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試用期間中の社会保険はどうなるのか|加入要件や加入できない要件も解説

試用期間中の社会保険はどうなるのか|加入要件や加入できない要件も解説

従業員を採用したあと、試用期間における社会保険の取り扱いについて悩む企業も多いでしょう。結論からお伝えすると、試用期間であったとしても、所定の要件を満たしていれば社会保険に加入する義務があると法律で細かく定められています。

本記事では、社会保険の概要をはじめ試用期間や試用期間中の社会保険の要件、違反した場合の罰則について解説します。


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    社会保険の概要

    社会保険とは、国民がけがや病気などで生活に支障が出ないように給付をする制度のことです。相互扶助の考えが基本となっており、条件を満たした場合に強制加入するケースが一般的です。多くの国民が加入することで財源を確保し、万が一の事態に備える仕組みが採用されています。

    社会保険には、広義と狭義の意味があります。広義の意味では、健康保険・介護保険・厚生年金保険・労災保険・雇用保険の5つの保険制度を含む総称です。狭義では、健康保険・介護保険・厚生年金保険をまとめて「社会保険」とし、労災保険と雇用保険をまとめて「労働保険」と呼びます。社会保険は、一般的に狭義を意味するケースが多いと覚えておきましょう。

    本記事は、主に狭義の社会保険について解説しています。

    試用期間とは

    試用期間とは、採用した従業員の適正や能力の有無を企業が見極めるために設けられた期間です。入社後2か月から半年が一般的とされており、試用期間後の正社員雇用を前提として設定されます。試用期間の労働契約は、通常の労働契約と同様です。

    ただし、通常よりも解雇に対する自由度が高く、客観的かつ合理的であれば幅広い範囲において解雇できる点が異なります。

    客観的で合理的な理由とは

    試用期間中というと、すぐに解雇されても仕方がないと考えがちでしょう。しかし、試用期間中の従業員を解雇する場合は、次のような客観的で合理的な理由が必要です。

    • 勤務態度が悪い
    • 経歴詐称
    • 理由なく遅刻や欠勤を繰り返す

    なお、試用期間中でも解雇予告は必要ですが、採用から2週間以内の試用期間中の解雇では解雇予告をする必要はありません。

    試用期間中の社会保険加入の要件

    本採用を前提とした試用期間では、原則1日目から加入義務が発生します。ただし、試用期間中の社会保険加入がすべての企業や団体などに適用されるわけではありません。

    試用期間中に社会保険加入義務が生じるケースや勘違いされやすい短期の試用期間のケース、パートとアルバイトの加入要件などを詳しく解説します。

    加入義務が生じる

    試用期間中の社会保険加入義務は、以下のケースで生じます。

    • 株式会社などの法人事業所(事業主1人だけの会社も含まれる)
    • 従業員が常時5人以上在籍する個人事業主(一部業種を除く)

    上記の要件に当てはまれば、強制適用事業所になるため社会保険加入義務が例外なく発生します。強制適用事業所において、試用期間中の従業員が社会保険の被保険者となる要件を満たしている場合は、加入義務が生じるので注意が必要です。

    試用期間が短い

    試用期間を短期間に設定すれば、社会保険に加入する義務はないという噂を耳にしたことがある方もいるでしょう。保険料を安くするために悪用しようとする企業も存在しますが、保険料を節約する目的で試用期間を短く設定するのは大きな間違いです。

    社会保険の未加入が認められるケースは「短期有期契約」のみです。試用期間が短期間だったとしても、その後の正式雇用を前提に雇用している場合は条件に当てはまらないため、例外なく社会保険加入義務が生じると覚えておきましょう。

    勤務日数・時間が75%以上

    パートやアルバイトなどの短時間労働者として雇用する場合も、試用期間を設定可能です。この場合における社会保険加入義務の発生条件には、フルタイム従業員の勤務日数や勤務時間が大きく関係します。

    判断基準は、次の1と2の項目がともに一般社員の4分の3以上であるかどうかです。

    1.労働時間1週間の所定労働時間が一般社員の4分の3以上
    2.労働日数1か月の所定労働日数が一般社員の4分の3以上

    参考:『私は、パートタイマーとして勤務しています。社会保険に加入する義務はありますか。』日本年金機構

    上記の通り、勤務日数と勤務時間両方の条件をクリアする必要があり、どちらか片方では対象になりません。勤務時間が長かったとしても、勤務日数が少なければ対象外なので注意が必要です。

