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雇用保険の対象外となるのは? 加入条件や注意点を解説

雇用保険とは、失業した際に、一時的な経済支援を提供する制度です。原則、加入が必要ですが、特定の条件を満たせば加入しなくても問題ありません。ただし、雇用保険の対象者であるにもかかわらず加入していないと、企業は罰則を受ける可能性があるため注意が必要です。本記事では、雇用保険について詳しく解説します。対象外となる従業員の条件や加入条件における注意点も見ていくので役立ててください。

※本記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。

雇用保険の対象外となるのは? 加入条件や注意点を解説
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    雇用保険とは

    雇用保険とは、労働保険の一種です。加入することで、育休の取得や失業時などに給付を受けられます。基本的に、従業員は雇用保険に加入する必要があります。ただし加入条件があるため、全従業員が対象となるわけではありません。

    雇用保険の目的

    雇用保険の目的は、加入者の生活および雇用の安定をはかったり、再就職を促進したりすることです。給付金を支給することで、実現します。

    罰則

    労働局から勧告があるにもかかわらず、従業員を雇用保険に加入させない場合は、懲役6か月以下もしくは30万円以下の罰金を受けます。手続き漏れの場合でも、過去にさかのぼって保険料を徴収される可能性があるため注意しましょう。

    雇用保険の給付には種類がある

    雇用保険の給付の種類を次の表にまとめましたので参考にしてください。

    給付金内容
    基本手当定年や契約期間の満了などの理由で退職した方が、金銭面で不安を抱えずに再就職してもらうための給付金
    教育訓練給付キャリアアップや就職を目的として、厚生労働大臣が定めた資格や講座などを修了したものに、受講費の一部が支給される給付金
    育児休業給付育児休暇により給料が発生しない期間、支給される給付金
    介護休業給付金家族の介護により休職する場合に受け取れる給付金
    高年齢雇用継続基本給付金60歳以降の賃金が、60歳時点の75%に満たない方を対象とする給付金

    雇用保険の加入対象者とは

    雇用保険の加入対象者は、次のいずれかに該当するものです。

    • 所定労働時間が1週間あたり20時間以上である
    • 31日以上の雇用見込みがある
    • 学生ではない

    それぞれ解説します。

    所定労働時間が1週間あたり20時間以上である

    アルバイトやパートでも、所定労働時間が1週間あたり20時間以上であれば、雇用保険の加入対象になります。基準となるのは契約上の所定労働時間です。一時的に1週間で20時間以上働いたとしても、契約上の所定労働時間が20時間未満の場合は対象外になります。

    31日以上の雇用見込みがある

    31日以上の雇用見込みがある従業員は雇用保険の加入対象です。また、雇用契約に更新規定がなくても、31日以上雇用した実績がある場合は対象になります。つまり、雇用契約書に具体的な雇用期間が明示されていなくとも、結果として31日以上、雇用した場合は加入対象です。31日以上雇用が継続しないことが明確になっている場合は対象外です。

    学生ではない

    基本的に、学生は雇用保険の対象外です。ここでいう学生とは「高校」「大学」「専門学校」「通信教育」などで勉強している方を指します。原則、学生は雇用保険の対象外ですが、次の4つのうちいずれかに該当する方は対象です。

    • 学校卒業後も、現在の雇用先での就業が決まっており、なおかつ卒業見込証明書を有するもの
    • 休学中のもの
    • 夜間学生
    • 事業主からの指示または承認を受け、大学院などに在学するもの
    • 出席日数を課程修了の要件としない学校に在学するもので、なおかつ同種の業務に従事するほかの労働者と同様に勤務し得ると認められるもの

    雇用保険の対象外となる場合

    雇用保険法第6条により、下記に該当するものは雇用保険の対象外です。

    • 一週間の所定労働時間が20時間未満のもの
    • 31日以上、雇用される見込みがないもの
    • 株式会社の経営者・取締役
    • 昼間学生や生徒
    • 国や都道府県、市区町村の公務員およびこれらに関ずる事業に雇用されているもの
    • 季節的に雇用され、かつ4か月以内の短期雇用か一週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満のもの
    • 船員保険の加入者

    なお、雇用保険に加入した後に対象外となった場合は資格喪失手続きが必要です。その際、ハローワークに雇用の実態を確認できる書類などを提出する必要があります。

    参考:『雇用保険法』e-Gov法令検索

    雇用保険料とは

    雇用保険料とは、雇用保険の掛け金のことです。労働基準監督署などで納付する必要があります。事業者と従業員の両方が負担しますが、健康保険や厚生年金保険のように折半ではありません。なお、雇用保険料は給与明細に記載されます。

