定年退職は何歳から? 退職日の決め方や年齢引き上げの義務化と関連法、再雇用も解説

定年退職の年齢や再雇用制度は、従業員のキャリア・人生設計に影響するテーマです。そんななか、「定年退職は何歳にすればよいか」「退職のタイミングはいつにすればよいか」など、就業規則への定め方や退職日の決め方について悩んでいませんか。
本記事では、定年退職の年齢や定年に関する近年の法改正を踏まえつつ、退職日の決め方や再雇用への対応、就業規則への定め方まで解説しています。企業の経営層や人事担当者の方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次

定年退職とは
定年退職とは、企業が定めた一定の年齢に達した従業員を自動的に退職扱いとする制度です。
企業が制度として定年を設けるかどうかは任意です。もし導入する場合は、60歳未満を定年とすることは法律で認められていません(高年齢者雇用安定法第8条)。
また、定年退職制度を採用する企業は、定年年齢と退職のタイミングを、就業規則や雇用契約書に明記する必要があります。
参照:『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条』e-Gov法令検索

定年退職は何歳から? 退職日はどう決める?
定年退職の年齢と退職日の決め方は、担当者が疑問に思うポイントの一つです。とくに近年は、定年引き上げの議論が活発となっているため注目度が高まっています。
まず定年の年齢は法律上、「60歳以上」と決められており、多くの企業では60歳または65歳に設定しています。しかし、定年は従業員の収入にもかかわる重要な問題のため、単に年齢だけを考慮すればよいものでもないでしょう。
退職日の決め方
退職日をどのように設定したらよいのでしょうか。退職日の設定例として、一般的には次のパターンがあります。
- 定年の年齢に達した誕生日当日
- 定年の年齢に達した誕生日が属する月の月末
- 誕生日が属する月の給与の締め日
- 誕生日が属する年度(年)の末日
企業は、給与計算のしやすさや社内の方針、従業員への説明のわかりやすさを考慮し、退職日を決めます。
誕生日当日を退職日とすると公平性は保てますが、給与計算が煩雑になるケースがあります。一方、月末や年度末に設定すると、手続きや計算を効率化できるでしょう。
退職日は就業規則に明記し、すべての従業員に共通の基準を適用しなければなりません。従業員ごとに異なる退職タイミングを設けることはできないとされています。
退職日を決めたら、将来のトラブルにならないように必ず明文化し、全従業員に周知することが大切です。
定年退職に関するデータ
定年対象の年齢や再雇用制度について、他社の状況も気になるところでしょう。
厚生労働省の「就労条件総合調査(令和4年)」によると、ほとんどの企業が「60歳または65歳定年+継続雇用(再雇用)」という方針を採用している実態がわかります。
定年退職の年齢について
本調査によると、定年制を導入する企業は9割を超えています。年齢や職種にかかわらず、一律の定年制を導入する企業において、定年の年齢割合は以下のとおりです。
割合 | |
---|---|
60歳 | 72.3% |
61~64歳 | 2.6% |
65歳 | 21.1% |
66歳以上 | 3.5% |
定年制を導入する多くの企業が、定年の年齢を60歳、次いで65歳と定めていることがわかります。
継続雇用制度の導入について
一律に定年制を定めている企業では、94.2%が再雇用制度または勤務延長制度もしくは両方の制度を導入しています。内訳は再雇用制度のみが63.9%、勤務延長制度のみが10.5%、両制度の併用が19.8%です。定年後は再雇用制度がもっとも多く採用されていることがわかります。
企業が何らかの雇用体制を整備し、定年後の従業員に対する雇用確保や維持に努めているといえるでしょう。定年後の継続雇用は決して従業員のためだけでなく、人材の確保と熟練技能の維持において企業にとってもメリットがあります。

定年退職と高齢者雇用安定法
