雇用契約書における試用期間とは? 記載項目の例とポイントを紹介
雇用契約における試用期間とは、採用した従業員が正社員として働くための適性があるかを見極める期間です。試用期間を設ける場合は、雇用契約書に記載しておくことが望ましいとされています。
本記事では、雇用契約書における試用期間について、記載項目や記載例、作成のポイントを紹介します。試用期間中における解雇の注意点も解説するので、人事労務担当者は、ぜひ参考にしてください。
雇用契約書における試用期間とは
雇用契約書における試用期間とは、長期雇用を前提として採用した労働者の適性を判断するための期間です。業務に必要なスキルや能力、勤務態度など、その企業で働く適性があるかを見極めるために設けられています。
期間の長さは法律で定められておらず、企業が自由に設定が可能です。平均的には1〜6か月の長さであり、なかには1年前後に設定されている企業もあります。
試用期間中であっても雇用契約は成立するため、採用選考中という位置づけではありません。正社員の契約と同様に、雇用契約書を取り交わし、就業規則が適用されます。
試用期間中に雇用契約書は必要?
法律では、試用期間中に雇用契約書を作成する義務はありません。ただし、雇用契約書を取り交わしておかないと、期間中や本採用後にトラブルが生じる恐れがあります。
最悪の場合、訴訟問題に発展してしまうケースも考えられるため、試用期間中であっても雇用契約書を作成することが望ましいといえるでしょう。
必要がない場合
就業規則に試用期間のルールが明記されていれば、雇用契約書は必要ありません。ただし、就業規則の内容を周知していないと、運用ができないため注意が必要です。
就業規則には、会社の重要な情報が記載されているため、本採用前の従業員に対して周知することに抵抗を感じる企業もあるでしょう。
そのときは、試用期間について記載した雇用契約書を作成する必要があります。期間の長さや給料、手当、社会保険の扱いなどを記載しておきましょう。
雇用契約書における試用期間の記載項目・書き方
雇用契約書に試用期間の規定について記載する際、企業が記載項目や書き方を決められます。記載すべき主な内容は、以下の通りです。
- 試用期間の長さ
- 給与
- 待遇
- 社会保険
- 雇用形態
- 本採用の条件
- 延長の有無
長さ
期間の長さに明確な規定は存在しないため、企業側で期間を設定します。
また、試用期間を設定することについて、就業規則にも記載しておかなければなりません。期間は長くても1年以内という企業が多いようです
給与
試用期間中の給与は、本採用時よりも低く設定することが可能です。申請書を提出して都道府県労働局長の許可が得られると、最低賃金未満まで減額できますが、減額率は最大20%、対象期間は6か月までと定められています。
待遇
試用期間中と本採用時で待遇を同じにしている企業もあれば、そうではない企業もあります。待遇に差をつけている場合は、それぞれの労働条件を雇用契約書に明記しておくことが大切です。
試用期間中であっても雇用契約を締結していることに変わりはないため、残業や深夜労働、休日出勤に対する手当は本採用と同様に支払わなければなりません。
社会保険
雇用契約書において、社会保険への加入に関する内容は必須事項ではないものの、記載しておくことで、従業員とのトラブルを未然に防止できるでしょう。
試用期間中の社会保険への加入も、正社員と同様に扱います。従業員が社会保険の加入要件を満たすのであれば、本人の意思に関係なく加入させなければなりません。
また、雇用期間中に加入要件から外れたら、必要に応じて脱退の手続きが必要です。
雇用形態
試用期間中と本採用後で、雇用形態は変わりません。正社員に限らず、契約社員やアルバイト・パートなどの有期雇用労働者にも試用期間が適用されるため、雇用契約書には採用する従業員の雇用形態を記載しましょう。
期間中、正規雇用ではなく有期雇用契約としたい場合は、有期雇用契約が終了するタイミングで正社員として雇用契約を締結し直す必要があります。
本採用の条件
試用期間後に本採用する場合の条件についても、雇用契約書への記載が必要です。正社員として本採用する目的で設定される期間なので、本採用とすることが前提とされています。
ただし、企業があらかじめ定める条件を満たさない場合は、本採用せずに解雇することもできます。
延長の有無
試用期間は、必要に応じて延長できます。法律による制限はないものの、延長する際は、雇用契約書や就業規則に延長について記載されていることが条件です。
