休職中のボーナスはどうなるか|給与や手当の扱い、公務員との違いも解説
休職中の従業員に対してボーナスを支給するかどうかは、企業の判断で行います。この場合、ボーナスを支給すべきか、支給する際の査定をどのように行うかを慎重に検討しなければなりません。
本記事では、従業員の休職中におけるボーナスについて解説します。ボーナスと手当との関係性や査定方法についてもご紹介しますので、人事労務担当者はぜひ参考にしてください。
休職制度の概要
休職制度とは、従業員が働けない事情がある場合に、企業との労働契約を維持したまま、一定期間休める制度です。労働者は、解雇に不安を感じることなく休職できます。企業側も、従業員の離職を防げるため、一定のメリットがあるといえます。一般的な休職制度として、以下のような種類があります。
休職種類 | 概要 |
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傷病休職 | 業務外の理由による病気や怪我に対する療養のために休職する制度 |
事故欠勤休職 | 従業員都合(逮捕や勾留)による欠勤が長期に及んだ場合に適用される休職制度 |
起訴休職 | 刑事事件で起訴された従業員を休職扱いにする制度※企業の場合、合理的な理由が必要 |
調整休職 | 従業員が出向や組合従属する際に、出向先企業や労働組合との兼ね合いで所属元企業について休職扱いにする制度 |
公職就任休職 | 従業員が公職に就くために休職にする制度 |
自己都合休職 | 従業員の自己都合による休職を認める制度 |
休職制度は、法律で定められているわけではありません。そのため、企業の判断で休職制度を設ける場合は、期間や賃金に関する決まりも独自に定める必要があります。
休職中のボーナス
休職中のボーナスについて、民間企業と公務員の場合でそれぞれの対応をご紹介します。
民間企業の場合
休職中の従業員に対するボーナスは、就業規則や賃金規定をふまえた上で、企業が判断します。休職期間中もボーナスを支給するという場合は、仕事の成果に応じて支給されるのが一般的です。
休職中の従業員が査定対象期間すべてを休んでいた場合などは、ボーナスが支給されない場合もあります。査定期間のすべてを休んだ場合にボーナスの支給対象外とする場合は、就業規則や休職・賃金規定に明記しましょう。ただし、企業が定める査定方法や基準によっては、休職していてもボーナスが支給されることもあります。
ボーナスは相対的必要記載事項
ボーナスを含め、企業が臨時的に支払う賃金は、「相対的必要記載事項」として就業規則に必ず明記しなければなりません。そのため、ボーナスを支給する場合は、支給対象時期や基準、査定期間などの項目を記載する必要があります。
公務員の場合
公務員の休職に関するボーナスについては、国や自治体ごとに条例で規定されています。公務員の場合、6月と12月にボーナスが支給されます。これらの査定期間について、6月支給の場合は12月2日から6月1日まで、12月支給の場合は6月2日から12月1日までと決まっています。
この査定期間に勤務していれば、休職日数に応じてボーナスが支給されることになっています。たとえば、査定期間の3か月分勤務していた場合は50%などというように算定されます。規定の細かい内容は、人事院や各地方条例で確認しましょう。
参照:『期末手当及び勤勉手当の支給について(昭和38年12月20日給実甲第220号)』人事院
休職中の給与や手当
従業員が休職する場合、給与や手当についてご紹介します。企業側が休職中の給与やボーナスを支給しないとする場合でも、労働者が休職する理由や状況によっては手当金や給付金を受け取れる場合があります。人事労務担当者は正しく理解しましょう。
給与
給与は労働に対する対価であるため、企業側は休職中の従業員に給与を支払う義務はありません。ただし、休職中でも給与の一定割合を支払うと明記している企業は、その内容に従って従業員へ給与を支払う必要があります。
また、企業が休職中の従業員に給与を支払わない場合でも、従業員が企業に在籍している限り社会保険料の支払い義務があります。社会保険料の支払いについて、企業側が立て替えるのか従業員本人が支払ってもらうのかも就業規則に明記しておきましょう。
傷病手当金
傷病手当金は、健康保険による休職者に対する給与支給制度です。従業員が休職するにあたり、傷病手当金を受け取る場合は以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の理由による病気や怪我のための療養における休職であること
- 労働できない状況であること
- 連続する3日間を含めて4日以上労働できない状態であること
- 休職中に給与が支給されないこと
傷病手当金を申請する場合は、書類提出など手続きが必要です。企業側が記入する項目もあるため、迅速に対応しましょう。
