週20時間未満も雇用保険の対象に? 週10時間以上までに拡大する理由を解説

週20時間未満も雇用保険の対象に? 週10時間以上までに拡大する理由を解説

多様な働き方への対応や少子化対策の観点から、雇用保険の加入条件の一つである「所定労働時間」の基準が見直されつつあります。

本記事では、週20時間未満の労働者が雇用保険の適用を受ける可能性と、適用拡大の背景にある社会課題について解説します。実際に制度が変更した際に必要となる対応についても紹介しているので、人事労務担当者は参考にしてください。

 

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    【現行】週20時間未満は雇用保険が適用されない

    現行の雇用保険制度では、被保険者となるには「週の所定労働時間が20時間以上」という条件を満たす必要があります。そのため、所定労働時間が週20時間未満の従業員には、雇用保険は適用されません。

    フルタイムの従業員であれば自動的に加入条件を満たせますが、パートやアルバイトは所定労働時間が週20時間に達しない場合もあるでしょう。たとえば「1日5時間×週3日」という働き方であると、週の労働時間が15時間となり20時間未満です。

    また、以前まで週20時間以上働いていた人も、所定労働時間が週20時間未満になったら資格喪失手続きが必要です。

    ただし、所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書で定められた労働時間を指します。一時的にシフトが増えて週20時間以上働いたとしても、雇用保険の被保険者としては扱われません。

    参照:『第4章 被保険者について』厚生労働省

    雇用保険の加入条件

    雇用保険の加入条件には、所定労働時間だけではなく雇用日数(見込み)の要件も含まれています。具体的な加入条件は、以下の通りです。

    • 週の所定労働時間が20時間以上
    • 31日以上の雇用見込みがある

    ただし、雇用保険にはいくつかの適用除外条件も設けられています。上記2つの加入条件を満たしていても、適用除外条件に当てはまる場合は被保険者として認められません。

    たとえば、昼間の学校に通う学生は、原則として雇用保険の被保険者にはなれない決まりです。一方、夜間や定時制、通信制の学校に通う学生であれば問題なく加入できます。

    また、昼間の学生でも、以下のいずれかに当てはまる場合は雇用保険への加入が可能です。

    • 卒業見込み証明書を有し、卒業後も引き続き同じ事業所で勤務する予定がある
    • 休学している
    • 事業主の指示や承認を受けて、雇用関係を維持したまま大学院などに通っている
    • 課程修了要件に出席日数を含まない学校に在学し、同じ事業、同じ業務に従事するほかの労働者と同様に勤務できると認められる

    参照:『被保険者に関する具体例』厚生労働省

    このように、雇用保険の加入条件にはやや複雑な部分もあります。適用除外条件や例外も含め、従業員が適用対象なのかを正しく確認することが大切です。

    週20時間未満も雇用保険の対象に?

    2023年、厚生労働省は雇用保険の適用対象を拡大する方針を示しました。

    現行制度の「週の所定労働時間が20時間以上」という加入条件を見直し、所定労働時間が週10時間以上であれば雇用保険に加入できるようにすべきという方針です。

    もし拡大が適用されると、パートやアルバイトなど短時間で働く人も雇用保険に加入しやすくなり、被保険者は最大500万人増えることが見込まれています。

    企業の準備期間も加味し、新制度は2028年から施行される予定です。

    担当者は、以前は雇用保険に加入していなかった従業員の加入手続きを行う必要があるかもしれません。新しい制度について理解を深め、準備しておくとよいでしょう。

    参照:『雇用保険部会報告(素案)』厚生労働省

    給付の種類は現行の被保険者と同等の見込み

    雇用保険の適用範囲の拡大により新たに雇用保険の被保険者になった人は、現行の被保険者と同等の給付を受けられる見込みです。失業中の生活を支える失業保険や、育児休業を取得した人に支給される育児休業給付など、各種給付金をより多くの労働者が受け取れるようになります。

    同等の給付を受けられることを踏まえて、保険料率や国庫負担割合も、現行の被保険者と同水準になると予想されています。

    支給基準は見直される見込み

    雇用保険の適用範囲の拡大にともない、失業保険の支給基準は見直される予定です。

    現行制度では「賃金支払基礎日数が11日以上ある月」または「支払いの基礎となった労働時間が80時間以上ある月」を被保険者期間の1か月として算定します。

    新制度では、「賃金支払基礎日数が6日以上ある月」または「支払いの基礎となった労働時間が40時間以上ある月」に要件が緩和される見込みです。

    このほかにも失業認定基準や賃金日額の法定下限額など、複数の変更点があると予想されています。

    週20時間未満も雇用保険の対象とされる背景

    雇用保険の加入条件は、以前までも何度か見直されてきました。

    たとえば、2000年までは適用対象に年収要件が盛り込まれていましたが、2001年には廃止されています。そして2009年には、雇用期間(見込み)が「1年以上」から「6か月以上」に短縮され、翌年には現行と同じ「31日以上」という要件に変更されました。

    いくつかの変更が実施されてきた雇用保険ですが、所定労働時間が今回ほど大幅に短縮されたのは制度開始以降初めてのことです。

    所定労働時間が見直されているのには、どのような理由があるのでしょうか。雇用保険の加入条件の拡大が検討されている背景を紹介します。

    参照:『被保険者保険の適用範囲の主な変遷について』厚生労働省

       『平成22年4月1日から雇用保険制度が変わりました!』厚生労働省

    多様な働き方への対応

    雇用保険において、週の労働時間が20時間未満の短時間労働者が、徐々に増加しています。厚生労働省の資料によると、従業員数(役員を除く)に対する非正規雇用者の割合は約4割にのぼることがわかりました。

