雇用保険の加入は何歳まで? 年齢制限撤廃の理由や高年齢従業員に必要な手続きを解説
高齢化が進む日本では、多くの企業が高年齢の従業員を雇用し続けています。しかし、雇用保険の年齢制限については、整理できていない担当者もいるでしょう。
以前は雇用保険に年齢制限が設けられていたため「何歳まで加入させる義務があるの?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。現在は、雇用保険の年齢制限は撤廃されています。ほかにも65歳以上に適用される「特例加入」のように、高年齢者の雇用保険については覚えておきたいさまざまな規則があります。
本記事では、雇用保険の年齢制限が撤廃された理由や、65歳以上の高年齢従業員が保険に加入するための具体的な手続きを解説します。年齢に関係なく多様な人材を雇用するために、手続きのポイントを確認しておきましょう。
雇用保険の加入は何歳まで?
雇用保険の加入条件を満たす従業員は、何歳であっても雇用保険に加入させる必要があります。
かつての制度では雇用保険に年齢制限が設けられており、従業員が65歳以上になると加入資格が失われるという仕組みでした。しかし、2017年の改正雇用保険法施行により年齢制限が撤廃され、65歳以上でも「高年齢被保険者」として雇用保険に加入できるようになりました。
経過措置として2020年3月までは雇用保険料の免除期間が設けられていましたが、2024年現在ではそれも終了しています。企業は、加入条件を満たす従業員を、年齢や雇用形態に関係なく雇用保険に加入させ、雇用保険料を負担しなければなりません。
年齢制限が撤廃され、免除期間も終了したため、現在では高年齢者の雇用保険料が免除されることはありません。通常の従業員と同様に給与から天引きする必要があります。控除される分、従業員の手取りの給与は下がってしまうものの、高年齢求職給付金や介護休業給付金、教育訓練給付金などの各種給付を受けられるため、本人にとって多くのメリットがあります。
ただし、法改正について十分理解していない従業員もいるため、引き続き雇用保険料を徴収する旨を企業側から周知することが大切です。
雇用保険の加入条件
ここで雇用保険の加入条件をおさらいしましょう。
雇用保険の加入条件は、以下の2つです。
- 31日以上働く見込みがある
- 週の所定労働時間が20時間以上
たとえば、65歳で定年退職後「1日6時間×週4日(週24時間)」という勤務形態で働き続ける従業員に対しては、週の所定労働時間が20時間以上なので雇用保険の加入義務が生じます。
一方、「1日5時間×週3日(週15時間)」の従業員に対しては、所定労働時間の要件を下回っているため、雇用保険料の徴収は不要です。
雇用保険の加入条件を満たしていても、適用除外の条件に当てはまるなら被保険者として認められません。たとえば、基本的に学生は雇用保険に加入できない決まりです。ただし、夜間や定時制、通信制の学校に通っている学生は、例外的に雇用保険に加入することが可能です。
近年は、学び直しのために大学へ通うシニア層も増えています。高年齢者を雇用する際は、加入条件を満たしていることはもちろん、適用除外条件に当てはまらないかを確認しましょう。
雇用保険の年齢制限が撤廃された理由
雇用保険の年齢制限が撤廃された背景には、以下の目的があります。
- 高年齢従業員の就労促進
- 人材不足の解消
それぞれの目的について詳しく解説します。
高年齢従業員の就労促進
1つめの目的は、高年齢従業員の就労促進です。日本には、元気で就労意欲の高い高年齢者が数多くいます。厚生労働省の資料によると、65~79歳までの男女の身体機能は20年前と比べて若返っており、65歳を超えて働くことを希望する高年齢者は約4割にのぼりました。
雇用保険の年齢制限撤廃は、高年齢者自身の価値観の変化に対応し、65歳以上でも安心して働ける環境を整える取り組みの一環として実施されてきました。
人材不足の解消
少子高齢化により、日本の生産年齢人口は今後も減少していくと見込まれています。実際に、現在でも多くの企業が人材の確保に苦戦しています。
就労意欲を持つ高年齢者の活用は、人材不足を解消する手段の一つです。
また、高年齢者の雇用には、当人がこれまでの人生で培ってきた経験や知識を活かせるというメリットもあります。経験豊富なシニア人材の活用は、人材不足を解消するだけでなく、企業の成長にもつながる可能性があるでしょう。
労働力の減少に対応するために、国も高年齢者の雇用を促すさまざまな施策を実施しています。雇用保険の年齢制限撤廃も、その取り組みの一つです。
高年齢者(65歳以上)の雇用保険手続き
続いて、高年齢者の雇用保険の手続きについて詳しく解説します。
1. 雇用する従業員が65歳になった場合
雇用する従業員が65歳になったら、65歳に達した時点で「一般被保険者」から「高年齢被保険者」に移行されます。被保険者としての区分は変わりますが、制度上の扱いとしては変化がないので、特別な手続きは必要ありません。
