年末調整の所得金額とは? 収入金額との違いや計算方法を解説

年末調整では「所得金額」「収入金額」「課税所得」など、似たような言葉が多く、どこに何を記載すべきか迷ってしまう従業員もいるでしょう。担当者としても説明するのは意外と難しいものです。源泉徴収票のどこを見ればいいのか、自信が持てないという方もいるかもしれません。
本記事では、年末調整にかかわる所得金額の意味を明確にし、収入金額との違いや計算方法を解説します。具体的な計算例も紹介しているので、参考にしてください。
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目次

年末調整における所得金額とは?
年末調整においては、年末調整における給与の総支給額(非課税対象手当は総支給額に含まれない)から「給与所得控除額」を差し引いたものを所得金額と呼びます。給与所得控除とは、会社員やアルバイト・パートなどの給与所得者が受けられる控除制度で、総支給額に基づき一定の金額を差し引けます。
収入金額との違い
会社員や給与所得者の収入金額は、年末調整における給与の総支給額と同じ意味です。つまり、収入金額のうち課税対象となる収入金額から給与所得控除を行った金額が、所得金額となります。
用語 | 内容 | 表記される場所の例 |
---|---|---|
収入金額 | 給与の総支給額(残業代や手当なども含む)から非課税の手当を引いた額 | 源泉徴収票の「支払金額」欄 |
所得金額 | 収入金額から給与所得控除を差し引いた額 | 年末調整や確定申告の各種控除計算に使用 |

「所得金額調整控除額」や「特定支出控除額」も差し引ける
一定の条件を満たす従業員は、給与所得控除後の給与所得の金額から「所得金額調整控除額」や「特定支出控除額」を差し引くことも可能です。
所得金額調整控除額
所得金額調整控除は、2020年の給与所得控除の上限引き下げにともない導入された制度です。年収が850万円を超える給与所得者のうち、次のいずれかにあてはまる人に適用されます。
- 23歳未満の扶養親族がいる
- 従業員本人が特別障害者に該当する
- 同一生計配偶者または扶養親族が特別障害者に該当する
年収が850万円以下でも、給与所得と年金所得の両方がある人は最大10万円が控除されます。ただし、年末調整ではなく、確定申告が必要です。
特定支出控除額
特定支出控除とは、給与所得控除額の2分の1相当額を超える支出がある場合に適用される制度です。次のいずれかに該当する支出があれば、給与所得控除額の2分の1相当額を超える部分を差し引けます。
- 通常必要であると認められる通勤費
- 勤務場所を離れて職務を遂行するための旅費
- 転勤にともなう転居のための費用
- 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的とした研修費
- 職務に直接必要な者の特資格を取得するための費用
- 単身赴任者の帰宅旅費
- 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費など)
従業員が特定支出控除を利用するためには、確定申告が必要です。
年末調整における所得金額の計算例
所得金額調整控除の対象となる場合に、収入金額から、どのように所得金額が計算されるのか、例を紹介します。計算手順は次の2ステップです。
- 収入金額(総支給額)から給与所得控除を差し引く
- 給与所得控除後の給与所得金額から所得金額調整控除額を差し引く
1.収入金額(総支給額)から給与所得控除を差し引く
まずは、従業員の収入金額から給与所得控除を差し引きます。給与所得控除額は収入金額に応じて定められており、計算式は次のとおりです。
給与等の収入金額(給与所得の源泉徴収票の支払金額) | 給与所得控除額 |
---|---|
1,625,000円まで | 550,000円 |
1,625,001円から 1,800,000円まで | 収入金額×40%-100,000円 |
1,800,001円から 3,600,000円まで | 収入金額×30%+80,000円 |
3,600,001円から 6,600,000円まで | 収入金額×20%+440,000円 |
6,600,001円から 8,500,000円まで | 収入金額×10%+1,100,000円 |
8,500,001円以上 | 1,950,000円(上限) |
従業員Aさんの年間の収入金額が350万円だった場合、給与所得控除額は「350万円×30%+8万円=113万円」です。
ただし、収入金額が850万円を超える従業員については、上限値である195万円を一律で差し引きます。
