特定親族特別控除とは?令和7年度税制改正による新設制度を解説

特定親族特別控除は、令和7年度(2025年度)の税制改正により新設された制度です。特定親族特別控除は所得控除の一種であり、年末調整における所得税の計算にも影響をおよぼします。
本記事では、年末調整の担当者向けに、特定親族特別控除の適用条件や控除額などを解説します。制度が適用され始めるタイミングや実務上の注意点も解説するので、ぜひ参考にしてください。

目次

特定親族特別控除とは?
特定親族特別控除とは、令和7年度(2025年度)の税制改正により新たに設けられた所得控除制度です。一定の要件を満たす親族を扶養する人に対して、最大63万円の所得控除が適用されます。控除額は親族の所得金額によって異なり、所得金額が低いほど控除額は大きくなる仕組みです。
年末調整で特定親族特別控除を適用するためには、従業員から「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出してもらう必要があります。
制度の施行後は源泉徴収事務において考慮すべき点が増えるため、担当者は適用条件や控除額などをきちんと把握しなければなりません。
参照:『令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について』国税庁
参照:『令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A』国税庁
特定親族特別控除の適用条件
特定親族特別控除は、所得控除の一種である「扶養控除」の枠組みの制度です。
以下の要件を満たす人を扶養する従業員に対して、所得控除が適用されます。
- その年の12月31日時点で年齢が19歳以上23歳未満
- 対象となる親族の所得金額が年間58万円超123万円以下
- 配偶者以外の親族
- 納税者と生計を一としている
- 青色申告の事業専従者として1年を通じて一度も給与の支払いを受けていない、あるいは白色申告の事業専従者でない
3・4・5の要件は、一般の控除対象扶養親族と同様です。
参照:『令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A』国税庁
参照:『No.1180 扶養控除』国税庁

