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社会保険に入らないとどうなる?未加入による罰則やデメリットを解説

社会保険に入らないとどうなる?未加入による罰則やデメリットを解説

社会保険とは、病気やケガのリスクに備えて人々の生活を保障する公的保険制度のことです。企業などで働く従業員にかかわる社会保険は「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「労災保険」「雇用保険」の5つを指します。法人化している場合、社会保険への加入は企業にとっての義務であり、未加入だと罰則を受けるなどのデメリットもあります。本記事では、社会保険に加入しないとどうなるかを詳しく解説するため、参考にしてください。

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    5つある社会保険の概要

    社会保険には5つの種類があり、それぞれに目的や特徴が異なります。それぞれの社会保険の概要について詳しく解説しましょう。

    1.健康保険

    健康保険とは、業務外で病気やけがなどをした際に保障される医療保険制度です。医療費は、所得や年齢に応じて1割から3割で負担し、残りは全国健康保険協会や組合が支払います。

    自治体によっては助成金制度があり、条件に該当すれば負担が軽減されるのも特徴です。さらに、病気やけがで連続する3日間を含み4日以上療養のために仕事に就けなかった場合には、傷病手当金が受け取れます。

    参照:『病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)』全国健康保険協会

    2.介護保険

    介護保険とは、社会全体で介護を支えるための制度です。40歳以上の人だけが加入し、介護に対する個人負担を軽減する目的を持ちます。要介護認定(要支援認定)を受けて必要な手続きをすれば、介護サービスの利用料金負担を1〜3割に抑えられるのが特徴です。

    3.厚生年金保険

    厚生年金保険とは、主に会社員や公務員向けの公的年金制度です。20歳以上の国民は全員公的年金制度の「国民年金」に加入しなければなりませんが、企業に勤務する従業員や公務員は、厚生年金保険料を支払います。

    厚生年金保険料には国民年金保険料も含まれており、加入すると国民年金の第2号被保険者にもなるため、老後に厚生年金と国民年金の両方を受け取れます。

    4.労災保険

    労災保険とは、業務中や通勤中の事由によるけがや病気、または死亡などに対する保険給付制度です。給付金を支給し、社会復帰を手助けする目的があります。

    たとえば、療養(補償)給付は必要な療養や療養にかかる費用を、障害(補償)給付は障害の程度に応じて一定期間分の金額を給付する制度です。

    参照:『労災保険給付の概要』厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署(p8)

    5.雇用保険

    雇用保険とは、労働者の生活を支える、または就職を促進するための保険制度です。失業時や、再就職のための職業訓練を受ける場合などに給付されます。雇用保険には、失業時の生活の安定に向けた給付である「求職者給付」をはじめ、一定の条件を満たした在職者や離職者に指定の教育訓練費用の一部を支給する「教育訓練給付」などがあります。

    社会保険への加入が必要な会社と従業員

    社会保険への加入義務は、事業所と従業員単位でそれぞれ定められています。事業所の未加入だけでなく、従業員の未加入も指導や罰則の対象であるため注意が必要です。

    社会保険の加入が義務である企業の条件

    社会保険の加入が法律上義務となっている企業を「強制適用事業所」といいます。

    強制適用事業所の条件
    法人事業所(国・地方公共団体を含む)
    従業員が常時5人以上の適用業種である個人事業所

    法人事業所の場合は、株式会社や合同会社、有限会社などの法人の種類に関係なく、従業員が事業主1人のみであっても加入が必要です。個人事業所の場合は、従業員を5人以上常時雇用していれば強制適用ですが、一次産業やサービス業、宗教などの事業は強制適用になりません。

    参照:『被用者保険の適用事業所の範囲の見直し』厚生労働省

    社会保険の加入が義務となる従業員の条件

    強制適用事業所で働く正社員は、社会保険に加入する必要があります。さらに、1週間の所定労働時間および1月の所定労働日数が正社員の4分の3以上の従業員も、本人の意思に関係なく加入しなければなりません。

    上記に該当しない従業員も、次の5つの条件をすべて満たす場合は加入対象です。

    • 従業員101人以上いる企業に勤めている
    • 1週の所定労働時間が20時間以上
    • 所定内賃金が月額8.8万円以上
    • 2か月を超える雇用の見込みがある
    • 学生ではない

    参照:『従業員数100人以下の事業主のみなさま 』厚生労働省

    社会保険に入らない企業の確認が強化されている

    社会保険の加入促進に向けて、厚生労働省は本格的に対策に乗り出しています。2015年度には国税庁から給与の支払い実態などの情報の提供を受けられるようになり、パートやアルバイトの加入漏れを防いでいます。

    また、社会保険に加入している事業所に対しても、従業員の加入漏れがないかをチェックするために4年に1回の定例調査が行われています。働き方の多様化や労働人口の減少、財源確保など社会情勢の変化も、未加入事業所への指導が強化された大きな理由と考えられています。

    社会保険に入らないとどうなるのか

    社会保険に加入すべき事業所が未加入であったり、加入させるべき従業員を未加入のままにしていたりするとどのようなデメリットがあるか、詳しく解説します。

    求人をハローワークに出せない

    社会保険への加入が義務づけられている事業所が未加入の場合、ハローワークでの求人申し込みができません。労働者を雇用する事業所は、雇用保険法や厚生年金保険法などの法律に基づいて、各種保険へ加入する義務があるためです。なお、求人申し込み時点で従業員がいない場合は、採用後に速やかに加入する必要があります。

