男性の育休制度とは|近年の法改正と取得率の公表義務化などポイントを解説

男性の育休制度とは|近年の法改正と取得率の公表義務化などポイントを解説

育児休業(以下、育休)は、男性も取得できる制度です。政府は近年、男性の育休取得率の向上を目指し、法改正を進めています。しかし、2023年度の男性の育休取得率は3割程度(厚生労働省調査)と、女性と比較して十分に普及しているとはいえません。

企業としては、男性の育休取得を推進し、職場環境を整えることが求められています。

本記事では、男性が取得できる育休関連の制度や種類、最新の法改正の内容について解説します。人事労務担当者向けに、実務で役立つポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてください。

目次アイコン目次

    広がる男性の育休(育児休業)制度

    育児休業は、女性だけでなく男性も取得できる制度です。

    育休は、1歳未満の子どもを養育する男女を対象としています。1歳未満の子どもを養育する従業員から、企業は要件を満たす従業員から育休の申し出があった場合、拒否できません。

    男性も育休の期間も、原則として子どもが出生した日から1年間ですが、保育園に入れないなどの事情がある場合は 最長2歳まで延長することが可能です。

    2022年10月の法改正により、いわゆる「男性の育休」と称される『出生時育児休業(産後パパ育休)』と『育休の分割取得』が導入され、柔軟な取得が推進されています。

    参照:『育児・介護休業法のあらまし』厚生労働省
    参照:『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内|令和4年4月1日から3段階で施行』厚生労働省

    男性の育休取得が促進されている理由

    近年、政府は男性の育休取得率向上に向けた法改正や支援を強化しています。企業も男女共に育児と仕事を両立できる環境を整える必要があるでしょう。では、なぜここまで男性の育休取得が推進されるのか、背景にある課題を紹介します。

    1. 女性の出産・育児による退職を防ぐため

    男性の育休取得が促進されているのは、女性の労働力を維持し続けるためという理由があります。

    日本では、約5割の女性が出産・育児を機に退職しているという調査結果もあります。もっとも多い退職理由は「仕事と育児の両立が難しいため」です。

    本来は仕事を続けたいにもかかわらず、育児との両立が困難なために退職せざるを得ないケースが多く見られます。

    状況を改善するためには、男性が積極的に育児に参加し、女性の負担を軽減することが大切です。

    厚生労働省の調査によると、夫の家事・育児時間が長いほど、妻が出産後も仕事を継続する割合が高いことがわかっています。

    女性の就業を継続するためにも、男性の育休取得を推進し、夫婦で育児を分担できる環境を整えるサポートが企業には求められています。

    参照:『育児・介護休業法の改正について――男性の育児休業取得促進等』独立行政法人 労働政策研究・研修機構
    参照:『第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)』国立社会保障・人口問題研究所

    2. 日本の男性の育児時間は諸外国と比較して低いため

    日本の男性の家事・育児時間は諸外国と比較して極端に短いことが指摘されています。

    たとえば、6歳未満の子どもを持つ夫の家事・育児関連時間は、1日あたり約1時間程度と報告され、スウェーデンの約3分の1です。

    こうした状況は、「育児=女性の役割」という価値観が根強く残っていること に起因していると考えられます。その結果、育児と仕事の両立が女性側に偏り、出産後の離職率の高さにつながっているのでしょう。

    男性が育児に積極的に参加することで、家庭内での育児負担が平等に分担され、女性のキャリア継続を支援できるようになります。育休制度を活用し、男性が家事・育児にかかわる時間を増やすことは、社会全体でのワーク・ライフ・バランスの向上にもつながります。

    参照:『男性の育児休業取得促進等に関する参考資料集(P.26)』厚生労働省

    3. 男性が取得しにくい環境を変えるため

    厚生労働省の委託調査では、「制度を利用しなかったが、利用したかった」と「制度を利用しなかった」の合計が男性正社員で37.5%を占めました。

    男性が育児休業を取得しにくい背景には、職場の雰囲気や制度の未整備が影響しています。​具体的には、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから」や「会社で育児休業制度が整備されていなかったから」といった理由が挙げられます。 ​

    職場環境を改善し、男性が育児休業を取得しやすい職場づくりが求められています。​

    参照:『平成30年度仕事と育児等の両立に関する実態把握のための調査研究事業報告書(P.141)』三菱UFJリサーチ&コンサルティング

    男性の育休を促進する法改正の内容

    2022年の『育児・介護休業法』改正により、企業の義務が拡大し、男性の育休取得をしやすい環境づくりが進められました。これまで取得が難しかった職場でも、法律の整備により環境が改善されつつあります。

