12月途中に退職する従業員の年末調整は必要? 退職日別の扱いや源泉徴収票・確定申告の案内方法を解説

12月途中に退職する従業員は、原則として年末調整の対象外です。しかし、退職日や給与を支給するタイミング、退職後の就職状況によっては年末調整の対象となることもあります。また、12月途中で退職する場合には、退職者自身で確定申告をしなければならないケースもあります。
本記事では、12月途中に退職する従業員に対する年末調整の要否を、ケース別にわかりやすく解説します。
▼中途入社の年末調整について知るには、以下の記事からまずはご確認ください。
中途入社の年末調整はどうやる? 源泉徴収票の書き方や前職なしの場合ほかケース別に解説

目次

【原則】12月途中に退職する従業員の年末調整は不要
「12月に退職した社員の年末調整は、会社でやるべき?それとも本人任せ?」年末の慌ただしい時期、こんな疑問に頭を悩ませる人事担当者もいるのではないでしょうか。
年末調整とは、毎月の給与や賞与から源泉徴収された所得税の過不足を調整する手続きです。年末調整の対象者は、原則として12月に給与の支払いがあり、給与所得が2,000万円以下で、かつ12月31日時点で在籍する従業員です。
つまり、12月途中で退職した人については、基本的に年末調整を実施する必要はありません。
ただし、退職者でもいくつかの要件を満たすと年末調整の対象となります。担当者は、正しく手続きを進めるためにも、年末調整の対象者を正確に把握しなければなりません。

なお、給与所得が2,000万円を上回る従業員については、年末調整ではなく確定申告をすることで最終的な所得税が決まります。また、年末調整は1社でのみ行われるため、副業によって給与を2社以上から受け取る従業員は、もっとも給与が多い企業で年末調整を受けるのが原則です。
▼副業をしている従業員の年末調整について知るには、次の記事もご確認ください。
【例外】12月途中に退職する従業員の年末調整が必要な場合
12月途中に退職する従業員は、原則として年末調整の対象外です。ただし、次の条件に該当する退職者については、例外的にほかの従業員と同様に年末調整の手続きが必要です。
- 12月に給与を支払い退職した(再就職先で12月に給与を支払われた場合を除く)
- 死亡により退職となった
- 著しい心身の不調により、年内再就職の見込みがない
- 本年度の給与総額が103万円以下で源泉徴収がされていた
- 海外赴任により国内非居住者となった
それぞれのケースを詳しく見ていきましょう。
12月に給与を支払い退職した
12月中に退職した従業員のうち、12月の給与を受け取ったあとに退職した人は、例外として年末調整の対象です。たとえば、12月25日が給与の支給日で、給与を受け取り12月31日までに退職した場合が該当します。
ただし、12月に退職したあと12月中に再就職して、再就職先の給与を12月中に受け取るのであれば、年末調整の対象となりません。退職者は、再就職先の企業で前職の給与を含めて年末調整をする必要があります。
しかし、多くの企業において12月入社の勤務実績分を12月中に支払うケースはめずらしく、年末調整の回収期限は過ぎている可能性が高いでしょう。
死亡により退職となった
従業員が死亡によって退職した場合は、再就職することがないため、退職の時点で年末調整を実施しなければなりません。相続人が準確定申告をする際に源泉徴収票が必要となるので、交付し忘れないように注意しましょう。
なお、通常の退職金は所得税の課税対象ですが、従業員が死亡した場合の退職金は相続財産とみなされるため、年末調整や源泉徴収の対象外です。
▼死亡した従業員の年末調整について詳しく知るには、次の記事をご確認ください。
著しい心身の不調により、年内再就職の見込みがない
退職者の年末調整が必要となるケースとして、著しい心身の不調による退職があります。この場合は、年内に再就職する見込みがあるかを考慮しなければなりません。
同年内での再就職はできないと明確に判断できるなら、年間の給与総額が確定するため、年の途中であっても最終給与をもとに年末調整をする必要があります。
本年度の給与総額が103万円以下
退職者のうち、年間の給与総額が103万円以下の人は、年末調整の対象者です。パートやアルバイトとして勤務していた従業員が該当するケースが多くあります。
ただし、ほかの仕事と掛け持ちをしていたり、再就職をして12月中に別の企業からの給与支払いが見込まれたりするなら、年末調整の対象外です。
海外赴任により国内非居住者となった
海外赴任によって国内非居住者となった場合は、厳密には退職ではないものの、年末調整の対象となります。
年内に支払うことが確定した給与の支給額が2,000万円以下で、かつ1年以上の予定で海外に転勤する従業員は、出国日までに年末調整を実施しなければなりません。
社会保険料や生命保険料などの保険料控除は、出国日までに支払われたものに限られるため注意しましょう。
参照:『No.2517 海外に転勤する人の年末調整と転勤後の源泉徴収』国税庁
12月退職者の年末調整における注意点
年末調整をする必要がある12月の退職者がわかったところで、次に注意点を紹介します。
退職金の扱いや源泉徴収票の発行期限、給与の支払いタイミングなど、見落とされがちなポイントを解説していきます。
▼注意点の概要
- 退職金は年末調整の対象外
- 年末調整をしない場合も源泉徴収票の発行は必須
- 給与の締め日・支払い日によって年末調整の対象が変わる
自社のケースにあてはめながら確認してみてください。
退職金は年末調整に含まれない
退職金は、年末調整の対象に含まれません。理由は、年末調整の対象が給与や賞与などの「給与所得」であるのに対し、退職金は「退職所得」として分離課税されるためです。
退職金からは、所得税や住民税などの税金が源泉徴収、もしくは特別徴収されます。企業が退職金に対する課税関係の手続きを適切に実施すれば、従業員が退職後に確定申告をする必要もありません。
参照:『No.2011 課税される所得と非課税所得』国税庁
参照:『No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)』国税庁
参照:『退職金と税』国税庁
年末調整をしなくても源泉徴収票は発行する
従業員が年の途中で転職した場合、転職先において年末調整の手続きをする必要があります。転職先の企業は、前職の源泉徴収票をもとに、転職前と転職後の給与金額や納税額を合算して年末調整をしなければなりません。
所得税法第226条によると、転職前の企業は、当年の1月1日から退職日までの間に源泉徴収して納付した税額を記載した源泉徴収票を作成し、退職後1か月以内に発行するように義務づけられています。
▼源泉徴収票は電子配布がおすすめ。年末調整の電子化により、計算結果を自動で反映できるとともに、手渡しによる配布コストを削減できます。
→源泉徴収票の電子配布でスムーズに|One人事[労務]の特長