ボーナスを支給した場合、傷病手当金はどうなるか
傷病手当金は、支給要件に「報酬が支給されていないこと」という内容があります。健康保険法において、ボーナスは3か月を超える期間ごとに受け取るものとしているため、報酬とはみなされません。
そのため、企業がボーナスを支給していても傷病手当金の支給には影響ありません。ただし、年4回以上支給される賞与の場合は、報酬に該当し、傷病手当金の金額が調整されるため、注意しましょう。
労災保険の休業補償
従業員が業務中や通勤中の災害を原因として休職する場合、労災保険の休業補償を利用できます。労災保険の休業補償を受けるためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 業務上の事由もしくは通勤による病気や怪我のための療養であること
- 労働できない状況であること
- 企業側から賃金を支給されていないこと
労働者が上記の条件を満たす場合、申請手続きを行います。業務中が原因になる場合と通勤中における場合では、必要な書類が異なりますので、注意しましょう。
出産や育児に関する手当金
出産や育児によって休職する場合、従業員が受け取れる手当には以下のように、いくつかの種類があります。
種類 | 内容 |
---|---|
出産手当金 | 出産日以前42日(多胎妊娠は98日)から出産日の翌日以降56日までにおいて、公的医療保険が支給する手当金 ※公的医療保険に国民年金は含まれない |
出産育児一時金 | 子ども一人につき最大50万円を公的医療保険が支給する一時金 ※一度の出産につき1回のみ支給 |
育児休業給付金 | 育児休業期間において、子どもが1歳になるまで給与の一部を雇用保険が支給する給付金(子どもの両親がともに育児休業を取得する場合は1歳2か月まで) ※2歳になるまで延長・再延長が可能 |
出生時育児休業給付金 | 子どもの出生日から8週を経過する日の翌日までの期間内に4週間分を限度として産後パパ育休(出生時育児休業)を取得した場合に支給される給付金 ※産後パパ育休は2回まで分割取得可能 |
このように、出産や育児に関する手当金や給付金には、さまざまな種類があります。近年新設された制度もあるため、人事労務担当者は整理して正しく理解しましょう。
参照:『出産や育児への公的な経済支援を知りたい|ライフイベントから見る生活設計|ひと目でわかる生活設計情報』公益財団法人生命保険文化センター
産休や育休においてボーナスはどうなるか
企業は、産前産後休暇や育児休業を取得する従業員に対してもボーナスの支給義務はありません。したがって、企業は就業規則などに自由に定められます。
たとえば、就業規則に「ボーナスは企業業績と個人成績に応じて決定する」と記載した場合、ボーナスの支給有無はその時の状況によって異なります。産休や育休を取得する時期によっても、ボーナスの支給有無や支給金額などが異なりますので注意しましょう。
休職中のボーナスについて企業が注意すべきこと
休職を理由にボーナスが支給されない場合、従業員から何らかの対応を求められる場合があります。よくあるケースをご紹介します。
ボーナスを支給しない根拠を説明できるようにしておく
休職中にボーナスを支給しない場合、従業員から根拠などの説明を求められる場合があります。
休職制度や休職中のボーナスについては企業が自由に判断できますが、説明を求められた場合にすぐに対応できるよう、就業規則や賃金規定に明記しておきましょう。
休職する従業員に対しては、ボーナスに関する取扱いを休職前に説明しておくことが大切です。
支給する場合の査定方法や計算根拠も明記しておく
休職中もボーナスを支給する場合、査定方法や計算根拠を定めておくことが大切です。査定方法や計算根拠の定めがないと、全額支給されないことに納得しない従業員が出てくる可能性があるためです。
そのため、就業規則や賃金規定には、休職中のボーナス支給の有無だけでなく、査定方法や計算根拠も明記しておきましょう。
労働審判や裁判になる場合もある
休職中のボーナスを支給するとしているにもかかわらず、企業が規定に沿ってボーナスを支給しない場合、労働審判や裁判につながる恐れがあります。労働審判は、原則3回以内の期日で審理を完了するため、迅速な問題解決を期待できます。しかし、労働者が労働審判の結果に納得できない場合は、訴訟を提起され裁判に発展する場合があるため注意しなければなりません。
まとめ
従業員は、さまざまな事情により仕事ができなくなり、休職することがあります。従業員の休職期間中において、企業がボーナスを支給するかどうかは法律で定められていません。そのため、企業が独自に判断することになります。
企業は、ボーナスに関するルールも就業規則や賃金規定に明確に定めておかなければなりません。また、トラブルを防止するためにも、人事労務担当者は休職中のボーナスだけでなく、各種手当の取り扱いについて理解しておきましょう。