年末調整で提出が必要な法定調書とは? 内容や提出方法、書き方、注意点を解説
年末調整では法定調書と法定調書合計表の提出が必要です。法定調書合計表は法定調書に沿って作成します。一方で、法定調書の書き方や提出方法について詳しく把握できていないという方もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、年末調整の法定調書の作成方法や提出方法、注意点について解説します。最後まで読めば、法定調書の作成から提出までスムーズに行えるため、参考にしてみてください。
年末調整と法定調書の概要
年末調整には法定調書が必要です。行政手続きをスムーズに進めるためにも、年末調整と法定調書の概要を押さえておきましょう。
年末調整とは
年末調整とは、所得税の精算手続きです。具体的には、見込みで納付していた所得税と実際の所得税額の過不足金額や余分に源泉徴収していた額を調整します。
納付額が正しくない場合は、追加徴収の措置がとられたり、還付の手続きが必要だったりするため注意しましょう。
法定調書とは
法定調書とは、行政機関(税務署)への提出が義務付けられている書類の総称です。
源泉徴収票や特別徴収票などが法定調書に該当します。法定調書は、税務署が企業のお金の動きを把握するために必要な書類です。法定調書は60種類あり、手続きにより必要な書類は異なります。
たとえば年末調整の場合、法定調書として源泉徴収票を税務署に提出しなくてはなりません。必要書類は手続きごとに細かく決められているため、必要となる範囲を把握する必要があります。
なお、特別徴収票などの一部の書類の提出先は、各市区町村です。提出先も細かく決められているため、注意しましょう。
年末調整で提出する法定調書とは?
法定調書への理解を深めるために、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 年末調整で使用する6種類の法定調書
- 税務署に提出する「法定調書合計表」
それぞれ解説します。
年末調整で使用する6種類の法定調書
年末調整で必要な法定調書は以下の6種類です。
- 給与所得の源泉徴収票
- 退職所得の源泉徴収票
- 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
- 不動産の使用料等の支払調書
- 不動産等の譲受けの対価の支払調書
- 不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
参考:『給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引』国税庁
税務署に提出する「法定調書合計表」
法定調書合計表とは、年末調整で使用する法定調書をまとめた書類です。正式名称は「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表(以下、合計表)」といいます。
法定調書合計表に記載する内容は支払調書をもとにして記載する必要があります。
年末調整で必要な法定調書6種の作成方法とポイント
年末調整で必要な法定調書の作成方法とポイントを解説します。
- 給与所得の源泉徴収票
- 退職所得の源泉徴収票
- 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
- 不動産の使用料等の支払調書
- 不動産等の譲受けの対価の支払調書
- 不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
給与所得の源泉徴収票
給与所得の源泉徴収票には1年間に支払う給与の総額や各種控除額、源泉徴収税額などに関する情報を記載します。具体的な記載項目を以下の表にまとめたので参考にしてください。
記載項目 | 記載内容 |
---|---|
支払を受けるもの | 受給者の個人番号や住所など |
種別 | 給与などの種別 |
支払金額 | その年の確定した給与などの金額 |
給与所得控除後の金額(調整控除後) | 給与所得控除後の給与などの金額 |
所得控除の額の合計額 | 社会保険料や生命保険料などの控除額の合計 |
源泉徴収税額 | 年末調整後の源泉所得税や復興特別所得税などの合計額 ※年末調整をしない場合は、 源泉徴収すべき所得税や復興特別所得税の合計額 |
