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社会保険の扶養における条件とは? 手続きや必要書類、適用範囲の変更点も注目

社会保険の扶養における条件とは? 手続きや必要書類、適用範囲の変更点も注目

社会保険の扶養条件を満たせば、被扶養者は保険料の負担をせずに社会保険のメリットを受けられます。2024年10月1日からは、社会保険の適用範囲が拡大する予定です。そのため、企業の人事労務担当者は、社会保険の扶養条件や適用範囲の拡大について正しく把握しておく必要があります。

本記事では、社会保険における扶養と条件を解説します。2024年10月以降の変更点についてもご紹介しますので、企業の人事労務担当者はぜひ参考にしてください。

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    社会保険における扶養とは

    社会保険の扶養とは、社会保険に加入する人(扶養者)の親族(被扶養者)が保険料の負担をせずに、社会保険に加入し、保険の恩恵が受けられる扶養制度を指します。被扶養者は健康保険に加入できても一部の給付は受けられません。

    社会保険の扶養対象には年齢制限はありません。しかし、75歳以上になったら後期高齢者医療制度へ移行するため、対象者自身が後期高齢者医療制度に加入します。そのため、社会保険の被扶養者だった人は、後期高齢者医療制度への移行時に、社会保険の扶養対象からは外れます。

    参照:『被扶養者とは? | こんな時に健保』全国健康保険協会

    社会保険とは

    社会保険とは、以下の5つの保険の総称を指します。

    • 健康保険
    • 厚生年金保険
    • 介護保険
    • 雇用保険
    • 労災保険

    病気や怪我、介護が必要になった際など、保険を通して被保険者や被扶養者の生活をサポートする制度です。

    社会保険には狭義と広義の2つがあり、上記は広義の社会保険となります。本記事では、狭義の社会保険(健康保険・厚生年金保険・介護保険)を指して、社会保険としています。

    社会保険で扶養に入るための条件

    社会保険で扶養に入るためには、以下2つの条件を満たす必要があります。

    • 社会保険における被扶養者の範囲内
    • 被扶養者としての収入を超えていない

    それぞれの条件の詳細を解説します。

    社会保険における被扶養者の範囲内

    社会保険における被扶養者の範囲は以下の通りです。

    1. 被保険者の直系尊属、配偶者(事実婚含む)、子、孫、兄弟姉妹
    2. 1以外の被保険者の3親等内の親族
    3. 被保険者の事実婚の配偶者の父母および子
    4. 3の配偶者の死亡後におけるその父母および子

    上記に該当し、被保険者によって生計を維持していることが必要となります。また、2、3、4については被扶養者と同一の世帯に属していることも必要です。

    ※75歳以上は3親等以内の親族であっても、後期高齢者医療制度の被保険者になるため社会保険の扶養対象外

    被扶養者としての収入を超えていない

    社会保険において扶養できる家族や親族は、収入条件も定められています。具体的な収入金額として、一般的には年間130万円未満(月間108,332円以下)で、60歳以上もしくは障がい者は年間収入180万円未満(月間150,000円以下)とされており、被保険者の年収の2分の1未満であることも必要です。

    また、年間収入に含まれる収入とは、給与収入や事業収入、年金など、継続して得られる収入を指します。収入額は、見込み額で計算し、明らかな変化がなければ前年所得および直近3か月の収入をもとに、計算します。

    2024年10月から社会保険の適用範囲が拡大

    社会保険の扶養に関連して、2024年10月からは、社会保険の適用範囲が拡大する予定です。具体的には、勤務先企業の従業員数51人以上、週20時間以上の労働時間、月額賃金88,000円、勤務期間が見込みを含め2か月を超える場合です。これらに合致する場合は、本人として社会保険に加入する必要が生じます。

    2024年9月末日までと2024年10月以降の内容を以下で比較してみましょう。

    改正前(2024年9月30日まで)改正後(2024年10月1日から)
    企業の従業員数101人以上51人以上
    労働時間週20時間以上週20時間以上
    月額賃金月額88,000円月額88,000円
    勤務時間(予定を含む)2ヶ月を超える2ヶ月を超える

    参照:『従業員数100人以下の事業主のみなさまへ 社会保険適用拡大ガイドブック』厚生労働省
    参照:『社会保険適用拡大 対象となる事業所・従業員について』厚生労働省

    社会保険の扶養条件を満たす場合の手続き

    社会保険について、家族が被扶養者の条件を満たす場合に扶養に入れる際の手続きや流れについてご紹介します。社会保険で被扶養者を追加する場合は、企業側が手続きを行います。

    内容
    扶養に関する手続き時期被扶養者の要件を満たしているかを確認のうえ、被扶養者になる事実があった日から5日以内
    届出書の提出先届出書やその他の添付書類は、管轄の年金事務所や地域の事務センターに提出
    ※健康保険が協会けんぽ以外の場合は、該当の健康保険組合に提出
    提出(申請)方法窓口持参、電子申請、郵送など

    特に、健康保険が協会けんぽでない場合、健康保険における扶養手続きに必要な書類は健康保険組合に提出します。健康保険組合では、提出する書類が異なる場合があるので、必ず事前に確認しましょう。

