就業規則変更届の意見書への押印は廃止された? 就業規則の変更の流れや注意点を解説
就業規則の変更に必要な手続きは、変更届に加えて労働者の代表から意見書をもらう必要があります。なおかつ、意見書には労働者代表の押印または署名が必要になりますが、令和3年4月1日より意見書への押印は廃止されました。本記事では、就業規則の変更届の手順や意見書に押印が必要なのかなどを解説します。必要書類への押印の有無や、手続きの流れがあいまいになっている担当者の方はぜひ参考にしてみてください。
就業規則の変更届は提出義務がある?
就業規則を作成または変更した際は、変更届を労働基準監督署長に届け出ることが労働基準法第89条で義務づけられています。届け出がないとトラブルに発展することもあるため、正しい手続き方法を把握しておきましょう。
労働基準監督署に提出しなければならない
就業規則は作成したときだけでなく、変更したときも労働基準監督署長へ届け出をしなければなりません。就業規則の変更届の提出は労働基準法第89条で義務となっており、届け出をしないと罰則が科されるケースもあります。また、就業規則の附属規程も労働基準法上の就業規則に該当するため、変更の際は就業規則同様に届け出が必要です。
労働者の代表からの意見書が必要
就業規則の変更を労働基準監督署長に届け出る際は、労働基準法第90条2項により、労働者の代表から意見書を提出してもらう必要があります。意見書とは、就業規則を作成または変更する際に、労働者代表の意見を記載した書類のことです。仮に就業規則の変更に関して意見がなくても、意見を聞いた事実が重要になるので、必ず変更届とあわせて提出しましょう。
就業規則の変更届で押印は廃止された?
これまで就業規則の変更手続きを行う際は、意見書に労働者代表の署名または押印が必要でした。しかし、行政手続きのデジタル化が進んだことにより、現在は意見書への労働者代表の押印は廃止となりました。したがって、就業規則の意見書への押印は義務ではなく任意とされています。ただし、押印が不要となっても誰が作成したか明らかにする必要はあります。そのため、意見書には記名が求められるので注意してください。
参考:『労働基準法施行規則等の一部を改正する省令に関するQ&A〜行政手続きにおける押印原則の見直し〜』厚生労働省
就業規則の変更届で押印が廃止された背景
就業規則の変更届で押印が廃止された背景には、行政手続きのデジタル化と効率化が推進されたことにあります。日本の企業ではいまだに「書類には押印が必要」という文化が強く根付いており、デジタル化の足かせとなっていました。そこで、政府は行政手続きのデジタル化をはかるため、ほとんどの書類において署名と押印の廃止を決定したのです。
押印義務はいつ廃止された?
就業規則の変更届をはじめ、労働規則に定められている押印義務は「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令」により、令和3年4月1日にすべて廃止されています。これにより、労働規則に関する使用者の押印欄が廃止になり、記名のみで手続き可能になりました。また、就業規則の意見書などの同意書についても、労働者代表の押印は不要です。
参考:『労働基準法施行規則等の一部を改正する省令に関するQ&A〜行政手続きにおける押印原則の見直し〜』厚生労働省
就業規則の変更届で必要な書類
就業規則の変更に必要な書類は、就業規則変更届・意見書・改定後の就業規則の3点です。書類作成時の注意点を解説します。
就業規則変更届
就業規則(変更)届は決められた形式がないため、使用する様式は任意となっています。改正前の就業規則と改正後を比較して記入できるタイプもありますが、自社にあったタイプのものを選んで構いません。厚生労働省の労働基準法関係主要様式に、就業規則(変更)届の様式があるので参考に作成してみてください。
参考:『様式集』厚生労働省
意見書
就業規則の変更届とあわせて提出する意見書には、労働者代表から寄せられた意見を記載します。労働者代表から特に意見がなくても、また就業規則の変更に反対という意見であっても、その旨をそのまま記載してください。従業員からの意見を聞いた事実があることが重要なため、反対の意見書を添付しても労働基準監督署長は変更届を法的な書類として受理してくれます。意見書は、労働局の労働基準関係の様式集に就業規則意見書の様式があるので、参考にしてみてください。
参考:『様式集』厚生労働省
改定後の就業規則
改定後の就業規則はどのような様式でも構わないので、改定した内容がわかるように記載します。変更前と変更後の内容を比較できるフォーマットを使用したり、変更部分を違う色のペンで記載したりしても問題ありません。ただし、就業規則には必ず記載しなければならない項目もあるので、定められたフォーマットを使用しない場合は忘れずに記載しましょう。
絶対的必要記載事項 |
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・労働時間(始業および就業時刻・休憩時間・休日・休暇) ・賃金 ・退職に関する事項 |
就業規則の変更届の手続きの流れ
就業規則の変更に必要な手続きは、以下の5段階で行います。就業規則の変更手続きの流れをみていきましょう。
1.新しい就業規則の原案を作成する
まずはじめに、就業規則の変更点と変更内容を検討し、新しい就業規則の原案を作成します。就業規則の変更を求められるケースとしては、法改正や経営状況が悪化したときなどが多いです。たとえば、法改正により長時間労働の規定に変更があった場合は、労働時間に関する規定の水準を満たすよう、修正または変更しなければなりません。
2.労働者の代表から意見書をもらう