    では、どのような改正が行われ、企業や従業員にどのような影響を与えているのでしょうか。確認していきましょう。

    雇用環境整備、個別の周知や意向確認の義務化

    法改正の最大の柱は、「雇用環境整備」「個別の周知・意向確認の措置」の義務化です。具体的には以下のいずれかの措置を講じなければなりせん。

    育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
    ・育児休業などに関する研修実施
    ・育児休業などの相談体制整備
    ・自社における育休関連の事例収集と提供
    ・従業員へ育休関連制度や取得促進方針の周知

    また、対象となる従業員に対して、以下の事項を個別に周知し、育休取得の意向を確認する必要があります。

    妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置
    周知事項個別周知や意向確認の方法
    ・育児休業や産後パパ育休に関する制度や申し出先
    ・育児休業給付関連
    ・従業員が育休などの期間中に負担すべき社会保険料の取り扱い
    ・面談(オンライン可)
    ・書面
    ・FAX(希望があった場合)
    ・電子メールなど(希望があった場合)のいずれか

    企業は従業員が育休を取得しやすいよう、育児休業や育児休業関連の給付金などの情報を提供しなければなりません。

    担当者は、妊娠や出産、育児に対する理解を深め、従業員が安心して育休を取得できる体制整備に努めましょう。

    産後パパ育休(出生時育児休業)の創設

    法改正では、主に男性が育休を取得しやすくなるよう「産後パパ育休」という新制度も創設されました。

    産後パパ育休とは、子どもの出生後8週間以内に最大4週間の休暇を取得できる制度です。

    通常の育児休業とは別枠で、2回に分けて取得できるため、より柔軟に活用できます(詳しくは後述)。

    通常の育休と異なるのは、労使協定の締結がある場合、一定の条件を満たせば就労が可能な点が特徴です。短時間など業務を続けながら取得できるため、利用者にとって選択肢が広がるでしょう。

    参照:『育児・介護休業法のあらまし』厚生労働省

    育休取得状況の公表義務化

    従業員1,000人超の企業には、男性の育休取得状況の公表も義務化されました。

    公表する内容は、企業における男性の「育児休業等の取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」です。企業外部である一般の人が確認できる方法で公表する必要があります。

    さらに2025年4月から300人超の企業にまで対象範囲が拡大されました。

    単に取得率を示すだけでなく、男性の育児参加を促進する参加を促進する狙いが背景にあります。企業の育休支援の姿勢が問われるため、企業には積極的な取り組みが求められるでしょう。

    参照:『育児・介護休業法 改正ポイントのご案内令和4年4月1日から3段階で施行』厚生労働省

    男性が取得できる育休関連制度の特徴

    男性は通常の育児休業のほか、一定の要件を満たせば「産後パパ育休」や「パパ・ママ育休プラス」も利用できます。

    子どもの出生前後に休業できる産前産後休業のみ、当然ながら女性を対象とした制度であり、男性は取得できません。

    また、2025年4月から新たに「出生後休業支援給付金」が創設され、男性の育児参加がさらに進みやすくなると期待されています。

    以下、それぞれの制度の特徴を詳しく見ていきましょう。

    産後パパ育休(出生時育児休業)

    産後パパ育休は、子どもの出生後8週間以内に最大28日間取得できる制度です。主に男性が利用できるのが特徴です。

    特徴
    ・2回に分けて取得できる(分割取得が可能)
    ・一定条件下で就労が可能(労使協定が必要)
    ・「出生時育児休業給付金」が支給される

    育児のスタート時期に父親がかかわる機会を増やすことを目的としています。

    参照:『令和3(2021)年法改正のポイント|育児休業特設サイト』厚生労働省

    パパ・ママ育休プラス

    パパ・ママ育休プラスは、両親ともに育休を取得する場合、育休期間を延長できる制度です。

    育休は、本来子どもが1歳になるまでを対象とした制度ですが、本制度を利用することで、1歳2か月になるまで期間を延長できます。

    ただし父親・母親のそれぞれが、休業できる期間は最大1年間までという点は変わらないため、計画的な利用を案内するとよいでしょう。

    参照:『育児休業給付金の支給対象期間延長手続き』厚生労働省

    出生後休業支援給付金(2025年4月施行)

