労災保険料の金額を計算する方法と注意したいポイントを解説

労災保険料の金額を計算する方法と注意したいポイントを解説

労災保険料は、企業が従業員の安全と健康を守るために負担するものです。正確な金額を算出するには、業種ごとに異なる保険料率の適用や賃金総額の正確な把握が求められ、意外と複雑です。

本記事では、労災保険料の計算方法を例を挙げながら解説するとともに、注意したいポイントやミスを防ぐコツについて詳しく紹介します。

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    労災保険料の金額の計算方法

    労災保険とは、労働災害による病気やケガ、障害を補償する公的制度です。業務中や通勤中の事故に起因する傷病に対し、本人や遺族への給付金が用意されています。

    労災保険への加入は事業主の義務であり、従業員が1人でもいれば原則として加入しなければなりません。

    また健康保険や雇用保険とは異なり、労災保険の保険料は企業が全額負担する決まりです。労災保険料の計算式は以下の通りです。

    全従業員の年度内の賃金総額×労災保険料率

    従業員一人ひとりではなく、全従業員の賃金の総額に、労災保険料率を乗じて保険料を計算します。

    従業員の賃金総額に含まれるもの・含まれないもの

    労災保険の計算に用いられる「賃金総額」は、すべての賃金が対象です。しかし、なかには含まれない手当などもあります。

    本来は含めない給与項目まで計算に入れてしまうと、誤った保険料が算出されてしまうため、注意しましょう。

    賃金総額に含まれる・含まれない各種手当の一覧は、以下の通りです。

    賃金総額に含まれるもの賃金総額に含まれないもの
    基本賃金
    賞与(ボーナス)
    定期券・回数券
    通勤手当
    超過勤務手当
    休日手当
    深夜手当
    扶養手当
    子ども手当
    技能手当
    特殊作業手当
    住宅手当
    前払い退職金 など
    役員報酬
    出張旅費
    傷病手当金
    退職金
    結婚祝金
    死亡弔慰金
    解雇予告手当 など

    参照:『労働保険対象賃金の範囲』厚生労働省

    【2024年】労災保険の保険料率

    労災保険の保険料率は、一律ではなく事業ごとに決定されます。

    業務上・通勤中に発生した傷病を補償する制度であるため、労働災害が起こりやすい業種、といえる業務中の危険度が高い事業ほど保険料率が高く設定されています。

    労災保険料率の一部を抜粋して以下に紹介します。

    (単位:1/1,000)

    事業の種類の分類業種番号事業の種類 
    林業02又は03林業52
    鉱業21金属鉱業、非金属鉱業(石灰石鉱業又はドロマイト鉱業を除く。)又は石炭鉱業88
    24原油又は天然ガス鉱業2.5
     31水力発電施設、ずい道等新設事業34
    建設事業32道路新設事業11
    33舗装工事業9
    36機械装置の組立て又は据付けの事業6
    製造業41食料品製造業5.5
    59船舶製造又は修理業23
    60計量器、光学機械、時計等製造業(電気機械器具製造業を除く。)2.5
    運輸業71交通運輸事業4
    電気、ガス、水道又は熱供給の事業81電気、ガス、水道又は熱供給の事業3
    その他の事業97通信業、放送業、新聞業又は出版業2.5
    98卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業3
    99金融業、保険業又は不動産業2.5

    出典:『労災保険率表(令和6年4月1日施行)』厚生労働省

    2024年4月1日施行の労災保険料率の中で、もっとも保険料率が高いのは「金属鉱業、非金属鉱業(石灰石鉱業又はドロマイト鉱業を除く。)又は石炭鉱業」の8.8%(88/1,000)です。

    もっとも低いのは「原油又は天然ガス鉱業」「計量器、光学機械、時計等製造業(電気機械器具製造業を除く。)」「通信業、放送業、新聞業又は出版業」「金融業、保険業又は不動産業」の0.25%(2.5/1,000)です。

    「金属鉱業、非金属鉱業(石灰石鉱業又はドロマイト鉱業を除く。)又は石炭鉱業」と「原油又は天然ガス鉱業」は、同じ「鉱業」のグループですが、労災保険料率には大きな差があります。

    また「林業」も5.2%(52/1,000)と、そのほかの業種と比べて保険料率が高く設定されています。

    労災保険料の金額の計算例

    労災保険料の具体的な計算例を紹介します。なお、事業別の保険料率は、前述した2024年4月1日施行の料率を使用します。

    参照:『労災保険率表(令和6年4月1日施行)』厚生労働省

    例1.従業員数30人、平均年収350万円の食料品製造業の場合

    労災保険率表より、食料品製造業A社の保険料率は0.55%(5.5/1,000)です。従業員数が30人、平均年収が350万円なので、全従業員の賃金総額は1億500万円とします。

    食品製造業A社が支払う労災保険料は、以下の通りです。

    1億500万円×0.55%(5.5/1,000)=57万7,500円

    例2.従業員数20人、平均年収400万円の卸売業の場合

    労災保険率表より、卸売業B社の保険料率は0.3%(3/1,000)です。従業員数が20人、平均年収が400万円なので、全従業員の賃金総額は8,000万円とします。