    参照:『求人の受理に関するQ&A 』大阪ハローワーク

    求人への応募が望めない

    社会保険が完備されているかどうかは、求職者にとって就職先を選ぶ際の重要な判断材料の一つです。そのため、社会保険未加入の事業所が求人を出したとしても、就職希望者が集まりにくいといえます。応募者が少ないと必要な人員を集めることが難しく、人員不足を解消できないでしょう。

    損害賠償を請求される恐れがある

    社会保険に加入していなかったことによって、損害賠償請求に発展するケースは少なくありません。事業主が健康保険の届け出を怠っていると、本来事業主が負担すべきだった保険料の返還請求が認められる恐れがあります。また、雇用保険の届け出を怠っていたために、失業手当相当額をはじめ、慰謝料や弁護士費用について損害賠償請求が認められた判例も存在します。

    厚生年金保険においては、退職した従業員が年金を請求する際に厚生年金が支給されなかったことを理由に、損害賠償が認められた事例がありました。本来は払う必要のなかった国民年金の保険料や慰謝料、弁護士費用についても請求が認められる傾向にあります。

    社会保険加入を従業員が拒否した場合の対処法

    社会保険の加入に否定的な従業員にはどのように対処すべきかについて、詳しく解説します。

    強制加入であることを伝える

    従業員によっては、月々の保険料負担が増えるため、社会保険に加入したがらないケースも大いに考えられます。しかし、適用事業所で働いている場合は本人の意思に関係なく強制加入であるため、従業員に納得してもらえるよう働きかけなければなりません。加入対象者の中に未加入の従業員がいると判明すればペナルティや刑事罰がある旨を伝え、必要な手続きを進めましょう。

    社会保険のメリットを伝える

    社会保険への加入によって、得られるメリットも数多くあると伝えることが大切です。社会保険に加入すると、老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も支給されるため、将来もらえる年金の受給額が増えます。

    それ以外にも、障害基礎年金と障害厚生年金などより多くの年金が受給できたり、医療保険の給付内容が充実したりするのもうれしいポイントです。また、社会保険の保険料の半分を事業所が負担する点も、従業員にとって大きなメリットといえるでしょう。

    参照:『パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入により手厚い保障が受けられます。』政府広報オンライン

    労働時間を減らす

    特定適用事業所では、週の労働時間を20時間未満、月額賃金が8.8万円を超えないように調整すれば、社会保険に加入する必要がなくなります。ただし、週の所定労働時間が20時間未満であっても、残業などによって週の労働時間が2か月連続で20時間を超え、さらに今後も同じような状況が続く場合は加入義務が発生するので注意が必要です。

    社会保険に入らないことによる罰則や延滞金

    加入対象の事業所が社会保険に加入しないことで生じる、罰則や延滞金の概要について解説しましょう。

    罰則と罰金

    健康保険や厚生年金などへの加入義務がある事業所が未加入だと、刑事罰が科される恐れがあります。虚偽の申告をしたり、複数回にわたる加入指導に従わなかったりすると対象に含まれるため注意が必要です。健康保険法や厚生年金保険法により「6か月以下の懲役または50万円以下の罰金」が事業主に対して科されると定められています。

    参照:『健康保険法』e-Gov法令検索
    参照:『厚生年金保険法』e-Gov法令検索

    延滞金の徴収

    税金と同様、医療保険や年金保険、雇用保険、労災保険などの社会保険にも延滞金の制度があります。督促状などに記載された納付期限までに保険料を納めないと、延滞した日数に応じた割合を掛けて延滞金を請求されます。督促状の支払い期限ではなく、本来の納付期限の翌日から納付日の前日までの期間で延滞金が算出されるため注意しましょう。

    参照:『延滞金について』日本年金機構

    過去2年間の保険料を徴収

    社会保険の未加入が発覚して事業所に立ち入り検査が入り、強制加入となった場合、過去2年間までさかのぼり保険料を徴収されます。健康保険や厚生年金などは、事業所だけでなく従業員にも支払い義務があるため、双方にとって大きな負担に感じるでしょう。すでに退職した従業員の保険料は、会社が全額支払う必要があります。

    社会保険の加入範囲の拡大に注意

    2020年5月に成立した年金制度改正法によって、社会保険の適用拡大が段階的に実施されています。企業として注意すべき点をまとめて解説します。

    2024年10月からさらに範囲が拡大

    2022年10月1日に実施された社会保険の適用拡大によって、短時間労働者の要件が「従業員数501人以上の事業所」から「従業員数101人以上の事業所」に拡大されました。さらに、2024年10月1日にはもう1段階拡大される予定であり「従業員数51人以上の事業所」でも短時間労働者を社会保険に加入させる義務が発生します。

    補助金の申請で有利になる

    社会保険の適用拡大に際し、社会保険料の負担増は避けて通れません。しかし、選択的適用拡大を行った企業は、補助金の応募要件が緩和されたり、審査の加点項目になったりと優先的に支援を受けられます。下記のような助成金や補助金制度を積極的に活用していきましょう。

    • キャリアアップ助成金
    • ものづくり補助金
    • 持続化補助金
    • IT導入補助金

    助成金や補助金を使って資金を増やすこともぜひ検討してください。

    社会保険への加入義務がある場合は早急に必要な手続きを

    社会保険に加入すべき企業や従業員が未加入だった場合、罰則や罰金、延滞金などさまざまな罰則が科される恐れがあります。2015年度より国税庁から給与の支払い実態などの情報を提供されるようになったことで、社会保険への加入指導は年々厳しくなっているのが現状です。従業員の労働時間や賃金などを適切に管理し、社会保険への加入が必要な場合は早急に届け出ましょう。

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