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社会保険料の月額変更届とは【わかりやすく】3つの判定要件と手続きの流れを解説

社会保険の月額変更届は、社会保険料の見直しを行うための届け出です。従業員の基本給や手当など毎月固定で支払われる報酬額が大きく変動したときに、提出が求められます。

本記事では、社会保険の月額変更届の概要や、手続きの流れを詳しく解説します。社会保険の随時改定が必要になる3つの要件についても紹介するため、人事労務担当者はぜひ参考にしてください。

※本記事の内容は作成日現在のものであり、法令の改正等により、紹介内容が変更されている場合がございます。

社会保険料の月額変更届とは【わかりやすく】3つの判定要件と手続きの流れを解説
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    社会保険の月額変更届とは

    社会保険の月額変更届とは、健康保険と厚生年金保険に関連する書類です。

    正式名称は「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」といいます。被保険者である従業員の昇給や降給など、毎月の固定給に変動が生じる場合の手続きで使われます。

    社会保険料は、実際の給与保険料率を乗算するのではなく、健康保険の場合は1〜50等級、厚生年金保険の場合は1〜32等級に区分した「標準報酬月額」に保険料率を掛け算して算出します。

    社会保険の月額変更届は、実際の給与と標準報酬月額に差が生じないようにするための重要な書類です。

    標準報酬月額とは

    標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金保険の保険料計算の基礎になる数値です。

    通常は、年に1度実施される標準報酬月額の定時決定において、標準報酬月額の定期的な見直しを実施します。定時決定とは、毎年4〜6月までの給与額をもとに標準報酬月額を算出する手続きです。

    たとえば、前回算定した4〜6月の給与が高かった従業員は、何かしらの理由で給与額が下がっていたとしても、標準報酬月額が変更されない限り、高い水準の社会保険料を払い続けなければなりません。

    一方、随時改定とは、昇給や降給、雇用契約の変更などで毎月支給される給与に変更が生じたタイミングで行われる手続きです。給与の変動幅が大きいと、標準報酬月額の等級を見直す必要があります。

    社会保険の月額変更届は、定時決定を待たずに随時改定を行う際に必要な書類です。

    算定基礎届とは

    算定基礎届とは、定時決定の際に提出する書類です。

    定時決定は、毎年4~6月の3か月間に支給する給与の平均額をもとに、従業員の社会保険料を算出するための基準となる標準報酬月額を定期的に見直す手続きです。

    企業は、4~6月の3か月間に支給する給与の平均額から算出した標準報酬月額を算定基礎届に記入し、毎年7月上旬に年金事務所へ提出します。

    算定基礎届の提出によって、その年の9月から翌年8月まで1年間の標準報酬月額が定められます。

    算定基礎届の対象者は、7月1日時点で在職中の社会保険の被保険者であるすべての従業員と70歳以上の被用者です。育児休業中や介護休業中、休職中の従業員も対象に含まれます。

    ただし、6月日から7月1日までに入社した従業員や7月から9月までのいずれかの月に随時改定される(またはされる予定)の従業員は、算定基礎届の対象から除外されます。

    社会保険の月額変更届の提出が必要になる3つの要件

    社会保険の月額変更届の提出が必要となる随時改定は、以下の3つの要件をすべて満たす場合に適用されます。

    1. 昇給・降給による固定的賃金の変動
    2. 変動前と変動月以後3か月の標準報酬月額に2等級以上の差
    3. 変動月以後3か月の支払基礎日数が17日以上

    1.昇給・降給による固定的賃金の変動

    固定的賃金とは、月給や時給、通勤手当や住宅手当をはじめとする各種手当など、支給額・支給率が固定されている賃金のことです。

    固定的賃金が変動する具体例は、以下の通りです。

    • 昇給や降給
    • 週給から月給、月給から時給といった給与体系・単価の変更
    • 歩合給や請負給などの支払い単価・支給率の変更
    • 通勤手当や住宅手当、役職手当など固定されている手当の追加・変更・廃止