    企業の規模

    社会保険の加入条件を満たせなかった場合でも、会社の規模によって加入できる可能性があります。

    • 社会保険対象の従業員が101人以上いる特定適用事業所※
    • 半数以上の従業員の同意を得た任意特定適用事業所

    ※令和6年10月から、51人以上の企業に対象の拡大が予定されています。

    上記2つのどちらかに該当する事業者で、かつ次の3つの条件をすべて満たすことで社会保険に加入可能です。

    • 1週間あたりの所定労働時間が20時間以上である
    • 残業代や交通費を除く1か月の賃金が88,000円以上である
    • 学生ではない(夜間や通信、定時制の場合を除く)

    参考:『短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大』日本年金機構

    週の所定労働時間が20時間以上である

    週の所定労働時間とは、就業規則や雇用契約書で定めた1週間あたりの労働時間のことです。所定労働時間が変動する場合は、1年単位や月単位の平均から算出します。

    残業代や交通費を除く1か月の賃金が88,000円以上である

    週給や日給、時間給を月額に換算した基本給と諸手当を含めた賃金が88,000円以上になることが、社会保険加入の条件です。ただし、次のような賃金は対象外となるため注意しましょう。

    • 臨時的に支払われる賃金(結婚手当など)
    • 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
    • 時間外労働や休日労働、深夜労働に対する手当
    • 通勤手当や家族手当、皆勤手当など

    学生ではない

    大学や高校、専門学校など、修業年限が1年以上の課程の各種学校に通う学生は対象外です。

    対象者の要件は次の通りです。

    • 休学中の学生
    • 大学の夜間学部や高等学校の夜間などの定時制課程に通う学生
    • 卒業見込証明書を持ち、卒業前に就職し、卒業後も引き続き同じ事業所に勤務する予定の学生

    社会保険の加入対象外となる場合

    給与を支払っている場合は、試用期間中であっても従業員を社会保険に加入させる義務があります。ただし、次のようなケースは社会保険の適用外です。

    • 日雇いである
    • 2か月以内の短期雇用である(2か月を超えて引き続き雇用される場合は除く)
    • 事業所や事務所の所在地が一定しない
    • 季節的な業務雇用である(継続して4か月を超える場合は除く)
    • 臨時的事業での雇用である(継続して6か月を超える場合は除く)
    • 国民健康保険組合の事業所に雇用される者
    • 後期高齢者医療の被保険者など
    • 厚生労働大臣、健康保険組合または共済組合の承認を受けた者

    臨時的な雇用や季節に限定された雇用、一定の高齢者などは社会保険に加入できないと理解しておきましょう。

    社会保険の加入義務に反した場合の罰則

    社会保険は強制加入が原則です。そのため、試用期間中であっても、従業員本人の意思にかかわらず企業側が加入させなければなりません。企業側が加入手続きを怠った場合の罰則について解説します。

    追徴金を科せられる

    加入義務があるにもかかわらず加入していないことが明らかになると、最大2年間さかのぼって追徴金が科されるため注意が必要です。健康保険法第208条、厚生年金保険法第102条1項1号では、企業が被保険者の資格を保険者に届け出なかった場合に、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科されるとしています。

    さらに、企業は労働者を雇用した月の翌月10日までに、公共職業安定所へ雇用保険被保険者資格取得届を提出する義務があります。雇用保険法第83条第1号により、違反した場合は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるため、期限内に必要な手続きを行いましょう。

    参考:『健康保険法』e-Gov法令検索
    参考:『厚生年金保険法』e-Gov法令検索
    参考:『雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)』e-Gov法令検索
    参考:『成立手続を怠っていた場合』厚生労働省

    延滞金を徴収される

    すべての社会保険において納付期限が定められており、納付期限を守らないと督促状が送付されてしまいます。督促状の指定期限までに納付しなければ、延滞金を上乗せして保険料を納付しなければならないため注意が必要です。

    令和5年の延滞金は、納付期限の翌日から3か月(労働保険は2か月)を経過するまでは、2.4%、それ以降は8.7%と定められています。加入対象となる従業員から正しく保険料を徴収して、期限までに納付するよう徹底していきましょう。

    参考:『延滞金について』日本年金機構
    参考:『労働保険料』厚生労働省

    試用期間中でも要件を満たすと社会保険の加入対象

    試用期間における社会保険の概要や加入要件、罰則について詳しく解説しました。雇用期間中であっても、基本的に社会保険に加入するものという認識で準備を進めることが重要です。

    ただし、例外的な条件があるため、それぞれのケースが該当するかどうか確認してください。社会保険に関する違反行為を避けることで、企業にとっての不利益はなくなります。企業と従業員が互いに気持ちよく働くためにも、社会保険の加入要件に関する理解を深めていきましょう。

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