雇用契約書と就業規則の関連|違いは? 優先されるのは? 規定や統一のポイントを解説

雇用契約書と就業規則の関連|違いは? 優先されるのは? 規定や統一のポイントを解説

雇用契約書は会社と各従業員が交わす個別の労働条件を定めた文書です。一方、就業規則は会社と従業員全体の統一的な労働条件や職場内の規律を定めたルールです。

雇用契約書と就業規則に定められている内容が異なる場合、どちらの内容を優先すべきなのでしょうか。

本記事では、雇用契約書と就業規則の違いと関係性、実務上の取り扱いにおける優先順位を詳しく解説します。雇用契約書と就業規則の一貫性を保つためのポイントもわかりやすく紹介するので、人事労務に携わる担当者は、ぜひ参考にしてください。

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    雇用契約書と就業規則では交付対象が違う

    雇用契約書と就業規則は、企業と従業員との間で労働契約を締結する際に重要な役割を持ちます。ただし、それぞれの交付対象が異なります。

    雇用契約書と就業規則の基本的な内容と、両者の違いを詳しく確認してみましょう。

    雇用契約書とは

    雇用契約書とは、民法第623条に基づいて、企業と従業員との間で合意のうえ、雇用契約が成立したことを証明する書類です。

    雇用契約書では、主に以下のような項目を記載します。

    • 労働契約の期間
    • 就業場所
    • 従事する業務の内容
    • 始業時刻と終業時刻
    • 交代制のルール(労働者を2つ以上に分類する場合)
    • 所定労働時間を超える労働の有無
    • 休憩時間と休日、休暇
    • 賃金の決定と計算、支払い方法、締め切り日、支払い日
    • 退職や解雇に関する規定
    • 就業場所・業務の変更の範囲(2024年4月1日より追加)

    民法上は、企業と従業員との合意があれば口頭のみでも雇用契約が成立するため、雇用契約書の交付は義務づけられていません。雇用契約書がなくても処罰の対象にはならないと覚えておきましょう。

    ただし、労働契約法では、契約締結後のトラブルを回避するためにも、書面による確認を推奨しています。

    就業規則とは

    就業規則とは、従業員の賃金や就業時間などの労働条件、職場内でのルールを定めたものです。

    労働基準法第89条により、常時10人以上の従業員を雇用する企業は就業規則を作成するよう義務づけられています。雇用形態や勤務時間に関係なく、アルバイトやパートなども含めて常に10人以上の従業員がいる事業所は、就業規則の作成と労働基準監督署長への届け出が必要です。

    10人未満の事業所の場合は、就業規則の作成義務はありません。ただし、社内での秩序を保ち、従業員とのトラブルを回避するためには作成するのが望ましいといえるでしょう。

    また、労働基準法第92条に基づいて、法律に違反する就業規則があった場合は、違反している部分が無効とされます。

    参照:『労働基準法 第89条、92条』e-Gov法令検索

    雇用契約書と就業規則の違い

    雇用契約書と就業規則の違いとして、対象となる労働者の規模と作成義務の有無が挙げられます。

    雇用契約書は企業と各従業員との間で交わされる個別の契約書です。これに対して、就業規則は企業とすべての従業員に対して定められる、統一的な労働条件や職場内の規律を定めたものです。

    つまり、雇用契約書は従業員一人ひとり、就業規則はすべての従業員を対象としています。

    また、企業に雇用契約書を作成する義務はありません。一方、就業規則については、常時10人以上の従業員を雇用する企業に対して、作成と労働基準監督署長への届け出が義務づけられている点が大きな違いです。

    雇用契約書と就業規則が矛盾していたらどちらを優先?