    卸売業B社が支払う労災保険料は、以下の通りです。

    8,000万円×0.3%(3/1,000)=24万円

    例3.従業員数12人、平均年収450万円の林業の場合

    労災保険率表より、林業C社の保険料率は5.2%(52/1,000)です。従業員数が12人、平均年収が450万円なので、全従業員の賃金総額は5,400万円とします。

    林業C社が支払う労災保険料は、以下の通りです。

    5,400万円×5.2%(52/1,000)=280万8,000円

    労災保険の対象範囲

    労災保険に未加入の状態で労働災害が起きると、保険料をさかのぼって徴収されるほか、追徴金を課せられます。また、悪質な場合は、労災給付金の全額または一部を徴収されることにもなりかねません。

    従業員との信頼関係もくずれてしまうため、労災保険の対象範囲を理解しておきましょう。

    対象となる労働者・事業者

    労災保険の対象となる労働者は、雇用形態に関係がなく、雇用しているすべての従業員です。正社員はもちろん、パートタイム労働者・アルバイト、日雇い労働者、派遣社員も含まれます。

    また、従業員を1人でも雇用している企業は、労災保険の加入対象です。そのため事業の開始後、従業員を初めて雇用した場合、労災保険に加入する手続きが必要となります。

    雇用契約の成立から10日以内に、所定の書類を労働基準監督署などに提出します。

    特別加入制度の対象者

    労災保険は労働者を保護する制度であるため、会社の執行権を持つ役員や一人親方などは原則として対象にはなりません。

    さらに通常、海外派遣者には現地の制度が適用されるため、日本の労災保険は対象外となります。

    しかし、役員や海外派遣者であっても、一定の条件を満たすと、労災保険の特別加入制度を利用できます。

    労災保険料の納付時期や納付先

    労災保険料の納付時期や納付先、申告方法について概要を解説します。

    納付時期6月1日から7月10日
    納付先都道府県労働局・労働基準監督署(金融機関)

    労災保険料の納付時期

    労災保険料は、例年6月1日から7月10日までの間に納付します。

    4月1日から翌年3月31日までの1年間分を概算で納付し、賃金総額が確定する年度末以降に差額を精算する「年度更新」方式が採用されています。

    今年度の概算保険料に加え、昨年度の確定保険料もあわせて納付する仕組みです。

    労災保険料は原則として一括納付ですが、一定の要件を満たすと分割納付も認められています。

    労災保険料の納付先

    労災保険料の納付先は、都道府県労働局や労働基準監督署、銀行や郵便局などの金融機関です。e-Govを通じた電子申請も認められています。

    労災保険料の金額を計算する際の注意点

    労災保険料の金額を計算する際は、以下の5つのポイントに注意しましょう。

    1. 最新の保険料率を参照する
    2. 複数事業を展開している場合は主たる業態で判断する
    3. すべての従業員の賃金を集計できているか確認する
    4. 出向社員や派遣社員の取り扱いに気をつける
    5. 納付期限を超過すると延滞金が発生する

    最新の保険料率を参照する

    労災保険料率は、3年ごとに見直されています。直近では2024年に改定されているので、次回は2027年に見直される予定です。

    労災保険料を正しく計算するためにも、保険料率は常に最新のものを参照するようにしましょう。

    複数事業を展開している場合は主たる業態で判断する

    原則として、1つの事業には1つの労災保険料率が適用されます。

    同一事業所内で複数の事業を展開している企業は、主たる業態に基づいて適用される保険料率を判断します。

    また、複数の労災保険番号を持つ会社は、それぞれの業種ごとに保険料率を適用し、保険料を計算します。

    すべての従業員の賃金を集計できているか確認する

    労災保険料を計算するためには、すべての従業員の賃金を集計する必要があります。正社員はもちろん、アルバイトやパート従業員の賃金にも抜けがないように注意しましょう。

    また、賃金総額に含むもの、含まないものを区別することも大切です。

    出向社員や派遣社員の取り扱いに気をつける

    出向社員の労災保険料は、出向先の企業が負担して支払います。

    また派遣労働者は、直接的な雇用主である人材派遣会社の労災保険対象となるため、保険料も派遣元の会社が負担します。

    ただし労災申請の手続きには、派遣先企業の協力が不可欠なので、必要な対応を整理しておきましょう。

    納付期限を超過すると延滞金が発生する

    労災保険料の納付期限を超過すると、延滞金が発生する可能性があります。

    労災保険料の延滞金は、法定納期限の翌日から納付されるまでの日数に応じて、延滞金は保険料額に年14.6%を乗じて計算されます。

    最初の2か月間は軽減措置が設けられていますが、従業員数が多いほど大きな金額となるため注意が必要です。

    労災保険料の納付時期は毎年ほぼ同時期であるため、スケジュールを把握して忘れずに手続きを進めましょう。

    労災保険料の計算式は「賃金総額×労災保険料率」

    労災保険料は、すべての従業員の賃金総額に労災保険料率を乗じて計算します。

    労災保険料率は事業の内容ごとに異なり、業務の危険度が高い事業ほど高く設定されています。保険料率は3年に1度見直されているので、最新の情報を確認することが大切です。

    また、従業員の賃金総額には含む手当・含まない手当があるので、誤って対象外を含まないように注意する必要があります。

    労災保険は、労働災害による傷病から従業員を保護するための大切な制度です。労災保険料を正しく納められるよう、基礎を理解しておきましょう。