給与の締め日と支払い日により扱いが変わる
年末調整は、年内に支払いが確定した給与に対して実施されるものです。しかし、給与の締め日と支払い日の時期によっては扱いが大きく変わります。
同じ12月分の給与であっても、年内に支払われるのであれば年末調整の対象となる一方、翌月の1月に支払われる場合は年末調整の対象に含まれません。
たとえば、12月25日付で退職する場合、給与が20日締め・25日支払いであれば、年末調整の対象となり、末日締め・翌月25日支払いなら対象外です。
自社の給与の締め日と支払い日を確認したうえで、正しく対応していきましょう。

12月の退職日別|年末調整の扱い
12月の退職日別に、年末調整の扱い方がどのように変わるのかを詳しく解説します。
12月退職といっても、「何日に退職するか」「給与がいつ支給されるか」によって、年末調整の扱いが大きく変わります。月末(12/31)と月中(15日など)では、年末調整を「やる」「やらない」の判断が異なるため、注意が必要です。
以下では、退職日ごとに分けて、実際に年末調整が必要かどうか、どこまで手続きすべきかを解説しています。
12月31日退職、12月分の給与を1月支給
12月31日に退職し、12月分の給与が翌月の1月に支給されるケースを見ていきましょう。
年末調整の対象とされる条件である「12月31日時点」では在籍しているため、当年の年末調整を実施する必要があります。
ただし、翌年の1月に支給される給与は、翌年の年末調整の対象です。そのため、11月分までの給与や賞与の総額をまとめて年末調整の手続きを進めましょう。
12月15日退職
12月15日に退職する従業員については、退職前に給与を受け取った場合のみ年末調整の対象です。12月分の給与を12月15日までに支払う場合は、年間の給与支給額が確定するため、年末調整を実施しなければなりません。
ただし、退職後に転職し、12月中に転職先の企業から給与が支払われる場合は、原則として転職先において年末調整の手続きが行われます。
12月退職者に確定申告について尋ねられた場合
12月に退職する従業員から、確定申告の概要や手続き方法について尋ねられることもあるでしょう。
12月中に退職する従業員のうち、12月中に給与支払いがなく、再就職も決まっていない場合は、従業員自身で確定申告をしてもらわなければなりません。
たとえ、12月に新たな職場に就職したとしても、転職したタイミングによっては、年末調整の社内期限が過ぎていることも考えられます。そのときは、再就職したとしても、従業員自身で確定申告しなければならないケースもあるでしょう。
確定申告の手続きは原則として従業員自身で調べて行うものですが、受付期間や書類の入手方法、注意点を簡単に伝えてあげると親切です。
確定申告の基礎知識
確定申告の受付期間は、毎年2月16日から3月15日(土日祝日に重なる場合は翌営業日)までです。期限を過ぎるとペナルティとして納税額が上乗せされてしまうため、注意しなければなりません。
確定申告には、手書きで記入した用紙を提出する方法と電子申告する方法があります。マイナンバーがある場合は、スマートフォンやパソコンなどから簡単に申請が可能です。詳しくは国税庁のホームページを確認するように伝えましょう。
まとめ|12月途中の退職者の年末調整を理解して正しく手続きを
12月途中の退職者については、原則として年末調整を行う必要はありません。しかし、著しい心身の不調により再就職が見込めない場合や、当年の給与総額が103万円以下の場合などは、退職者であったとしても年末調整の手続きが必要です。
また、給与が支給されるタイミングによっても、対応の仕方が大きく異なります。本記事で紹介した退職者の年末調整に関する正しい知識を身につけ、スムーズに手続きを進めていきましょう。
年末調整を効率化|One人事[労務]
年末調整の手続きは、とても煩雑で工数のかかる業務です。担当者の負担も大きく、人的ミスが発生しやすいのが現状ですよね。ミスなくスムーズに進めるには、業務の電子化も検討してみてはいかがでしょうか。
One人事[労務]は、書類の回収から申請までの過程を半自動化し、効率的な年末調整を支援する労務管理システムです。修正の差し戻しや進捗状況の把握も簡単な操作で実施できます。
One人事[給与]との連携により還付金の計算もスムーズに進められます。
One人事[労務]の機能や操作性は、こちらの資料でもご確認いただけます。さらに詳細を知りたい場合は、当サイトよりお気軽にご相談ください。専門スタッフが課題をお聞きしたうえでご案内いたします。
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