    たとえば、転勤にともなって住宅手当がつくようになったり、引っ越しによって通勤交通費が変更されたりした場合も、随時改定の対象です。

    固定的賃金の変動があったと判断されるため、社会保険の月額変更届を用意しなければなりません。

    一方で、残業手当や皆勤手当のように稼働実績によって変動する非固定的賃金は、随時改定の対象ではありません。

    2.変動前と変動月以後3か月の標準報酬月額に2等級以上の差

    固定的賃金が変動する前の標準報酬月額と、変動月から3か月間の給与総額の平均による標準報酬月額を比較し、2等級以上の差が生じたら随時改定が必要です。社会保険の月額変更届を準備しなければなりません。

    ただし例外として、以下に該当する場合は、1等級の差でも随時改定に該当します。

    昇給の場合・第1級から第2級に変動・第49級から第50級に変動
    降給の場合・第2級から第1級に変動・第50級から第49級に変動

    変動月とは、変動後の給与が実際に支払われた月を指します。たとえば、月末締めで翌月25日払いの企業において9月に昇給した場合、9月分の支払いは10月25日なので、変動月は10月です。

    標準報酬月額の等級は、全国健康保険協会が公開している保険料額表から確認できます。保険料額は定期的に変更されるため、最新の情報を確認するようにしましょう。

    参照:『令和6年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)』 全国健康保険協会

    3.変動月以後3か月の支払基礎日数が17日以上

    ​​社会保険の月額変更届の提出が必要になるかを判断する際は、固定的賃金の変動月から3か月間の支払基礎日数が17日以上あるかも確認します。

    たとえば、月末締め・翌月払いの会社で9月に昇給した従業員は、10〜12月の支払基礎日数が17日以上あれば、随時改定の対象です。

    支払基礎日数とは、基本的に出勤日数のことです。日給や時給の場合は出勤日数、月給の場合は休日を含めた暦日数が該当します。

    ただし、特定適用事業所に従事するアルバイトやパートのような短時間労働者で、週の所定労働時間が20時間以上の場合は、支払基礎日数が11日以上あれば、随時改定の要件を満たすため注意しましょう。

    例外

    これまで解説した​​3つの条件を満たしても、以下のケースに該当する場合は、社会保険の月額変更届の提出(随時改定)の対象となりません。

    • 休職中で休職手当を受給している
    • 固定的賃金は増加したが非固定的賃金が減少したため、2等級以上の差が生じている
    • 固定的賃金は減少したが非固定的賃金が増加したため、2等級以上の差が生じている

    非固定的賃金とは、従業員の労働実績によって変動する残業手当や皆勤手当などをいいます。

    参考:『随時改定(月額変更届)』日本年金機構

    社会保険の月額変更届手続きの流れ

    基本給や各種手当などの固定的賃金に変動があった従業員は、随時改定の手続きが必要になる可能性があります。

    随時改定の流れは、以下の通りです。

    1. 対象の確認
    2. 社会保険の月額変更届の作成
    3. 標準報酬月額の変更の反映

    まずは、固定的賃金に変動があった従業員について、随時改定の対象かどうかを確認します。手続きの漏れが生じないように、固定的賃金の変動があった時点で、3か月後の確認作業をスケジュールに組み込んでおくとよいでしょう。

    随時改定の対象であることがわかったら、速やかに社会保険の月額変更届を作成します。変動月の4か月後の給与から、標準報酬月額の変更を反映させましょう。

    社会保険の月額変更届の手続き方法

    社会保険の月額変更届の作成・提出方法を解説します。

    • 月額変更届の入手方法
    • 月額変更届の書き方
    • 提出するタイミング
    • 提出先
    • 提出方法

    月額変更届の入手方法

    社会保険の月額変更届は、日本年金機構のホームページからダウンロードできます。1枚につき5人分までまとめて記載が可能な仕様です。

    参考:『被保険者報酬月額変更届』日本年金機構

    月額変更届の書き方

    社会保険の月額変更届を入手したら、必要事項を記載しましょう。

    月額変更届を作成する手順は、以下の通りです。

    1. 提出日を記入する
    2. 提出者記入欄に事業所の情報を記入する
    3. 個人別記入欄の各項目に記入する

    個人別記入欄には、従業員の被保険者整理番号や氏名、生年月日などの個人情報をはじめ、改定年月や従前の標準報酬月額などを記載します。具体的な記載方法は、日本年金機構のホームページを参考にしてください。

