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雇用契約と業務委託契約の違いを見分ける2つのポイント|比較表とチェックリストで解説

雇用契約と業務委託契約の違いを見分ける2つのポイント|比較表とチェックリストで解説

企業において働くうえでの契約方法には、雇用契約と業務委託契約があります。

雇用契約とは、雇用主と労働者という主従関係がある契約方法を指します。一方、業務委託契約は主従の関係なく、みずからの判断で働く契約方法です。

本記事では、雇用契約と業務委託契約を区分けする2つのポイントを、比較表やチェックリストを用いてわかりやすく解説します。

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    雇用契約と業務委託契約

    まずは、雇用契約と業務委託契約の概要や意義、民法における定義の違いを紹介します。

    雇用契約とは

    雇用契約は、民法第623条に定義されている労働供給契約の一つです。

    (雇用)
    第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

    引用:『民法 第623条』e-Gov法令検索

    つまり、労働者は雇用主の指揮命令下で労働に従事すること、雇用主は労働の対価として労働者へ賃金を支払うことを互いに約束するのが雇用契約です。

    雇用主と労働者の間で必ずしも雇用契約書を取り交わす必要はなく、口頭での合意のみでも契約は成立します。ただし、合意した証拠を書面で残さなかったために労使間のトラブルへ発展するリスクもあるため、雇用契約書は作成し交付しておくと安心です。

    雇用契約のメリットは、雇用主が労働者を直接雇用するため、幅広い業務を臨機応変に任せられる点です。

    しかし、直接雇用することによって、社会保険料や福利厚生にかかる費用などの金銭的な負担が増えてしまうというデメリットもあります。直接雇用した労働者は、会社の都合で簡単には解雇できない点にも理解しておきましょう。

    業務委託契約とは

    業務委託契約とは、自社で対応できない業務を他社やフリーランスの個人など外部に依頼する契約方法です。

    業務委託契約の最大の特徴は、委託者と受託者の双方が対等な立場で契約を締結することです。使用者の指揮命令下で労働者が働く雇用契約とは、大きく異なるポイントといえます。

    業務委託契約を締結するメリットは、自社のニーズに応じて業務を発注できる点です。また、自社では対応できない業務も、外部の専門的な人材やノウハウを活用すれば効率よく遂行できます。

    一方で、外部に業務を委託していると、社内にノウハウが蓄積されないというデメリットがあります。さらに、受託者側の業務効率が悪いと収益性が低くなってしまう点も懸念されます。

    業務委託契約自体には、雇用契約のように法的な定義はありません。しかし、民法第632条に定義されている「請負契約」や、民法第643条に定義されている「委任契約」が該当すると考えられています。

    参照:『民法 第632条、第643条』e-Gov法令検索

    請負契約

    請負契約とは、委託者(注文者)が仕事を依頼し、受託者(請負人)が成果物を納めることを目的とした契約です。本記事では、請負人を含めて受託者とし、注文者を含めて委託者として表記します。

    請負契約を交わすと、受託者には依頼された仕事を完成させる義務が発生し、成果物を納品することではじめて報酬が支払われます。

    委託者が納得するような成果や結果を出せない場合、報酬を請求できなくなるため注意が必要です。ただし中途解約の場合には、すでに行った業務の履行割合に応じた報酬を請求することができます。

    委任契約・準委任契約

    委任契約・準委任契約とは、成果を問わない労務に対して発注者側が報酬を支払う契約方法です。

    委任契約の具体例として、以下のようなケースがあります。

    • 訴訟行為を弁護士に依頼する
    • 登記の手続きを司法書士に依頼する
    • 確定申告の手続きを税理士に依頼する

    たとえば、弁護士に訴訟行為を依頼した場合、敗訴したとしても、依頼した労務に対する報酬を支払わなければなりません。

    準委任契約とは、委託者が業務を依頼し、受託者がその業務を遂行していく過程で報酬が発生する契約方法です。委任契約と準委任契約の大きな違いは、委託する業務内容にあります。

    委任契約では法律行為を委託するのに対し、準委任契約では事務処理などの事実行為を委託します。たとえば、専門的な知識や能力が必要なシステムの設計・運営などの業務をシステムエンジニアに依頼する際は、準委任契約を交わします。

    雇用契約と業務委託契約の違い【比較表】

    雇用契約と業務委託契約の主な違いは、以下の通りです。

    雇用契約業務委託契約
    雇用主就業先企業なし
    指揮命令あり(就業先)なし
    提供するもの労働力成果物や業務の遂行
    勤務時間の制限ありなし
    勤務場所の指定ありなし
    社会保険就業先にて加入なし
    福利厚生就業先より提供なし

    契約方法によってさまざまな違いがあるため、自社にとってどちらの契約が最適かを判断しなければなりません。

    雇用契約と業務委託契約の違いを見分ける2つのポイント

    業務委託契約を締結していたとしても、実態によっては雇用契約と判断されるケースがあります。ここでは、雇用契約と業務委託契約の違いを見分けるポイントを詳しく解説します。

    • 労働基準法で保護されているか
    • 企業の指揮命令下にあるか

    労働基準法で保護されているか

    業務委託契約においては、労働基準法が適用されません。受託者は労働者として保護されないため、自己責任のもと、休日の管理や社会保険の手続きなどをする必要があります。

    労働基準法が保護する労働者とは「雇用主から使用され、提供した労働に対して賃金を支払われる者」です。

    労働者であるかどうかの判断基準を「労働者性」といいます。企業から使用されて賃金を支払われているのであれば、労働者性があるということです。労働者性がある場合は雇用契約、ない場合は業務委託契約を締結していると判断できるでしょう。