就業規則を変更する際は、労働者の代表から意見を聞き、その意見を記載した意見書を添付することが労働基準法で定められています。仮に意見がない場合でも「意見なし」として意見書そのものは就業規則変更届に添付して提出しなければなりません。また、労働者の代表の選任は、投票や挙手など民主的プロセスで行う必要があります。
3.就業規則変更届を作成する
新しい就業規則の原案と意見書がそろったら、就業規則の変更届を作成します。就業規則変更届に指定されたフォーマットはないため、任意の用紙で作成して問題ありません。記載する項目は、以下の内容を参考にしてみてください。
- 就業規則変更届の提出日
- 提出する労働基準監督署の名称
- 変更した事項
- 労働保険番号
- 事業場名
- 事業場の所在地
- 使用者の氏名
- 業種・労働者数
なお、自社に規定のフォーマットがない場合は、厚生労働省のホームページからフォーマットをダウンロードして使用することをおすすめします。
4.労働基準監督署に提出する
労働基準監督署に提出する書類は以下の通りです。
- 就業規則変更届
- 意見書
- 変更後の新しい就業規則
就業規則変更に必要な書類は、提出用と控え用としてそれぞれ2部ずつ用意しましょう。なお、就業規則変更届は労働基準監督署に直接持参する方法以外に、郵送での手続きや電子申請も可能です。郵送の場合、控えとして1部返送されるため、返送にかかる切手を貼った返送用封筒を同封しましょう。
5.従業員に周知する
就業規則を変更したあとは、必ず従業員に周知することが労働基準法で定められています。就業規則の変更手続きが完了しても、その内容を従業員に周知しなければ効力を持ちません。従業員全員に忘れずに周知し、なおかつ変更した就業規則を従業員がいつでも確認できるようにしましょう。周知の方法は、掲示板などの提示やデータでの共有、社内連絡ツールでの共有などがあります。
就業規則の変更届をしないとどうなる?
就業規則の変更届は義務であるため、提出をしないと効力を持たない可能性があります。また、罰則が科されるケースもあるので、必ず提出しましょう。
罰則について
就業規則を変更したにもかかわらず、就業規則変更届の提出を怠った場合は、30万円以下の罰金の対象になり得ると労働基準法で定められています。また、労働条件の実態が変わっているのに就業規則を変更しなかった場合も、同様に罰則が科されるかもしれません。なお、変更届に明確な提出期限はありませんが、罰則が科されないよう早めに提出しましょう。
就業規則の効力について
就業規則変更届の提出は労働基準法で義務となっていますが、就業規則の効力に変更の届け出があったかどうかは関係ありません。変更届が提出されていなくても変更の内容が合理的なものであり、変更後の就業規則を従業員に周知させていれば変更した就業規則は効力を持ちます。逆をいえば、届け出をしているにもかかわらず従業員に周知していなければ、変更した就業規則は無効ということです。
就業規則の変更届のそのほかの注意点
就業規則変更届の提出方法や変更内容に誤りがあると、変更後の就業規則が有効にならないため注意点を事前に把握しておきましょう。
改定後の就業規則の周知を徹底する
就業規則を変更した際は、必ず改定後の就業規則を従業員に周知するよう、労働基準法第106条で義務づけられています。周知の方法は各事業所ごとにすべて任されていますが、周知を怠ると変更後の就業規則が無効になってしまうため、効果的な方法で周知を徹底しましょう。具体的な方法としては、従業員に見えやすい場所に提示する、社内ツールで共有するなどがあります。
就業規則変更の届け出はすみやかに行う
就業規則変更届に明確な提出期限はないため、変更後いつまでに提出という指定はありません。しかし提出が遅れると、労働基準法第89条の「作成および届出の義務」に違反したとみなされ、30万円以下の罰金が科される可能性があります。就業規則を変更する必要性がある場合は、なるべく早く変更届や意見書を作成して、すみやかに変更届を労働基準監督署に提出しましょう。
従業員に不利益な変更をする場合は合理的な理由が必要
「賃金の引き下げ」や「年間休日の削減」など、従業員にとって不利益な変更をする場合は、合理的な理由がなければ認められません。労働契約法第9条では「会社は従業員の合意なく、従業員の不利益となる変更はできない」と定められています。ただし、経営状況の悪化などやむを得ない理由がある場合は、不利益変更が認められます。
意見書の提出がない場合は報告書を作成する
従業員にとって不利益となる変更をする場合は、労働者の代表から反発を買い、意見書を提出してもらえない可能性があります。その場合は、労働者代表から意見を聴いたことを証明するためのものとして、報告書を作成して提出しましょう。報告書の内容には、従業員に対してどのような説明を行い、どのような意見を聴いたかなどの経緯を記載してください。
まとめ
これまで就業規則の変更届に必要だった押印は「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令」により令和3年4月1日以降廃止されました。現在では押印は任意となり、記名のみで就業規則の変更届の提出が可能です。
就業規則の変更は企業の経営状況にあわせて検討されることが多いですが、労働基準法などの法改正によって変更が必要になるケースもあります。2019年に施行された「働き方改革関連法案」以来、働き方の見直しがされる昨今、就業規則の変更を求められる場面は今後も増えることが予想されます。就業規則変更届の手順を正しく把握し、すみやかに対応できるよう準備しておきましょう。
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