定年退職については「高年齢者雇用安定法」に関連する規定があります。同法により、企業には従業員が65歳まで就労できるように環境を整備することが義務づけられているのです。
さらに70歳まで就業機会を確保するよう努める必要もあります。つまり、企業は最低でも60歳から65歳までの雇用機会を確保しなければならず、可能であれば70歳まで働ける仕組みを検討しなければなりません。
法律の背景には、働きたい高齢者が活躍できる環境をつくり、日本経済社会を維持するという社会的な目的があります。
担当者としては、就業規則や雇用契約書に法令に沿った定年年齢と雇用確保の内容を記載しておくことが重要です。
高齢者の雇用に関する法改正
高齢者雇用に関する法律は、社会情勢や労働市場の変化に合わせて繰り返し見直されてきました。とくに年齢基準や義務の範囲は、法改正のたびに変わっており、企業が常に対応を求められる分野です。過去から現在までの主な改正は以下のとおりです。
法改正の年 | 改正内容 | 詳細 |
---|---|---|
1998年 | 定年退職を60歳以上に義務化 | 60歳未満の定年は不可に。 |
2004年 | 65歳までの雇用確保措置の拡大と義務化 | 65歳までの定年の引き上げ・継続雇用または定年廃止のいずれかを選択。労使協定による例外措置の規定も認められる。 |
2012年 | 継続雇用の例外措置が廃止 | 例外措置を廃止。 2025年3月まで適用年齢を段階的に引き上げる措置を実施後、2025年4月1日から希望者全員を継続雇用にする措置がスタート。 |
2020年 | 70歳までの就業確保措置を努力義務化 | 70歳までの定年延長・継続雇用・業務委託、または定年廃止のいずれかを推奨。対象者の選定基準設置も認められる。 ※65歳までの雇用確保義務も継続 |
たとえば、2004年の改正内容である「高齢者雇用の雇用確保」とは以下のような取り組みです。
- 定年の年齢を65歳に引き上げ
- 定年の年齢は60歳に設定、65歳までは継続雇用制度を実施
- 定年の廃止
今後も、労働力不足や高齢化の進行により、さらに柔軟な雇用制度が求められる可能性があります。
企業の担当者は、自社においてどのような対応が適切なのかを検討し、高齢者の就労をサポートできる環境整備に努めましょう。法改正の背景と意図を理解したうえで、将来の制度変更にも備えた規定づくりがポイントです。
企業における高齢者の雇用維持方法
では具体的に定年退職を迎える従業員をどのように雇用し続ければよいのでしょうか。企業が高齢者の雇用を維持する方法として、主に3つの選択肢があります。
- 定年退職の年齢引き上げ
- 定年退職後の雇用継続
- 定年制の廃止
雇用確保の中身をもう少し、具体的に確認していきましょう。
定年退職の年齢引き上げ
定年年齢を60歳から65歳、または65歳以上に引き上げて高齢従業員の雇用を維持する方法です。定年の年齢を迎えても安定して働き続けられ、企業に対する満足度も高まるでしょう。企業にとっても、熟練した人材を継続的に活用できるメリットがあります。
注意点としては、人件費の増加が見込まれるため、賃金制度の見直しが必要になるケースがあることです。
定年退職後の雇用継続
定年退職後における再雇用制度の導入も、高齢者の雇用が維持される方法のひとつです。定年を迎えた従業員が希望すれば、同じ企業で働き続けられます。再雇用制度は、従業員が定年によって退職をしたあとに、新たな雇用契約によって再び雇用される制度です。再雇用では、雇用条件や形態を、企業側があらためて設定できる柔軟さがあります。
再雇用制度を取り入れる場合、再雇用の基準や更新条件を就業規則に明記し、透明性を保つことが重要です。
定年制の廃止
企業における定年制度の廃止も、高齢者雇用の確保ができます。企業が定年をなくせば、従業員は年齢にかかわらず働けるため、定年後の生活に対する不安も抑えられるでしょう
企業が定年制度そのものを廃止することで高齢者の雇用を確保する方法です。年齢にかかわらず、従業員が希望すれば働き続けられる環境を整えます。高齢従業員にとって、定年後の生活に対する不安を抑えられる働き方です。