    参考:『記入例』日本年金機構

    提出するタイミング

    随時改定を行う必要性が発生したら、次に予定されている定時決定を待たず、速やかに社会保険の月額変更届を提出しなければなりません。

    具体的な期日は定められていないものの、届け出のタイミングが遅くなればなるほど実際の保険料額との相違が生じてしまうため、可能な限り早いタイミングで提出しましょう。

    参考:『随時改定(月額変更届)』日本年金機構

    提出先

    社会保険の月額変更届の提出先は、管轄の年金事務所または事務センターです。

    加入している健康保険が全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)の場合は、協会けんぽへの提出は不要です。

    ただし、協会けんぽ以外の健康保険組合や共済組合に加入している従業員の分は、組合にも提出しなければなりません。

    提出方法

    社会保険の月額変更届の提出方法は、以下の3つの方法から選択できます。

    • 電子申請
    • 郵送
    • 窓口持参

    大量の届け出が必要な場合は、電子申請や電子媒体(CDやDVD)を活用した申請方法を検討しましょう。

    参考:『電子媒体申請』日本年金機構

    社会保険の月額変更届の手続きにおける注意点

    社会保険の月額変更届を提出する際に注意すべきポイントは、以下の3点です。

    • 新しい保険料率は変動月から数えて4か月目から適用する
    • 提出が漏れると差額の支払いが生じる
    • 随時改定と定時決定が被ると時期によって対応が変わる

    新しい保険料率は変動月から数えて4か月目から適用する

    固定的賃金の変動があった月より数えて4か月目から、新しい標準報酬月額が適用されます。新しい保険料率がいつから適用となるか、事前に把握しておきましょう。

    提出が漏れると差額の支払いが生じる

    標準報酬月額が変わるにもかかわらず、社会保険の月額変更届を提出せずにいると、実際の社会保険料と給与から天引きされる額がずれてしまい、保険料の未払いや過払いが発生してしまいます。

    特に過払いの場合は、従業員に大きな負担を強いることになります。

    万が一、手続きをしないまま未納の保険料が発生していると、最大で2年間さかのぼって保険料を徴収される恐れがあります。

    さらに、正当な理由なく社会保険の月額変更届を提出しなかったり、年金事務所からの催告に応じなかったりすると、6か月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科されるリスクもあるため注意が必要です。

    提出漏れや提出遅れを防ぐためにも、従業員の固定的賃金や契約内容に変更が生じた際は、随時改定に該当しないかを確認し、必要に応じて手続きを進めましょう。

    随時改定と定時決定が被ると時期によって対応が変わる

    随時改定と定時決定が重なった場合、随時改定を実施するタイミングによって対応方法が異なります。6月までに随時改定が行われるケースと、7月以降に実施されるケースに分けて解説します。

    6月までに随時改定

    1月から6月までに随時改定が行われた場合、8月までは、定時決定が実施される前の従来の標準報酬月額が適用されます。その後、9月から適用されるのは、定時決定による新たな標準報酬月額です。

    7月以降に随時改定

    一方で、7月から12月の間に随時改定が行われた場合は、随時改定によって定められた新しい標準報酬月額が優先され、翌年8月までそのまま適用されます。

    また、7月から9月の間に随時改定の要件に該当することが予定されている従業員については、事前に申し出れば算定基礎届の届け出を省略できます。

    月額変更届の知識を身につけて正しく手続きしましょう

    社会保険の月額変更届とは、標準報酬月額を変更するために日本年金機構へ提出する書類です。月額変更届の提出が必要かどうかは、それぞれの企業の担当者が判断する必要があります。提出漏れや提出遅れを防ぐためにも、従業員の賃金変動には十分注意してください。

    労務管理システムを採用すれば、届出の必要性を自動的にチェックでき、スムーズな対応が可能になるでしょう。

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