特定親族特別控除の控除額
特定親族特別控除は、従業員の所得税と住民税の金額に影響を与えるものです。従業員が納める税金を計算する際には、従業員の所得から定められた控除額を差し引く必要があります。
所得税の控除額
所得税における特定親族特別控除の控除額は、特定親族の合計所得金額によって以下のとおり異なります。
特定親族の合計所得金額 | 収入が給与だけの場合の収入金額 | 控除額 |
---|---|---|
58万円超85万円以下 | 123万円超150万円以下 | 63万円 |
85万円超90万円以下 | 150万円超155万円以下 | 61万円 |
90万円超95万円以下 | 155万円超160万円以下 | 51万円 |
95万円超100万円以下 | 160万円超165万円以下 | 41万円 |
100万円超105万円以下 | 165万円超170万円以下 | 31万円 |
105万円超110万円以下 | 170万円超175万円以下 | 21万円 |
110万円超115万円以下 | 175万円超180万円以下 | 11万円 |
115万円超120万円以下 | 180万円超185万円以下 | 6万円 |
120万円超123万円以下 | 185万円超188万円以下 | 3万円 |
出典:『令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A』国税庁
合計所得金額は、収入が給与だけの場合の収入金額から給与所得控除を差し引いたものです。
令和7年度(2025年度)の税制改正では、給与所得控除の見直しも行われ、給与最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。そのため、たとえば給与収入が123万円の場合、給与所得控除65万円を差し引くと所得金額は58万円となります。
※給与所得控除の改正が適用されるのは、給与収入が190万円以下の場合のみ
住民税の控除額
住民税における特定親族特別控除の控除額は、最大45万円です。所得税と同様、特定親族の合計所得金額によって以下のとおり定められています。
特定親族の合計所得金額 | 収入が給与だけの場合の収入金額 | 控除額 |
---|---|---|
58万円超85万円以下 | 123万円超150万円以下 | 45万円 |
85万円超90万円以下 | 150万円超155万円以下 | 45万円 |
90万円超95万円以下 | 155万円超160万円以下 | 45万円 |
95万円超100万円以下 | 160万円超165万円以下 | 41万円 |
100万円超105万円以下 | 165万円超170万円以下 | 31万円 |
105万円超110万円以下 | 170万円超175万円以下 | 21万円 |
110万円超115万円以下 | 175万円超180万円以下 | 11万円 |
115万円超120万円以下 | 180万円超185万円以下 | 6万円 |
120万円超123万円以下 | 185万円超188万円以下 | 3万円 |
出典:『令和7年度税制改正(いわゆる年収の壁への対応)の概要』横浜市
特定親族特別控除と特定扶養控除の違い
特定扶養控除とは、その年の12月31日時点で年齢が19歳以上23歳未満の扶養親族に関する控除です。以下の要件を満たす親族について、納税者の所得から63万円が控除されます。
- 配偶者以外の親族
- 年間合計所得金額が58万円以下
- 納税者と生計を一としている
- 納税者が事業を行っている場合、青色申告者の事業専従者として1年を通じて一度も給与の支払いを受けていない、または白色申告者の事業専従者でない
一方、特定親族特別控除は、特定扶養控除の条件である「年間合計所得金額58万円」を超過した場合に、段階的に控除を受けられる制度です。年間合計所得金額以外の要件は同一となっており、親族の収入に応じて適用される制度が決定されます。
特定親族特別控除では、所得金額85万円(年収150万円)までの控除額が特定扶養控除と同額の63万円に設定されています。
そのため、税制改正により「特定扶養控除の年収の壁が150万円まで引き上げられた」といわれることがありますが、両者は異なる制度なので厳密には誤りです。
特定親族特別控除が導入された背景
特定親族特別控除は、大学生に相当する年齢の人の働き控えを防ぐために創設されました。
たとえば、大学生の子どもがアルバイトをしている場合、従来の制度では子どもの収入が123万円を超えると特定扶養控除の要件から外れてしまいます。
そのため、親の税負担を増やさないよう、収入をあえて抑えて働く人が少なくありませんでした。
特定親族特別控除が導入されると、子どもが年間収入123万円を超えて働いても控除を受けられるので、従来と比べて親の税負担が少なく済みます。
また、「もっとお金を稼ぎたいのに働けない」というジレンマが解消され、子ども本人の収入増にもつながります。
特定親族特別控除は、一般的に大学生などを対象とした制度とイメージされていますが、制度上、要件が規定されているのは年齢のみです。大学に通っていなくても、年齢要件を満たしていれば対象になります。
特定親族特別控除が適用されるのはいつから?
特定親族特別控除は、令和7年度(2025年度)以後の所得税に適用されます。
実務的には、年末調整と確定申告は令和7年分(2025年分)、給与や賞与などからの源泉徴収は令和8年分(2026年分)から、特定親族特別控除を考慮に入れた手続きが必要です。
たとえば、2026年分からは給与所得の源泉徴収税額表(月額表)を用いて源泉徴収税額を判定する際、「扶養親族等の数」の欄で特定親族分も反映するようになります。
参照:『令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A』国税庁
特定親族特別控除による節税額の計算方法
所得控除を適用する際の計算式は、「(合計所得金額-所得控除額)×所得税率」です。つまり、所得控除額に所得税率を掛け算すると、その所得控除による節税額を計算できます。
所得税率は、納税者本人の課税所得金額に応じて以下のとおり定められています。
課税所得金額 | 所得税率 |
---|---|
1,000円から194万9,000円まで | 5% |
195万円から329万9,000円まで | 10% |
330万円から694万9,000円まで | 20% |
695万円から899万9,000円まで | 23% |
900万円から1,799万9,000円まで | 33% |
1,800万円から3,999万9,000円まで | 40% |
4,000万円以上 | 45% |
また、2037年までは、所得税に加えて復興特別所得税の徴収が必要です。所得税と復興特別所得税の合計税率は「所得税率(%)×102.1%」であり、所得税率が20%の場合、合計税率は20.42%です。
たとえば、従業員の課税所得金額が500万円の場合は、20.42%の税率が適用されます。
従業員の20歳の子どもが給与収入のみで156万円を受け取っている場合、特定親族特別控除の控除額は51万円です。
すなわち、この例における特定親族特別控除による節税額は「51万円×20.42%=10万4,142円」と計算できます。
特定親族特別控除に関する注意点
特定親族特別控除を受けられても、子ども本人の収入が上がると、住民税や社会保険料が課せられる可能性が考えられます。
子どもが大学などに通いながら働く場合、子ども本人の税金や社会保険料の負担を考慮して、働き控えをするケースも少なくないでしょう。特定親族特別控除の創設により扶養者の税負担は軽減されますが、子ども本人の税金や社会保険料の負担については別途考慮しなければなりません。
たとえば、改正後は子どもの給与収入が年間150万円までであれば、特定扶養控除と同額の控除を受けられます。しかし、給与収入が年間150万円を超えると、子ども本人に住民税が課せられる可能性があり、結果として手取りは減ってしまいます。
従業員は税金や社会保険料の制度についてあまり理解していない場合も多いので、担当者が注意点を周知することも重要です。
まとめ|新制度への理解を深め、正確に対応
特定親族特別控除とは、その年の12月31日時点で年齢が19歳以上23歳未満かつ所得金額が年間58万円超123万円以下の親族を扶養する人が、最大63万円の控除を受けられる制度です。
特定親族特別控除の創設により、大学生相当の年齢の子どもが収入を得ていても、税負担が軽減されやすくなりました。ただし、従業員が特定親族特別控除を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。
2025年度の年末調整から手続きが必要になるので、担当者は制度について理解を深め、従業員の疑問に答えられるようにしておきましょう。
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