対する解雇
以上3つを理由とした解雇の具体例を以下で紹介します。
禁止されている特定の理由による解雇 | 具体例 | 法律上の根拠 |
---|---|---|
差別に基づく解雇 | 国籍や信条、社会的身分や性別を理由とした解雇 | ・労働基準法第3条4条 ・男女雇用機会均等法第6条 |
労働組合員であることや組合結成しようとしたことなどを理由とした解雇 | ・労働組合法第7条 | |
障がい者であることを理由とした解雇 | ・障害者雇用促進法第35条 | |
会社の法令違反を通報したことに対する解雇 | 行政官庁や労働基準監督官への通報や申告に対する解雇 | ・労働基準法104条 |
公益通報したことに対する解雇 | ・公益通報者保護法第3条 | |
法律で認められた権利行使に対する解雇 | 育児介護休業に関する権利行使に対する解雇 | ・育児介護休業法第10条 |
ハラスメントについての相談に対する解雇 | ・男女雇用機会均等法第11条 | |
裁判員として活動するための休暇取得に対する解雇 | ・裁判員法第100条 |
以上の解雇規制は、企業が正当な理由と主張しても通用しない絶対的な制限です。
解雇の種類
企業が実施する解雇には、理由や状況に応じて複数の種類があります。それぞれで求められる解雇規制が異なるため、違いを正しく理解しておくことが必要です。
- 普通解雇
- 懲戒解雇
- 整理解雇
解雇の種類によって、規制にどのような違いがあるのかを解説します。
普通解雇
普通解雇とは、企業と従業員で交わした労働契約が履行されない場合に実施する解雇です。たとえば、著しい能力不足や繰り返される無断欠勤などが挙げられます。従業員が労働者としての義務を果たしていないと判断されたときに普通解雇をします。ただし、企業側には改善機会を提供するなどの配慮が必要です。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、就業規則への違反行為や秩序を乱す問題行動に対する、もっとも重い処分です。たとえば横領や重大なハラスメント、虚偽報告などが一般的です。懲戒解雇を適用するには、就業規則へ明記したうえで、公平に手続きを進めなければなりません。
整理解雇
整理解雇とは、経営不振などを理由として実施する解雇です。企業が人員削減を行う目的で実施します。整理解雇を実施するためには、原則として以下の4つの条件を満たす必要があります。
- 人員整理の必要性
- 解雇回避努力の履行(配転、希望退職の募集など)
- 人員選定の合理性
- 解雇手続きの妥当性(説明・協議の実施)
整理解雇は、企業側の一方的な都合による解雇であるため、より厳格な解雇規制が定められています。企業の業績や財務状況が悪化したときなどに検討され、簡単には認められない点が特徴です。
解雇予告の義務
解雇予告の義務も、解雇規制の一種です。企業が従業員を解雇する際は、事前の予告または手当の支払いが法律で義務づけられています。突然解雇によって、労働者の生活が大きく不安定になるのを防ぐための規制です。
企業が従業員を解雇する際、次のいずれかを必ず実施しなければなりません。
- 30日以上前に解雇を予告する。
- または、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う
解雇予告義務は、一方的な解雇の衝撃を緩和するための規制として労働基準法第20条に定められています。なお、一部の期間について解雇予告手当を支払うことで、予告期間を短縮できます。
ただし、労働基準監督署から「解雇予告除外認定」を受ければ、事前予告や手当の支払いが免除されます。また、試用期間中(14日以内)や短期(日々雇用される者、契約期間が2か月以内の者(更新された場合を除く)、契約期間が4か月以内の季節労働者)の有期雇用契約の労働者についても、解雇予告の対象外です。
参照:『労働基準法第20条』e-Gov法令検索
参照:『「解雇の予告(第20条)』厚生労働省栃木労働局
解雇に関するルールは就業規則に明記
解雇規制の一環として、企業は就業規則に解雇に関するルールを明記する義務があります。どのような状況や理由が解雇に該当するのかを明確にしておかなければなりません。あらかじめ就業規則に示すことで、労働者との間で基準の透明性を確保するためです。労働基準法第89条に基づき、以下の事項を記載する必要があります。
- 解雇の事由
- 懲戒解雇や普通解雇などの区分と要件
- 解雇手続きの流れと手続き的配慮
就業規則に定められた内容に該当しなければ、従業員を解雇できない可能性があるため注意しましょう。
解雇はアルバイトやパート、契約社員も対象
解雇規制は雇用形態に関係なく、アルバイトやパート、契約社員などの非正規労働者も対象です。期間を定めて雇用契約を結んでいる有期雇用にも同様の保護が与えられています。有期雇用契約の場合は以下の2つの点に注意しましょう。
- 有期雇用契約の期間中は原則として解雇できない
- 雇止め法理にも注意しなければならない
有期雇用契約の期間中は原則解雇できない
有期雇用契約の労働者は、契約期間中の解雇が原則として禁止されています。やむを得ない事情がある場合を除いて、企業は契約期間満了まで雇用を継続しなければなりません。
雇止め法理にも注意しなければならない
一般的に、有期雇用契約の従業員を解雇する場合、契約満了時に更新手続きをしない「雇止め」という対応をします。「雇止め」にも一定の規制があります。過去の更新実績や労働者の更新に対する期待権の保護を踏まえ、不当な雇止めは無効とされるため注意しましょう。
解雇すると国の助成を受けられない可能性がある