ただし、65歳以上も被保険者であり続けるためには、雇用保険の加入条件を満たす必要があります。以前までフルタイムで働いていた従業員が、65歳以降は時短勤務になる場合は注意が必要です。
雇用保険の加入条件には「週の所定労働時間が20時間以上」という要件があります。そのため、時短勤務により所定労働時間が減少すると、加入条件を満たせなくなる可能性があります。
「1日5時間×週3日」で働く従業員は、週の所定労働時間は15時間なので、加入条件を下回ってしまいます。
2. 65歳以上の従業員を新たに雇用した場合
65歳以上の従業員を新たに雇用するときは、雇用保険の加入条件を満たしている人については加入手続きが必要です。
手続きの方法は、65歳未満の従業員を加入させる場合と変わりません。
必要書類や期日、提出先など基本的なやり方をおさらいしておきましょう。
必要書類 | 雇用保険被保険者資格取得届 |
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添付書類 | 以下のいずれかのケースに当てはまる場合は、労働者を雇用した事実と雇用年月日を証明する資料(賃金台帳や労働者名簿など)を添付する ・事業主が被保険者資格取得届をはじめて提出する場合 ・提出期限を過ぎている場合 ・過去3年間に事業主の届出に起因する不正受給があった場合 ・労働保険料を滞納している場合 ・著しい不整合がある場合 ・事業主に対して、雇用保険法やその他の労働関係法令に関する著しい違反が認められる場合 ※有期契約の場合は、さらに労働条件を確認できる資料(就業規則や雇用契約書など)を求められる |
提出方法 | ・ハローワークの窓口に直接提出 ・郵送 ・電子申請 |
提出期日 | 雇用日の属する月の翌月10日まで |
提出先 | 管轄のハローワーク |
高年齢者(65歳以上)の雇用保険の特例加入とは
65歳以上の労働者は、「マルチジョブホルダー制度」という雇用保険の特例加入制度を利用できます。マルチジョブホルダー制度とは、雇用保険の加入資格を判断する際、2つ以上の事業所における所定労働時間を合算する制度です。
A社で「4時間×週2日」、B社で「5時間×週3日」という働き方をしている人は、それぞれの事業所では所定労働時間が週20時間を下回っているため、通常は雇用保険に加入できません。
マルチジョブホルダー制度を活用すると、所定労働時間を合算し「8時間+15時間=23時間」として考えられるため、雇用保険の被保険者資格が認められます。
マルチジョブホルダー制度の手続きは、基本的に労働者本人が実施するものです。しかし、企業には提出書類の事業主記載事項への記入や必要書類の交付が求められるほか、申請後にハローワークから交付された書類を保管しておく必要があります。
高年齢者(65歳以上)の雇用保険手続きにおける注意点
65歳以上の従業員を雇用する場合は、雇用保険の手続きについて以下の3点に注意しましょう。
- 条件を満たさなくなったら喪失届を提出する
- 雇用保険料率を定期的に確認する
- 労災保険は適用条件を満たさなくても手続きをする
それぞれ注意したいポイントについて、詳しく解説します。
条件を満たさなくなったら喪失届を提出する
年齢制限は撤廃されましたが、雇用保険に加入できるのは加入条件を満たしている従業員のみです。65歳以上の従業員も、働き方の変化により途中で週の所定労働時間が20時間を下回ったら、雇用保険の資格喪失手続きが必要です。
ただし、所定労働時間の減少が一時的・臨時的であれば、資格喪失手続きは必要ありません。
雇用保険料率を定期的に確認する
雇用保険料率は、定期的に見直されています。前年度から据え置きの年度もあれば、変更される年度もあるため、常に最新の情報を把握しておくことが大切です。
誤った雇用保険料を徴収してしまうと、計算のやり直しや従業員への説明・謝罪、差額の返金・控除の手続きが必要になるため、定期的に雇用保険料率を確認しましょう。
労災保険は適用条件を満たさなくても手続きをする
雇用保険料と労災保険料は、「労働保険料」として合算して納付するのが一般的です。
このように両者は通常一体として扱われますが、雇用保険の加入条件を満たしていない従業員についても、労災保険には加入させなければなりません。そのため、雇用保険料が発生しなくても、労災保険料は忘れずに納付するように注意しましょう。
雇用保険に年齢制限はなく、何歳でも手続きが必要
2017年の改正法の施行により、雇用保険の年齢制限は撤廃されています。企業は、年齢に関係なく、加入条件を満たす従業員を雇用保険に加入させる義務があります。
65歳以前から引き続き雇用している従業員については、65歳以降も特別な手続きは不要です。ただし、65歳の定年以降に勤務形態を変更して時短勤務で働く場合は、所定労働時間が加入基準を下回る可能性があるため注意しましょう。
経験豊富で就労意欲の高い高年齢者の活用は、人手不足を解消する有効な手段といえます。
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