    対象となる賃金

    雇用保険料には、対象となる賃金と対象外のものがあります。次の表に対象となる賃金とそうでないものをまとめましたので参考にしてください。

    対象となる賃金対象外の賃金
    ・基本賃金
    ・賞与
    ・通勤手当
    ・定期券および回数券
    ・超満勤務手当
    ・深夜手当
    ・扶養手当
    ・子供手当
    ・家族手当
    ・技能手当
    ・特殊作業手当
    ・教育手当
    ・在宅勤務手当
    ・調整手当
    ・地域手当
    ・在宅手当
    ・奨励手当
    ・休業手当
    ・宿直・日直などの手当
    ・雇用保険料や社会保険料など
    ・昇給差額
    ・前払い退職金
    ・労働協約や就業規則などにより支給条件が明確にされたもの
    ・役員報酬
    ・結婚祝い金
    ・死亡弔慰金
    ・災害見舞金
    ・年功慰労金
    ・勤続褒賞金
    ・退職金
    ・出張旅費や宿泊費など
    ・工具手当
    ・寝具手当
    ・休業補償費
    ・傷病手当金
    ・解雇予告手当
    ・財産形成貯蓄などにより事業主が負担する奨励金など
    ・会社負担の生命保険の掛け金
    ・持家奨励金
    ・住宅の貸与を受ける利益






    参考:『雇用保険料の対象となる賃金』厚生労働省

    雇用保険料率とは

    雇用保険料率とは、雇用保険料を求める際に用いられる料率のことです。雇用保険料は「毎月の給与総額×雇用保険料率」で求められます。会社側が負担する雇用保険料は、従業員に支払う賃金×雇用保険料率です。雇用保険料率は、毎年4月1日に確定します。また、業種によって雇用保険料率が異なります。

    2024年4月最新の雇用保険料率一覧表

    雇用保険料率は毎年4月1日に決まり、変動することもあれば、変動しないこともあります。令和6年度(2024年4月1日~2025年3月31日)は、前年の令和5年度から変更がありませんでした。

    最新の業種毎の雇用保険料率は、以下の通りです。

    1.労働者負担(失業等給付・育児休業給付)2.事業者負担失業等給付・育児休業給付(事業者負担)雇用保険二事業(事業者負担)1+2の雇用保険料率
    一般事業6/1,0009.5/1,0006/1,0003.5/1,00015.5/1,000
    農林水産・清酒製造事業7/1,00010.5/1,0007/1,0003.5/1,00017.5/1,000
    建設事業7/1,00011.5/1,0007/1,0004.5/1,00018.5/1,000

    出典:『令和6年度の雇用保険料率について』厚生労働省・都道府県労働局・ハローワーク

    雇用保険料の計算方法を解説

    雇用保険料の計算方法を、具体例を交えて解説します。一般事業で控除前の給与額が30万円の場合は、以下の式で労働者負担分の雇用保険料を算出します。

    計算方法の例1:一般事業/控除前給与額30万円
    30万円×0.6%=1,800円/月

    一般事業で給与額が30万円の場合は、労働者は、毎月1,800円の雇用保険料を支払う必要があります。

    続いて、一般事業で賞与額が60万円の場合における労働者負担分の雇用保険料の計算方法を解説します。次の式を参考にしてください。

    計算方法の例2:一般事業/賞与額60万円
    60万円×0.6%=3,600円/月

    本記事では、労働者視点での雇用保険料の計算方法をご紹介しましたが、事業者が支払う雇用保険料を算出する場合も同様の式で、事業主負担分の保険料率(一般事業の場合は0.95%)を使います。「2023年4月最新の雇用保険料率一覧表」で解説した雇用保険料率を参考に、正しく計算しましょう。

    計算で端数が出た場合の対処方法

    雇用保険料の計算で1円未満の端数が出た場合の対処法は次の通りです。

    原則50銭以下切り捨て
    50銭1厘以上切り上げ

    ただし、慣習的な取扱いなどの特約がある場合には、この限りではありません。

    雇用保険の加入条件における注意点を解説

    雇用保険の加入条件における注意点は次の6つです。

    • 高年齢労働者も雇用保険の対象
    • シフト制のパート・アルバイトは時間制限あり
    • 日雇い労働者も雇用保険の加入対象者
    • 国内非居住者は日本企業に在籍していれば加入対象者となる
    • 日本で働く外国人も雇用保険の加入対象者
    • 原則、経営者・役員は対象外

    それぞれ解説します。

    高年齢労働者も雇用保険の対象

    平成29年1⽉1⽇より、雇用保険の対象範囲が広がりました。これにともない、65歳以上の従業員は高年齢被保険者として雇用保険の加入対象です。

    シフト制のパート・アルバイトは時間制限あり

    シフト制で1週間の勤務時間が固定でない場合、月87時間以上で雇用保険の加入の対象です。

    日雇い労働者も雇用保険の加入対象者

    日々雇用または30日以内の契約での雇用であって、適用事業に雇用される方は日雇い労働被保険者になります。日雇い労働被保険者は、ハローワークにて雇用保険日雇い労働被保険者手帳(以下、日雇い手帳)を交付してもらいましょう。日雇い手帳を持つことで、給付金を受け取れます。具体的には、日雇い労働者の賃金が支払われる際、会社は日雇い手帳に印紙を貼りつけます。そして、2か月間で日雇い手帳に印紙が26枚以上貼られて、失業した場合に給付金を受け取れます。