年齢で雇用を区切る必要がないため、再雇用などのように契約上の煩雑さは少ないでしょう。熟練技能者の技術や知識を長期的に活用するのにも適しています。
一方で、パフォーマンス管理や役割に応じた評価制度を導入しなければ、組織の硬直化や人件費の負担が増すおそれもあります。
定年退職の年齢を引き上げるメリット
企業が定年退職の年齢を引き上げると、どのようなメリットがあるのでしょうか。就業規則の改定や制度変更を検討する際、社内で説明を求められる場面もあるでしょう。
担当者がおさえておきたい主なメリットを4つ紹介します。
- 従業員の生活安定
- 人材不足の深刻化を防止
- 熟練した技術や長年の経験を活用
- 国からの助成制度の活用
従業員の生活安定
定年退職の年齢を引き上げれば、従業員の生活を安定させることにつながります。とくに、年金受給開始(65歳)までの収入空白期間を解消できるという点はメリットです。
生活の安定は、従業員の働く意欲や企業への信頼感に影響するでしょう。
人材不足の深刻化を防止
定年退職の年齢を引き上げることは、企業の人材不足対策として有効です。仮に定年を60歳から65歳に変更すれば、現在の労働力をさらに5年間確保できます。
少子化の影響で、労働力の確保を課題にあげる企業も少なくありません。とくに中小企業や技術職・専門職では、即戦力の維持に役立つ施策といえるでしょう。
熟練した技術や長年の経験を活用
定年退職の年齢を引き上げにより、企業は高齢の従業員における熟練した技術や経験を社内に残すことができます。高齢従業員の持つ技術や経験を活かすことで、実務だけでなく後継者の育成にも活かせるでしょう。定年年齢の引き上げは、単なる雇用延長ではなく、スキルトランスファーにもつながるのです。
国からの助成制度の活用
企業が高齢の従業員に対する雇用確保や維持に努めることで、国から助成も受けられます。国が整備する「65歳超雇用推進助成金」は、高齢者の働きやすい環境を用意した企業に対して支援する制度です。
コース種類 | 内容 | 助成額 |
---|---|---|
65歳超継続雇用促進コース | 定年を65歳以上へ引き上げたり定年制を廃止したりするなど、高年齢者の雇用確保を行う企業に対する助成 | 15~160万円 |
高年齢者評価制度等雇用管理改善コース | 高年齢者向けの雇用管理制度を整備や措置を行った企業に対する助成 | 措置を行うためにかかった経費額に45%もしくは60%を乗じた額 |
高年齢者無期雇用転換コース | 50歳以上で定年年齢未満の有期雇用契約者を無期雇用契約に転換した企業に対する助成 | 中小企業:対象者1人につき30万円 中小企業以外:対象者1人につき23万円 |
定年退職の年齢引き上げは多くのメリットがある一方で、多くの企業で人件費の負担が懸念されています。しかし、国による助成金制度を活用すれば、負担を抑えられるのです。
参照:『65歳超雇用推進助成金』厚生労働省
参照:『令和6年度65歳超雇用推進助成金のご案内』厚生労働省
定年退職の年齢を引き上げるデメリット
定年退職の年齢を引き上げることは、企業にとって無視できないデメリットもあります。一度定年退職の扱いを定めたら、従業員の不利益になる変更は難しくなるため慎重に判断しなければなりません。制度を導入する前に、次の課題を十分に検討しましょう。
- 人件費がかかる
- 定年まで雇用が続く
- 古い風土が残る可能性もある
人件費がかかる
定年退職の年齢を引き上げると雇用期間が延び、人件費の負担が増える点はデメリットです。定年を65歳から70歳に引き上げれば、追加の5年間ぶんの人件費がかかります。
とくに年功序列型の賃金体系を採用している場合、高い給与水準がさらにコスト負担を押し上げます。制度導入とあわせて、賃金体系の見直しが必要になるケースが多いといえるでしょう。
定年まで雇用が続く
定年退職の年齢の引き上げ後は、正当な理由がなければ原則として解雇ができません。
企業は長期間にわたって雇用責任を負うことになります。人員構成や事業戦略の柔軟な変更が難しくなるリスクがあります。