    短時間の非正規雇用には「自分の都合にあわせて働きやすい」「家庭との両立がしやすい」といったメリットがあるものの、正規雇用と比べてセーフティネットが少ない現状があります。

    雇用保険の適用拡大には、このような多様な働き方に対応し、より多くの労働者の生活を守る効果が期待されています。

    参照:『概要(事前分析表のポイント)』厚生労働省

    リスキリングの推進

    リスキリングとは、新しい職を得たり、今の職業で求められるスキルの変化に対応したりするため、必要なスキルや知識を学ぶことです。生産年齢人口の減少が社会課題になっている昨今、労働者のリスキリングは、人材不足解消の手段の一つとしてますます注目を集めています。

    労働者が必要なスキルや知識を身につけ、新しい就職先を安心して探すためには、失業中の生活を支える失業保険の要件緩和、そして雇用保険の適用範囲の拡大が求められています。

    仕事と育児の両立支援

    仕事と育児の両立支援も、雇用保険の適用拡大の目的の一つです。日本では、経済的な理由もあり子どもを持たない選択をする世帯が増え、少子高齢化が深刻化しています。

    アルバイトやパートなどで短時間働く人が失業保険や育児休業給付などを受けられるようになれば、より幅広い世帯を保護でき、仕事と育児の両立をサポートできると考えられています。

    新たに雇用保険の適用対象になった場合の対応

    2028年以降は、所定労働時間が週20時間未満の従業員についても、雇用保険の手続きが必要になる可能性が高まってきました。

    実際に、新たに雇用保険の手続きをする必要が生じた場合、担当者に求められる対応について解説します。

    事業所の登録手続き

    従業員を雇用保険に加入させるためには、まず会社を適用事業所として登録する必要があります。登録されていない企業は、新制度の施行にあわせて、雇用保険適用事業所設置届を提出する必要があります。

    参照:『雇用保険適用事業所を設置する場合の手続きについて』厚生労働省

    新たな対象者の加入手続き

    次に、新たに雇用保険の適用対象になった従業員について、個別の手続きを進めます。

    加入条件と適用除外条件を加味し、現在被保険者ではない従業員が適用拡大の対象になるか確認しましょう。対象となる従業員がいる場合は、雇用保険被保険者資格取得届を提出します。

    従業員への説明

    適用範囲の拡大について、従業員に対して説明することも大切です。

    新たに適用対象になる従業員だけでなく、社内に広く周知しましょう。適用範囲に含まれない従業員も、今後働き方が変われば雇用保険に加入できる可能性があるためです。

    給与計算方法の変更

    雇用保険に加入すると、雇用保険料を納付する必要が生じます。雇用保険料は会社と従業員がそれぞれ負担するので、毎月の給与から従業員負担分を天引きしなければなりません。

    給与計算方法の変更に迅速に対応できるよう、基本的な計算方法や仕組みを理解しておきましょう。

    途中から週20時間未満になったときの対応

    現行の制度では、週の所定労働時間が20時間未満になった場合は、雇用保険の資格喪失手続きが必要です。

    以前まで「1日6時間×週4日(週24時間)」で働いていたパートタイム労働者が「1日5時間×週3日(週15時間)」で働くことになったら、所定労働時間が週20時間を下回ることになります。また、正社員が定年退職をして嘱託職員になった場合も、同様に所定労働時間が週20時間未満になる可能性があります。

    ただし、労働時間の減少が一時的なものなら、雇用保険の資格喪失手続きは不要です。

    たとえば、従業員から「子どもが小学校に入学するまで時短勤務にしたい」と申し出を受け入れた場合、結果として労働時間が週20時間を下回っても、被保険者資格は継続されます。

    週20時間未満を判断する基準

    所定労働時間は、就業規則や雇用契約書などに記載された内容に基づくものです。しかし、所定労働時間と実労働時間に相違があるときは、実態に対応して取り扱う必要があります。

    たとえば、契約書での所定労働時間が20時間未満でも、直近数か月間の労働時間が週20時間以上の従業員は、雇用保険に加入させなければなりません。

    週の所定労働時間が定まっておらず、短期的かつ周期的に変動する従業員は、1周期における所定労働時間の平均で判断します。

    また、所定労働時間が複数週や月単位、年単位で定められている従業員は、それぞれ以下のように判断します。

    複数の週で定められている場合各週の平均労働時間を週の所定労働時間とする
    月単位で定められている場合1か月の所定労働時間を「12分の52」で割った時間を週の所定労働時間とする
    年単位で定められている場合1年間の所定労働時間を52で割った時間を週の所定労働時間とする

    参照:『第4章 被保険者について』

    雇用保険の適用範囲は拡大される見込み(まとめ)

    雇用保険の所定労働時間に関する要件は、現在の週20時間以上から週10時間以上に拡大される見込みです。新制度が施行されると、以前までの被保険者資格を持たなかった従業員にも、雇用保険への加入が認められる可能性があります。

    週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の従業員を雇用している企業は、加入手続きや保険料の徴収に備えて制度の変更点を正しく理解し、準備を進めましょう。

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