(源泉)控除対象配偶者の有無等 | 年末調整の有無を問わず、控除対象配偶者、 もしくは源泉控除対象配偶者がいる場合に所定欄に「◯」 |
配偶者(特別)控除の額 | 配偶者控除もしくは配偶者特別控除の額 |
控除対象扶養親族の数(配偶者を除く。) | 控除した特定扶養親族の人数など |
16歳未満扶養親族の数 | 16歳未満の扶養親族の人数 |
障害者の数(本人を除く。) | 同一生計配偶者や扶養親族の特別障害者の人数 |
非居住者である親族の数 | 16歳未満の非居住配偶者と非居住扶養親族のうち、 国内に住所を有していない者の数 |
社会保険料等の金額 | 控除後の社会保険料の額など |
生命保険料の控除額 地震保険料の控除額 | 保険料控除申告書にて控除した金額 |
住宅借入金等特別控除の額 | 住宅借入金等特別控除申告書にて算出した、 住宅借入金等特別控除の額 |
生命保険料の金額の内訳 国民年金保険料等の金額 旧長期損害保険料の金額 | 2012年1月1日以降に支払った生命保険料を 「新生命保険料の金額」欄に記載。 2012年より前に支払った生命保険料を 「旧生命保険料の金額」に記載 |
住宅借入金等特別控除の額の内訳 | 住宅借入金等特別控除の適用がある場合の控除の適用数 |
住宅借入金等特別控除の額の内訳 | 特定増改築等住宅借入特控が2件以上、 もしくは特定増改築等住宅を取得時、各住宅ごとの借入金残高 |
基礎控除の額 | 基礎控除の額 ※基礎控除額が48万円でない場合 「給与所得者の基礎控除申告書」から転記 |
所得金額調整控除額 | 所得金額調整控除の額 |
(源泉・特別)控除対象配偶者 控除対象扶養親族 | 控除対象配偶者もしくは配偶者特別控除の対象となる配偶者 および扶養控除の対象者の氏名や個人番号 |
配偶者の合計所得 | 配偶者控除や配偶者特別控除の適用を受けた場合、 その年の配偶者の合計所得金額 |
16 歳未満の扶養親族 | 16歳未満の扶養親族の氏名 |
(備考) | 5人目以降の控除対象扶養親族個人番号 |
未成年者から勤労学生までの各欄 | 受給者に該当する項目に「◯」 |
中途就・退職 | 年半ばでの就職や退職の年月日 |
元号 | 受給者の西暦の漢字 |
支払者 | 給与などの支払い者の住所や氏名など |
(摘要) | 5人目以降の控除対象扶養親族や、 16歳未満の扶養親族の氏名 |
給与所得の源泉徴収票は、税務署へ提出を要する受給者がいるか否かで、給与所得の源泉徴収票の作成枚数が変わる点にも注意しましょう。
税務署へ提出を要する受給者がいる場合は、給与所得の源泉聴取表を2枚作成する必要があります。1枚は税務署への提出用、残りは受給者への交付用です。
税務署へ提出を要する受給者がいない場合は、受給者への交付分のみ作成しましょう。なお、いずれの場合も、給与支払報告書を1枚作成する必要があります。
退職所得の源泉徴収票
退職手当の金額や、在職年数に応じた退職所得控除額などを記載します。記載項目を以下の表にまとめたので参考にしてください。
記載項目 | 記載内容 |
---|---|
支払を受けるもの | 受給者の個人番号や住所など |
区分 | 退職手当などを受給する旨や 20.42/100の税率を適用して源泉徴収する旨など |
支払金額 | その年の確定した支払い額 |
源泉徴収税額 | その年の源泉徴収すべき所得税および復興特別所得税の合計額 |
特別徴収税額 | その年の特別徴収すべき地方税の税額 |
退職所得控除額 | 退職手当などに対する源泉徴収税額の控除額 |
勤続年数 | 退職手当などで源泉徴収額の基礎となった勤続年数 |
(摘要) | 勤続年数の計算基礎や短期退職手当、 特定役員退職手当などの金額および計算基礎など |
支払者 | 退職手当などを支払った人の住所や氏名など |
なお、退職所得の源泉徴収票は退職後1か月以内に提出および交付する必要がある点に注意しましょう。
報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
原稿料や講演料、弁護士報酬など源泉徴収の対象となる報酬を受け取る場合に必要な書類です。記載すべき箇所を以下の表にまとめたので参考にしてください。
記載項目 | 記載内容 |
---|---|
支払を受けるもの | 受給者の個人番号や住所など |