    雇用契約書と就業規則に定められた内容に矛盾する点がある場合、原則として、従業員にとって有利な方の基準が優先されます。

    雇用契約書と就業規則の内容が異なる場合の対処法を、詳しく解説しましょう。

    雇用契約書が就業規則の基準を下回る場合

    労働契約法第12条では、雇用契約書や就業規則について以下のように定められています。

    第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

    引用:『労働契約法 第12条』e-Gov法令検索

    就業規則には、就業規則に達しない労働条件を定める雇用契約を無効にする「最低基準効」という効力があります。雇用契約書において合意されていたとしても、従業員にとって有利な就業規則の基準が優先されるのです。

    雇用契約書よりも就業規則が優先されるケースについて、具体例を挙げて解説します。

    例1就業規則の規定雇用契約書の記載
    年次有給休暇年20日付与年10日付与
    →従業員は年20日の有給休暇を請求できる
    例2就業規則の規定雇用契約書の記載
    昇給業績に応じて年1回記載なし
    →従業員は年1回の昇給を期待できる

    上記のケースでは、雇用契約書よりも就業規則の方が従業員にとって有利であるため、就業規則の労働条件が適用されます。

    雇用契約書が就業規則の基準を上回る場合

    雇用契約書の内容が就業規則の基準よりも好条件の場合は、従業員にとって有利となるため、雇用契約書のほうが適用されます。

    就業規則よりも雇用契約書が優先されるケースについても、具体例を挙げて解説します。

    例3就業規則の規定雇用契約書の記載
    特別休暇(結婚休暇や忌引き休暇など)合計5日合計10日
    →従業員は合計10日の特別休暇を取得できる
    例4就業規則の規定雇用契約書の記載
    テレワーク記載なし週2日の在宅勤務可能
    →従業員は週に2日、在宅勤務ができる。

    どちらのケースも、従業員にとって有利な条件が優先されるため、労使間のトラブルに発展するリスクは低いといえるでしょう。

    雇用契約書・就業規則と法律が矛盾していたらどちらを優先?

    雇用契約書や就業規則の内容と法律が矛盾している場合は、すべて法律が優先されます。

    雇用契約書や就業規則、その他の法律の優先順位は、以下の通りです。

    1. 法律(労働基準法や労働契約法、民法など)
    2. 労働協約(企業と労働組合の間で締結する取り決め)
    3. 就業規則や雇用契約書(内容が異なる場合は、従業員にとって有利な方を優先)

    上記の優先順位を理解し、法律を遵守して雇用契約書や就業規則の内容を検討しましょう。

    すべての基準は法律を下回ってはいけない

    法律を下回る基準で就業規則を定めたり、労働協約や雇用契約を締結したりすると、無効となり、代わりに法律の内容が適用されます。

    また、従業員から労働基準監督署へ申し出があった場合は、企業に調査が入って是正を勧告をされる恐れもあるでしょう。

    企業の信用を損ねないためにも、新しく就業規則や雇用契約書を作成したり、内容を見直したりする際には、自社で解決しようとせずに専門家へ相談・確認することをおすすめします。

    雇用契約書や就業規則がない場合

    現状、雇用契約書や就業規則がないという企業は、どのように対応すればよいでしょうか。考えられるケースとして、以下の3つが挙げられます。

    1. 就業規則はあるが、雇用契約書はない
    2. 雇用契約書はあるが、就業規則はない
    3. 就業規則も雇用契約書もない

    1.就業規則はあるが、雇用契約書はない

    就業規則の内容を書面で明示していないため、従業員との間で「言った言わない」のトラブルが生じるリスクが考えられます。

    また、法律上明示が必要とされる労働条件の内容すべてを就業規則で網羅できていない場合は、労働基準法違反となるため注意が必要です。

    2.雇用契約書はあるが、就業規則はない

    規模の小さな企業において見られるパターンです。

    就業規則は、常時10名以上の従業員を雇用する企業に対して作成が義務づけられているため、対象外の企業は作成しなくても法的に問題はありません。ただし、就業規則がない分、雇用契約書になるべく詳しく規定を記載することが重要です。

    また、従業員が増えて10名以上になるなら、就業規則を作成しなければならないことを理解しておきましょう。新たに作成する際は、雇用契約書との整合性を取るよう注意します。

    3.就業規則も雇用契約書もない

    労働条件が書面で明示されていないことから、法律違反とみなされます。いわゆるブラック企業とみなされてもおかしくないでしょう。

    雇用契約書と就業規則の一貫性を保つポイント

    雇用契約書と就業規則の内容が異なっている場合は、企業と従業員の間でトラブルに発展する恐れがあります。リスク回避のためにも、雇用契約書と就業規則の一貫性を保つことが大切です。

