派遣の雇用契約書は派遣元が発行|関連する書類と保管期間、収入印紙の要不要を解説

派遣の雇用契約書は派遣元が発行|関連する書類と保管期間、収入印紙の要不要を解説

人材不足を解消するため、派遣社員を受け入れている企業は多くあります。しかし、自社の従業員との雇用契約と比べて、派遣契約の仕組みはやや複雑です。

派遣社員は、派遣先ではなく人材派遣会社(派遣元)と雇用契約を結びます。そのため、派遣社員の雇用契約書は派遣元より発行されますが、派遣先企業にも取るべき手続きがあります。

派遣社員が安心して働ける環境を整えるためには、派遣先企業にも、求められる手続きや書類を正確に把握しておくことが大切です。

本記事では、派遣先企業に向けて、派遣契約に関連する書類や保管期間などを解説します。派遣社員を受け入れる予定がある場合は、ぜひ参考にしてください。

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    派遣社員は派遣元と雇用契約書を交わす

    派遣社員を直接的に雇用するのは、派遣先ではなく人材派遣会社です。

    派遣社員が実際に勤務するのは派遣先の企業ですが、あくまでも派遣社員は人材派遣会社の社員です。そのため、派遣社員に対する雇用契約書は人材派遣会社が発行します。

    派遣労働の仕組み【簡単解説】

    派遣社員を受け入れる際、派遣先企業は人材派遣会社と「派遣契約」を結びます。人材派遣では人材派遣会社を中心に、派遣先企業と派遣社員がそれぞれ異なる契約を締結します。

    派遣先企業と派遣社員との間に雇用関係はありません。しかし、派遣先の企業は、業務の指揮命令権は与えられているため、仕事の進め方や休憩・休日などについて指示します。

    一方、派遣社員に給与を支給したり、有給休暇を付与したりする役割は、雇用主である人材派遣会社が担います。

    派遣社員が安心して働けるようにするためには、派遣元(人材派遣会社)・派遣先がそれぞれの役割を十分に理解し、密に連携することが大切といえるでしょう。

    派遣社員の契約において必要な書類

    派遣社員の受け入れ時に必要な雇用契約に関する書類は、以下の通りです。

    • 労働者派遣基本契約書
    • 労働者派遣個別契約書
    • 派遣労働者通知書
    • 事業所抵触日の通知書
    • 派遣先管理台帳/派遣元管理台帳
    • その他

    それぞれの書類の概要を順に詳しく解説します。

    労働者派遣基本契約書

    労働者派遣基本契約書は、自社が人材派遣サービスを利用するため、人材派遣会社との間で基本契約を結ぶ書類です。法律上は必須ではないものの、トラブルを回避するために作成することが多いようです。

    記載内容は、主に派遣料金や支払い方法、安全衛生、損害賠償などです。派遣先企業と人材派遣会社の間で、認識を合わせておくべき事項を記載します。

    労働者派遣個別契約書

    労働者派遣個別契約書は、実際に派遣社員を受け入れるとなった段階で、それぞれの労働条件や期間などを定めるための書類です。労働者派遣法によって作成が義務づけられており、記載事項にもルールが設けられています。

    たとえば、以下の項目は記載が必須です。

    • 業務内容
    • 業務における責任の程度
    • 就業場所
    • 就業時間
    • 休憩時間
    • 時間外労働 など

    そのほかの項目や具体的な記入方法は、厚生労働省が公開している記入例が参考になるでしょう。人材派遣会社からも説明を受ける可能性が高いです。契約を締結する前に目を通しておくとよいでしょう。

    参照:『労働者派遣(個別)契約書 記入例』厚生労働省

    派遣労働者通知書

    派遣労働者通知書は、人材派遣会社から派遣先企業に対して交付される書類です。

    派遣されるスタッフの氏名や年齢、担当する業務内容などが記載されています。文字通り派遣先企業に対して「このような労働者を派遣します」と通知する役割を担います。

    派遣労働者通知書も法的な作成義務はありません。しかし、人材派遣会社から送られてきた場合は、問題がないか内容を確認しましょう。

    たとえば、以下の内容を確認することが大切です。

    • 直近3か月で別の派遣会社から受け入れたことがないか
    • (女性の場合)女性に就業させてもよい業務内容か
    • 年齢による就業の制限はないか
    • 無期雇用か有期雇用か
    • 社会保険に加入しているか

    厚生労働省が記入例を公開しているので、具体的な内容の把握に役立てましょう。

    参照:『5_派遣労働者通知書』厚生労働省

    事業所抵触日の通知書

    事業所抵触日の通知書は、派遣先企業から人材派遣会社に対して通知する書類です。

    労働者派遣法により、同じ事業所が派遣社員を受け入れられる期間は最長3年までと定められています。上限に抵触する最初の日を「抵触日」といい、派遣先から人材派遣会社に情報を共有しなければなりません。

    たとえば、2024年4月1日から派遣社員を受け入れ始めたとすると、抵触日は2027年4月1日です。詳しい記載内容は、厚生労働省の記載例を参考にしましょう。

    参照:『事業所単位の派遣可能期間の制限に抵触する日の通知書【例】』厚生労働省

    派遣先管理台帳/派遣元管理台帳

    派遣先企業と人材派遣会社は、それぞれ「派遣先(派遣元)管理台帳」を作成する義務があります。派遣社員の氏名や業務内容、雇用期間の定めの有無、派遣先責任者などの項目を記載し、派遣社員の雇用や労働環境を守るために役立てます。