以下のポイントに留意して、延長の有無を判断しましょう。
- 雇用契約書や就業規則に延長についての記載がある
- 延長する可能性を事前に伝えてある
- 延長しなければならない正当な理由がある
- 延長期間を適切に設定している
雇用契約書における試用期間の記載例
雇用契約書における試用期間の記載例は、以下の通りです。
(試用期間) 1 試用期間 令和〇〇年 〇〇月 〇〇日~ 令和〇〇年 〇〇月 〇〇日まで 2 本人の能力を特段評価したときは、期間を短縮することがある 3 本人の能力、健康状態によっては最大3か月延長する場合がある 4 本人の勤務成績や能力、健康状態などが社員としてふさわしくないと評価した場合には、本採用しないことがある |
雇用契約書に記載したい試用期間中の解雇について
雇用期間中の従業員を解雇することは可能です。
企業側は、試用期間を開始してから14日以内であれば即時解雇できます。ただし、14日を超える場合は、30日前までに解雇予告を行うか、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
解雇予告と解雇予告手当は併用が可能であり、手当を支払った分だけ日数が短縮できます。
試用期間中に解雇する可能性があるときは、雇用契約書や就業規則に明記しておくことが必要です。解雇するにあたって正当な理由がなければ、不当解雇として訴えられる恐れもあります。
正当な理由として認められる例は、以下の通りです。
- けがや病気で休職し、復帰しても就業が難しい
- 勤務態度が悪い
- 経歴詐称が発覚した
- 採用時に期待していた能力がなく、仕事での成果が出せない
雇用契約書に試用期間の規定を記載するポイント
雇用契約書に試用期間の規定を記載する際に、注意すべきポイントを解説します。
- 適切な試用期間を設定する
- 本採用との待遇の違いを明確にする
- 本採用の条件や延長の有無を明確にする
適切な試用期間を設定する
試用期間の長さは法的に規定されていないため、企業が自由に設定できます。ただし、給与の減額を目的に長期間を設けてしまうと、違法と判断されてしまう恐れがあります。
期間の長さは、以下の3つのポイントを考慮して決めましょう。
- 業務内容や必要とされる個人の能力
- 本採用時のポジション
複雑な業務や専門的な知識が求められる業務であればあるほど、適性を見極めるために長い期間を要します。また、試用期間が終了した段階でどのようなポジションを与えるかによっても、長さは異なります。
一般的な長さにこだわらず、業務内容によって必要な期間を判断しましょう。
本採用との待遇の違いを明確にする
試用期間中であっても雇用契約が成立しているため、原則として本採用後の待遇と大きく変わることはありません。期間中は給与が本採用時よりも低かったり、賞与の支給がなかったりなど、待遇の違いがある場合は、雇用契約書への明確な記載が必要です。
たとえば、試用期間中は日勤での勤務なのに対し、本採用後は日勤も夜勤も行うのであれば、本採用時にどのような流れで勤務するのかも明記しなければなりません。
また、期間中に従業員の適性を判断し、必要に応じて配置転換を検討する可能性がある場合も、雇用契約書に明記することをおすすめします。
本採用の条件や延長の有無を明確にする
雇用契約書に試用期間のルールを記載する際は、本採用の条件や延長の有無について明確に記載しましょう。
試用期間中は、解約権留保付労働契約を締結していることがほとんどです。解約権留保付労働契約とは、期間中に従業員の適性がないと認められた場合に解約権を行使できるものです。
雇用契約書において、勤務成績やスキル次第では本採用にしないことがある旨を明記しておきましょう。
また、期間の延長は違法ではないものの、延長期間は一般的な範囲内で設定しなければなりません。延長する際は、対象となる従業員の理解を得るためにも、延長理由を明確に提示し、ていねいに説明しましょう。
雇用契約書に試用期間中のルールを明記してトラブルを回避
企業は試用期間中に、スキルや経験、勤務態度など多角的な視点で会社への適性を判断しなければなりません。期間中に適用される社内ルールについて違法とみなされないよう、企業には慎重な運用が求められます。
雇用契約書に試用期間中の規定を明記することで、本採用時におけるトラブルを回避できます。雇用契約書に目を通しただけでも働き方をイメージできるよう、わかりやすく明記しましょう。
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