従業員Bさんの年間の収入金額が880万円だった場合、給与所得控除額を差し引くと「880万円-195万円=685万円」です。
2.給与所得控除後の給与所得金額から所得金額調整控除額を差し引く
収入金額が850万円を超える従業員に23歳未満の扶養親族がいる場合や、本人または同一生計配偶者・扶養親族が特別障害者に該当する場合は、所得金額調整控除の対象です。
たとえば、Bさんに23歳未満の扶養親族がいる場合は、給与所得控除額に加えて所得金額調整控除額も差し引けます。
所得金額調整控除額の計算式は「(収入金額-850万円)×10%」です。Bさんは「(880万円-850万円)×10%=3万円」となります。つまり、Bさんの所得金額は次のとおりです。
880万円(収入金額)-195万円(給与所得控除額)-3万円(所得金額調整控除額)=682万円 |
所得金額を具体的に計算してみると、控除の影響が実感しやすくなります。

年末調整の計算手順
年末調整の業務では、所得金額の計算以外にも、最終的に所得税を精算するために必要な計算手順を踏む必要があります。具体的には次の7ステップです。
- 収入金額(総支給額)・社会保険料・源泉徴収税額を計算する
- 所得金額を算出する
- 各種控除を適用する
- 所得税額を算出する
- 住宅ローン控除額を差し引く
- 年調年税額を算出する
- 源泉徴収税額と年調年税額を比較し、精算する
年末調整の計算全体の流れに沿って確認していきましょう。
1.収入金額(総支給額)・社会保険料・源泉徴収税額を計算する
年末調整の基礎となる、1年間の収入金額と社会保険料、源泉徴収税額を計算します。
収入金額には給与・賞与のほか、住宅手当や扶養手当などの各種手当も含まれますが、例外として次の手当などは含まれません。
- 月10万円以下の通勤手当
- 転勤や出張などにかかる旅費のうち、通常必要と認められるもの
- 宿直手当や日直手当のうち、一定金額以下のもの
社会保険料には、健康保険料・介護保険料(40歳以上)・厚生年金保険料・雇用保険料が含まれます。社会保険料や源泉徴収税額は毎月の給与から天引きしているため、すでに徴収した金額を合算します。
2.所得金額を算出する
収入金額を計算したら、給与所得控除額を差し引き、所得金額を算出します。要件にあてはまる従業員には、所得金額調整控除も忘れずに適用しましょう。
3.各種控除を適用する
扶養控除や保険料控除など、個人の状況に応じた控除を反映します。控除内容が年末調整の結果に直結するため、正確な確認が必要です。
年末調整で適用される控除には、次のような種類があります。
基本的な控除 | |
---|---|
基礎控除 | 合計所得金額が2,500万円以下であれば、すべての従業員に適用 |
配偶者控除 | 配偶者の給与収入が103万円以下 |
配偶者特別控除 | 配偶者の給与収入が201.6万円未満 |
扶養控除 | 合計所得金額が58万円以下の扶養親族がいる場合に適用 |
参照:『家族と税』国税庁
保険・年金に関する控除 | |
---|---|
生命保険料控除 | 生命保険や介護医療保険、個人年金保険に加入している場合に適用 |
地震保険料控除 | 地震保険や一定の長期損害保険に加入している場合に適用 |
小規模企業共済等掛金控除 | 個人型確定拠出年金や、企業型確定拠出年金の個人支払い分がある場合などに適用 |
社会保険料控除 | 本人や配偶者、扶養親族の社会保険料の支払い額を控除 |
人的に関する控除 | |
---|---|
障害者控除 | 本人や配偶者、扶養親族に障害がある場合に適用 |
ひとり親控除、寡婦控除 | 一定の要件を満たすシングルマザー・シングルファザーや寡婦に適用 |
勤労学生控除 | 学生かつ一定の要件を満たす従業員に適用 |
▼控除一覧は次の記事でご確認ください。
4.所得税額を算出する
控除後の金額(3で算出した課税給与所得額)に所得税率を乗じて、所得税額を算出しましょう。計算式は「課税所得 × 税率 − 控除額」です。
所得税率は、課税給与所得額に応じて次のように定められています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
5.住宅ローン控除額を差し引く
住宅借入金等特別控除申告書を提出した従業員については、住宅ローン控除が適用されます。年末調整での処理が可能なのは2年目からで、初年度は確定申告が必要です。
▼申告書の書き方を知るには、次の記事でご確認ください。
6.年調年税額を算出する
復興特別所得税(2.1%)を加算して、最終的な年調年税額を決定します。