    必要な項目さえ網羅されていれば書式・形式の決まりは特にありません。労働局が公開しているテンプレートを活用するのもおすすめです。

    参照:『労働者派遣事業に係る契約書・通知書・台帳関係様式例』東京労働局

    その他

    派遣契約を結ぶ際は、その他、以下の書類も必要です。派遣先の企業は関与しない書類ですが、どのような書類が作成されるのか把握しておいてもよいでしょう。

    • 就業条件明示書/労働条件通知書
    • 人材派遣会社・派遣社員間の雇用契約書

    就業条件明示書とは、派遣法に基づき人材派遣会社が派遣社員に対して労働条件を明示するための書類です。一方、労働条件通知書は労働基準法に基づき作成・交付が義務づけられる書類です。

    就業条件明示書と労働条件通知書は根拠となる法律が異なります。ただし、共通する内容が多いため、人材派遣会社によっては兼用する場合もあります。

    また、人材派遣会社と派遣社員間で結ぶ雇用契約書は、双方が1部ずつ保管します。

    参考:『労働者派遣事業に係る関係書類モデル例』厚生労働省

    派遣雇用に関する契約書は電子データで締結可能

    労働者派遣法の改正以降、派遣雇用に関する契約書は電子データで締結できるようになりました。

    紙の契約書と比べてスムーズに取引できるため、業務の効率化にもつながるでしょう。また、紙と違って保管場所を選ばず、かさばらないので管理コストを削減できることがメリットです。

    派遣雇用に関する契約書の保管期間

    派遣契約に関する書類は、大切に保管する必要があります。派遣社員の受け入れ数が増えるほど管理する書類の数も増えていくため、管理体制を構築しておくことも大切です。

    また、法律で保管期間が定められている書類もあるので、正しく把握しておきましょう。

    基本契約書・個別契約書は定めなし

    派遣雇用に関する基本契約書と個別契約書については、保管期間に関する規定は設けられていません。そのため、破棄するタイミングは、企業が自由に設定できます。ただし、万が一トラブルが発生したときに備えて、少なくとも契約期間中は保管するのが安全でしょう。

    また、契約書を保管しておくと、あとから契約内容を見直したいときにも役立ちます。

    派遣先管理台帳は3年

    派遣雇用に関する基本契約書や個別契約書とは異なり、派遣先管理台帳の保管期間は3年と定められています。保管期間の起算日は、派遣契約の終了日です。

    保管期間中に廃棄してしまうと、最悪の場合は、罰則を科されるおそれもあるため、十分に注意しましょう。

    派遣雇用に関する契約書に収入印紙は不要

    派遣雇用に関する労働者基本契約書と労働者個別契約書に、収入印紙は不要です。

    通常、取引における契約書には印紙税が課されることがあり、所定の金額の収入印紙を契約書類に貼りつけることで納付します。印紙税法では「請負に関する契約書」「継続的取引の基本となる契約書」などに、印紙税を課すと定めています。

    派遣雇用に関する契約書はいずれにも該当しないため、手続きは必要ありません。

    派遣社員を受け入れる流れ・注意点

    派遣社員を受け入れて雇用する流れは、おおむね以下の通りです。

    1. 基本契約の締結
    2. 事業所抵触日の通知
    3. 個別契約の締結
    4. 派遣先管理台帳の作成

    まず人材派遣会社との基本契約を締結し、事業所の抵触日を通知します。

    次に、受け入れる派遣社員ごとの個別契約を締結し、派遣先管理台帳を作成します。各種書類の記載項目に抜け漏れがないように、テンプレートや記入例を上手に活用しましょう。

    また、派遣社員を受け入れて雇用する際は、以下のポイントに注意することが大切です。

    • 派遣先責任者を選任する
    • 派遣社員からの苦情処理窓口を設置する
    • 契約書に書いていない業務は依頼できない

    それぞれのポイントについて、順に解説します。

    派遣先責任者を選任する

    派遣先責任者とは、派遣社員の就業管理における責任を一元的に負う人です。派遣先企業には、事業場ごとに派遣先責任者を選任する義務があります。

    派遣社員からの苦情処理窓口を設置する

    派遣先企業には、派遣社員が自社の従業員から不当な扱いを受けた場合に、苦情を受け付ける体制を整える義務があります。

    派遣社員から苦情を受け付けた際は、その内容や苦情処理状況を人材派遣会社にすみやかに共有しなければなりません。

    契約書に書いていない業務は依頼できない

    派遣雇用の社員には、個別契約書に記載していない業務は依頼できません。自社の従業員と同じ感覚で指示を行っていると、何らかのトラブルに発展するおそれがあります。

    また、業務内容の変更を希望する場合も、派遣社員に直接相談を持ちかけることはできません。トラブルを防ぐためにも、契約書に記載する内容はよく吟味しておきましょう。

    派遣先は雇用契約書を作成しなくてよい

    派遣社員は人材派遣会社と雇用契約を結ぶため、派遣先の企業が雇用契約書を作成する必要はありません。

    しかし、派遣先が作成すべき書類や受け取るべき書類は多岐にわたります。、それぞれの書類の役割や記載事項を把握しておくとスムーズに受け入れ体制が整うでしょう。

    なかには保管期間が定められている書類もあります。書類の作成・管理の流れも含めて、派遣社員の受け入れ体制を構築することが大切です。