解雇を検討する企業は、国からの雇用関係に関する助成を受けられなくなるかもしれません。
雇用関係の助成制度では、「一定期間中に企業が解雇していないこと」を条件の1つとしています。これは解雇規制の間接的な制限として設けられており、企業の雇用維持を促す措置です。
助成金の受給資格を失うだけでなく、受給した助成金を返さなければならないケースもあります。解雇を検討する際は、現在利用中または申請中の助成金制度の条件を必ず確認し、解雇の影響を把握しなければなりません。
解雇規制緩和とは
解雇規制緩和とは、企業が従業員を解雇する際に適用される法律上の制限を緩め、柔軟な雇用調整を可能にする考え方です。
戦後の日本では、長期雇用と企業内教育が経済成長を支えてきました。そのため、安易な解雇は経済や社会に悪影響を与えるという考えが根づいています。
一方で、現在のように雇用の流動化が進む時代では、企業にとって柔軟な人事対応が求められる場面も増えてきました。
そこで近年は、企業間競争を活発化させるために、解雇規制を緩和する考え方に注目が集まっています。
解雇規制緩和のメリット・デメリット
解雇規制緩和の具体的なメリット・デメリットについて解説します。企業側だけでなく、従業員側にもメリットがあるという点にも注目して確認してみてください。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
企業側 | ・経営効率の向上 ・競争力の強化 | ・優秀な人材の流出 ・従業員のモチベーション低下 ・企業イメージの悪化 ・教育コストの増加 |
従業員側 | ・転職の活性化 ・キャリアアップ機会の増加 | ・雇用の不安定化 ・生活の不安定化 |
企業側のメリット
解雇規制が緩和されると、企業経営を効率化できます。たとえば企業の業績が悪化した場合、柔軟に人員を調整することで、人件費を適切にコントロールできるためです。業績悪化や需要の変化に応じて、コスト調整の判断が迅速にできれば、損失も抑えられるでしょう。
さらに、変化の激しい市場環境では、不要となった事業部門から成長分野へ人材の異動が求められます。解雇規制の緩和によって、人材の再配置がしやすくなり、競争力の強化や新規市場への参入という選択肢も生まれるでしょう。
従業員側のメリット
解雇規制緩和は、従業員側の転職機会の増加につながります。企業が柔軟な人員調整をすることで、人材の流動性が高まるため、従業員側はよりよい条件で働ける可能性が高まります。
流動化により、従業員のキャリアアップが促進される点もメリットです。従業員は、より多くの経験を積んだり、自分の活躍できる環境でキャリアを築けたりすることで、自分の市場価値を高められます。
企業側のデメリット
解雇規制緩和は、優秀な人材を失うことにもつながりかねません。企業が積極的に人員調整をすることになれば、従業員はいつ解雇されるかわからないという不安を抱えることになります。解雇への不安は、従業員の仕事に対する意欲やエンゲージメントの低下を招き、優秀な人材ほど、より安定した労働環境を求めて退職する可能性もあります。
人が辞めれば新たな人材採用をしなければならず、教育コストの増加もデメリットです。
また解雇規制が緩和されたからといって、解雇を頻繁に実施するような企業は、従業員の生活を軽視しているとみなされ、イメージが悪化するでしょう。明らかに正当な理由がない解雇は、深刻な問題として社会的な避難の対象となります。人材採用や顧客との信頼関係にも悪影響を与えてしまいます。
従業員側のデメリット
解雇規制が緩和されると、安定した雇用は約束されず、従業員は不安を抱えながら働くことになります。家族を養うことや子どもの教育費への不安が大きくなる従業員も少なくありません。人生設計やキャリア形成の計画も立てにくくなるのはデメリットです。雇用への不安は、大きなストレスになり、メンタルヘルスの不調にもつながりかねません。
解雇規制緩和の動向
解雇規制の緩和に関する議論が近年盛り上がっています。とくに、2024年の自民党総裁選では、立候補者における解雇規制緩和に関する考えも争点の1つとして取り上げられました。解雇規制緩和には、以下のような論点があります。
- 不当解雇を金銭解決できる「不当金銭保証ルール」の導入案
- 大企業限定でリスキリングや再就職支援の義務づける提案
- その他、反対や慎重な意見
一方で、労働者保護の観点から慎重論も根強く、規制緩和については賛否が分かれる状況です。
解雇規制の議論は、企業にとっては人事戦略の柔軟性を向上させる一方で、制度設計や適用条件によっては新たなリスクや対応負担が生じることも想定されます。今後の政策動向を注視しながら、自社にとっての影響や対応策を検討することが重要です。
参照:『解雇規制緩和「検討進める」「慎重に」 総裁選候補が会見』日本経済新聞

まとめ
企業が従業員を解雇する際には、法律と判例に基づく厳格な規制が適用されます。客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められ、基準を満たさない解雇は無効と判断されるリスクがあります。
さらに、解雇予告義務や就業規則の明記義務など、解雇規制は多岐にわたります。雇用形態に関係なく、非正規労働者や有期雇用契約の従業員も同様に保護しなければなりません。
一方で、企業経営や人材市場の変化に対応するため、解雇規制緩和の議論も進行しています。今後の法改正や政策動向を踏まえ、企業は労働者保護と経営の柔軟性のバランスをとった人事運用を検討する必要があります。
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