区分 | 退職手当などを受給する旨や 20.42/100の税率を適用して源泉徴収する旨など |
細目 | 印税の書籍名や原稿料の支払い回数など |
支払金額 | その年の確定した支払い額 |
源泉徴収税額 | その年の源泉徴収すべき所得税および復興特別所得税の合計額 |
(摘要) | 診療報酬や金銭以外の広告宣伝のための賞金名など |
支払者 | 支払い者の住所や氏名など |
「報酬、料金、契約金および賞金の支払調書」は、1人あたりの受給額が年間5万円を超える場合に提出が必要です。ほかにも報酬の種類により、提出が必要になる条件が以下の表のとおり異なります。
報酬の種類 | 提出が必要となる条件 | |
---|---|---|
1 | 外交員や集金人、電力量計の検針人、プロボクサーの報酬や料金 | 特定の個人に対する2022年中の支払い金額の合計が50万円を超える者 |
2 | バーやキャバレーなどのホステス、バンケットホステス、コンパニオンなどの報酬や料金 | |
3 | 広告宣伝のための賞金 | |
4 | 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬 | 特定の個人に対する2022年中の支払い金額の合計が50万円を超える者 ※国立病院や公立病院、そのほかの公共法人などに支払うものは該当しない |
5 | 馬主が受ける競馬の賞金 | 2022年中の1回の支払い賞金額が75万円を超える支払いを受けた者にかかるその年中のすべての支払い金額 |
6 | プロ野球の選手などが受ける報酬や契約金 | 特定の個人に対する2022年中の支払い金額の合計が5万円を超えるもの |
7 | 1〜6以外の報酬や料金 |
記載する際は、個人と個人以外(法人)を分けましょう。
不動産の使用料等の支払調書
2022年中に、不動産や不動産上の権利、20トン以上の船舶を借りる際の支払いや不動産の使用料などを支払った際に作成する書類です。特定の個人に対して年間で15万円を超える支払いが発生すると提出する必要があります。
記載すべき項目を以下の表にまとめたので参考にしてください。
記載項目 | 記載内容 |
---|---|
支払を受けるもの | 不動産の所有者の住所や氏名など |
区分 | 家賃や更新などにともなう額 |
物件の所在地 | 該当の不動産の住所 |
細目 | 土地の種別(宅地や田畑)や建物の構造など |
計算の基礎 | 賃貸期間や単位(日や月)あたりの賃貸料など |
支払金額 | その年の確定した支払い額 |
(摘要) | 権利の存続期間やあっせんしたものの住所など |
なお、あっせん手数料を支払った場合(摘要)の項目の「あっせんをした者」欄に支払い額や支払い確定年月日などを記載すれば「不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書」の提出が不要になります。
不動産等の譲受けの対価の支払調書
不動産などを譲り受けた場合に作成する書類です。記載すべき項目を以下の表にまとめたので参考にしてください。
記載項目 | 記載内容 |
---|---|
支払を受けるもの | 不動産の譲渡者の住所や氏名など |
物件の種類 | 譲り受けた不動産の種類(土地や建物など) |
物件の所在地 | 該当の不動産の住所 |
細目 | 不動産の種別(宅地や田畑)や建物の構造など |
数量 | 土地の面積や建物の戸数など |
取得年月日 | 不動産の所有権を得た年月日 |
支払金額 | その年の確定した支払い額 |
(摘要) | 譲り受けた方法(売買や交換)など |
支払者 | 譲り受けの対価を支払った者の住所や氏名など |
不動産などの譲り受けの対価の支払調書は、同一人に対する1年間の支払金額が100万円を超えると提出する必要があります。
不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
不動産などの売買や貸付けのあっせん手数料を支払った場合に作成する書類です。記載すべき項目は以下の5箇所です。
記載項目 | 記載内容 |
---|---|
支払を受けるもの | あっせんしたものの住所や氏名など |
区分 | あっせん区分(譲渡や借受など) |
支払金額 | その年の確定した支払額 |
あっせんに係る不動産等 | 物件の種類や数量など |