    ただし、日雇いであっても、同じ会社で31日以上の継続労働や2か月続けて18日以上働く場合は、一般の被保険者に切り替わります。日雇い労働者でも、同じ会社で働き続けるかそうでないかによって対応が異なるため注意しましょう。

    国内非居住者は日本企業に在籍していれば加入対象者となる

    出向、転勤で海外赴任する従業員も継続して加入対象です。ただし、海外企業で直接雇用される場合は、事業主との雇用関係が終了するため、雇用保険被保険者資格が喪失します。

    日本で働く外国人も雇用保険の加入対象者

    日本で働く外国人も基本的に雇用保険の加入対象です。しかし、次のいずれかに該当するものは、雇用保険の対象外の場合があります。

    • 昼間部の留学生
    • ワーキングホリデー

    雇用保険資格取得手続きには在留カードに記載されている情報が必要です。滞在歴がないときはパスポートの写しなどを代わりに用いましょう。

    原則、経営者・役員は対象外

    原則、経営者や役員は雇用保険の対象外です。ただし役員でも、工場長などの労働者の性質が強い役職に就く場合は雇用保険に対象となるケースもあります。この場合は、雇用の実態が分かる書類などをハローワークに提出しなければなりません。

    雇用保険に加入するメリットとは

    雇用保険に加入するメリットを、従業員と会社側に分けて解説します。

    従業員側のメリット

    雇用保険に加入する従業員側のメリットは、失業給付などの給付金を受け取れることです。育児休業や退職など、万が一のことがあった場合でも給付金があれば安心できます。

    会社側のメリット

    育児休業給付などの支払いがあることで、従業員は、安心してライフイベントに対応できます。結果として、優秀な人材をつなぎとめることにつながります。また、雇用関係の助成金が受け取れることもメリットです。

    雇用保険に加入するデメリットも確認

    雇用保険に加入するデメリットを従業員と会社側で分けて解説します。

    従業員側のデメリット

    雇用保険に加入することで、給与の手取りが減ります。しかし、雇用保険料は少額のため、給付金を受け取れるメリットを考慮すれば大して気にならないかもしれません。

    会社側のデメリット

    雇用保険に加入させるには、少なからず手間や時間がかかります。そのうえ、加入手続きを怠ると雇用保険法により罰則を受ける可能性があります。手間を省きたいと考えている方は、電子申請手続きの導入を検討するのも1つです。時間や場所を問わず、パソコンやスマートフォンから手軽に雇用保険の加入手続きを行えます。

    雇用保険に関するよくある質問

    雇用保険に関するよくある質問は次の4つです。

    • 雇用保険の加入期間は合算できますか?
    • 従業員が加入対象から外れる場合はどうすればいいですか?
    • 加入対象から外れた従業員は退職になるのですか?
    • さかのぼって雇用保険に加入することはできますか?

    それぞれ見ていきましょう。

    雇用保険の加入期間は合算できますか?

    雇用保険の加入期間は、1年以内の再就職であれば、以前の職場から通算できます。雇用保険の加入期間により基本手当の給付日数が異なるため、漏れなく対応しなければなりません。

    従業員が加入対象から外れる場合はどうすればいいですか?

    労働条件の変更などで従業員が雇用保険の加入資格を失った場合、雇い主は「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出する必要があります。雇用保険被保険者資格喪失届は従業員が退職する際に必要な書類ですが、雇用保険の加入資格を失った場合にも使われます。たとえ退職しなくとも、書類には離職等年月日を記載する必要があります。離職等年月日は、労働条件が変更された前日に設定しましょう。なお、雇用保険被保険者資格喪失届の提出期限は、退職日の翌々日から10日以内です。

    加入対象から外れた従業員は退職になるのですか?

    雇用保険の加入対象から外れたとしても、継続して雇用できます。また、給付金の受け取りも可能です。ただし、継続雇用する場合には、雇用保険の資格喪失手続きを行わなければなりません。

    さかのぼって雇用保険に加入することはできますか?

    加入手続きを怠っていた場合はあとから手続きできます。ただし、さかのぼって手続きできるからと先延ばしにすることは認められていません。

    まとめ

    雇用保険の対象外となるのは、基本的に以下の3つのケースです。

    • 所定労働時間が1週間あたり20時間以上である
    • 31日以上の雇用見込みがある
    • 学生ではない

    ただし、学生であっても、夜間学生は雇用保険の対象になります。雇用保険の対象かそうでないかは細かく区切られているため、状況に応じて対応する必要があるでしょう。従業員が雇用保険の対象かわからない方は、ぜひ本記事を参考にしてください。

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