    企業の指揮命令下にあるか

    業務委託契約における委託者と受託者は対等な関係にあるため、原則として受託者は委託者の指揮命令下には置かれません。企業に雇われる立場ではなく、あくまでも取引相手として業務を遂行します。

    一方で、雇用契約を締結した従業員は、企業からの指揮命令に基づいて業務にあたる必要があります。つまり、雇用契約によって、企業と従業員との間に主従関係が生まれるのです。また、従業員には労働の対価として企業から賃金が支払われます。

    このように、企業の指揮命令下にあって労働の代償として賃金を支払われている場合には「使用従属性」があると判断されます。使用従属性があれば雇用契約、なければ業務委託契約であると覚えておきましょう。

    雇用契約と業務委託契約の違いを判断【チェックリスト】

    雇用契約と業務委託契約の違いを判断する際の重要なポイントは、企業の指揮命令下にあり労働の対価として賃金が支払われているか、つまり「使用従属性があるか」です。

    使用従属性の有無を判断するためのチェックリストを表にまとめました。

    1.仕事の依頼、業務従事の指示などに対して拒否できないはい・いいえ
    2.業務遂行上の指揮関係が強いはい・いいえ
    3.勤務場所や勤務時間の拘束性が高いはい・いいえ
    4.通常予定されている業務以外に仕事を任されるはい・いいえ
    5.労務提供の代替性があるはい・いいえ
    6.報酬の基準が結果基準ではなく、時間基準であるはい・いいえ
    7.欠勤時に報酬が控除されているはい・いいえ
    8.残業手当がつくはい・いいえ
    9.機械や器具、原材料などを委託先が負担してくれるはい・いいえ
    10.就業規則・服務規律を適用されるはい・いいえ
    11.退職金制度や福利厚生制度が適用されるはい・いいえ
    12.給与所得として源泉徴収されるはい・いいえ
    13.ほかの人に業務を代行してもらっても問題ないはい・いいえ

    「はい」と回答した項目については、使用従属性があると認められます。

    たとえば、仕事をする際の勤務場所や時間帯を指示される、欠勤控除や残業手当が適用されるといった場合は、使用従属性があり、雇用契約を締結していると判断される可能性が高いでしょう。

    ただし、1つの項目のみで雇用契約と見なされるわけではなく、複数の要素を総合的に見て雇用形態が判断されます。

    既存の業務委託契約が雇用契約と判断されたら?

    業務委託契約を締結しているケースであっても、実態によっては雇用契約と判断されるケースもあります。雇用契約と判断された場合、労働者は以下のような労働基準法による保護を受けられます。

    • 雇用保険や健康保険、労災保険、厚生年金保険などの社会保険制度が適用される
    • 勤務年数や勤務状況に応じた年次有給休暇を取得できる
    • 労働基準法に基づいて残業代を請求できる

    また企業には、各種保険への加入手続きや福利厚生の対応などが求められます。業務委託契約から雇用契約へと契約し直すことも必要です。

    雇用契約と業務委託契約の区別が重要な理由

    近年では働き方が多様化し、人々がさまざまな雇用形態で働くようになりました。

    契約方法にはいくつかの種類がありますが、そこで重要となるのが「雇用契約か否か」という判断基準です。労働基準法は雇用契約を締結した労働者を保護する法律であり、契約方法によって、働く人がどのような法的保護を受けられるかが大きく異なります。そのため、雇用契約か否かが重要とされています。

    業務委託契約を締結していても、訴訟や裁判により実質的には雇用契約であると認定される事例もあります。雇用契約と認定されて、労働者に適用すべき措置を怠ってしまうと、委託者は労働基準法や職業安定法に違反したと見なされ、罰則の対象となるため注意が必要です。

    雇用逃れとは

    雇用逃れとは、偽装請負ともいい、実態は労働者として働かせているにもかかわらず、業務委託契約を締結しているかのように偽装する行為です。

    自社の従業員ではなく外部の業者として働かせることで、社会保険料や残業代、年次有給休暇の付与から逃れ、コストや手間を削減しようとする動きを指します。

    近年では、政府や労働組合などの監視組織による取り組みや取り締まりが行われているため、正しい方法での業務委託契約が求められています。

    雇用契約と業務委託契約は同時に締結可能

    雇用契約と業務委託契約は、同時に締結できます。同時に契約する例として、パートやアルバイト、契約社員のような非正規雇用労働者が、収入を増やすために企業の仕事を請け負うケースが挙げられます。

    雇用契約と業務委託契約を同時に締結する際は、業務委託契約が雇用の延長と判断されないよう、それぞれの契約における業務を明確にして切り離すことが大切です。

    パートタイムといった雇用契約では時間基準で給与が発生するのに対し、業務委託契約では業務内容や成果物に対して報酬が発生します。両者の業務範囲が重複してしまわないように注意しましょう。

    雇用契約と業務委託契約を区別して労働者の保護を(まとめ)

    雇用契約と業務委託契約を適切に区別することは、労働者の保護の観点から非常に重要です。

    雇用契約のもとで働く労働者は、社会保険などの保障があり、労働基準法に基づく保護を受けられます。また、組織内での長期的なスキルアップやキャリア形成が可能です。

    一方で、業務委託契約は専門的な業務や成果物に対して報酬が支払われ、委託者と対等な立場にあることが特徴の契約形態です。

    雇用関係が偽装されて業務委託契約として処理され、労働者が不当な条件で働くことがないよう、2つの契約の違いを正しく理解しましょう。企業は業務内容やコストだけでなく、実態や適性を考慮する必要があります。適切な契約方法を選ぶことが効率的な業務運営につながるでしょう。