支払者 | あっせん手数料を支払った方の住所や氏名など |
「不動産等の売買または貸付けのあっせん手数料の支払調書」は、同一人に対する1年間の支払い金額が15万円を超えると提出する必要があります。
参考:『給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引』国税庁
法定調書・法定調書合計表の提出方法
法定調書および法定調書合計表を提出するうえでおさえておくべきポイントは以下の3つです。
- 法定調書(法定調書合計表)の提出先
- 法定調書(法定調書合計表)の提出期限
- 法定調書(法定調書合計表)の提出方法
それぞれ解説します。
法定調書(法定調書合計表)の提出先
提出先は、納税地を所轄する税務署です。各税務署の所在地は、国税庁のWebサイトから調べられます。給与の支払い事務を支店でする場合、支店の所在地が納税地となるため、必ずしも本店だけとは限らない点に注意しましょう。
参考:国税庁
法定調書(法定調書合計表)の提出期限
提出期限は、支払いが確定した年の翌年1月31日です。たとえば、2023年1月1日から12月31日に支払ったものは、2024年1月31日が締め切りです。源泉徴収票を従業員に渡しただけでは、年末調整の手続きは終了しない点に注意しましょう。
法定調書(法定調書合計表)の提出方法
提出方法は、以下の4種類あります。
- e-Tax
- 紙
- 光ディスク(CD・DVDなど)
- クラウド
2021年分の申告から法定調書が種類ごとに100枚以上である場合、e-Taxや光ディスク(CD・DVDなど)での提出やクラウドサービスを利用した提出が義務化されました。提出に必要なフォーマットは国税庁のホームページからダウンロードして利用できるため、活用してください。
参考:国税庁
参考:『法定調書のe-Tax等による提出義務化の概要について』e-Tax
参考:『給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引』国税庁
年末調整の法定調書に関する注意点
年末調整の法定調整に関する注意点は以下の3つです。
- 源泉徴収票の交付者に注意
- 市区町村への「給与支払報告書」の提出に注意
- 非居住者へ支払った給与などがある場合に注意
それぞれ解説します。
源泉徴収票の交付者に注意
法定調書は源泉徴収票の提出範囲が定められていますが、給与所得の源泉徴収票は、すべての受給者に対して交付が必要です。すべての受給者には、国内に住所または1年以上居所を有する居住者である外国人従業員も含まれます。
市区町村への「給与支払報告書」の提出に注意
市区町村に提出する「給与支払報告書」は「給与支払報告書(総括表)」とともに提出しなければなりません。提出期日は、受給者のその年の翌年の1月1日現在の住所地の市区町村へ、その年の翌年の1月31日までです。
なお、税務署への「給与所得の源泉徴収票」の提出範囲と異なるため注意しましょう。
非居住者へ支払った給与などがある場合に注意
非居住者(日本国内に居住していない人)に支払った給与などのうち、日本国内での勤務に対する所得に該当する金額について「給与所得の源泉徴収票」ではなく「非居住者に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書」を提出する必要があります。
国外勤務に対する所得については作成が不要です。
法定調書作成には専門家への相談やソフト使用がおすすめ
法定調書の作成は複雑なケースも多いため、専門家である税理士・会計士・社労士に相談するのも一つです。e-TAXで調書作成および提出もできるため、複雑な分類や計算の労力やミスを防ぐ対処法としても年末調整に対応した人事労務のソフトを使用するのもおすすめです。
まとめ
法定調書とは、税務署への提出が必要な書類の総称です。60種類の書類があるものの、年末調整に必要なものは「給与所得の源泉徴収票」「退職所得の源泉徴収票」などを含む6種類の書類です。
いずれの書類も記載項目が多く複雑なため、本記事で紹介した内容を参考に作成することをおすすめします。提出する際は、e-Taxを使うとよいでしょう。電子管理できるため、手続きをスムーズに行いやすくなります。
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