    社会保険の扶養に入れる際に必要な書類

    社会保険では、「被扶養者(異動)届 第3号被保険者関係届」に記入すれば、国民年金の第3号被保険者への切り替えも可能です。

    これらの書類は、必要な書類と状況に応じて提出する書類に分けられます。

    必ず提出する書類

    必ず提出する書類は以下の通りです。

    書類注意点
    健康保険被扶養者(異動)届 国民年金第3号被保険者関係届
    被扶養者の戸籍謄本(抄本)提出日から90日以前に発行されたもの
    住民票の写し・被保険者が世帯主で、被扶養者と同じ世帯であるときのみ
    ・提出日から90日以前に発行されたもの
    被扶養者の収入が確認できる書類控除対象配偶者の場合、事業主の証明があれば添付書類は不要

    住民票と被扶養者の戸籍謄本(抄本)については、続柄を確認するために必要な書類であり、どちらか一方を提出すれば問題ありません。

    参照:『被扶養者とは?』全国健康保険協会

    さらに、以下の場合に当てはまる人は、指定された書類も提出しましょう。

    対象者書類
    退職した人退職証明書
    雇用保険の失業給付受給中の人雇用保険受給資格証の写し
    年金受給中の人現在の年金受給額がわかる通知書
    自営業や不動産における収入がある人直近の確定申告の写し
    その他課税(非課税)証明書

    非課税であっても、手当金や給付金などを受け取っている場合は、その写しも提出しなければなりません。

    一定の状況下にある場合に提出する書類

    以下に該当する場合は、それぞれ提出しなければならない書類があります。

    別居して仕送りしている人預金通帳等の写しや現金書留の控え
    事実婚状態の人・事実婚にある双方の戸籍謄本(戸籍抄本)
    ・被保険者における世帯全員分の情報が記載された住民票(個人番号が記載されていないもの ※コピー不可)

    参照:『従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き』日本年金機構

    社会保険の扶養におけるメリット

    社会保険の扶養の仕組みにはどのようなメリットがあるのでしょうか。具体的なメリットをご紹介します。

    被扶養者が保険料を払わずに社会保険に入れる

    社会保険の扶養に入ると、被扶養者は自身で保険料を負担することなく、社会保険制度の恩恵を受けることができます。扶養に入れば、被扶養者が働いていても社会保険料が引かれないため、扶養に入っていない場合と比べて手取り金額が増えることになります。

    扶養する人の社会保険料は増えない

    扶養者が、家族や親族を社会保険の扶養に入れても、社会保険料は増えないという点もメリットです。被扶養者も保険料の負担なしに社会保険制度の恩恵を受けられるため、家族や親族を社会保険の扶養に入れることで、コストを抑えて社会保険に加入できるといえます。

    社会保険の扶養におけるデメリットとは?

    社会保険の扶養について、考えられるデメリットをご紹介します。特に被扶養者に関するデメリットです。

    年収制限がある

    社会保険の扶養に入る場合、被扶養者には年収制限が設けられているため、収入を調整して働くことになります。一般的な被扶養者となる場合、年収130万円未満で、かつ被保険者の年収の2分の1未満でなければなりません。そのため、被扶養者が所得を増やしたいと考えている場合、年収制限があることはデメリットといえます。

    将来の年金が減る

    社会保険において配偶者の扶養に入ると、年金は国民年金のみとなります。この場合、被扶養者の就業先で社会保険(厚生年金)に入るよりも、将来受給できる年金額が減ります。国民年金で受給できる金額は、満額で月額約6.6万円であるため、この金額で不安な場合はデメリットといえます。

    病気やケガで仕事を休む場合の保障がない

    社会保険の扶養において、病気や怪我によって仕事を休む際の保障が受けられない点もデメリットのひとつです。扶養者は社会保険の加入者本人であるため、病気や怪我で仕事を休む場合に傷病手当金が支給されますが、被扶養者に対する保障はありません。被扶養者が病気や怪我によって仕事を休む場合は、休んだ分の収入がなくなるという点には注意が必要です。ただし、被扶養者の病気や怪我そのものに対しては、家族療養費が支給されます。

    参照:『被扶養者に関する給付 | こんな時に健保』全国健康保険協会

    社会保険の適用拡大で企業が行うべきこと

    社会保険は、2024年10月以降、適用範囲を拡大する予定です。そこで、企業側はスムーズに対応するために、以下の点に注意しなければなりません。

    • 自社の従業員数の確認
    • 社会保険加入対象者の確認と把握
    • 新たに社会保険の加入対象となる従業員への説明
    • 被保険者資格取得届の提出

    今回の適用拡大では、対象となる企業規模が見直されます。これまで従業員101人以上の企業が対象でしたが、51人以上の企業にまで範囲が広がります。これにより、多くの企業が該当することになるため、社会保険の対象者も増えるでしょう。混乱やトラブルを防ぐためにも、あらかじめ変更点を理解し、新たに社会保険の加入対象になる従業員の把握と説明を徹底しましょう。

    まとめ

    社会保険における扶養の条件を満たせば、被扶養者は保険料の負担をせずに社会保険のメリットを受けられます。しかし、2024年10月1日からは、社会保険の適用範囲が拡大されるため、企業における社会保険の加入対象者が増えます。これまで社会保険の扶養に入っていた従業員が加入対象になるケースも少なくないため、企業は情報を正しく理解したうえで、該当の従業員に対して丁寧な説明を行いましょう。