    • 一方を見直したらもう一方も見直す
    • 適用範囲を定める
    • 雇用形態別に整備する
    • 労働条件通知書の明示事項をもれなく記載する

    一方を見直したらもう一方も見直す

    雇用契約書や就業規則の内容を見直す際は、もう一方も同じタイミングで見直して、両者の一貫性を保ちましょう。ただし、雇用契約書も就業規則も対象となる法律や網羅すべき内容が多岐にわたるため、自社で対応するには限界があるかもしれません。

    雇用契約書や就業規則の見直しに悩んだときは、管轄の労働局・労働基準監督署をはじめ、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談しましょう。

    適用範囲を定める

    適用範囲とは、雇用契約書や就業規則の規定が適用される労働者の範囲です。正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトなどさまざまな雇用形態の従業員を抱える企業は、各雇用形態について労働条件を定める必要があります。

    正社員であれば転勤や昇給に関する事項、契約社員であれば契約期間や契約更新の際の条件、パートやアルバイトであれば昇給や賞与の有無など、それぞれの労働条件を明記しなければなりません。

    各雇用形態において、雇用契約書と就業規則の内容に整合性があるかを確認しましょう。

    雇用形態別に整備する

    複数の雇用形態の従業員を雇っているにもかかわらず、1つの就業規則しか作成していない企業もあるかもしれません。

    原則として就業規則のほうが雇用契約書よりも強い効力を持つため、1つの就業規則しか作成していないと、正社員と同じ労働条件がパートやアルバイトにまで適用される可能性もあります。

    就業規則と雇用契約書を作成する際は、雇用形態別に労働条件を整備しましょう。

    必要となる事項をもれなく記載する

    企業が従業員を雇用する際には、労働条件通知書を交付しなければなりません。

    労働条件通知書に記載が必要となる明示事項は法律で定められており、抜けもれのない作成が求められます。また、労働条件通知書は「労働条件通知書兼雇用契約書」として作成することも可能です。

    労働条件通知書(労働条件通知書兼雇用契約書)や就業規則には、記載する項目が2つあります。

    1つは絶対的明示事項(絶対的必要記載事項)で、労働条件通知書や就業規則に記載が必要な事項です。もう1つの相対的明示事項(相対的必要記載事項)は、企業が制度として定めている場合に記載が必要な事項です。

    それぞれの具体的な項目は以下の通りです。

    労働条件通知書
    (労働条件通知書兼雇用契約書)
    就業規則
    絶対的明示事項
    (絶対的必要記載事項)
    ・雇用契約期間
    ・有期雇用契約を更新する際の基準
    ・就業場所と業務内容
    ・所定労働時間を超える労働の有無
    ・就業時刻
    ・休憩や休日
    ・賃金や昇給
    ・退職
    ・就業時刻
    ・休憩や休日
    ・賃金や昇給
    ・退職
    相対的明示事項
    (相対的必要記載事項)
    ・退職手当
    ・臨時に支払われる賃金
    ・従業員が負担すべき用品
    ・安全や衛生
    ・職業訓練
    ・災害補償や業務外傷病
    ・表彰や制裁
    ・休職
    ・退職手当
    ・臨時に支払われる賃金
    ・従業員が負担すべき用品
    ・安全や衛生
    ・職業訓練
    ・災害補償や業務外傷病
    ・表彰や制裁
    ・労働者すべてに
     適用されるルール
     (休職など)

    2024年4月からは、雇用形態に関係なく、就業場所と業務変更の範囲も記載することとなりました。さらに、有期雇用労働者に対しては、契約更新と無期転換に関する内容の記載も必須となるため注意しましょう。

    雇用契約書と就業規則の一貫性を保ちましょう

    雇用契約書も就業規則も、従業員と労働契約を締結する際に重要な書類です。

    雇用契約書と就業規則の規定に相違がある場合、従業員にとって有利な方が優先されますが、トラブル回避のためにも両者の内容に一貫性を持たせることが大切です。

    雇用契約書や就業規則の内容については、定期的に見直す必要があります。自社で見直しが難しいなら、労働基準監督署や専門家に相談してみましょう。

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