    2025年4月から、新たに「出生後休業支援給付金」が導入されます。本制度は、育児休業給付金に加えて、休業開始時賃金の13%が上乗せ支給されるものです。育休中の手取り額が実質的に10割相当となることが期待されています。

    参照:『2025年4月から「出生後休業支援給付金 」を創設します』厚生労働省

    育休手当が手取りの10割に? 2025年4月からの新制度については以下のページでご確認ください。

    男性が育休を取得するメリット

    男性が育休を取得することで、従業員や企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

    企業がメリットを理解し、適切なサポートを行うことで、男性の育休取得がより促進されるはずです。

    ここでは、男性の育休取得における企業と従業員それぞれにとってのメリットを解説します。

    従業員エンゲージメントの向上が期待できる

    企業が男性の育休取得を推進することで、従業員満足度やエンゲージメントの向上を期待できます。

    育児と仕事の両立を支援する姿勢を示すと、従業員は「会社は家庭を大切にする文化を持っている」と感じ、信頼感が高まるでしょう。仕事とプライベートの両立が可能な職場環境は、長期的な定着にもつながります。

    会社のイメージアップにつながる

    企業が男性の育休取得を積極的に支援することで、外部からのイメージも向上します。出産や育児に理解のある企業と認識され、とくに採用活動において優秀な人材を集めやすくなるでしょう。

    また、対外的なイメージが向上すると、消費者からの支持を得やすくなり、製品やブランドの価値向上にもつながるかもしれません。

    育休にかかわる助成金制度を利用できる

    男性の育休取得を促進するため、国は企業向けの助成金制度を整備しています。一例が、両立支援等助成金の「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」です。

    企業が男性従業員の育休取得を支援し、一定の環境整備を行うことで20万円の助成金を受け取れます。

    本コース以外にも、「育児休業等支援コース」や「育休中等業務代替支援コース」 など、企業の負担軽減につながる制度が用意されています。

    助成金の活用により、男性の育休取得を推進しつつ、企業のコスト負担軽減が可能です。

    助成金制度は条件などが頻繁に変わるため、最新の情報を確認するようにしましょう。

    参照:『出生時両立支援コース』厚生労働省東京労働局

    また、男性の育休取得には、企業だけでなく、当然ながら利用者本人にも以下のようなメリットがあります。

    • 男性である父親が子どもと長い時間を過ごせる
    • 出産や育児をする女性の心身の負担を軽減できる
    • 育休にかかわる給付金の支給を受けられる

    以上のように男性の育休取得は企業と従業員ともに大きなメリットがあります。 企業は、制度の周知やサポートを通じて、積極的に育休取得を促進しましょう。

    男性が育休を取得するデメリット

    男性の育休取得にデメリットがないわけではありません。

    企業にとって、もっとも大きな懸念 は、人材不足による周囲の業務負担が増えることです。育休取得者が不在になり、一時的に業務が回りにくくなり、同僚の負担が増える可能性があります。

    近年では課題に対応するため、育休取得者の業務をカバーする従業員に、手当を支給する取り組みも注目されています。

    企業は育休取得者の長期不在を見据え、業務分担や負担軽減のための施策を検討しなければなりません。男性従業員の育休取得にあたり、引継ぎや業務分担を適切に行い、周囲の従業員にかかる負担を軽減する努力が必要です。

    企業全体で育休取得者を気持ちよく送り出せるよう、環境づくりに取り組みましょう。

    男性の育休取得率

    厚生労働省のデータによると、2023年における産後パパ育休を含めた男性の育児休業取得率は30.1%です。一方、女性の育休取得率は84.1%であり、依然として男女間の取得率には大きな差があります。

    しかし近年、男性の育休取得率は着実に上昇しており、調査開始以来、初めて30%を超えました。 企業や国による育休取得促進の取り組みが少しずつ成果を上げているといえます。

    参照:『「令和5年度雇用均等基本調査」結果を公表します』厚生労働省

    まとめ|男性の育休に関する今後の課題

    男性の育休取得率が向上しているとはいえ、依然として女性と比べて低い水準にとどまっています。企業は、育休取得を促進することで得られるメリットを理解し、制度の活用をさらに推進することが求められます。

    そのためには、国の育休制度に対する組織全体の理解を深めることが不可欠です。また、男性従業員が育休制度を正しく認識し、活用できるよう、社内での周知を徹底することも重要です。取り組みを通じて、さらなる男性の育休取得促進を目指しましょう。

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