復興特別所得税は、所得税に上乗せして納付する追加税です。加味された金額が「年調年税額」となり、最終的な精算対象になります。制度は2037年まで続く予定です。
7.源泉徴収税額と年調年税額を比較し、精算する
1年間に源泉徴収した所得税額と、正しく計算された税額との差を確認します。還付または追加徴収の処理につながる大切な最終ステップです。過不足に応じて精算手続きに進みましょう。
▼還付金の計算方法は、パターン別に次の記事でもご確認いただけます。
年末調整の計算例
年末調整の計算の流れは理解できても、「実際にいくらになるのか」「どんな控除が適用されるのか」までは、まだ理解しきれないという方もいるのではないでしょうか。
配偶者や子どもの有無、扶養の対象年齢などによって控除額は変動し、最終的な年調年税額も変わります。
以下では、扶養する配偶者の有無や子どもの年齢をもとにした、ケース別の年末調整計算例を紹介します。自社の従業員対応や、従業員からの質問対応にも役立つでしょう。
収入のない配偶者と、16歳の子ども1人がいるAさんの場合
扶養控除の対象となる子どもは、16歳以上と定められています。Aさんは収入のない配偶者と16歳の子どもを扶養しているため、配偶者控除と扶養控除を受けることが可能です。
Aさんの所得金額や控除をすべてまとめると、次のとおりです。
- 所得金額:600万円
- 社会保険料控除額:100万円
- 生命保険料控除額:10万円
- 地震保険料控除額:4万円
- 配偶者控除額:38万円
- 扶養控除額:38万円
Aさんの課税所得額は次のように計算できます。
600万円-(100万円+10万円+4万円+38万円+38万円)=410万円 |
所得税率の速算表にあてはめると、所得税額は次のとおりです。
410万円×20%-42万7,500円=39万2,500円 |
最後に復興特別所得税の税率を乗じて、年調年税額を計算します。
39万2,500円×102.1%=40万700円(100円未満は切り捨て) |
共働きで、17歳と20歳の子ども2人がいるBさんの場合
Bさんの家は共働きで、配偶者の収入が配偶者控除・配偶者特別控除の適用要件を満たしていません。Bさんに配偶者控除は適用されません。
扶養親族のうち19歳以上23歳未満の人は「特定扶養親族」として扱われ、Bさんの家では20歳の子ども1人が該当します。
Bさんの所得金額や控除をすべてまとめると、次のとおりです。
- 所得金額:750万円
- 社会保険料控除額:140万円
- 生命保険料控除額:9万円
- 扶養控除額:38万円
- 特定扶養親族控除額:63万円
課税所得額は次のように計算できます。
750万円-(140万円+9万円+38万円+63万円)=500万円 |
所得税率の速算表にあてはめると、所得税額は次のとおりです。
500万円×20%-42万7,500円=57万2,500円 |
最後に復興特別所得税の税率を乗じて、年調年税額を計算します。
57万2,500円×102.1%=58万4,500円(100円未満は切り捨て) |
ひとり親で18歳の子どもがいるCさんの場合
Cさんには18歳の子どもに対する扶養控除のほか、ひとり親控除が適用されます。
Cさんの所得金額や控除をすべてまとめると、次のとおりです。
- 所得金額:400万円
- 社会保険料控除額:75万円
- 生命保険料控除額:8万円
- 扶養控除額:38万円
- ひとり親控除額:35万円
課税所得額は次のように計算できます。
400万円-(75万円+8万円+38万円+35万円)=244万円 |
所得税率の速算表にあてはめると、所得税額は次のとおりです。
244万円×10%−97,500円=14万6,500円 |
最後に復興特別所得税の税率を掛け算して、年調年税額を計算します。
14万6,500円×102.1%=14万9,500円(100円未満は切り捨て) |
まとめ|所得金額を計算し、年末調整を正しく実施
年末調整における所得金額とは、収入金額(総支給額)から「給与所得控除額」を差し引いたものです。
年末調整では所得金額に各種控除を適用するため、所得金額の計算を誤ると、所得税を正しく納付できません。
年末調整の流れや計算方法に対する理解を深め、ミスなく年末調整を手配できるようにしましょう。
年末調整を効率化|One人事[労務]
年末調整の手続きは、とても煩雑で工数のかかる業務です。担当者の負担も大きく、人的ミスが発生しやすいのが現状ですよね。ミスなくスムーズに進めるには、業務の電子化も検討してみてはいかがでしょうか。
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