古い風土が残る可能性もある
定年退職の年齢引き上げにより、長期間勤続する社員が増え組織文化が固定化しやすくなります。新卒から40年以上勤務した社員を中心に、古い会社風土や価値観が根強く残ってしまうのです。
結果として、新しい価値観や働き方を取り入れる柔軟性が失われ、組織が硬直化するとともに、イノベーションが生まれにくくなるおそれがあります。
定年退職の年齢を引き上げる際の注意点
定年退職の年齢引き上げを検討する企業は、次の2点に注意しなければなりません。
- 就業規則に明記して周知する
- 賃金を見直す
定年退職にかかわる認識に相違があると、労務トラブルに発展するおそれもあります。社内に混乱を招かないよう、注意点をあらかじめ理解したうえで、制度を変えていきましょう。
定年に関する内容は就業規則に明記して周知する
定年退職の年齢引き上げにともない、変更内容を就業規則や雇用契約書に明記し、組織全体に周知徹底しなければなりません。
企業の定年に対する対応は、従業員の雇用だけでなくキャリアプランや人生設計にも影響を与えます。
周知が不十分で従業員に理解されていないと誤解を生み、不要な転職活動などのトラブルに発展する可能性があります。
定年退職の認識を組織全体で統一するために、説明会や文書でていねいに伝えていきましょう。
定年退職の年齢引き上げにともない、賃金を見直す
定年退職の年齢を引き上げると、一般的に人件費の増加が避けられません。賃金の見直しは必須の検討事項といえます。
企業によっては、一定年齢を超えたあとに賃金を引き下げる方法や役割等級制度・職務等級制度への移行が実施されています。賃金見直しは、やり方によって従業員の不満を抱かせる原因になりかねません。
賃金見直しを実施する際は、背景やメリットを説明し、理解を深めてもらえるようにしましょう。個別面談の機会を設けるのも一案です。
定年退職で必要な退職手続き
定年退職を迎える従業員に対しては、次のような手続き対応が必要です。事前に準備を整え、スムーズな対応を心がけましょう。
対応 | 詳細 | 備考 |
---|---|---|
定年退職届の受理 | 社内規定で定年退職届を必須としている企業は、従業員に提出してもらう | 社内規定に定めていない企業は不要 |
辞令や通知書の作成 | 定年退職日の明記をしたうえで従業員に通知する | 定年退職後に再雇用する従業員に対しては再雇用契約書も作成 |
社会保険の手続き | 退職日翌日から5日以内に被保険者資格喪失届を健康保険組合または年金事務所に提出する | 退職後の健康保険は家族の扶養に入る、任意継続、国民健康保険への切り替え、いずれかで対応 |
(再雇用)資格喪失届と取得届の同時提出で、再雇用後の給与水準で保険料が決定 | ||
住民税の手続き | 「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を市区町村に提出する | 住民税の未徴収額がある場合は、普通徴収に切り替えるか、最後の給与や退職金から一括徴収する |
最後の給与と退職金の支給 | 最後の給与計算を行い、支給する | 日割り計算が必要な場合もある |
貸与品の回収 | 企業の貸与物を回収 | 例:社員証/制服/携帯電話/ロッカーの鍵 |
定年退職の手続きは従業員の生活や再雇用後の条件にもかかわります。手続き漏れが発生すると従業員とのトラブルに発展するおそれがあるため、チェックリストを活用しながら進めましょう。
▼各手続きの詳細は以下の記事でご確認いただけます。
▼退職時の社会保険手続きは、以下の記事で詳細にご確認いただけます。
まとめ
定年退職の年齢と退職日について、企業は法律・就業規則・社内方針の3つを踏まえて決定する必要があります。
高年齢者雇用安定法により、65歳までの雇用確保は義務、70歳までは努力義務とされています。
ほとんどの企業が「60歳または65歳+再雇用制度」を採用しており、今後は70歳雇用への対応が重要な検討課題です。高年齢者の雇用確保や維持に向けて、自社ができる対応を検討しましょう。